管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌
Online ISSN : 2434-0529
Print ISSN : 0918-7863
31 巻, 1 号
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論文
  • 江本 雅人, 岩澤 佳太, 鬼塚 雄大, 横田 絵理
    2023 年 31 巻 1 号 p. 3-21
    発行日: 2023/03/28
    公開日: 2023/03/28
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,スタートアップ企業において,製品・サービス別原価情報はなぜ・どのように有用なのかを解明することである.そのためアクション・リサーチを実施し,調査前は製品・サービス別原価情報を用いていなかった企業を対象に同情報を提示することで,経営意思決定にどのような変化が起こるのかを観察した.その結果,マネジャーらは経営意思決定を変化させ,同情報の有用性を認知した.これはスタートアップ企業では原価情報に基づかない経営意思決定が行われる傾向にあることや,原価情報の有用性を認知していない場合でも,情報を提示することで経営意思決定が改善するケースがあることを示していた.

  • 吉見 明希
    2023 年 31 巻 1 号 p. 23-36
    発行日: 2023/03/28
    公開日: 2023/03/28
    ジャーナル フリー

    本稿では,日本のコンテンツ産業のうち,商業アニメーションの制作・流通に着目する.日本のアニメーション・ビジネスにおいては,資金調達の段階において「製作委員会方式」が用いられる.本稿では,その企画段階の予算シミュレーションを通した原価管理の特徴を,既存の管理会計手法との比較により明らかにする.

    先行文献の整理をふまえ,筆者が行ったインタビュー調査に基づき,製作委員会方式がコンテンツの2~次流通まで含めたマネジメントを可能としていることと,制作会社に対する組織間関係の構築に寄与していることを示す.

  • 小笠原 亨, 新井 康平, 井上 謙仁
    2023 年 31 巻 1 号 p. 37-53
    発行日: 2023/03/28
    公開日: 2023/03/28
    ジャーナル フリー

    近年,企業の戦略的な行動が財務諸表から統計的に推定可能となり,管理会計の視点からも,それら行動についての理解が深まりつつある.代表的なものとして,コストリーダーシップや差別化といった「ジェネリック戦略」,組織が見えざる資産を有して収益を獲得するための資源である「組織資本」の会計情報からの測定という研究成果がみられた.本研究では,これらの会計情報によって測定された戦略的な行動が中長期的な将来利益にどれだけ影響を与えるのかを実証的に明らかにした.

  • 荻原 啓佑
    2023 年 31 巻 1 号 p. 55-70
    発行日: 2023/03/28
    公開日: 2023/03/28
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,加算方式から控除方式への変更がエンジニアの目標原価へのコミットメントに与える影響を明らかにすることである.本研究は,原価企画に携わるエンジニアを対象とした複数回のウェブ調査を行った.エンジニアが1つ前に携わったプロジェクトと現在携わっているプロジェクトにおける目標原価の設定方式を測定することによって,加算方式から控除方式への変更を確認した.分析の結果,加算方式から控除方式への変更は,目標原価へのコミットメントの低下と関係していることが明らかになった.本研究は,目標原価の設定方式の変更の効果に着目した数少ない実証研究であり,原価企画研究に貢献している.

  • 横田 絵理, 乙政 佐𠮷, 坂口 順也, 河合 隆治, 大西 靖, 妹尾 剛好, 鬼塚 雄大
    2023 年 31 巻 1 号 p. 71-88
    発行日: 2023/03/28
    公開日: 2023/03/28
    ジャーナル フリー

    マネジメント・コントロール研究は,研究対象の観点からも,研究拠点の観点からも幅広く展開されている.しかしながら,広範にわたるマネジメント・コントロール研究においてどのような議論が蓄積されているのかは十分に解明されていない.本研究では,掲載論文数や,用語が本文中に出現する頻度を手がかりに,主要国際学術会計雑誌の潮流との比較から,わが国マネジメント・コントロール研究の進むべき方向性を提言する.

  • 牧野 功樹
    2023 年 31 巻 1 号 p. 89-107
    発行日: 2023/03/28
    公開日: 2023/03/28
    ジャーナル フリー

    本研究は企業における資本予算の採用に影響を与える要因とその経済的帰結を明らかにすることを目的としている.具体的には,経済性評価技法と設備投資のマネジメント・プロセスに着目する.北海道の釧路・根室地域に所在する175の中小企業に対する質問票調査の結果を用いて,共分散構造分析を実施した.主要な結果は,以下の3点である.第1に,市場における競争の激しさが,マネジメント・プロセスに影響を与えることを明らかにした.第2に,投資の事後評価を重視することが,業績に正の影響を与えることを示した.第3に,DCFの採用が業績に負の影響を与えるという結果を得た.

  • 呉 重和
    2023 年 31 巻 1 号 p. 109-125
    発行日: 2023/03/28
    公開日: 2023/03/28
    ジャーナル フリー

    生産能力意思決定は企業内部の資源管理の問題として認識され,管理会計分野において長らく注目されてきた.しかし,生産能力は企業の数量意思決定に関する情報を有することから,市場で観察される場合,川上企業や競争相手といった企業外部の市場参加者の意思決定に利用されることが指摘されている.本稿では,独占的川上企業が存在する市場環境のもと,数量競争に直面する川下企業の生産能力意思決定とその開示戦略について検討する.本稿の結果はまず,最終製品が差別財となり,川下企業間の数量競争が弱くなる場合,川下企業は生産能力情報を開示とし,均衡における数量選択より低い生産能力を選択することを示す.中間製品価格を低下させるために,川上企業に低い数量選択をコミットメントしようとするのである.しかし,最終製品が同質財となり,数量競争が強くなる場合,生産能力情報を非開示とし,均衡における数量選択と一致する生産能力を選択する.競争川下企業に開示時に比べて高い数量選択をコミットメントしようとするのである.

  • 小村 亜唯子, 平井 裕久
    2023 年 31 巻 1 号 p. 127-144
    発行日: 2023/03/28
    公開日: 2023/03/28
    ジャーナル フリー

    本稿は,2020年9月に予算目標をもつマネジャーを対象としたウェブアンケート調査を実施し,予算目標の困難度と予算業績の間を達成志向的ワークモチベーションが媒介しているかを検証した.階層的重回帰分析の結果,予算目標の困難度は達成志向的ワークモチベーションに対して統計的に有意な正の影響を与え,達成志向的ワークモチベーションは予算業績に対して統計的に有意な正の影響を与えていることが明らかになった.さらに,間接効果の検定によって,予算目標の困難度は予算業績に対して統計的に有意な負の直接効果を持っているのに対し,達成志向的ワークモチベーションを介して正の間接効果を持っていることが明らかとなった.

  • 張 蘊涵, 安酸 建二
    2023 年 31 巻 1 号 p. 145-164
    発行日: 2023/03/28
    公開日: 2023/03/28
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,中長期的な売上高目標がコスト変動に与える影響を分析することにある.具体的には,中期経営計画最終年度の売上高目標を,経営者が抱く中長期的な売上高に対する期待の代理変数として用い,これをAnderson et al. (2003)のモデルに追加しコスト変動を分析した.分析結果は,中期経営計画が策定される事業年度の売上高が前年度の売上高より増加するか減少するかにかかわらず,当該事業年度のコスト変動が中期経営計画最終年度の売上高目標の影響を受けることを示している.本研究の発見は,先行研究が注目してきた短期的な売上高に対する経営者期待だけではなく,中長期的な売上高に対する経営者期待も,経営資源の調整に関する意思決定に影響を与えること,そして,この結果としてコスト変動が生じることを示唆している.これは,中期経営計画が企業経営に実質的な影響を与えていることを意味する.

  • 東川 和将
    2023 年 31 巻 1 号 p. 165-181
    発行日: 2023/03/28
    公開日: 2023/03/28
    ジャーナル フリー

    本研究は,Gao et al. (2019)によって構築されたハイブリッド型の企業価値評価モデルが,日本企業の評価にも有用であるかどうかを,経営者による予想利益をもとに検証する.そこでは,導出された企業価値が現実の株価にどの程度近似しているかを,両者の差異であるバイアス,バイアスの絶対値で測定した絶対評価誤差および株価に対する単回帰分析の決定係数の三者から評価する.それだけでなく,本研究では,観察される株価から資本コストを逆算した上で,このインプライド資本コストが各種のリスク指標とどの程度相関するのかについても調査する.本研究の分析結果は,経営者による予想利益をハイブリッド型モデルのインプットとすることで,特にリスク評価の点で企業価値評価の質を改善し得ることを明らかにしている.

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