本稿では、ドイツの音楽教育家フリッツ・イェーデ(Fritz Jöde, 1887–1970)の音楽観にみられる共同性のあり方を、彼の著作にみられる「共在(Beieinander)」と「統一性(Einheit)」という二つの語をもとに考察する。「共在」の位相における音楽表現の目的は、音楽実践を契機として、様々な人々が集い、対話が生まれることにあった。この位相は、 多様性を重視するポリフォニー的思考によって成り立っており、いわゆる今日のコミュニティアート的実践に類似する点が多く見受けられる。一方、「統一性」の位相では、まずドイツ民族の統合が目的として設定され、ドイツ民族の一体化と同化を進めるための求心力として、音楽表現の目的が規定された。イェーデが共同の音楽表現に求めたこの二つの異なる 目的は、音楽表現の目的意識に関して、われわれの認識に今なお再考を迫るものであるように思われる。
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