1960年及び1961年の冬期間に,地表電場,降雪の電荷,降雪強度及び雪の結晶形などについての二つの種類の同時観測がなされた。
一つは,これらの4つの要素は積乱雲がしばしば通過する線上に沿って互に1.2km離れた地点に設置された二つの観測所に於て同時に測定された。しかし乍ら之だけでは不充分なので,互に異った高度の位置に設置された他の二つの観測点,すなわち海抜1,023.7mのティネ山頂の雲物理観測所と,これより500m高度が低いパラダイスヒュッテにおいて,地表電場と降雪電荷の同時測定を行った。
これらの観測を通して,次の様な4つの点に注意がはらわれた。(1)地表電場と降雪の電荷の符号の間の逆関係の主な原因は何であるか,(2)降雪のもつ空間電荷の地表電場への影響,(3)普通積乱雲と雷雲の帯電状態の比較,(4)低地で得た結論と雲底附近で得た結論に相違があるかどうか。
第(1)の点については著者等が前の報告で述べた降水の電荷輸送の理論(降水物体が雲の中で帯電して或符号の電荷を地表に運ぶためにその符号と反対符号の電荷が上空に残ってこれと同符号の電場が地表に於て観測される)が主因となることがほぼ確実となった。第(2)の点については,上述の降水の電荷輸送の理論が実際に成立している場合,降水の初期又は降水強度が急激に増加した場合,降水のもつ空間電荷の影響により必ず降水の電荷符号と地表電場の符号が一致する筈であるが,実際にこの様な現象が数多く確認され,又早い速度で移動して来る積乱雲からの集中的な降雪時には2-3分の非常に短い周期の降雪の電荷と同符号の地表電場の鋭いピークが発生することが確認された。第(3)の点については,普通の積乱雲の通過の際に与える地表電場の型と雷雲が通過した場合のそれとは全く同様で,電場の強さも特に雷雲の方が大きいという傾向はみられず,電荷分離発生の基礎研究を行うには普通の積乱雲の性質を調べることで充分であることが判明した。第(4)の点については,地表附近で得られた結論と雲底附近で得られた結論との問には何等の相違も見られず,特に正,負の降雪の周期的な発生に対応して雲底附近の電場が正の符号のままで晴天時の電場の値を中心にして周期的に減少及び増大するWave patternを生ずることが確認され,このような現象はWilsonの誘導説では説明出来ない。従って降水の電荷輸送の理論が定常状態に於ける地表電場と降水電荷の符号の間の逆関係及び降水の初期に於ける複雑な現象その他の説明に有利であることが確認された。
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