音楽表現学
Online ISSN : 2435-1067
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4 巻
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  • フランス派ピアニストを中心に
    佐野 仁美
    原稿種別: 原著論文
    2006 年 4 巻 p. 1-14
    発行日: 2006/11/30
    公開日: 2020/05/25
    ジャーナル フリー

    戦前日本の音楽界ではドイツ音楽中心主義が強かったが、第一次世界大戦後には西洋音楽の普及が進み、近代フランス音楽に目を向ける人たちも増えていった。本稿では、ドイツ派とフランス派の対立がもっとも際立っていたピアノの分野を中心に、フランス派と目されていた人々が日本の音楽界に何をもたらし、かつ当時の人たちからどのようなイメージで見られてい たのかを考察した。フランスに留学したピアニストは、近代フランス音楽をレパートリーに組み入れ、音の美しさや音色の色彩的表現の豊かさ、繊細な弱音などフランス・ピアニズムを日本のピアノ界に持ち込んだ。フランス派の中にも、野辺地瓜丸(勝久) や宅孝二、原智恵子らコルトーの影響を強く受けた人たちと、新即物主義に近い新しい解釈を示した草間(安川)加寿子の二つの傾向があった。戦前における彼らの実演は、日本で近代フランス・ピアノ音楽が戦後急激に広まることを可能にしたと思われる。

  • 深井 尚子
    原稿種別: 原著論文
    2006 年 4 巻 p. 15-32
    発行日: 2006/11/30
    公開日: 2020/05/25
    ジャーナル フリー

     ベートーヴェンは、1912年から1916年ころまでのほぼ4年間、重要な作品を書かなかった時期がある。その時期は、ヨーロッパの状勢がフランス革命後の混乱の中にあり、ウィーンの音楽的嗜好の変化、ベートーヴェンの危機の疾患の悪化など、ベートーヴェンはたくさんの問題を抱えていた。そのような状況の中、ピアノソナタ作品101とチェロソナタ作品102は、寡作期の中で作曲された数少ない傑作といってよい。これらの作品には、その後に現れるベートーヴェンの後期作品群の特徴が散見され、ピアノとチェロという異なった楽器のための作品でありながら、たくさんの類似性が見られる。

     ベートーヴェンの後期作品群は、現在でも芸術的価値が高く評価され、演奏の機会も多いが、一般的に、その内容は難解で深い内面性を備えているといわれている。そのため、演奏や解釈において困難なものが多い。しかし、その後期作品群の特徴は、 既に寡作期の作品に現れており、後期作品群への過渡期に作曲された、この2つの楽曲を比較検討することで、後期作品群が難解になっていく方向性を検証し、ベートーヴェンの後期作品群の難解さの背後にあるものを探求することができる。そのことによって、ベートーヴェンの後期の作品をより深く理解し、演奏解釈に反映させる方法についての考察である。

  • 武知 優子, 森永 康子
    原稿種別: 原著論文
    2006 年 4 巻 p. 33-40
    発行日: 2006/11/30
    公開日: 2020/05/25
    ジャーナル フリー

     近年音楽教育とジェンダーに関する研究が主に欧米において蓄積されつつあるが,日本においては僅かといわざるを得ない。本研究では,音楽の指導者が,子どもの性別により音楽表現や学習態度に異なる期待を抱いているかどうか,また男女で適した指導法は異なると考えているかどうかを検討することを目的とした。私立女子大学音楽学部卒業生 946 名に質問紙を配布し,回答のあったピアノ指導の経験がある 346 名を分析の対象とした。その結果,女子はまじめに練習をする,男子は分析的に考えた演奏をするなど,一部子どもの性別によって異なる期待が抱かれている傾向が示唆された。また,約 44%の指導者は,男女それぞれに適した指導法があると回答し,女子には細かく指導するが男子には細かく言わず,楽しむことを重視する,などの具体例を得た。指導法と,性別により異なる期待には様々な点で関連がうかがえた。今後,指導者の認識だけでなく,実際の指導内容など,多側面からの検討が必要と思われる。

  • 秋田民謡を取り入れた授業の分析を通して
    佐川 馨
    原稿種別: 原著論文
    2006 年 4 巻 p. 41-48
    発行日: 2006/11/30
    公開日: 2020/05/25
    ジャーナル フリー

     本研究は、郷土の民謡を取り入れた授業実践の統計的分析・考察を通して、その音楽的価値と教材としての有効性を明らかにすることを目的とした。そのために、中学生146 名を対象に、①民謡を学習しない群、②秋田民謡のみを学習する群、③秋田民謡と沖縄民謡を学習する群の三つに分け、編曲教材による歌唱や和楽器の学習を行った後に質問紙による調査をし、分散分析、因子分析を行った。

     その結果、郷土の民謡の授業を受けた性とは、リズムや音階などの西洋音楽や諸民族の音楽とは異なる特質に気づき、一定の価値感情が芽生えること、また、異なる音楽的特質を持つ教材を閉講して学習することによってその効果は増大することが明らかになった。さらに、郷土の民謡の可変性や即興性を活かし、生徒の実態に配慮した編曲教材を用いることによって、「日本人としての音楽性の覚醒」「地域に特有の音楽的要素を基にした音楽的諸能力の獲得」「郷土理解」などに効果があることが認められた。

  • 初心者から上級者までを対象に
    田島 孝一
    原稿種別: 原著論文
    2006 年 4 巻 p. 49-55
    発行日: 2006/11/30
    公開日: 2020/05/25
    ジャーナル フリー

     1992年に命名したこのピアノ奏法は,デッぺの重力奏法とツィーグラーが求める美しい音色および「重さ」「支え」「移動」という観点に,筆者が運動の法則という普遍的視点を加えて,「指歩き」と表現したものである。これに基づけば,人が日常に足で歩くような感覚で,各関節により着実に支えられた指を運ぶことができる。それにより無駄な力が排除され,安定した手指からは美しい音色により音が奏でられ,それらに伴なって生じる精神的余裕により,細やかな音楽表現が可能となる。この奏法を使う指導者に求められることは,スポーツ指導者のような力学・物理学的な指導知識をもつことである。また楽譜上の全ての音符に付した指番号をたどれば,基本的にはほとんど弾けるような楽譜を使用することにより,配慮すべき情報量を極力少なくし,精神的余裕を生み出すことができることも,本奏法の特徴である。

  • オペラのスコアに織り込まれたモーツァルトの機知
    後藤 丹
    原稿種別: 評論論文
    2005 年 4 巻 p. 57-66
    発行日: 2005/11/30
    公開日: 2020/05/25
    ジャーナル フリー

     オペラ《フィガロの結婚》のプラハ上演成功をきっかけとして、モーツァルト は《ドン・ジョヴァンニ》を作曲した。 双方のオペラの登場人物たちが歌う何曲かには、音楽的に非常に類似する部分が認められる。分析の結果、伯爵夫人とドンナ・ エルヴィーラ、フィガロとマゼット、スザンナとツェルリーナの3つの組合わせにおいて、その傾向が顕著であることが判明した。 それぞれの二人は性格や行動様式は異なるものの、劇の役割上は非常に近い状況に置かれている。モーツァルトは《ドン・ジョ ヴァンニ》の登場人物の何人かを《フィガロの結婚》の登場人物のカリカチュアとして描こうとしたのではないか。それは《フィ ガロの結婚》を歓迎してくれたプラハ市民への作曲家からの機知に富んだ挨拶ではなかったか。

  • 1941 ~45 年を中心に
    鈴木 慎一朗
    原稿種別: 資料論文
    2006 年 4 巻 p. 79-94
    発行日: 2006/11/30
    公開日: 2020/05/25
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,1941(昭和16)年から1945(昭和20)年にかけての香川師範学校男子部における聴覚訓練の実践を明らかにすることである。判明した点は以下の通りである。

    1) 音楽科教員の金光武義氏は,1941(昭和16)年6月に実施された「国民学校芸能科音楽講習」に参加した。その講習で「聴覚訓練」を担当した講師は,下総皖一,城多又兵衛であった。城多は,資料として『ウタノホン上 教師用』(1941)や「東京音楽学校監修聴覚訓練用レコード」を用い,国民学校第1学年の聴覚訓練の方法について解説した。

    2) 香川師範学校男子部においては「ハホト・ハヘイ・ロニト」の主要三和音が中心に取り上げられ,『ウタノホン上 教師用』の記載事項に沿った内容が指導された。また,教育実習における「芸能科音楽」の授業においても聴覚訓練が実施されていた。 その他,香川師範学校男子部保護者会における「音楽」の授業参観においても聴覚訓練が公開され,プロバガンダ的に扱われていた。

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