冬期,日本列島の日本海側部分における降雪量は極めて大量のものである。この降雪と日本海からの大気にたいする熱および水蒸気の補給量,大規模気象擾乱ならびに積雲輸送との関係を解析的に示すことが,この報告の目的である。この解析のために1963年,1964年および1965年の冬期の日本海日本列島上およびその周辺の経常的観測資料に加
えて,北陸豪雪特別観測の資料が使用された。
まずはじめに,日本海,日本列島域と云う広域における大気の熱および水収支解析の立場から,降雪量と日本列島上における水蒸気の収束量,日本海からの補給量および大規模気象擾乱との関係を調べた。ついで広域の収支解析における熱,水蒸気の対流輸送の意味づけを行い,各指定気圧面を通過する対流輸送量の評価を行いそれと,日本海域における積雲の状況,大規模気象擾乱との関係をみた。
解析の結果は次のように要約される。
(1)日本列島上の降雪量は,日本海域を優勢な上層寒冷渦が通過するさい著しく増加する。この状態下における日本海からの蒸発量,日本列島上における水蒸気収束量の増加は,降雪量および海面からの顕熱補給量の増加に比較すると著しくない。
(2)低温で水蒸気の混合比のわずかな状態下での豪雪は,沿岸海域上での凝結過程,凝結した水物質の列島上えの輸送が寒冷渦通過時に著しく発達する積雲対流によって効率よく行われることに原因すると思はれる。
(3)凝結した水物質の輸送は,温度85%以上の積雲または積乱雲の雲層内で行われると思はれる。この雲層内部における水物質の混合比は,収支解析で要求される水物質の収束量から0.2~0.3gr•kg-1であると推定される。この推定は,他の雲物理的な情報や,レーダーによる降雪強度の解析からも妥当であることが示された。
(4)冬期,日本海からの顕熱,水蒸気の補給量の平年値はそれぞれ6001y•day-1および6mm•day-1であり,寒冷な豪雪年の冬期には,それぞれ1,10Oly•day-1および8mm•day-1に達っする。
(5)広域の収支解析において,平均場についての熱,水蒸気の収支式に対流輸送に関する頂を導き,ついで対流輸送量の垂直分布を求めた。
(6)寒冷渦通過時には対流輸送量の著しい増加がみられる.しかもこの増加は海面からの補給量の増加を上まわる。つまり寒冷温の通過時におこる下部対流圏の成層の不安化によって活発化される積雲対流によって海面から補給された熱および水蒸気がより大量により高く,自由大気中に再分布されることを示した.
(7)寒冷渦の通過時には,日本海域で大規模な平均的上昇流があらわれる。これは平均場についての非断熱効果-積雲対流によって高い高度に及ぼされる海面からの顕熱補給および凝結熱の放出による-によってもたらされるものである。
(8)収支解析で得られた熱エネルギーの対流輸送量の垂直分布の時間変動と,積雲の状態の変動との間には,高い相関がある.雲頂の高い活濃な積雲の存在する状態下では対流輸送量も大きいことが示された。
(9)収支解析で得られた熱エネルギーの対流輸送量は,個個の積雲対流について,ドロップ•ゾンデ観測から得られた対流の上昇速度,積雲内部の過剰温度およびレーダー観測から得られる上昇域の面積比によって推定される対流輸送量と,ほぼ一致することが確められた。
この報告は,気象研究所北陸豪雪特別研究の一部をなすものである.
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