日本下肢救済・足病学会誌
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2 巻, 2 号
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巻頭言
総説
  • 中村 正人
    2010 年 2 巻 2 号 p. 79-85
    発行日: 2010年
    公開日: 2015/03/27
    ジャーナル 認証あり
    要旨:TASC II において,慢性重症下肢虚血(critical limb ischemia; CLI)は証明された動脈閉塞性疾患(peripheral arterial disease; PAD)に起因する慢性虚血性安静時疼痛,潰瘍あるいは壊疽を有するすべての患者と定義される.跛行からCLI への移行は数%と決して多くはないが,患者の多くは無症候性からの発症であることに留意すべきである.診断にはPAD に起因しているか否かの判断が重要である.予後は下肢,生命予後ともに不良であり,切断の回避,生命予後,QOL 改善のためには多面的な集学的アプローチが必要である.一方,急性虚血肢は,急激な下肢の血流低下であり,5P の徴候を呈し,下肢の生存予後と危機を直ちに判別しなくてはならない.治療には基礎疾患,解剖学的部位把握が重要であり,時間を逸する下肢切断は高率となる.心房細動の増加,高齢化,糖尿病,透析の増加などこれらの病態を呈する症例はますます増加するものと推測され,病態把握,治療法の確立の必要性はますます高まっていくものと考えられる.
  • 館 正弘
    2010 年 2 巻 2 号 p. 87-92
    発行日: 2010年
    公開日: 2015/03/27
    ジャーナル 認証あり
    要旨:慢性創傷は3,4 週間以内に治癒しない創傷という定義である.創傷治癒が遅延するメカニズムとして持続性感染による炎症反応の遅延した状態が考えられるようになったのは最近のことである.慢性創傷における炎症と通常の創傷治癒における炎症反応の違いは完全には明らかなっていないが,細菌の存在がさまざまな局面で炎症反応を惹起し,遷延化させるエビデンスが出てきている.またToll-like receptor の解析から細菌の存在だけではく,大量の壊死組織の存在も炎症細胞の浸潤を促し,局所に集積した炎症細胞がさらなる局所の障害を生むという悪循環の構図が浮かびあがってきた.
特集:透析と足病変
  • 守矢 英和, 小林 修三
    2010 年 2 巻 2 号 p. 93-96
    発行日: 2010年
    公開日: 2015/03/27
    ジャーナル 認証あり
    要旨:慢性腎臓病患者は保存期腎不全の段階から末梢動脈疾患の合併が多く,維持透析患者ではその割合は12.0 〜 39.7%にのぼるとされる.透析患者の病変は下肢遠位に多く複数でびまん性であるため,治療困難なことが多く重症化しやすいが,重症下肢虚血に至ると1 年生存率は58.6%,救肢率は66.7%と予後は不良である.そのためSPP や下肢動脈エコーなどの生理学検査により早期に下肢血流を評価し,生活習慣の改善や薬物療法を行うべきである.特殊治療として,透析患者ではすでにブラッドアクセスがあることから,血液浄化療法として血管新生作用や抗炎症作用を併せ持つLDL 吸着療法を用いたり,血管前駆細胞を虚血部に投与する血管再生治療を試みることなどが可能であり,これらの治療を適切なタイミングで検討し,集学的治療により重症下肢虚血への悪化を回避することが必要である.
  • 宮下 裕介
    2010 年 2 巻 2 号 p. 97-102
    発行日: 2010年
    公開日: 2015/03/27
    ジャーナル 認証あり
    要旨:本邦の重症虚血肢患者の多くは糖尿病性腎症による透析(DMRHD)患者であり,治療に難渋する.DMRHD 患者の下肢病変の特徴は,重篤な感覚障害(発症すると糖尿病性壊疽)と血行障害(発症すると重症虚血肢)を併せ持つことであり,血行の再建と創傷の治療がバランスよく行われなければならない.またいったん発症すると,容易に重篤化し,治療に抵抗性となるので,発症予防,早期発見が重要である.本稿では糖尿病性壊疽と重症虚血肢の鑑別法,ハイリスク患者の同定法を紹介し,発症予防としての治療を検討する.
  • 遠藤 將光
    2010 年 2 巻 2 号 p. 103-109
    発行日: 2010年
    公開日: 2015/03/27
    ジャーナル 認証あり
    要旨:透析症例では下肢虚血の早期発見と治療が重要で,重症虚血肢に対する血行再建はバイパス(BS)と血管内治療(PTA)がある.諸家の報告ではBS の手術死亡率は高かったが近年改善傾向にあり,PTA でも決して低くはなかった.生存率,救肢率にはPTA とBS で差はみられなかったが,BS の開存率は高く遠隔成績も示されている.PTA の限界も指摘されており,患者選択と適応が重要である.PTA かBS か,患者に最適な血行再建方法を提供できるのは,PTA とBS の両者に精通した「血管治療医」が理想である.透析例では全身状態や閉塞部位の解剖学的な問題から血行再建が可能な例は決して多くなく,更に救命が困難な症例も少なくない.これらの患者は重症虚血肢の発症そのものが生命の終末像と考えざるを得ない状態であり,そこに至る前にいかに救肢・救命するかも重要な命題として残されている.
下肢救済─私たちの取組み(2)
シンポジウム報告
  • 溝上 祐子
    2010 年 2 巻 2 号 p. 117-118
    発行日: 2010年
    公開日: 2015/03/27
    ジャーナル 認証あり
    要旨:平成20 年の診療報酬改定で糖尿病性足病変の外来加算が新設された.これは糖尿病看護認定看護師のフットケア技術の成果が糖尿病の重症化を防ぐことへの評価である.しかし,糖尿病性足潰瘍を主とする下肢潰瘍の重症化を予防する,あるいは治癒させるための看護技術はフットケア以外にもある.たとえば皮膚・排泄ケア認定看護師の慢性創傷のケアや脆弱な皮膚のスキンケア技術,リンパ浮腫を対象とした予防ケアや改善を促す技術などである.また,局所のアセスメントや処置技術以外にも慢性疾患看護専門看護師や糖尿病看護認定看護師は糖尿病の血糖コントロールという特化技術をもち,これらは糖尿病性足潰瘍の予防や改善に大きな力を持つ.今回のシンポジウムの意義は足潰瘍ケアにおける看護の特化技術を明確にし,その内容を点検することであり,当学会での看護の役割・機能のありかたについて検討する第一歩となるであろう.
  • 間宮 直子
    2010 年 2 巻 2 号 p. 119-126
    発行日: 2010年
    公開日: 2015/03/27
    ジャーナル 認証あり
    要旨:皮膚・排泄ケア認定看護師は,創傷ケアやスキンケアの知識や技術を有している.また,組織横断的な褥瘡ケアの啓蒙で予防指導や重症化防止の技術を培ってきた.ここに足のアセスメントが加われば,皮膚・排泄ケア認定看護師のもつ技術は,足を救う大きな力になると考えられた.そこで,まず診療科の壁がない看護部のフットケアチームを発足し,情報共有を開始した.看護師同士の連携は,必要な診療科医や各部門との連携も円滑にする.これまで士気を高めて褥瘡ケアを啓蒙してきたように,皮膚・排泄ケア認定看護師はもっている技術を更に磨きながら,足病に関わる多くの人に創傷管理を含めたさまざまな情報提供をすることが必要である.
  • 米田 昭子
    2010 年 2 巻 2 号 p. 127-129
    発行日: 2010年
    公開日: 2015/03/27
    ジャーナル 認証あり
    要旨:外来に通院する糖尿病患者へのフットケアの実践経験や,研究会等でのフットケア技術と知識の習得を通して,フットケアの枠組みが形作られた。患者と看護師が共に,これまで意識してこなかった足を意識したり,足を大切にするプロセスを共有したり,よくなっていく足を体験するということが生じ,高血糖状態にさらされた「身体を気遣う」ことが始まると考えられた.入院患者への足のケアでは,切断の可能性も視野に入れなくてはならない患者にも出会う.不安と心配で押しつぶされそうな病棟ナースに対してコンサルテーションを受け,皮膚・排泄ケア認定看護師の力を借りながら,病棟ナースが,安定してケアが継続できるよう協働してケアをサポートすることも大切な役割である.『足』という部分からケアして,足の部分の手入れにとどまらず,患者が病気と共に生き抜いていくことへの手助けとなるようなフットケアを広めていきたいという願いを持って活動している.
  • 小山 恵美子
    2010 年 2 巻 2 号 p. 131-139
    発行日: 2010年
    公開日: 2015/03/27
    ジャーナル 認証あり
    要旨:近年,下肢・足病変に対する関心が高まってきた.その病変には,様々な原因や疾患が混在し多彩である.また,そのケアや治療において看護師だけでなく多職種が関わることがある.そのため,看護師はどのように専門性を発揮していくかを考える必要がある.特に入院時患者の観察にあたる際,下肢・足病変のリスクや症状を見逃すと危険である.看護師は下肢・足部を観察し他職種に繋ぐという重要な立場にある.当院では下肢・足病変の早期発見のため,入院時に足のチェックリストを活用している.また,下肢・足病変に対し看護師だけで判断や処置を行うとリスクを伴うため,毎週の褥瘡回診時に足回診も行い,多職種で評価,検討を行っている.現在,入院中の足部のケアに関する診療報酬は,看護行為として包括され,処置料も安価である.今後看護教育の整備を行い,下肢・足部の観察やケア,患者指導が適切に行われた場合,診療報酬が支払われるべきである.
  • 高橋 知勢子, 廣田 彰男
    2010 年 2 巻 2 号 p. 141-146
    発行日: 2010年
    公開日: 2015/03/27
    ジャーナル 認証あり
    要旨:2008 年度の診療報酬改定により,リンパ浮腫関連の診療報酬の算定が開始となり,医療におけるリンパ浮腫の関心が高まった.しかし,診療報酬改定後の臨床現場においてリンパ浮腫の指導が適切に行える者はまだ多いとはいえない.リンパ浮腫に関する教育が急がれるが,本邦において統一されたリンパ浮腫の教育のカリキュラムはなく,各教育機関等が設定したカリキュラムを履修するシステムであり,各修了者の力量に差が生じるなど課題も多くある.また,リンパ浮腫の保存的治療で行われる複合的治療の中の,弾性着衣や弾性包帯による圧迫療法は,患肢の下垂による重力の影響の改善や過剰な血管外漏出を抑制し,静脈・リンパ管の運搬能を改善する.スキンケアは,浮腫により足趾間の皮膚が近接し清潔が保ちにくい,また皮膚が乾燥し損傷しやすいリンパ浮腫の皮膚に対して必須である.これらの治療・ケアは,リンパ浮腫以外の足病変に対しても広く活用されている.
  • 野末 睦
    2010 年 2 巻 2 号 p. 147-151
    発行日: 2010年
    公開日: 2015/03/27
    ジャーナル 認証あり
    要旨:庄内余目病院では下肢の難治性創傷や褥瘡を扱う「創傷ケアセンター」を2006 年10 月1 日に開設した.ここでは,そのセンターの広報活動,システムの拡大,そして損益計算や売り上げ高推移について報告した.広報活動は約3 年間にわたってマスコミ,勉強会,講演会などを通じて行い,それにより庄内平野全体はもちろん,隣県からも多くの来院患者を受け入れるようになった.また医師の採用,フットケア外来,くつ外来の開設などのシステム拡大が行われ,その結果,現在では創傷ケアセンターのみで月に2,500 万円程度の売り上げになっており,利益率は25%を超えている.携わっているスタッフは,この活動にプライドを持ってあたっており,映画「おくりびと」における納棺師と,心理面で共通点が感じられた.
症例報告
  • 三宅 ヨシカズ, 福田 智, 楠本 健司
    2010 年 2 巻 2 号 p. 153-158
    発行日: 2010年
    公開日: 2015/03/27
    ジャーナル 認証あり
    要旨:四肢末梢の循環障害の中で,膠原病などによるレイノー現象では,非常に強い疼痛や壊死の進行により治療に難渋し,切断を余儀なくされることも多い.われわれは,膠原病のレイノー現象による足趾壊死に対して治療指針に沿った治療を行ったが,疼痛の持続,壊死の進行を認めた症例に対して,シルデナフィルの内服を開始し,疼痛,壊死の進行が改善し救肢しえた症例を経験した.膠原病の血管病変によって難治性の病態を呈する症例に対するシルデナフィル投与の有用性が示唆された.しかし,現時点では肺高血圧症のない症例に対しては保険適応外使用となることから,投与に際しては十分な注意が必要である.
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