気象集誌. 第2輯
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100 巻, 2 号
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Article: Special Edition on Global Precipitation Measurement (GPM): 5th Anniversary
  • Wei-Kuo TAO, Stephen LANG, 井口 享道, Yi SONG
    2022 年 100 巻 2 号 p. 293-320
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/08
    [早期公開] 公開日: 2021/12/13
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     Goddard Convective-Stratiform Heating (CSH) アルゴリズムは、熱帯降雨観測衛星(TRMM)や全球降水観測衛星(GPM)のミッションにおいて、雲や雲システムに伴う潜熱プロファイルを推定するために利用されてきた。CSHアルゴリズムでは、雲解像モデルを用いて潜熱プロファイルをシミュレーションし、実際の衛星データに適用するルックアップテーブルを作成する。本論文では、現在のCSH V6と従来のCSH V5との相違点・類似点について説明する。雲解像モデルの解像度と対流性層状性分類法が潜熱放出の構造やプロファイルに与える影響を明らかにするため、雲解像モデルによる長期積分シミュレーションを行った。 TRMM と GPM のレーダー・マイクロ放射計複合アルゴリズムによる地表雨量とそれに関連する降水特性変数が CSH アルゴリズムの入力となっている。

     CSH V6で得られた熱帯・亜熱帯地域の潜熱プロファイルは、対流域では加熱、層状域では冷却の上方で加熱という典型的な特徴を示している。潜熱は直接測定することはできないため、CSH V6アルゴリズムの性能は、鉛直方向に積分した潜熱量(等価地表雨量)とTRMM/GPM データから得られる地表雨量を比較することで検証している。CSHの3ヶ月帯状平均の等価地表雨量は、熱帯収束帯で衛星データの地表雨量と良く一致し、海洋上では非常に精度が良い。一方で、熱帯・亜熱帯の陸域では過大評価の傾向にある。CSHの3ヶ月平均等価地表雨量は、衛星データ雨量との間に局所的な相違があるが、大きな水平解像度(CSHの標準グリッドである0.25°×0.25°から0.5°×0.5°または1.0°×1.0°)で領域平均することで平滑化できる。 CSH等価地表雨量は、GPMの地表雨量と比較して、弱い雨が多く、強い雨が少ない。

Article
  • 伊藤 耕介
    2022 年 100 巻 2 号 p. 321-341
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/13
    [早期公開] 公開日: 2021/12/10
    ジャーナル オープンアクセス HTML
    電子付録

     気象庁の全球日別海面水温解析の準リアルタイム版(以下、R-MGD)では、解析時間の前に得られた観測データに短時間スケールの変動を落とすようなフィルタを適用している。そのため、台風の通過に伴う急激な海面水温の変化がバイアスを生むと考えられる。本研究では、R-MGDの現場観測に対するバイアスを、北西太平洋における台風の通過に沿って定量化した。初めに、2020年8月~9月にかけて立て続けに接近した3つの台風に関し、事例解析を行った。R-MGDは3つの台風の通過直後では2℃以上もの正バイアスを生じており、最後の台風が通過して1週間以上経過したのち負バイアスが観測された。R-MGDと係留ブイの比較を行ったところ、短時間スケールを落とすフィルタリングと解析時間の前に得られたデータを用いていることで、バイアスが説明できた。次に、2015年5月から2020年10月の期間でコンポジット解析を行ったところ、台風最接近の1日前から4日後までに統計的に有意な正バイアス、台風最接近の7日後から14日後までに統計的に有意な負バイアスが、台風から500 kmの範囲内で検出された。正バイアスは、冷たい亜表層の水と激しい台風の通過に伴って生じやすく、とりわけ、黒潮と黒潮続流域を除く中緯度帯で大きくなっていた。また、R-MGDの解析時間の72時間前までに得られた現場観測を追加の最適内挿法で同化することにより、バイアスは軽減されることが分かった。これは、この過程により短周期の変動が復元されたためである。台風予報への影響評価および最適内挿法の独立な観測に対する検証も実施した。

    Editor's pick

  • 石島 健太郎, 坪井 一寛, 松枝 秀和, 田中 泰宙, 眞木 貴史, 中村 貴, 丹羽 洋介, 平尾 茂一
    2022 年 100 巻 2 号 p. 343-359
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/08
    [早期公開] 公開日: 2021/12/10
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    電子付録

     気象研究所が4つの気象庁観測所において観測した大気中ラドン(222Rn)濃度の時間変動についてオンライン全球スペクトル大気輸送モデル(Global Spectral Atmosphere Model-Transport Model:GSAM-TM)を用いて解析を行った。2007~2019年の5~12年間におよぶ222Rn濃度観測から、月別および日内変動、そして一連の総観規模の高濃度222Rnイベントを抽出した。主に季節風によって駆動される冬の極大と夏の極小という観測された季節変動パターンは、既存の222Rn放出量データを用いたGSAM-TMによって良く再現されたが、絶対値は概ね過小評価されており、東アジアにおける222Rn放出プロセスに対する理解が不十分であることが示唆された。高解像度モデル(水平格子間隔約60kmのGSAM-TM)は、観測された連続的な数時間スケールの高濃度222Rnピークが、異なる2地域からの222Rnの輸送により引き起こされていることを示したが、低解像度モデル(格子間隔約200km)はそれらを十分に解像できていなかった。GSAM-TMによるシミュレーションは、そのような寒冷前線に起因するイベントが時として前線上空への成層圏空気の流入というような複雑な3次元大気構造を伴い、大気中微量成分の分布に大きく影響することを示した。222Rn濃度日内変動の解析において、222Rn濃度データは大陸からの散発的な222Rn流出のために変動が大きく日内変動も不明瞭となりがちだが、222Rn濃度時別値を222Rn濃度日平均値で規格化する新たな計算手法を用いることにより日内変動を抽出することが可能となった。冬季の規格化された時別値に基づく222Rn日内変動は観測とモデルで一致しており、主に大気境界層高度(PBLH)の日内変動により駆動されているようである。これらの結果は、地表付近の大気中222Rn濃度は、例え有意なローカル222Rn放出が無くとも、222Rnが遠隔放出域からの輸送によりもたらされ、それがその場におけるPBLH変動によって,日平均値の最大10%程度の振幅で日内変動し得ることを示した。

  • Prabir K. PATRA, Edward J. DLUGOKENCKY, James W. ELKINS, Geoff S. DUTT ...
    2022 年 100 巻 2 号 p. 361-386
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/13
    [早期公開] 公開日: 2021/12/21
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    電子付録

     大気中の一酸化二窒素(N2O)は地球温暖化および成層圏オゾン減少に影響を及ぼしており、発生源ごとの放出量推定の精緻化は気候変動の政策決定において非常に重要である。本研究ではまず大気大循環モデルMIROC4を基にした化学輸送モデル(ACTM)を用いたコントロール実験を行い、大気中N2O濃度の時空間変動について現場観測等を用いた検証を行なった。本計算に際しては各種起源(土壌起源、農業起源、その他人為起源、海洋起源)について複数のインベントリを用い、合計5種類の組み合わせで計算を行なった。その結果、N2Oの大気中寿命は年々変動の影響を含め、127.6±4.0年と推定された。次に、世界各地の42地点における1997年から2019年にかけての観測結果を用いて、世界を84分割した各地域におけるN2O放出量についてベイズ手法を用いた逆解法による推定を行なった。その結果、全球の陸域および海洋起源それぞれの放出量は2000年代には12.99±0.22 および 2.74±0.27  TgN yr-1、2010年代は14.30±0.20および 2.91±0.27 TgN yr-1と推定された。 地域別に見ると、南極海周辺での海洋起源放出量について既存インベントリが過大評価傾向にあることがわかった。一方熱帯域および中高緯度域の地表からの放出量についてはそれぞれ過少および過大評価傾向にあったと考えられ、別の観測の結果とも整合的であった。また全球の陸域および海洋起源放出量の時間変動についてはエルニーニョ・南方振動と強い相関が見られた。地域ごとの陸域起源放出量の2000年代と2010年代の間の変化量について調べたところ、北アメリカ、中央および熱帯アメリカおよび中央アフリカ、南、東および東南アジアで増加傾向が見られた。一方ヨーロッパでは減少する傾向が見られたが、これは化学工業に起因すると推定された。また15地域中3地域(東アジア、北アメリカおよび中央アフリカ)および南極海において、季節変化について今後の改良が必要なことが示唆された。陸域生態系モデル(VISIT)による推定放出量を用いた場合、観測から推定される1978年以降の増加速度をよく再現しているが、一方で窒素肥料の施肥から大気への放出にかかる変換時定数については改めて検討する必要があることが示唆された。

Article: Special Edition on Typhoons in 2018-2019
  • 和田 章義, 柳瀬 亘, 岡本 幸三
    2022 年 100 巻 2 号 p. 387-414
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/07
    [早期公開] 公開日: 2021/12/14
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     2018年台風第12号(ジョンダリ)は7月29日の日本上陸前に、対流圏上層寒冷低気圧の円周に沿った異常な経路をとった。大気海洋相互作用および対流圏上層寒冷低気圧とジョンダリの相互作用が台風経路に及ぼす影響を調べるため、3kmメッシュ非静力学大気モデルと大気波浪海洋結合モデル及び異なる初期時間を採用して作成した初期条件に基づく数値シミュレーションを実施した。シミュレーションされた対流圏上層寒冷低気圧は355K等温線上の高ポテンシャル渦度、低い気圧、低い相対湿度の特徴をもつ。7月25日から27日にかけて対流圏上層寒冷低気圧はジョンダリの北側を南西方向に移動し、この期間にシミュレーションされたジョンダリは対流圏上層寒冷低気圧の円周に沿って反時計回りに移動した。ジョンダリが西に移動し始めてから、大気波浪海洋結合モデルによるシミュレーション結果において、経路に沿って海面冷却が生じていた。日本上陸後にジョンダリは勢力を弱めると、対流圏上層寒冷低気圧も日本の南側で勢力を弱めた。特に潜熱フラックスと対流による対流圏上部における加湿が勢力の弱化に影響を与えていた。ジョンダリが九州の南海上で再び発達したとき、台風域では渦位は柱状に高くなり、一方で対流圏上層寒冷低気圧付近の対流圏上層渦位は相対的に低い値であったことから、台風域の渦は対流圏上層寒冷低気圧と合体する様子がシミュレーションされた。大気波浪海洋結合モデルのシミュレーション結果では、寒冷低気圧付近の対流圏上層部における高渦位は維持される一方、柱状の台風域の渦位はその高さを下げつつ弱まり、台風中心からの対流圏上層への外出流が弱まった。この結果、対流圏上層寒冷低気圧から変形した高渦位の折り返し位置に影響を与える様子が見られた。ジョンダリの経路に影響を及ぼす指向流は、対流圏上層寒冷低気圧下の地衡風の影響を受けていたため、実際は上記海洋結合の効果よりも大気初期条件の違いがジョンダリと対流圏上層寒冷低気圧両方の経路と強度により強い影響を与えていた。

Article
  • Wei-Ching HSU, 菊地 一佳, H. ANNAMALAI, Kelvin J. RICHARDs
    2022 年 100 巻 2 号 p. 415-435
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/13
    [早期公開] 公開日: 2021/12/21
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     大気海洋相互作用の本質が、熱帯季節内振動変動特性の理解及びモデルでの再現性に強く影響する可能性があることが、過去の研究から示唆されている。本研究では、最新の再解析データであるERA5、ERA-interim(ERAi)、JRA55の海表面データの評価を行い、季節内振動に関連した大気海洋相互作用を調べる上でどの再解析データがより適しているのかを特定し、海洋応答の計算に関連する変数の季節内周期の誤差を定量化する。JRA55の外向き長波放射の振幅は大幅に過小評価(概ね40-60%、地域や季節による)されているが、空間構造、伝播特性の観点では、3つの再解析データは全て季節内振動の対流特性をよく捉えていた。2つのERA再解析データのうち、ERAiは(北半球夏季の)季節内振動に関連した降水と10m風の振幅を大きく過小評価する一方、(北半球冬季の) 季節内振動に関連した潜熱フラックスを過大評価しているため、ERA5がより良い海洋への大気強制データとなる可能性があることが示唆された。JRA55は、降水以外の変数でERA5と同程度の振幅誤差が認められたが、2つのERA再解析よりも大きな位相誤差を示した。

Notes and Correspondence
  • 遠嶋 康徳, 丹羽 洋介, 坪井 一寛, 齊藤 和幸
    2022 年 100 巻 2 号 p. 437-444
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/08
    [早期公開] 公開日: 2021/12/28
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    電子付録

     1998年から2020年までの冬季(1月~3月)に与那国島(24.47°N、123.01°E)で観測された大気中CO2およびCH4の総観規模の変動を解析した。24時間の時間窓内のデータを用いた相関プロットの傾きに基づく月平均変動比(ΔCO2/ΔCH4)は、主に中国の化石燃料起源CO2の放出量の前例のない増加を反映し、明瞭な増加トレンドを見せた。同様のΔCO2/ΔCH4比の増加傾向は与那国島の東方約100kmに位置する波照間島(24.06°N、123.81°E)における観測で既に報告されていた。しかし、与那国島における絶対値は波照間島に比べて34%大きかった。さらに、波照間島における2020年2月の月平均値は中国におけるCOVID-19に対するロックダウンに起因する化石燃料起源CO2排出量の減少を反映した急激な減少を見せたが、与那国島の月平均値にはそうした著しい減少は見られなかった。日変動を精査したところ、与那国島では波照間島よりもローカルな影響が、特に日中に大きくなることが分かった。こうしたローカルな影響は、夜間のデータ(20-6 LST)およびより長い時間窓(84時間)を使うことで低減させることができ、その結果得られた月平均ΔCO2/ΔCH4比は2020年2月の急激な減少を含め波照間島で観測された変化とかなりの一致を見せた。これらの結果は、ΔCO2/ΔCH4比が風上の地域における相対的な放出強度の解析に使用できることを確信させるものであった。

Article
  • 石岡 圭一, 山本 直人, 藤田 雅人
    2022 年 100 巻 2 号 p. 445-469
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/13
    [早期公開] 公開日: 2021/12/28
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     プリミティブ方程式系を数値計算するための離散化について、水平方向だけでなく鉛直方向にもスペクトル法を用いる3次元スペクトルモデルの定式化を提案する。この定式化において、鉛直方向の離散化にはルジャンドル多項式展開を用いている。この定式化のもとでは、セミインプリシット数値積分が効率的に行えることが示される。この定式化に基づいて数値モデルを開発し、先行研究で提案されているいくつかのベンチマーク数値計算を行う。その結果、プリミティブ方程式系のこの実装により、比較的少ない鉛直方向の自由度でも高精度の数値解が得られることが示される。また、いくつかの異なる鉛直自由度の計算を行うことにより、鉛直方向の自由度を増やすと数値解の誤差が急速に減少するというスペクトル法特有の性質が見られることも示される。さらに、この定式化のもとで、反射波を抑制するためのスポンジ層に代わる工夫が示されるとともに、この定式化の応用として、鉛直自由度を極限まで減らした「トイ」モデルも導かれる。

    Editor's pick

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