管理会計学 : ⽇本管理会計学会誌 : 経営管理のための総合雑誌
Online ISSN : 2434-0529
Print ISSN : 0918-7863
9 巻, 1 号
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論文
  • 三田 洋幸
    2000 年 9 巻 1 号 p. 3-23
    発行日: 2000/09/30
    公開日: 2019/03/31
    ジャーナル フリー

    近年の小売業の経営は,置けば売れるという売り手本位の発想から脱皮し,多様化した消費ニーズに応じた買い手本位の発想へ明確に転換すべきであると言われ続けている.たとえば,いち早く変革の必要性に気づいたイトーヨーカ堂は,業務改革のコンセプトを鮮明に打ち出し,店舗運営の生産性向上に成功したと言われている.米国においても,ECRやカテゴリー・マネジメントという方法論が提唱され,消費者ニーズを満足する商品陳列と流通/生産の生産性向上を同時に達成することの重要性が説かれている.

    構造転換に成功した小売業者もある一方で,依然として,低収益に喘いでいる小売業者も多く,全般的には,小売業者の収益性は低下の一路を辿っているようである.本稿は,このような背景のもとで,小売業者の収益性の低下が,商品の陳列在庫管理の不適切さに基因する所が大きい点に着目し,小売店における陳列在庫管理を支援する収益性管理モデルを構築しようとするものである.まず,店頭における陳列在庫管理の理論研究を行う.当該品の在庫を保有することで他品の販売機会損失が発生することを考慮し,小売業者の在庫効率とスペース効率を一斉に高めることのできる在庫管理技法を開発する.さらに,商品陳列の優先順位を評価する指標としてマージナル・スループット(MT)を導入し,死に筋商品の排除と新商品投入を行いながら,新たな陳列編成を作成する際の意思決定を支援しようとするものである.

    本稿で開発した方法論は,以下のような特徴を有することで店舗の生産性に資することができる.まず,小売業者にとってのSKU最適所要量は,従来の在庫管理手法で計算された個別最適所要量より全般的に小さくなることが明らかになった.各SKUの在庫効率とスペース効率が一斉に高まるので,従来と比較すると,商品の品揃えを豊富にしつつ陳列効率を高めることが可能になると考えられる.さらに,MT指標を用いることで,死に筋排除の意思決定を客観的に行うことが可能になる.これらを実施することで,店舗運営のマネジメント・サイクルにおいて,カテゴリーの新陳代謝(カテゴリーの活性化)を高める効果が生じると考えられる.

  • 朴 元煕, 伊藤 和憲
    2000 年 9 巻 1 号 p. 25-42
    発行日: 2000/09/30
    公開日: 2019/03/31
    ジャーナル フリー

    これまでの原価企画に関する研究は,主として目標原価の設定およびその達成のシステムに重点が置かれていた.また原価企画を遂行するツールも,主としてVEが中心的に活用されてきた.本論文の目的は,目標原価だけでなく顧客が要求する品質や信頼性,そして納期などをも同時に作り込む原価企画を明らかにすることである.したがって,それらを実現するために本論文は,機能を中心に目標原価を達成するVE,要求品質をシステマティックに作り込むQFD,最小のコストでベスト・プラクティスを実現させるベンチマーキングの3つのツールを統合して用いるほうが,有効性が高いという仮説に立っている.

    そこで本研究では,実証研究を通して企業が用いている3つのツールがどのような原価企画活動に影響をおよぼしているかという点と,それを踏まえての統合的原価企画へ向けた3つのツールの役割を明らかにした.研究方法は,構造方程式モデルに基づいた因果分析を通して9つのモデルを構築し,そのうち新たな知見が得られた4つのモデルを中心に論文を構成した.

    本稿で明確にされた新しい知見は,以下の通りである.

    1)商品企画のVEが顧客ニーズを取り入れて機能定義していることと,品質と機能に対してコストをトレード・オフの関係で捉えようとしている.これに対してQFDでは,品質・機能・コストをトレード・オフで考えるのではなく品質と機能に対してコストを同時に達成しようとする.

    2)プロダクト・マネジャーの活動は目標原価設定段階におけるVEを間接的に支援する立場にある.

    3)目標原価設定段階におけるQFDとプロダクト・マネジャーの関わりは非常に強い.4)基本構想段階や目標原価設定段階と同様に目標原価達成段階でもベンチマーキングが有効に機能する.

  • 浦田 隆広
    2000 年 9 巻 1 号 p. 43-60
    発行日: 2000/09/30
    公開日: 2019/03/31
    ジャーナル フリー

    品質原価計算に関する研究の多くは,当該技法の技術的側面に焦点をあてたものであり,同技法のもつ社会的・経済的機能について包括的な検討を試みた研究は少ない.そこで本稿では,品質原価計算は歴史的所産であり,その存在は社会的・経済的要因に規定されるとの観点から,既存の研究成果を踏まえた上で,実在する企業における品質原価計算の実践過程を取り上げ,それを要請する社会経済的背景とともに,当該技法の構造と機能について分析を行った.

    Xerox社の品質原価計算は,アメリカ複写機市場をめぐる資本間競争を背景として構築された管理会計技法である.同社は,1960年代,電子複写原理・技術の商品化を契機に,経済的成長の基盤を確立し,アメリカ複写機市場における独占的地位を獲得した.しかし,1970年代以降,反トラスト法の適用による特許技術の公開や高品質・低価格戦略を経営戦略の支柱とする競争企業の参入によって,Xerox社の独占的支配力は低下した.同社の経営層は,品質向上と原価低減の同時的達成を企図した経営戦略への転換を余儀なくされ,それは品質原価計算の導入というかたちで具現化されるに至ったのである.

    同社の品質コストは,ASQCの推奨するPAF接近法に依拠しながらも,それに拘束されることなく,同社の戦略的基盤となるTQMを反映して定義された.同社の機会喪失コストにそれがあらわれており,外部失敗コストから敢えて分離・独立させ,その測定と管理を試みていた.また,品質コスト管理の技術的主流は,実際品質コストの期間比較にあったが,同社の場合,予算を適用し,実際との比較を可能にすることで,差異分析を試みており,さらにはその成果を全社組織的に浸透させるべく,非製造部門へ展開されている.

    品質原価計算の基底には,競争戦略としての品質の重要性が存在している.当該技法は,経営管理の用具として,労働者および下請企業の管理強化に寄与することによって,品質向上と原価低減の同時的達成に貢献したのである.

  • 鈴木 孝則
    2000 年 9 巻 1 号 p. 61-89
    発行日: 2000/09/30
    公開日: 2019/03/31
    ジャーナル フリー

    本論文では,エイジェンシー理論の枠組みで,モニタリング技術の概念を明示的に取り扱ったStrauszのモデルを種々の観点から拡張し,モニタリング技術の意義を詳細に調べる.

    はじめに,モニタリング・コストが可変である場合の比較静学分析を行った.その結果,モニタリング技術を高めれば,モニタリングの頻度の減少を通じてプリンシパルの期待効用を改善できるが,モニタリング・コストを低めることによっては必ずしもモニタリングの頻度を減らせないことがわかった.つぎに,エイジェントが努力を行ったあと,それを自己査定して報告し,プリンシパルはこの報告にもとづいてモニタリングを行う場合を分析した.その結果,(1)モニタリングの手順に自己査定を含む場合の均衡と含まない場合の均衡では,動機付けのパフォーマンスやモニタリング頻度が異なること,(2)自己査走を含む場合の均衡にもモニタリング技術の水準によって動機付けのパフォーマンスやモニタリング頻度が異なる二つのパターンが存在することを示し,モニタリング技術が未熟なため,自己査定を含まない通常のモニタリングによる管理機構が成り立たない場合でも,モニタリングに先だって自己査定を実施するならば,モニタリングによる動機付けを実現できることを示した.最後に,プリンシパルが表明するモニタリング技術の水準をエイジェントが信頼せず,過小または過大に評価する場合を分析した.その結果,モニタリング技術やモニタリング・コストがどのような水準にあろうとも,エイジェントがモニタリング技術を過小評価するとき,結果としてプリンシパルに有利な契約は存在しないが,モニタリング技術が未熟でモニタリング・コストが小さい場合には,エイジェントがモニタリング技術を過大評価するならば,結果としてプリンシパルは当初の計画を上回る努力をエイジェントから引き出す可能性があることを示した.

  • 安藤 武真
    2000 年 9 巻 1 号 p. 91-111
    発行日: 2000/09/30
    公開日: 2019/03/31
    ジャーナル フリー

    重要な社会基盤の1つとなっている情報システムはより高速でより複雑なものへと日々進化の速度を速めている.情報システムが誕生した当初と比べ,情報システムは限られた一部の利用者による限定的な利用方法から,不特定多数の利用者による多種多様な利用方法へと変化を遂げてきた.それに伴い情報システムの構造も単純な集中型のシステムからより複雑な分散型・複合型のシステムへとその形態を変化させてきている.

    情報システムが一般化し始めた当初にコスト管理手法として開発されたチャージバック・システムは複雑化を遂げた今日の情報システムにおいても利用され続けているのであろうか.もし,チャージバック・システムが利用されていないとすれば,どのような手段で情報システム・コスト管理を行っているのであろうか.本論文の目的は,実態調査の結果に基づき,複合型情報システムにおける情報システム・コストの効率的な管理について今後の指針を見いだすことにある.

  • 鈴木 浩三
    2000 年 9 巻 1 号 p. 113-132
    発行日: 2000/09/30
    公開日: 2019/03/31
    ジャーナル フリー

    わが国の産業界ではM&Aや業務提携といった企業間のアライアンスが盛んである.その目的には差別化や低コスト化などがあるが,実際にはコスト低減が主要な目的となるケースが多い.

    そこで本稿では,経済企画庁「企業行動アンケート調査」のデータから日本の製造業を対象に対数線型モデルを用いて,市場環境の段階(成長・成熟・衰退)に応じて,アライアンス戦略(M&A・業務提携)とコスト低減戦略(低減対象:上流・中流・下流コスト)を組み合せる場合に,どのような組み合わせが財務状況に好ましい作用を与えるかを検証した.その結果,「主要事業が成熟市場に属する企業が,中流コストを低減対象とする場合においては,業務提携よりもM&Aを選択する方が短期的に効果を得るには好ましくなるが,同じ条件で長期的な効果を得るには業務提携を選択することが効果的となる.」ことなどが検証された.

  • 力石 雅樹
    2000 年 9 巻 1 号 p. 133-150
    発行日: 2000/09/30
    公開日: 2019/03/31
    ジャーナル フリー

    売上高は経営活動を測定するための主要な指標でもある.その目標と成果といった2つの売上高間に発生した差異(売上高差異)を分析するのに,売上高を2つの要因の積で定義した差異分析が広く行われている.その技法としては一般に,伝統的な方法である三分法または二分法が利用されている.しかし,それらの分析には疑問があり,これまで先達によって適正に分析する方法の開発が試みられてきたが,未解決であると言えよう.

    本論文では,このような問題意識に基づき,最初に,売上高の管理形態を要素と要因に基づいて分類し,売上高差異分析の意義を明らかにした.次に,従来の主要な方法4つを再検討して,いずれの方法も欠点を内包しているため,売上高の差異分析に適用できないことを明らかにした.その次に,売上高差異を,ベクトル解析を利用して,数理的方法により各要因に適正に配分する方法(公式)を開発し提案した.最後に,この提案した方法が有用であることを数値例により確認した.

    提案した方法を用いると,売上高差異を数理的に適正に分析できるので,売上高とその要因を一層明確に管理することができる.

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