1963年1月の裏日本の降雪量は記録的な大きさであった。低温のために混合比の著しく少ない冬期に極めて大きな降水量がみられたと云う点からも,また豪雪の日本海からの水蒸気の補給量との関係と云う観点からも,この豪雪は興味深いケースであった。特に降雪の激しかった1月16日から26日にいたる10日間について日本列島日本海上における水物質の収支解析を行なつて次の結果を得た。
(1)この期間の日本海からの蒸発量は5.4mm・day-1であって,通常の冬期の蒸発量とほぼ等しいと云う事ができる。
(2)日本海から補給された水蒸気のうち,かなりの部分が海上で凝結し,液相又は固相の水の形態で日本列島の上に輸送されたと推定される。
(3)この液相又は固相の水物質の日本列島上への輸送はこの冬期における様な極めて大量の降雪量の説明に重要である。
(4)上記の液・固相の水の輸送に有効に働く雲層は相対湿度85%以上の層に存在し,その雲層内の液・固相の水物質の混合比は0.4gr・kg-1の程度である事が推定された。
(5)綜観的な気象状態と比較すると,上層の寒冷渦の前面で降雨量が著しく増大している事が認められた。しかし日本海からの蒸発量はその時必ずしも増加するとは限らない。したがつて上述の降雪量の増加は,成層の安定度の減少する寒冷渦の前面で活発化する対流活動によつて凝結が能率よく行なわれる事に原因すると思われる。
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