マーケティング史研究
Online ISSN : 2436-8342
3 巻, 1 号
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特集論文
  • バート スティーブ, 戸田 裕美子
    2024 年 3 巻 1 号 p. 3-32
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル オープンアクセス
     カルフール・グループは,ヨーロッパのハイパーマーケットの発明者として広く認知されており,この小売フォーマット*は,後に世界中に移転され,取り入れられた。その創業から60年の時を経て,カルフールは国内をベースにした単一フォーマットから脱却し,40カ国以上で14,300店超を構えるマルチ・フォーマットを擁すマルチ市場のグローバル小売業へと進化を遂げた。このカルフールの進化は,この期間に食品小売業の中で生じたマクロ的な傾向を反映しており,より具体的には,小売フォーマット,国際市場,商品やストア・ブランド,マネジメント・コントロール・メカニズムやサービス,そしてオムニチャネルの提供など,さまざまな事柄の変化を内包している。本論文は,1960年代初頭以降に,このグループの戦略や活動がいかに変化してきたか,その変遷を歴史的に概観するものである。本論文では,創業者一族が退任した後にカルフールを率いてきた,6人の異なる最高経営責任者たちの在任期間に基づいて資料を整理し,時系列の形式で議論を展開する。このアプローチは,それぞれのリーダーたちが追及した戦略的な方向性を描写するものであり,彼らが優先した事項や活動,その在任期間中に生じた外的そして内的なコンテクストおよび,彼らが直面した困難の変遷を示している。企業のリーダーの役割や行動は,経営史を理解する上での重要な要素なのである。
  • ―スーパー登場から65年の競争環境の変化―
    森脇 丈子
    2024 年 3 巻 1 号 p. 33-49
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル オープンアクセス

     スーパーマーケットがフランスに登場して60年以上が経過した。この業界では,セルフサービスの導入や駐車場完備,店舗面積の拡大,顧客カードの導入などによって集客をはかり,ハイパーマーケットの出店も拡大してきた。これらの過程は経済成長とも足並みをそろえ,他方では小規模小売店を閉店に追い込みながら急速に広がっていった。大規模食品小売業は,プライベートブランド開発に力を入れ,他社の吸収・合併,他国への進出と撤退,競合他社や異業種との戦略的提携と解消などを繰り返しながら,低価格をめぐる熾烈な競争のなかにある。国内では新しい業態―〈drive〉(フランス型のclick and collect),小規模スーパーなど―を生み出し,新規顧客の獲得を目指している。フランスの食品小売業の市場は大手企業の寡占状態にあり,売上高,従業員数,販売面積等では大手が他の業態を圧倒している。だが,現在ではECやハードディスカウンターの成長,消費者の購買力の低下が大規模食品小売業にとっての新たな脅威となっている。

  • ―ファストファッション企業のマーケティング戦略における新たな課題―
    戸田 裕美子
    2024 年 3 巻 1 号 p. 50-67
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル オープンアクセス

     本論文は,ファストファッションが登場してからおよそ30年の間に,ファストファッション企業の成長の副産物として生み出された環境負荷に目を向け,欧州において近年展開しているエコデザイン規制の展開を整理することを目的としている。ファストファッション企業のいくつかが欧州を起源にするということに加え,衣料品の消費市場として最大規模であるのがEUであるという事情も相まって,2010年代ごろからファストファッションの環境負荷に対する問題意識が醸成されてきた。こうした事情を背景に,国連や欧州委員会は本格的な問題解決に乗り出し,積極的な関与の態度を示してきた。こうした試みが,2023年のエコデザイン規制という形で結実し,この規制が今後のファストファッション企業のマーケティング戦略に少なからず影響を及ぼすことが予想される。本論文は,欧州におけるエコデザイン規制の展開に目をむけることにより,この30年間にファストファッションが経済合理性を重視して邁進してきた結果として生じた環境負荷や,使い捨てに慣れてしまった消費者行動について再考する契機になることを期待する問題提起的な論文である。

一般投稿
  • ―消費者との文化的使用価値共創を題材に―
    川口 高弘
    2024 年 3 巻 1 号 p. 68-85
    発行日: 2024/03/31
    公開日: 2024/03/31
    ジャーナル オープンアクセス

     本研究では,ブルデュー社会学を手がかりとして消費者との価値共創における文化的コンテクストの役割明確化を試みる。そのために,本研究では下記プロセスにしたがって論を進める。はじめに,ブルデューによって提示された「習慣行動」とそれを構成する界・資本・ハビトゥスの各概念について検討する。次に,フランス社会学由来のこうした概念を,マーケティング研究において内在的に理解するための準備的議論として両者間の乖離を埋める手続きをとる。そのうえで,それまでに確認されたことを手がかりとして文化的コンテクストの役割明確化を試みた結果,習慣行動のあり方は文化的コンテクストに規定されることが示され,続けて文化的コンテクストに規定される行為の対象は消費行動にも及ぶこと,また文化的コンテクストは共創の担い手を介して文化的使用価値のあり方を規定することがそれぞれ示唆される。最後に,本稿において示されたことを,文化的コンテクストが組み込まれた価値共創の仕組みを用いて検証する。

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