琉球大学教授高良鉄夫博士の示唆によって戸川幸夫氏が発見された山猫をイリオモテヤマネコ
Mayailurus iriomotensisと命名した。本種は対馬, 朝鮮からインドにかけて分布するヤマネコ (ベンガルヤマネコ)
Prionailurus bengalensisに一見類似するが, 第2, 3表で明らかなように多くの形質で異っている。本種のために独立属を設けたのは, 第7図のデンドログラムに見られるように, 他の属との類似関係が極めて低いためで, 調査した標本の中で最も近い関係にあったのは南米のジャガランデー
Herpailurusであった。このデンドログラムは第2, 3表および第5, 6図に示した165の形質に基づいて多級連合係数を求め多群比較法によって作成したもので, 調査に用いた各標本 (OTU's) 間の全体的類似度を示すものである。そしてそれは大体において系統的関係を示すものと推察される。
Pocockは旧世界の山猫類のうちで最も新世界産に近く, したがって原始的と思はれるものはヤマネコ属
Prionailurusだとみなし, Weigelは斑紋の研究からこの属をネコ科中最も原始的なものと考えた。しかし, イリオモテヤマネコはそれよりも更に原始的なもののようである。それはイリオモテヤマネコが, ヤマネコでは幼仔には見られるが成長するにつれて消失する形質を少なからず保有することから推察される。本種が古い時代に旧世界から移住した新世界の山猫類に似ているのも, これらの幼仔形質の幾つかが共通なためであろう。イリオモテヤマネコが新旧両世界産猫類の共通の祖に近い原始的な遺存種の一つであることは確かだといえよう。
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