黒潮海域で変質をうける寒気の混合層の熱的構造と熱エネルギー収支については,前報(二宮•秋山1976)で詳しく報告した。本報告では,著しい気団変質の行われている混合層内部での,特徴的な風速分布と運動量•運動エネルギーの収支状況を調べる。解析はAMTEX'74および75から,えらんだ,"準定常的な混合層"のあらわれた典型的な3回の寒気吹出期間について行われる。
混合層中の水平気温傾度は大きく(~3°/100km)したがって,強い地衡風の垂直シアーがあるが,観測された風速分布は,混合層内ではほぼ一様である(北風)。混合層下部では,強い非衡風成分は,低圧側にむかうが,逆に混合層上部では,非地衡風成分は,高圧側にむかう。この特徴的な分布は,運動量の強い垂直混合を示すものと考えられる.
混合層の卓越風向について運動量収支は,下層で,強い(~5×10-4m/sec-2) frictional force のあることを示している。また stress *yは,混合層中層で,~2 dynn/cm2(南風成分の運動量の下むき輸送)の大きさを示す。この大きな運動量輸送が,シアー∂v/∂p*の殆どない中層でみられることは,興味深い。混合層の下部(p*=0~125mb)では,大きな運動エネルギーのgeneration と frictional loss が平衡している。混合層の上部(125mb~200 mb)では,高気圧側にむかう非地衡風成分のために generation は負の値をとり,これと,運動エネルギーの実質的変化(dK/dtが負)とが釣合う。混合層での generation と frictional loss は,それぞれ,平均して±4~3watts/m2である。
上記したのは,AMTEX全域についての平均的状況であるが, AMTEX海域の西部と東部ではかなり様相が異なる。西部は,寒気吹出の anticyclonic branch に相当し,海面からの熱補給も大きい。東部はcyclonic branchに相当し,熱補給は小さい。下層での非地衡風成分は西部で著しく(地上風と等圧線の角度は50。に達っする),したがって generation, frictional loss も大きい。これに対して東部では,非地衡風成分は比較的小さく, genera-tion, frictional loss も大きくない。
上記した風速分布や運動エネルギー収支の特徴は気団変質の過程とどのように関係づけて理解すべきであろうか?熱補給を受け,湿潤不安定化する気団で積雲対流が発達する。積雲対流により,運動量の垂直混合がおこり,これは,下層での強い非地衡風的な北風の出現と関係がある。運動エネルギーの generation と frictional loss はほぼ釣合っており,この北風はほぼ定常に保たれる。一方,下層の北風は混合層中の,強いcold-dry advectionをひきおこし,これが海面からの熱•水蒸気補給とバランスして,大きな空温度差を維持する。このため著しい気団変質と移流にもかかわらず,熱的にも準定常的状態が続くのである。
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