日本下肢救済・足病学会誌
Online ISSN : 2187-1957
Print ISSN : 1883-857X
ISSN-L : 1883-857X
6 巻, 3 号
選択された号の論文の15件中1~15を表示しています
巻頭言
総説
  • 大平 吉夫, 上口 茂徳
    2014 年 6 巻 3 号 p. 89-99
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/30
    ジャーナル 認証あり
    糖尿病患者の増加に伴い,糖尿病足病変が増加し下肢切断患者が増加している.これらの糖尿病足病変の予防,治療中,再発予防に対し,適切なフットウェア(装具)は,切断を回避する重要なディバイスの一つであるが,フットウェアの効果は,日本ではあまり周知されていない.そのため,フットウェアを効率的に機能させるため,基礎的な足のタイプや歩行,フットウェアの目的等を周知,理解することで,切断回避に繋げていけると考える.下肢救済を行い歩行の獲得を目指すにおいて,フットウェアは,キュア,ケア,リハビリテーションと一緒に行う治療プログラムの中でより機能すると考える.
  • 菊池 守, 石原 康裕, 安田 聖人, 上村 哲司
    2014 年 6 巻 3 号 p. 100-105
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/30
    ジャーナル 認証あり
    Total contact cast(TCC)は長年にわたり米国における糖尿病足病変のゴールドスタンダードである.TCC は膝下から足部に密着するように作成されたキャスト(ギプス)であり,体重を下腿と足底全面(total)に密着させ(contact)分散することで,糖尿病性知覚障害によって知覚のない足部を歩行中の度重なる足底圧の集中やズレから守り潰瘍を治癒へと導く.本稿においてはその効果と手技,合併症などについて述べた.TCC の作成においては手技の習熟が必要で合併症に十分注意が必要ではあるが,足底潰瘍に対する治療効果については複数のRCT でエビデンスが得られている.今後本邦における多施設研究においてもその効果と合併症を検討し,詳細を報告する予定である.
特集:救肢のための非血行再建療法 -血行再建不可能症例・血行再建後遷延する創傷治癒遅延に対する追加治療・今後期待される治療-
  • 宮下 裕介
    2014 年 6 巻 3 号 p. 106-108
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/30
    ジャーナル 認証あり
    重症虚血肢(CLI)に対しては単独で有効性が認められている薬物はない.このため血行再建を最優先すべきである.しかし,血行再建後も皮膚灌流圧(SPP)の上昇が十分に得られず,創傷治癒を得られない症例もあり,こうした症例にはSPP を増加させる補助療法が必要となる.近年シロスタゾール,ベロプラスト,サルボクラレートにはPAD 患者のSPP を増加する効果があることが報告され,創傷治癒にも効果が期待されている.またCLI の患者は,脳血管障害,虚血性心疾患,大動脈分枝部(鎖骨下動脈,腹腔動脈,腎動脈,上下腸間膜動脈)硬化病変を有し,これらの血管病変に付随する虚血症状・発作の発症により生命予後は不良である.こうした疾患のリスク低減も十分に行うべきである.本稿ではこうしたリスク低減のための薬物療法も併記する.
  • 鈴木 一雄, 合志 清隆
    2014 年 6 巻 3 号 p. 109-115
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/30
    ジャーナル 認証あり
    高齢患者や糖尿病に代表される基礎疾患を持ったcompromised host の増加に伴い,米国では下肢の虚血性疾患が急激に増加しており,その医療費の高騰さらには下肢切断による社会的損失が重大な社会問題となっている.高い気圧環境下で酸素吸入を行う高気圧酸素治療(hyperbaric oxygen therapy; HBOT)が軟部組織感染症と創傷治癒促進に有効性が示されると,米国では下肢の疾患に対して下肢救済の手段としてHBOT が積極的に応用されている.本稿では米国でのHBOTの下肢の疾患への応用状況を紹介する.一方,本邦ではHBOT が使用されることは少ないが,この要因の1 つは極端に安価なHBOT の診療報酬である.
  • 大竹 剛靖, 持田 泰寛, 守矢 英和, 日高 寿美, 小林 修三
    2014 年 6 巻 3 号 p. 116-119
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/30
    ジャーナル 認証あり
    重症下肢虚血(CLI)に対しては下肢血流改善のための血行再建治療が必須である.血行再建治療としては血管内治療や外科的バイパス術が行われるが,特に透析患者の下腿病変に対する血行再建は治療後早期の再狭窄や再閉塞が多い.この問題に関し,我々の施設でCLI 透析患者を対象に血管内治療(EVT)単独とEVT + LDL アフェレシスのハイブリッド治療を行い比較検討した結果,EVT + LDL アフェレシスのハイブリッド治療は透析患者の下腿病変の再狭窄予防に有効である可能性が示唆された.狭窄血管の拡張や血流改善を目的とした局所的血行再建治療のみでなく,血液レオロジー改善効果や抗炎症効果を有する全身的治療としてのLDL アフェレシスをEVTとハイブリッドで行うことで,CLI 患者の下肢虚血改善におけるEVT,LDL アフェレシスそれぞれの治療の相乗的効果が期待され,今後さらに試みられるべき治療と考えられた.
  • 松崎 恭一
    2014 年 6 巻 3 号 p. 120-124
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/30
    ジャーナル 認証あり
    局所陰圧閉鎖療法は糖尿病性足潰瘍の治療において一定の評価を得ているが,重症下肢虚血では病態が複雑なため治療効果の予測が難しい.2011 年に重症下肢虚血における局所陰圧閉鎖療法の適用に関する2 つの推奨文が報告された.推奨文1:慢性虚血肢における局所陰圧閉鎖療法は,他のモダリティでの治療が不成功に終わった際に専門家による判断のもとで施行してもかまわないが,血行再建の代替療法ではない.推奨文2:慢性虚血肢の潰瘍では,血行再建後に局所陰圧閉鎖療法の施行を検討してもよい.推奨文1 と2 の推奨度は,同時に発表された糖尿病性足潰瘍における局所陰圧閉鎖療法の推奨度に比べて低い.また推奨度決定の根拠とした文献には本学会会員が直面する血行再建が困難な重症下肢虚血を対象とした良質な研究は含まれていない.重症下肢虚血では,1 つの治療法に固執することなく,柔軟かつ多角的な治療戦略が求められるといえるであろう.
  • 宮本 正章, 高瀬 仁志, 桐木 園子, 高木 元
    2014 年 6 巻 3 号 p. 125-131
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/30
    ジャーナル 認証あり
    わが国において難治性創傷に対する医療用無菌ウジを用いるマゴットセラピーを臨床応用し,さらに発展・普及させるために大学発バイオベンチャーを起業した.マゴットセラピーは,debridement 効果に優れ,抗菌ペプチド等により感染症例に対して極めて有効であり,その驚くべき短時間での健康肉芽増殖効果により創傷治療期間の大幅な短縮をもたらしている.さらに医療用無菌ウジが,①逃げない,②外から見えない,さらに③痛みが少ない,④着脱が簡単,という特徴を有し,高分子バッグに医療用無菌ウジを封入し,静置するだけの“マゴットバッグ”を開発し,その臨床応用を開始している.当科でのマゴットセラピー実施159 症例の予後に関しては,平均追跡期間7.1±0.2 年において,下肢温存率91.8%,生存率91.2%と極めて良好であった.特に血流不全のない糖尿病足壊疽症例ではいかなるイベントも認めず,安全・有効に施行可能であった.自費診療という欠点を克服すれば大いに認知され得る簡便で誰にでも実施可能な優れた創傷治療法であると思われる.
  • 伊藤 健太, 芹澤 玄, 河村 圭一郎, 後藤 均, 館 正弘, 下川 宏明
    2014 年 6 巻 3 号 p. 132-136
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/30
    ジャーナル 認証あり
    人口の高齢化や食生活の欧米化に伴い,動脈硬化性疾患患者が増加してきている.特に,糖尿病を合併した重症下肢虚血では治療抵抗性の症例も多く,下肢切断の原因となっている.我々は以前,ブタ慢性心筋虚血モデルおよび重症狭心症患者において,低出力体外衝撃波治療が,血管内皮増殖因子の発現亢進や血管新生の促進を介して,自覚症状や心機能を改善することを報告した.また,間歇性跛行を有する下肢末梢動脈疾患患者において,衝撃波治療が自覚症状や歩行能力を改善することを報告した.さらに,糖尿病マウスを用いた皮膚潰瘍モデルにおいて,衝撃波治療が創傷治癒を促進することを報告した.本治療法で用いる衝撃波の出力は,結石破砕治療の約10 分の1 と弱く,副作用も認めていない.このように,低出力体外衝撃波治療は,非侵襲的で有効な血管新生療法と考えられ,下肢の血行再建不可能症例や血行再建後遷延する創傷治療遅延に対する応用が期待される.
  • 鄭 忠和
    2014 年 6 巻 3 号 p. 137-145
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/30
    ジャーナル 認証あり
    「和温療法」は全身を気持ちよく温める「和む温もり」療法(60°C・15 分間の遠赤外線乾式サウナ浴と出浴後30 分間の安静保温)で,優しい全人的治療法である.和温療法を10~15 週間施行すると(1 日1 回,週5 回),Fontaine 分類III~IV 度の閉塞性動脈硬化症(ASO)に著明な効果を発揮し,血行再建術を施行しても治癒しない難治性潰瘍や疼痛が劇的に改善する例も少なくない.6 分間歩行距離や上腕/ 足関節血圧比(ABI)は有意に改善する.和温療法は全身の血管内皮機能,自律神経機能,神経体液性因子を是正し,微小血管・毛細血管の新生作用を促進し,末梢組織への血液循環を促進する.効果発現の機序には,Hsp90 およびeNOS の産生の増強が関与し,虚血肢の血管新生作用を促進し,虚血領域への血流を改善する.また,和温療法は全身の動脈・静脈を拡張し心拍出量を増加させるので,血流増加による「ずり応力」もNO 産生の増強に関与する.和温療法はASO に対する今後期待される革新的な治療法である.
特集:第5 回学術集会教育講演
  • 渡邉 光子
    2014 年 6 巻 3 号 p. 146-153
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/30
    ジャーナル 認証あり
    本稿ではフットケアのInterprofessional Work(IPW)チーム医療をどのように構築し,実践していくかを述べる.IPWチーム医療の重要性は知られているが,いかにチームを作り効果効率的なケアにつなげるかは試行錯誤が続いている.今回,他職種へのインタビューからフットケアチームの問題を明確化し,部門やステージごとの目標におろし,課題を実践した.そしてこの過程においては,IPW チーム医療には個の協働コラボレーションの実践,つまりコミュニケーションを通じて職種や部門間の相互の信頼に基づいた作業が重要であった.それにより新たなチームメンバーが加わり,また部門やステージごとのフットケアが大きな目標である救肢につながっていくIPW チーム医療と考える.
難治性創傷の最新治療(4)
  • 寺部 雄太, 市岡 滋
    2014 年 6 巻 3 号 p. 154-160
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/30
    ジャーナル 認証あり
    人工真皮は,コラーゲンスポンジとシリコーンシートの二層性構造である.バイオマテリアルとして20 年以上使用されている確立された治療マテリアルである.真皮再生のscaffold として全層皮膚欠損部に使用される.下肢難治性創傷においては,二期的手術が多い.最初の手術での創面は様々な組織が露出し,人工真皮の好適である.人工真皮は単体でも,十分な真皮様肉芽組織を発生させ,効果を発揮する.更に現在は,局所陰圧閉鎖療法や塩基性線維芽細胞増殖因子などの多くのデバイスやマテリアルが出現しており,これらとの併用による治療がより良質な真皮様肉芽組織を形成させる.今後,人工真皮は再生医療の発展とともにscaffold として成長因子の放出や徐放の機能として使用の場を広げていくと予想される.
原著
  • 日笠 志津, 須田 幸子, 石川 昌一, 市岡 滋
    2014 年 6 巻 3 号 p. 161-166
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/30
    ジャーナル 認証あり
    難治性下肢潰瘍の治療・予防に寄与する栄養療法の確立に向け,予備調査を行った.男性,経口栄養,二期的閉創術が施行された下肢潰瘍(静脈性潰瘍を除く)14 症例を対象としたレトロスペクティブ研究より治療期間に対する影響因子を検索した.糖尿病併存群の平均治療日数90±30日(平均値± 標準偏差)は,非併存群の43±17 日に比べ有意に長かった(p<0.01).治療期間が治療日数の中央値よりも長い症例群では,入院から閉創手術時までの日数で補正した血中アルブミン(Alb)変化率が低値であった(p<0.05).今回の調査から,治療期間中の日数補正Alb 変化率が本疾患の治癒遅延予測に役立つ可能性が示された.また,栄養療法や治療の効果判定には併存疾患の影響を十分に考慮することが重要と考えられた.
  • 大塚 未来子, 古川 雅英, 松本 健吾, 上口 茂徳
    2014 年 6 巻 3 号 p. 167-171
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/30
    ジャーナル 認証あり
    本研究の目的は,小切断患者の歩行特性を捉え「歩き続ける」安全性を確立することである.対象は当院創傷ケアセンターの小切断患者23 名とし,裸足下の自然歩行における足跡接地情報を解析した.結果,非切断肢と切断肢の歩行距離・時間因子に有意差を認め,足圧分布では非切断肢の前足部圧力が最も高値を示した.このことより,小切断患者は足先欠損が起因となり,歩行形態が変化したことで左右非対称性を生じ,非切断肢に足圧リスクを受けていることが懸念された.切断肢の治療は勿論だが,非切断肢も見落とさず留意し,リハビリテーションと装具療法を施行することが小切断患者の足と歩きを守ることに繋がると考える.
実践報告
  • 帶刀 朋代, 藤井 志布, 大竹口 幸子, 永田 恵美, 石山 昌弘, 権東 容秀, 入澤 亮吉, 松村 一
    2014 年 6 巻 3 号 p. 172-176
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/30
    ジャーナル 認証あり
    【背景】現在,大切断術を余儀なくされた患者において切断位置の提案は医師主導で行われている.しかし,決定にはさまざまな考慮すべき患者個々の背景がある.そこで今回,切断位置を選択可能な大切断術を要する患者を対象に切断位置の決定に関する意思決定支援ツール(以下,ツール)を作成した.【経過】ツールの作成は下肢救済治療に関わる多職種で実施した.作成方法は第1 に,ツールの適応となる患者の選定を行った.第2 に,切断位置の違いによる術後経過について手術から日常生活に戻るまで一般的な時間軸を作成した.第3 に,その中から切断位置によって違いが出る項目を抽出した.項目は,「創傷治癒に関するもの」,「リハビリテーションに関するもの」,「社会保障に関するもの」の3 項目である.最後に,これら3 項目について意思決定に関する知見を踏まえて情報提供と情報整理ができるよう誌面を構成した.【今後の課題】今回作成したツールを実際に使用し評価していくことが今後の課題である.
feedback
Top