気象集誌. 第2輯
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101 巻, 1 号
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Notes and Correspondence
  • 竹村 和人, 向川 均
    2023 年 101 巻 1 号 p. 5-19
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/07
    [早期公開] 公開日: 2022/10/07
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     本研究では、夏季アジアジェット出口付近でロスビー波の砕波を伴うシルクロードパターンが、太平洋・日本(PJ)パターンを引き起こす割合を調査した。ここで、シルクロードパターン事例は、ユーラシア大陸上での対流圏上層の南北風の主成分分析に基づき、黄海及び日本付近が高気圧性偏差となるパターンで特徴づけられる第1、2主成分を用いて抽出した。さらに、抽出した事例を、砕波を伴う事例と伴わない事例に分類した。

     砕波を伴うシルクロードパターン事例では、アジアジェット出口付近の上層での高気圧性偏差は、砕波を伴わない事例と比べて東西により広がった形状を持ち、振幅も大きい。この事例の合成図では、シルクロードパターンに伴う波列パターンがユーラシア大陸上に存在し、アジアジェット出口付近で砕波を伴っていた。砕波の発生は、砕波域でのアジアジェットの強い減速及び分流と関連する。また砕波は、上層の高渦位気塊の進入を通して、砕波域の南側で活発な対流活動を促し、PJパターンを形成する。合成図において出現する明瞭なPJパターンは、南側で低気圧性偏差、北側で高気圧性偏差を持つ双極子構造を示す。そして、砕波を伴うシルクロードパターン事例の約60~70%が、PJパターンを伴っていた。

     一方、砕波を伴わないシルクロードパターン事例の合成図では、ユーラシア大陸上で波列パターンは存在するが、砕波域の南側で活発化した対流活動及びPJパターンは存在しない。そして、砕波を伴わないシルクロードパターン事例の約40~50%がPJパターンを伴っていた。したがって、砕波によって正のPJパターンの出現頻度は1.2~1.7倍に増加し、砕波はPJパターンの励起に重要な役割を果たしていることが明らかになった。

Article
  • 倉持 将也, 植田 宏昭
    2023 年 101 巻 1 号 p. 21-37
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/07
    [早期公開] 公開日: 2022/10/07
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    電子付録

     熱帯インド洋-西部太平洋域の対流活動に関連して、2020/21年冬季の前半と後半の間で東アジアの気温偏差は負から正へと転じた。平年より気温が低かった2020/21年冬季の前半では、対流圏上層のチベット高原南東部と日本上空にそれぞれ高気圧性と低気圧性の循環偏差対が発現していた。この波列パターンは、東インド洋から南シナ海上で強化された熱帯積雲対流に励起されたロスビー波の伝播を示し、本研究で新たに東南アジア-日本(Southeast Asia–Japan: SAJ)パターンと呼称する。一方、2020/21年冬季の後半では、活発な対流活動域は東方のフィリピン海へ移動し、上層高気圧偏差もまた日本の南へと位置を変えた。このような循環偏差は西太平洋(western Pacific: WP)的なパターンとして認識でき、東アジアの高温偏差をもたらした。SAJパターンに関連するチベット高原南東部の高気圧性循環偏差と南シナ海の対流強化の関係は、パターンが顕著に発現した月を抽出した合成解析でも統計的に有意であることが確認された。一方、WP的なパターンの半分の場合では、フィリピン海での対流の活発化を伴っていた。これらの異なる2つの循環偏差は、線形傾圧モデルに南シナ海とフィリピン海に熱源を与えることでそれぞれ再現された。さらに渦度収支解析から、チベット高原南東への気候学的な上層風の収束が SAJパターンの空間的な位相固定性において重要であることが示唆された。

  • 高橋 芳幸, 林 祥介, はしもと じょーじ, 倉本 圭, 石渡 正樹
    2023 年 101 巻 1 号 p. 39-66
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/07
    [早期公開] 公開日: 2022/10/14
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    J-STAGE Data 電子付録

     金星および火星を想定した惑星大気のシミュレーションと調査に用いることを目的として、ラインバイラインおよび相関 k 分布放射モデルを開発した。ラインバイラインモデルの結果は、金星と現在および古代の火星に関する観測結果や先行研究の結果と比較することで検証し、計算された放射場は観測される分布と良く一致し、先行研究の結果の範囲内にあることを示した。このラインバイラインモデルの結果に基づいて、相関 k 分布モデルのためのパラメータセットを作成した。作成されたパラメータを用いて相関 k 分布モデルで計算された放射場は、地表面気圧の広い範囲に対して、ラインバイラインモデルによる放射場とよく一致することを確認した。さらに、これらのパラメータを組み込んだ相関 k 分布モデルを用いて金星について放射場の評価を行うとともに、金星と火星について放射対流平衡の鉛直分布を計算した。金星について得られた鉛直の熱的構造は観測と定性的に整合し、火星の地表面気圧および地表面温度の振る舞いは先行研究で報告されているものと同様であった。これらの結果は、放射パラメータの生成を含む本研究のモデルが、二酸化炭素を主成分とする太陽系および系外惑星大気の気候を調べるために適用可能であることを示している。

Notes and Correspondence
  • 武 靖, 黒崎 泰典, 関山 剛, 眞木 貴史
    2023 年 101 巻 1 号 p. 67-77
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/10
    [早期公開] 公開日: 2022/10/27
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     乾燥地では、枯れ草植被率がダスト発生臨界風速に影響を及ぼし、その結果、ダスト発生に影響する。しかし、枯れ草植被率がダスト発生に与える影響を定量的に調べた研究はほとんど存在しない。本研究は、2001~2021年のダストが頻繁に発生する3月と4月のゴビ砂漠とその周辺地域におけるダスト発生及び3種類の定義による強風発生頻度の時空間分布を調べた。それぞれの強風の定義で予測されるダスト発生とダスト発生の観測結果によるスレットスコアを用いて、枯れ草の変動がダスト発生に及ぼす影響を評価した。我々の結果はMODIS Soil Tillage Indexから算出される枯れ草は3月よりも4月において顕著にダスト発生に影響していることを示している。このことは、3月は枯れ草に加え、土壌の凍結融解や積雪といった地表面パラメータについても考慮する必要があることを示唆している。しかし、4月は枯れ草植被率のみで推定される臨界風速を用いることで、ダスト発生の予測精度が向上した。これより、枯れ草植被率が4月のダスト発生の変動を支配する重要な要因であると言える。これらの発見は、枯れ草植被率の推定をダストモデルに応用すべきであることを示唆している。

Article
  • Jianyu LIANG, 寺崎 康児, 三好 建正
    2023 年 101 巻 1 号 p. 79-95
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/02/10
    [早期公開] 公開日: 2022/11/01
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     観測演算子(OO: Observation Operator)は、データ同化(DA: Data Assimilation)において必要不可欠であり、モデル変数から観測値相当量を導出する。衛星DAでは、衛星マイクロ波輝度温度(BT: Brightness Temperature)のOOは、通常、放射伝達モデル(RTM: Radiative Transfer Model)に基づき、バイアス補正の手続きを用いる。物理ベースのRTMを用いずにOOを得る可能性を探るため、本研究では機械学習(ML: Machine Learning)をOOとして適用し(ML-OO)、晴天条件における海上の改良型マイクロ波探査計(AMSU-A: Advanced Microwave Sounding Unit-A) チャンネル6,7および陸海両上のチャンネル8のBTを同化した。非静力学正二十面体大気モデル(NICAM)と局所アンサンブル変換カルマンフィルタ(LETKF)からなる参照システムを使用した。TOVSのための放射伝達(RTTOV: Radiative Transfer for TOVS)をOOとしてシステムに実装し、独立したバイアス補正手続きを組み合わせた(RTTOV-OO)。参照システムを使って従来型観測とBTを同化するDA実験を1ヶ月間行った。この実験で得られたモデル予報は、MLモデルを学習させML-OOを得るための観測と対にした。さらに、3つのDA実験を行い、ML-OOを用いた従来型観測とBTのDAは、RTTOV-OOのそれと比べて若干劣るが、従来型観測のみに基づく同化よりも良いことを明らかにした。また、ML-OOはバイアスを内部で処理し、それによりシステム全体の枠組みを簡略化した。提案されたML-OOは、(1)衛星特性に大きな変化がある場合にバイアスを現実的に扱えない、(2)多くのチャンネルに適用できない、(3)精度や計算速度においてRTTOV-OOと比較して性能が低下する、(4)物理ベースのRTMを依然として学習用に使用していることによる制限がある。今後の研究により、これらの欠点を軽減し、それにより提案されたML-OOを改善することが可能である。

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