筆者らは世界的規模で死亡の季節変動形態を研究し,その結果,日本や西欧諸国は死亡の変動に“冬季集中”現象が,また,アメリカや北欧には“緩慢化”の現象の出現を見出した.ここでは本現象を詳細に研究するため,特に緩慢化の著名なアメリカを気候区や地理区にわけて季節変動を検討した.
アメリカの気候区Climatic Region (Rennerの区分),季節にもとつく気温地区Temperature regions based on seosons (Parkins)及び1月の気候区Climatic zones in Januaryにもとづき,両者について死亡の季節変動のタイプを見た.気候区では,1960年代は南部の1,2地区に変動大きく,北部の4,5地区及び太平洋岸の9地区に特に小さい.30年代,10年代は60年代より一般に変動大きく,地区により夏山も目立つ.
季節にもとつく気温地区によっても,1960年代は一般に変動は小さいが,太平洋岸の1地区は特に小さく,南部5地区は大きい.30年,10年代はどの地区も大きく,夏山も存在する.
1月の気候区は9地区に分れ,1960年代は南部の5,7地区などがやや変動大だが,北部の8,9地区及び最も寒冷な12地区は変動が極めて小さい.30年代,10年代は60年代に比してどの地区も一般に変動大きく,地区によっては冬山の他に夏山もある,年代的にみると,何れの気候区分によっても死亡の季節変動の緩慢化の形成を認めることができる.
つぎに,アメリカのさまざまな地理的条件を考慮にいれて,8つの地理区を設定した.これによっても,1960年代は,総死亡の季節変動は冬に低い山があるとはいえ,概して緩慢であるが,30年代,10年代は冬山のほか夏山が目立ち,変動もやや大きい.白人,非白人では,全地理区とも10年代,30年代は冬夏2つの山がある.1960年代は白人の夏山は消失するが,非白人の夏山は南部の地区で目立つ.
1960年代における乳児死亡の季節変動は,南部を除けば,どの地理区においても総死亡のそれに比して一般に緩やかである.人種別にみると,どの地理区においても非白人は白人に比して季節変動は極めて大きい.ことに南部地区では前者は後者の3倍にも達する.
以上のように,総死亡でも乳児死亡でも最近は死亡の季節変動の緩慢化が出現しているが,これは乳児の場合一層著明である.人種差は乳児の場合に著しく,ことに南部の非白人は冬山が大きく変動は著しい.以上のように気候区でみても,地理区でみても1960年代は季節変動の緩慢化が著明である.
また,死亡率と気温との回帰関係からも,本現象をとらえることができる.即ち,冬季極めて寒冷な北部地域と,温暖な南部地域を比較すると,北部は南部より回帰係数が小さく,従って死亡の変動は殆んど気温の影響を受けていないことがわかる.乳児死亡は総死亡より係数は小さく,また,両死亡とも白人と非白人と比較すると,白人の方が僅かに少ないことが特徴的である.要するに北部地域の白人の乳児死亡に最も緩慢化が著しい.
以上の如く,時代の進展とともに死亡の夏山は消失し,冬山も次第に低下し,今日見るような死亡の季節変動の緩慢化が形成された.合衆国で最も寒冷な北部地域に,そしてとりわけ外出の必要のない乳児死亡に緩慢化が著しい事実よりしても,死亡の変動に及ぼす人工気候の影響が大きい事がわかる.
また南部の黒人の多い地域に季節変動が大きく,ことに非白人の乳児に冬山が著明なのは,後進地域としての性格を示すものと考えられる.
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