日本経営診断学会論集
Online ISSN : 1882-4544
ISSN-L : 1882-4544
16 巻
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  • 上原 義子, 高橋 昭夫
    2016 年 16 巻 p. 1-7
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/03/09
    ジャーナル フリー
    伝統的陶磁器における流通,製品開発,ブランド戦略といった,マーケティングに関して筆者がこれまでに行ってきたヒアリング調査の結果をもとに現状と課題の分析を行った。その結果,有田焼や赤津焼に対する知覚には売り手と買い手の間で隔たりがあり,その要因は,問屋の崩壊に伴うマーケティングの欠如に端を発するとわかった。診断結果では,陶磁器に現在の消費者が求めていることは「使う」ことであって伝統や文化の保護ではないため,問屋が果たすべき役割は使うという視点に立った商品企画,品揃え,情報伝達であり,単なる物流ではないプロデューサーの役割を果たすことが今後の鍵になると指摘した。
  • 福田 康典
    2016 年 16 巻 p. 8-14
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/03/09
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,企業による使用文脈データの利用が消費者の知覚する不快感に及ぼす影響の実証的な考察を通じて,マーケティング・リサーチが抱える新たな倫理的問題の輪郭を描くことである。サーベイ・データに対する統計解析の結果,収集された使用文脈データがどう利用されるかによって知覚される不快感の程度が異なること,そのなかでも特にデータの第三者への譲渡は不快感を大きく増大すること,譲渡の事前告知や譲渡先企業の信頼性がそうした不快感の増大を緩和することなどが示された。IoTなどを通じて,消費者が何かを使用することが企業のデータ収集に直結するようになってきた最近の状況を考慮すると,こうした知見は,データの取り扱い方に関する健全性が企業の経営診断の項目に含まれるべきであり,それに関連した診断指標が開発される必要があるという点を示唆していると思われる。
  • 垰本 一雄
    2016 年 16 巻 p. 15-20
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/03/09
    ジャーナル フリー
    総合商社は2000年代に入り,伝統的中核事業である商権ビジネスを子会社に移管してきた。子会社がオペレーション,親会社はビジネス創造を担当する。筆者はこれまで,価値共創型企業システムとして総合商社を捉えれば,その機能の本質はビジネス創造である,ということを示そうとしてきた。先行研究は膨大であるが,多くは,総合商社を分析するために収益モデルのオペレーションに着目した結果,経営診断の視点から本質的な機能を把握し切れなかったようである。本稿では事例分析を通じて,親会社と子会社で役割を分担しているときにおいても,総合商社機能の本質がビジネス創造であることをはっきりと示す。
  • 菅原 浩信
    2016 年 16 巻 p. 21-26
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/03/09
    ジャーナル フリー
    本稿では,商店街組織は,地域コミュニティを構成する諸組織・団体との適切な協調戦略を展開するために何が必要かについて,3つの商店街組織を事例として取り上げ,分析および考察を試みた。その結果,商店街組織が適切な協調戦略を展開するためには,1)コミュニケーションの確保,2)長期的な視野に立った事業展開,3)商店街組織からの様々な資源提供の3点が必要であることが明らかとなった。
  • 林 釗, 村松 潤一
    2016 年 16 巻 p. 27-33
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/03/09
    ジャーナル フリー
    消費段階で価値が共創され,顧客によって独自に判断される価値共創の考え方に基づき,顧客の価格決定という視点が必要,かつ重要になってきている。本研究は,顧客による価格決定に関する第一段階の研究として,顧客の価格決定に与える影響要因を探ることを目的とした。そして,顧客が支払金額を決めるPay What You Want方式に注目し,実証研究を通じて,消費前の顧客満足,消費後の顧客満足と利他性がPay What You Want方式における顧客の支払金額に正の影響を与え,公平性と自己イメージへの配慮は支払金額に影響を及ぼさないことを明らかにした。そして,その結果を踏まえ,Pay What You Want方式および価格戦略の方向性を示し,価格戦略に関する経営診断に新たな知見を与える。
  • 田村 隆善, 小島 貢利
    2016 年 16 巻 p. 34-40
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/03/09
    ジャーナル フリー
    本研究では,在庫削減の効果をどう評価すべきかについて考察する。研究ではまず,売上高や粗利益額を棚卸資産で除した棚卸回転率や交叉比率などの指標が生産性の指標であることを示す。次に,粗利益額を棚卸資産で除した「収益性指標」が従来から使用されてきた交叉比率に等しいことを証明する。最後に簡単な数値例を設定し,損益計算とキャッシュフロー計算を行い,在庫品に経時減価がある場合,在庫削減による棚卸資産の減額が売上高,結果として営業利益に持続的好影響のあることを示す。また,「キャッシュフローの改善」としての棚卸資産の現金化は一時的な効果であることも示す。
  • 山本 公平
    2016 年 16 巻 p. 41-46
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/03/29
    ジャーナル フリー
    わが国の農業は,集落の過疎化や高齢化による農業従事者の減少と,耕作放棄地の拡大によって集落の存続すら危ぶまれる状況にある。2013年12月に農林水産業・地域の活力創造本部は,経営力のある担い手の育成や構造改革等による「強い農林水産業」と,美しい景観や森林・海洋資源を持つ農山漁村の活性化を進める「美しく活力ある農山漁村」を目標とした「農林水産業・地域の活力創造プラン」を策定した。広島県は経営力のある担い手の一つとして集落営農法人を位置づけ,法人設立および経営支援を積極的に進めている。本稿は「2013年度広島県集落法人センサス調査」の分析を中心に,集落営農法人の成長に伴う経営課題について考察するものである。考察の結果,法人の成長に伴い経営課題は,現業者人材の不足や栽培技術に関する項目から,外部の経営情報や資金調達に関する項目へ変化することが判明した。
  • 礒本 光広
    2016 年 16 巻 p. 47-53
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/03/29
    ジャーナル フリー
    行列簿記とは,国民所得分析や経済波及効果に用いられるレオンチェフの産業連関表に着想をえて,マテシッチが考案したものとされている。行列簿記表は中小企業において作成すれば有用であることは以前からいわれていた。今回は大企業において一般に公開されている有価証券報告書のみを用いて行列簿記表の作成を試みた。その結果,推定仕訳などを用いることにより利用可能なレベルのものは作成できたが,完全な行列簿記表の作成をすることはできなかった。その理由は財務諸表作成時において,仕訳において具備していた“源泉”や“使途”が喪失しているからである。信頼性を増加させるために財務諸表データに“源泉”や“使途”を付加することにより,監査面などでの充実が期待される。
  • 横山 淳一, 永井 昌寛, 山本 勝
    2016 年 16 巻 p. 54-60
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/03/29
    ジャーナル フリー
    近年の低成長時代の日本においては,医療機関での入院中心の医療から,住み慣れた地域での在宅医療および在宅介護へ移行することが重要な課題となっている。本研究では,愛知県豊田市において中核病院を退院する患者に着目し,地域包括ケアシステムにおける退院後の患者の流れを明らかにした。その結果,退院後の患者の流れを,地域包括ケアにおける在宅医療推進の一つのマネジメント指標としてモニタリングすることにより,関係者全員で在宅医療推進のボトルネックの所在を確認・共有し適切な対策を実施することの重要性について主張した。
  • 志水 翔平, 横山 淳一
    2016 年 16 巻 p. 61-67
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/03/29
    ジャーナル フリー
    わが国では健康づくり対策として2013年度から10年間を計画期間とする「健康日本21(第2次)」が策定され,それに伴い各都道府県や市町村でも同様に健康増進計画を策定し,市町村単位で健康づくりに関するさまざまな取り組みがなされている。本計画からは,全市町村で評価指標を設定することが義務付けられ,数値に基づく客観的な評価を行うことが求められているが,市町村間の評価内容の差が近年報告されており,改善に向けたマネジメント施策が急務である。
    そこで本研究では,愛知県内の市町村を事例として,市町村間の計画評価内容に相違が見られる要因を明らかにすること,今後の効果的な健康増進計画評価のあり方を提言することの2点を目的とし,いくつかの第二次市町村健康増進計画に記載されている内容をもとに市町村の評価活動の構造分析を行った。
  • 羽田 裕, 堤 行彦, 渡邊 明
    2016 年 16 巻 p. 68-73
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/03/29
    ジャーナル フリー
    ここ数年,「地方創生」をキーワードに地域を一つの単位とし,地域経済の再生,活性化を図っていくことが重要となっている。このなかで地域経済に密接に関わりのある地方公共団体が運営する水道事業は,大変厳しい局面を迎えている。そこで本研究は,持続可能な水道事業の実現に向けて,「共通価値の創造(CSV)」の観点から水道事業と地域活性化を関連づけた新たなモデルを構築する。まず本稿は,CSVから水道事業の整理を行った。次に横浜市の事例分析を行い,この分析結果をもとに,CSVを軸とした水道事業の転換に向けた一つの産学官連携モデルを検討した。
  • 加藤 里美, 伊藤 直美, 森 智哉
    2016 年 16 巻 p. 74-80
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/09/16
    ジャーナル フリー
    経団連によれば,企業が新卒採用時に重視する要素はコミュニケーション能力である。このことは,企業は新卒者にコミュニケーション能力に長けた人材を求めているということを示している。企業はどの程度のコミュニケーション能力を新卒者に求めているのであろうか。また大学生はどのように自己評価しているのであろうか。本論文の目的は,企業が新卒者に求めるコミュニケーション能力と大学生が自己評価するコミュニケーション能力に関する認識にギャップがあるのかどうかを明らかにすることである。仮説検証の結果,大学生と企業には明らかなギャップがあることが示された。
  • 清野 聡
    2016 年 16 巻 p. 81-87
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/09/16
    ジャーナル フリー
    近年サービスの概念に基づいたマーケティング研究が行われており,注目するポイントが従来の交換時点に顧客が感じる価値から使用時点に感じる価値へと移ってきており,また,そこでは企業と顧客が価値共創を行うマーケティングが提唱されている。しかし,実際に顧客がどちらの価値を感じているのかという根本的な議論は見当たらない。今回,その点に関して顧客調査を行った。その結果,顧客は交換時点に感じる価値と同等の程度,使用時点に価値を感じていることがわかった。また,使用時点において自らのナレッジ・スキルの不足によって困難を感じている顧客が存在し,企業が顧客の使用段階に入り込んで,価値共創を行うことが有効なマーケティングとなりうることがわかった。
  • 五十嵐 幸枝
    2016 年 16 巻 p. 88-94
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/10/07
    ジャーナル フリー
    本稿は,食文化を地域資源と捉え,地方における食文化による新たな産業の創出可能性の検証を目的として,アンケート調査を実施した。対象は地域に根付いた地産地消を推進する小規模事業者とし,農家レストランとイタリア食堂に着目した。食文化にかかわる意識や精進料理感度を指標としたアンケート項目により調査を実施し,農家レストランとイタリア食堂の来店顧客の潜在的な意識の違いを明らかにした。これにより地域の潜在的な食文化を生かした特色のあるメニュー開発や商品開発を進めることによる新たな顧客開拓や産業創出につながる可能性が示唆された。
  • 久保田 典男
    2016 年 16 巻 p. 95-101
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/10/07
    ジャーナル フリー
    人口減少など厳しい状況下におかれる地方の中小製造業者においては,特に製造面でのイノベーションが求められている。先行研究では,中小製造業者のイノベーション創出には問題解決能力の向上がカギとなっていることまでは明らかにされているが,具体的にどのように問題解決能力を向上させているかについてまでは明らかにされていない。生産設備の自社開発の取組みは問題解決能力の向上が具体化されたものであると考えられる。
    生産設備の自社開発に成功した島根県の中小製造業者の事例研究を通じて生産設備自社開発の取組みを整理すると,中核人材の配置と組織的な位置づけおよび設備メーカーなどとの連携に特徴的な取組みがみられた。
  • 田 静, 加藤 里美
    2016 年 16 巻 p. 102-107
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/10/07
    ジャーナル フリー
    本論文の目的は,旅行者として日本を訪れてくれると考えられる中国人に焦点を当てて,日本への旅行に関する期待レベルと実際の満足レベルの関係を明らかにしていくことである。具体的には,以下の仮説を検証する。仮説:中国人の日本への旅行に関する意識は,期待レベルよりも実際の満足レベルが高い。中国人への調査は,2015年2月13日~3月23日にかけて吉林省長春市青年商務旅行社で行われた。仮説検証の結果,日本に行ったことのある人の満足レベルが日本に行ったことのない人の期待レベルよりも統計的に有意に高いものは,温泉(5%水準),おもてなし(10%水準)であった。これらの項目では,仮説が支持されたということができるだろう。
  • 小島 貢利, 田村 隆善
    2016 年 16 巻 p. 108-114
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/10/07
    ジャーナル フリー
    本研究では,生産拠点が分散するグローバルなサプライチェーンシステムが遭遇する各種の災害に関して言及し,システムの可動率に関して,簡単なモデルを用いて解析を行う。災害のような突発的かつ長期間にわたる停止に備えて,工程間に余分な在庫を常々保持することは,在庫保管コストだけでなく,部品・製品の在庫切れ抑制の観点においても,大きな効果をもたらさないことを示す。また,サプライチェーン全体の可動率の評価において,各工程の停止の同時性に関して着目する。工程が多段階になり,停止の同時性が低くなるほど,サプライチェーン全体の可動率が低下することを示す。結果として,国内の生産拠点間の距離を単に間延びさせただけのグローバル化では,各地の災害等に対する頑健性を備えたサプライチェーンの構築は困難であることを説明する。
  • 早馬 真一, 田村 隆善
    2016 年 16 巻 p. 115-121
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー
    トヨタ生産方式(TPS)は,ITに対して否定的,ないしはIT嫌いといった印象を受けることが多い。実際,2015年の現在においても,トヨタ自動車とその関連企業では,TPSにこだわりをもつTPS推進部門とIT部門の間でIT化に関して意見の相違が見られることがある。しかし,IT技術は日進月歩であり,故大野耐一氏が教えを説いた時代のITから大きく進歩している。本研究では,現在のTPSの現場でもIT化が進んでいることを示し,TPS部門で残っているIT活用に対する抵抗感を議論し,ITに対する大野氏の考え方を整理し,最後にTPSにおいてもIT活用が重要となっていることを示す。
  • 川村 悟
    2016 年 16 巻 p. 122-127
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/03/31
    ジャーナル フリー
    中小企業診断士には,診断・助言を通じて中小企業を支援する本来の役割を果たしたうえで,社会貢献が求められる。そのため,社会貢献の充実を目的としてプロボノ活動を実践する。中小企業診断士によるプロボノ活動について,支援者側の見地からその可能性と課題は何かを明らかにする。プロボノの可能性として,企業内診断士に向けた能力開発の機会,社会に対する中小企業診断士の活動啓蒙などにつながると指摘する。今後検討すべき課題として,どのような企業・団体に展開するかという支援対象の基準,個人の域ではなく集団で活動に取り組んでいく組織化,支援活動の継続性を高める仕組み化などが挙げられると主張する。
  • 魏 興福, 田村 隆善
    2016 年 16 巻 p. 128-133
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/07/04
    ジャーナル フリー
    中国では1978年に始まった改革開放政策以後,過去30余年間に土地使用権の売買,ならびに住宅の開発と売買が自由にできるようになり,不動産業が大きく発展した。この間,新築住宅の売買だけでなく住宅の買い替えなどに伴う中古住宅売買の市場規模が拡大し,不動産取引業の規模も大きく拡大した。本研究では,中国における不動産取引の現状を概観し,土地使用権,新築住宅,および中古住宅の売買プロセスを調査し,日本における不動産取引プロセスとの相違点を交えながら中国での不動産取引の特徴と課題を明らかにする。
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