本州の5地点と四国の1地点から, 繁殖期に採集した雌47頭・雄71頭を用いて, スミスネズミ
Eothenomys smithiとカゲネズミ
E.hageus間の標徴形質とされる乳頭数と陰茎骨の形状について調査した。これら6地点の各標本群は, 雌では妊娠個体と恥骨結合が開いた経産個体, 雄では陰茎骨の3個の指状突起が化骨している個体から成る。
一対の胸部乳頭のうち片側が欠失している個体と, 左右とも粒状になっている個体とが4標本群で計9個体見られた。また, 左右とも正常な大きさの胸部乳頭をもつ個体と, 左右とも胸部乳頭の欠失している個体が3標本群で見られた。このような胸部乳頭の変異は, 恥骨結合の開いた雌では妊娠雌よりも経産雌で大きい傾向にあった。鼠蹊部乳腺は全個体に見られたが, 胸部乳腺はどの個体にも認められなかった。
雄の4標本群について, 陰茎骨体後端の形状と左指状突起の形状との間, および陰茎骨体後端の形状と陰茎骨体軸の曲り方との間で, 個体別頻度の2×2分割表をそれぞれ作成して検討したところ, 両者間には独立の関係が示された。陰茎骨体後端の形状, 陰茎骨体軸の曲り方, および左指状突起の形状についての頻度分布は, 6標本群間でそれぞれ独立であった。分散分析の結果, 陰茎骨体長に対する陰茎骨体底部幅の比率は, 6標本群間で有意差を示さなかった。
以上の事実から, 乳頭数と陰茎骨の形状という従来の標徴形質によっては, 両種の判別はできないことが明らかになった。さらに, 差異係数を用いてカゲネズミの新種記載をするという分類学的方法についても, 集団の扱い方とクラインの観点から論議した。
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