高度経済成長期おいて, 政策的に誘導された大都市への人口集中は, 郊外に向かう宅地開発圧力となり, 新たな斜面災害のリスクを増大させた。1978年宮城県沖地震, 1993年釧路沖地震, 1995年兵庫県南部地震等, 都市に被害を与えた地震では, 都市域に形成されていた多数の大規模な宅地盛土 (多くは谷埋め盛土) が変動 (地すべり) した。これらの災害事例に関しては, 盛土の形状 (厚さ, 幅, 底面の傾斜及びそれらの比) と地下水の状況が素因として重要であることが判明しているが, 誘因である地震の特性を考慮した予測モデルについての検討は不十分であった。そこで, 上記の3地震における事例314例について, 素因 (盛土の厚さ, 幅, 厚さ/幅比, 底面の傾斜, 地下水の量, 造成年代) と誘因 (震源断層からの距離と方向, モーメントマグニチュード) を入力とし, 変動の有無を出力とするニューラルネットワークモデル (Back propagation法) を作成した。さらに, このモデルを用いた不安定化予測を試みた結果, 学習群 (阪神, 仙台, 釧路: 214例) で約95%, 予測 (認識) 群 (阪神, 仙台: 100例) で約92%の正解率を有する良好な判別モデルを構築することができた。このモデルを東京一横浜地域の360例に適用した結果は, 釜井ほか (2002) の多変量解析 (数量化II類) とほぼ同様の傾向を示した。現実にはあらゆる斜面について詳細な調査と解析を行うことは困難であるため, 今回提案した簡易かつ合理的な不安定化予測手法は, ハザードマップの作成や対策の実施において有用である。
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