17 世紀後半から 18 世紀前半にかけての鍵盤楽器曲における音型の形成原理と作曲概念を明らかにするために、 舞曲「アルマンド」の記譜のありかたを分析、考察した。その際作曲家論や様式論からではなく、楽譜上の音型の書き表しかたとその変化、そして 18 世紀のドイツの音楽理論家 F. E. ニート (1674–1717) の作曲法に着目した。
「アルマンド」の記譜法と音型においては、声部を強調した書法から、左右の両手用という、身体的な要素をより大きく反映させた書き方へと変わっていった。しかし一旦記譜に固定化されると、再びその身体性が記譜の中に規範化されることに もなる。またニートはアルマンドの作曲において、バス上の和音の構成音の分散和音や、単純な順次進行の使用を主張している。これは、和音進行の中で、鍵盤上を動く指が作りやすい音パターンの組み合わせの実践である。音楽作品に表れる音 型においては、このような身体性に注目する部分があってもよいはずである。
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