鹿児島県東部の内陸に位置する中岳洞を主な調査地として1981年の秋から1984の秋にかけて, ユビナガコウモリ哺育集団のコロニー構成, 日周期活動, 新生獣の成長, 体温変化などを調べ, また飼育下において哺育様式を解析した。
1.中岳洞では5月頃からコウモリの入洞が見られ, 7月頃にはほとんど成獣雌からなる約4, 500頭の群塊が形成された。成獣雌は6月下旬~7月上旬にほぼ一斉に出産した。
2.洞内での観察及び飼育下での個体識別法から, 母親は自仔を識別して哺育し続けることが知られた。
3.哺育は一般に昼間に限られていたが, 出産直後の母親は採食活動を行なわず, 夜間も仔を抱き続けていた。
4.飼育下での哺育は7月中旬頃において午前9時頃と午後3時頃をピークとする二山型であるが, 8月頃には前者だけの一山型に変化していた。野外においても同様にみられ, 哺育様式は典型的なスケジュール型を示していた。
5.夜間放置された幼獣は相互に体を密着させて群塊を形成し, 体温や活動性を高めていた。この群れ効果は, 本種の急速な成長にとって重要な働きをしていると考えられる。
6.前腕長は6~7週間で安定しほぼ成獣大に達するが, 体重は離乳期に一時減少する。これは飛翔開始の際の翼荷重軽減に関与していると考えられる。
7.出生から飛翔可能時までの死亡率は約9%であった。
8.秋9月初旬から成獣雌と一部幼獣の移動分散が始まり, 9月下旬頃には残っていた幼獣集団も中岳洞から去ってしまった。
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