管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌
Online ISSN : 2434-0529
Print ISSN : 0918-7863
20 巻, 2 号
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論文
  • 衣笠 陽子
    2012 年 20 巻 2 号 p. 3-18
    発行日: 2012/05/01
    公開日: 2019/03/31
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,部門別原価計算が整備されている病院において,予算を中軸とした総合管理が実際にどのように行われているのかについて,ケース・スタディに基づき明らかにすることである.ケース・スタディの結果明らかになったことは,医師やコメディカルなどの専門職に対し予算の説明を媒介とすることで会計数値に対する意識の共有を作り出すことが重視されていたこと,部門間連携活動の反映を意図し,部門別原価計算と部門別収益計算に基づく部門別損益計算が行われていたこと,業績評価と行動評価の併用すなわち会計数値評価と非会計数値評価の両方が重視されていたことである.また本稿ではこれらの管理会計のしくみの特徴を,組織構成員の大半が専門職であること,非定型的活動・数値化が困難な活動が日常的活動であること,そして部門間の連携が活発であること等の医療機関の経営形態の特質と関連させて考察している.

  • 山田 哲弘
    2012 年 20 巻 2 号 p. 19-41
    発行日: 2012/05/01
    公開日: 2019/03/31
    ジャーナル フリー

    本稿は,日本の個別財務諸表データを用いて,課税所得計算の対象となる項目と課税所得計算の対象とはならない項目による企業の利益調整行動について分析している.課税計算対象項目と課税計算対象外項目を用いた利益調整行動の違いや,その関係について分析するために,本稿では裁量的発生高を課税所得計算との関連から裁量的課税計算対象発生高(DBTA)と裁量的課税計算対象外発生高(DBOA)に分類し検証した.分析の結果,税コストを最小化するためにDBTAが用いられていること,報告利益のベンチマークを達成するためにDBTAとDBOAの両方が用いられていることが析出された.さらにDBTAとDBOAの関係について,増益型の利益調整が疑われる企業では,DBTAの増分が小さな企業ほどDBOAの増分を大きくする傾向が示された.確定決算主義により,日本では報告利益と課税所得の結びつきが強いと考えられているが,これらの結果は,企業が課税計算対象項目と課税計算対象外項目とを区別し,それらを組み合わせた利益調整を行っていることを示唆するものである.

  • 山田 方敏, 蜂谷 豊彦
    2012 年 20 巻 2 号 p. 43-61
    発行日: 2012/05/01
    公開日: 2019/03/31
    ジャーナル フリー

    資金制約と投資水準の理論および内部資本市場の理論に基づいて,個別事業部門および多角化企業全体の投資決定に関して理論的な考察を行い,財務的視点からその妥当性を実証的に検証した.多角化企業における資金供給曲線は部門内調達,部門間調達(内部資本市場)および外部調達から構成される.部門内調達による投資水準は部門自身が創出する内部資金と固定的投資支出に依存する.これに対し部門間調達による投資水準は内部資本市場の効率性に依存する.内部資本市場の効率性は内部資金として各事業部門から供給される資金の大きさと,部門間あるいは経営者と部門との情報の非対称性に依存して決定される.妥当性を検証した結果,内部で創出する資金が多い時および内部資本市場の効率性が高い時に投資水準は高くなること,内部資金の創出が豊富あるいは固定的投資支出が少なく内部資本市場に供出される資金が多い時に内部資本市場の効率性が高いこと,資金供給の多様性が高い時に内部資本市場の効率性が高いことが明らかになった.

  • 梅田 浩二
    2012 年 20 巻 2 号 p. 63-77
    発行日: 2012/05/01
    公開日: 2019/03/31
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,日系多国籍企業を対象とした郵送質問票調査のデータをもとに,国際振替価格管理の実態を包括的に解明することにある.多国籍企業が国際振替価格の管理を円滑に行うには,①振替価格設定基準の選択,②間接費回収ルートの選択,③独立企業間価格算定法の選択,④所得差額の調整方法の選択,という4つの意思決定を事前に行う必要がある.本稿の特徴は,先行研究が分析対象としていない②③④にも焦点をあてたことである.調査結果では,最も多く使用されている独立企業間価格算定法は,取引単位営業利益法であり,最も多い所得差額の調整方法は,実際の振替価格の調整であった.また,海外子会社の多くは何らかの無形資産を所有している.その場合,最適な独立企業間価格の算定法は残余利益分割法であるため,無形資産形成の貢献度測定方法の開発が日系企業にとっての今後の課題である.

研究ノート
  • 福嶋 誠宣
    2012 年 20 巻 2 号 p. 79-96
    発行日: 2012/05/01
    公開日: 2019/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究ノートの目的は,パッケージとしてのマネジメント・コントロール・システムについて,今後の実証研究が首尾一貫した知見を蓄積していくために,現状の研究動向を整理することにある.マネジメント・コントロール・システムの構成要素が相互に関連しながら機能するという現象は,コントロール・パッケージと呼ばれ,近年研究関心の高まりを見せる分野となっている.しかし,やみくもに構成要素間の関係を分析しても,断片的な発見事実を積み重ねるだけで首尾一貫した知見の蓄積に結びつかない恐れがある.そこで,本研究ノートでは,文献サーベイを通じて,これまでのコントロール・パッケージ研究の系譜をたどり,現状の課題と今後の研究展望を検討する.

論壇
  • 小倉 昇
    2012 年 20 巻 2 号 p. 97-107
    発行日: 2012/05/01
    公開日: 2019/03/31
    ジャーナル フリー

    本論文の目的は,日本管理会計学会2011年度全国大会の統一論題「管理会計研究の現状と課題」における3名の報告者による研究報告の内容を整理し,それらに基づき,また不足する部分を補いながら,近年の管理会計研究の展開を特徴づける視点を見出すとともに,管理会計の研究課題を提示することである。統一論題の研究報告者は,ポイントを得た先行研究のサーベイにより,それぞれの領域における研究動向を要約するとともに,各自の問題意識に基づく研究課題の提案を行った。また,コメンテータの河田信氏からは,「気付き」という共通項を指摘し,組織構成員による創発的な経営への参加が管理会計の研究課題として重要であることが提案された。

  • 伊藤 和憲
    2012 年 20 巻 2 号 p. 109-122
    発行日: 2012/05/01
    公開日: 2019/03/31
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,事例研究によって,インタンジブルズが支援する戦略課題を特定し,そのマネジメントのあり方を提案することである.インタンジブルズのマネジメントとしては,主として人的資産のなかで論じられることが多く,人的資産開発プログラムに関わらせてレディネス評価が提案された.このようなプログラムとレディネス評価がすべてのインタンジブルズに機能するのかを考察する.また,多様なインタンジブルズを別々に扱うか,それぞれの因果関係をもたせるべきかを問題視する.さらに,戦略策定のインタンジブルズをいかにマネジメントすべきかを検討する.

    本研究では,人的資産開発プログラムがすべてのインタンジブルズのマネジメントに有効であることを明らかにする.また,インタンジブルズが戦略目標を支援するもの,戦略実行を支援するもの,戦略策定と実行を支援するものに分類し,それぞれのインタンジブルズについてマネジメントの違いを明らかにする.

  • 窪田 祐一
    2012 年 20 巻 2 号 p. 123-140
    発行日: 2012/05/01
    公開日: 2019/03/31
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,日本企業を中心としたサプライチェーンの変化を踏まえ,約20年になる組織間コストマネジメント研究の知見を整理し,将来の研究課題を析出することである.組織間コストマネジメントは,はじめは日本企業のサプライヤーとバイヤーの関係にみられる原価企画の技法として理解された.しかし現在,多くの研究は,組織間コントロールと関連づけて議論している.先行研究は,組織間コストマネジメントを戦略的コストマネジメントとして位置づけ,コストドライバーに依拠して構造的あるいは遂行的なコストマネジメントに分類している.他方,最近の日本企業のサプライチェーンのグローバル化,複雑化,そしてサプライヤー管理の見直しという動きは,組織間コストマネジメントに変化ないし拡張をもたらしている.これらの動向から,本稿では,組織間コストマネジメントにおけるコストの範囲,時間軸,そして学習・能力などの研究課題を提示する.

  • 藤野 雅史
    2012 年 20 巻 2 号 p. 141-162
    発行日: 2012/05/01
    公開日: 2019/03/31
    ジャーナル フリー

    多くの先進諸国が様々な行政経営改革に取り組んでおり,なかでも予算と成果を関連づける業績予算の構築が進んでいる。業績予算は標準化された測定技法のようなものではなく,多様な設計アプローチの組み合わせからなる。業績予算には,業績情報の種類,予算の歳出区分,予算プロセスといった設計変数がある。本論文では,日本政府における2001年から10年間の業績予算の構築過程を検討し,そのなかで複数の設計変数がどのように組み込まれてきたのかを明らかにする。その結果,日本政府における業績予算の構築過程には,予算プロセスに関与する関係者の複数化と政治家の関与の深化という一貫したパターンがみられることがわかった。このようなパターンは,日本の国家統治や民主主義のあり方に影響を与える可能性がある。業績予算の構築といった行政経営改革は,管理会計研究に民主主義の発展に寄与する機会をもたらすものである。

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