いわゆるマーケティングがわが国ではいつ,いかにして生成したかについては,わが国学界ではいまだ決着を見ていない。綿糸紡績業の歴史は,マーケティングが明治時代の大手紡績業者と伝統的問屋間の対立・抗争からもたらされたことを示している。当時,この業界で中間商人排除運動が大々的に展開されたのもその結果とみてよい。
本論文の目的は,官報において公告された商業登記や当時の紳士録,各種年鑑などの同時代的史料を活用して,1930年代の東京電気の販売会社の実態を,その設立の経緯や役員の構成,事業所の所在地から明らかにすることである。東京電気は1930年4月に東京市内に3つの販売会社を設立して以降,1939年までには全国(朝鮮を含む,北海道と台湾を除く)を8つのブロックに分割し,それぞれを地域販社が統括する体制を整備した。各販売会社の役員構成や設立の経緯は多様であり,有力電気商を統合して内部化するかたちで設立されたものもあれば,電気商の人・組織を活用せずにその影響を極力排するかたちで設立されたものもあった。多様な形態の販売会社の存在は,東京電気と有力電気商との複雑な関係性を示唆する。
日本企業における消費者対応部門は1970年代から整備が進んだが,当初の消費者対応は,苦情処理という位置づけにとどまり,社内での地位も低かった。そうしたなかで1980年に発足したACAPは,企業や業種の枠を越えて消費者対応のノウハウを蓄積・共有するとともに,消費者対応という業務をマーケティングの一環として位置づけることに努め,「消費者志向体制」の整備に大きく貢献した。先進的な企業においては,コンピュータを利用したシステム整備が進み,消費者対応を通じて集めた消費者の声を,社内のさまざまな部門にフィードバックする態勢も整えられ,商品の改善や開発につながる成果も表れた。1980年代後半以降には,消費者対応部門の名称に「お客様」の呼称を冠する企業が増えていったが,そうした変化は,消費者対応の業務がマーケティング上の位置づけを獲得していったことと,深く結びついていたと考えられる。
本稿ではマーケティング実践史研究を類型化する試みを行っている。類型化の基盤としてそれぞれの研究がどのような目的で執筆され,どういう点に重点を置いているのかに注目した。また,時代区分についても検討材料としている。
本稿では①経営史におけるマーケティング実践史,②流通史におけるマーケティング実践史,③特定業界に特化したマーケティング実践史,④4Pを意識したマーケティング実践史の4つの類型に区分した。それぞれについて特徴が見られた。
類型化することでマーケティング史研究(特に実践史)についてどの様な傾向があるのかを整理することができる。また,実践史に関連した未開拓・未発達な研究領域も明らかにすることができたと考える。
改革開放(1978年)以降から生鮮食品ECが台頭する前(2011年)までの時期を対象に,当時の文献,政策などの資料や,生鮮食品の流通に関わっていた方や購入経験のある消費者のインタビューによって,生鮮食品流通システムにかかわる経済環境や法制度・政策,消費者の購買行動などの段階的な変化について,通史的に検討することを目的とする。従来の研究においては,動態的に変化をとらえる研究はほとんど行われてこなかったことから,通史的な研究の意義があると考える。生鮮食品を研究対象とし,流通システム変化の実像に迫るに従って,中国の生鮮食品小売形態の各段階における特徴,存在する課題,生鮮食品EC業界の発展に対する機会や制約などを分析した。
石井淳蔵『進化するブランド オートポイエーシスと中動態の世界』碩学舎,2022年.(書評者:木下 明浩)
鳥羽達郎(訳・解説)『「小売の輪」の循環:アメリカ小売業の発展史に潜むダイナミクス』同文舘出版,2022年.(書評者:青木 均)
堀越比呂志『アメリカ・マーケティング史15講―対象と方法の変遷―』慶應義塾大学出版会,2022年.(書評者:菊池 一夫)
柳 純『日本小売企業の国際マーケティング』同文舘出版,2022年.(書評者:鳥羽 達郎)
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