Marshall-Palmer分布に較べて,小雨滴および大雨滴の空間密度が著しく大きく,中雨滴の範囲でむしろ平坦な雨滴粒度分布が,梅雨末期の発達した対流性降雨において観測された.これらは一雨のはじまりの頃に顕著に見られ,更に一雨全体の平均粒度分布においてもその特徴は残っている.従って,得られる各種のrain-parameterは多数の大雨滴の存在のために,これ迄報告されているものとはやや異った値を示した.
併行して行なわれたレーダー観測によると,これらの雨滴をもたらしたエコーは興味ある構造をなしていた.すなわちそのエコーは,最初独立に成長した別々のエコーの重なりによって形成されるものであって,その直後の反射強度の増大で特徴づけられる.
力学的には不明であるが,本報告ではまず,エコーの重なりは雲内の多数のサーマル同志の衝突による含水量増大をもたらすと仮定して,雨滴の併合と分裂の作用の下での一次元モデルにより数値実験が行なわれた.そこでは成長するサーマル内の粒度分布に対して,一定の含水量をもつ粒度分布を仮想的に断続的に重合させた.その結果,中雨滴付近の平坦な分布と,直径1mm以下の雨滴の大きな空間密度をも表現でき,観測された一雨の平均粒度分布に近いものが得られた.
次に一次元sedimentationモデルによって,雨滴の落下によるふるい分けの効果を調べたところ,人吉の平均粒度分布の如く既に成長した粒度分布を上空に仮定した場合,対流性降雨の初めに度々測される極めて平坦な分布を表現できた.
更に,これらの計算による分布から導かれるZ-R関係は,人吉での観測によるZ-R関係とよく似ている.
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