斜面対策に関する日本の解析・設計技術の課題をさまざまな面から取り上げた。最初に, 実務における解析・設計技術に含まれる力学的な問題点について説明し, 斜面防災分野の解析・設計技術に関する査読の課題として2000年頃までに学会誌に掲載された論文と最近の変化について説明した。更に, 最近でも多く確認されている学術誌等での数式の間違いを類型化して説明した。これに関連して学術分野での物理法則遵守の重要性について記述した。解析・設計技術に関する応用研究については主に性能設計分野に着目した。斜面防災分野での性能設計の研究の課題について港湾分野や地盤工学分野との対比として説明し, 斜面対策工の設計技術に関する欧米との乖離については欧米の著名な設計ソフトの性能設計機能と日本との違いについて説明した。次に, 斜面対策に関する海外の応用研究の事例を紹介し, 日本地すべり学会における応用研究の方向性について考察した。
岐阜県郡上市に「水沢上の崩れ」 (Mizore Landslide : ML) とよばれる斜面崩壊地が存在する。従来, 史料に基づき1586年1月18日に発生した天正地震がMLの誘因とされてきたが, MLに関する野外の地形・地質記載は限られ年代測定もなされていなかった。筆者らはMLの地形判読を行い, 崩壊物質と堰き止め湖沼堆積物の記載と放射性炭素 (14C) 年代測定を実施した。その結果, 崩壊物質の表面には大規模斜面物質移動に特徴的な地形が存在し, 崩壊物質の内部には特有の破砕構造が発達することが判明した。崩壊物質の初期体積は2.6×107m3で大規模斜面物質移動に相当する。14C年代較正モデル暦年代は約95.4%の確率で1586年を含む。地形学・地質学的観点でも天正地震を誘因としてMLが生じた可能性がきわめて高いと結論できる。ただし1月16日に富山県で強い地震が生じたとされており, この地震とML形成の関係を検討する余地がある。