1978年~1983年の「ひまわり」による上層雲量を用いて,西部太平洋域における熱源分布の長期変動を調べた。この領域の雲量分布は,東南アジアやオーストラリア域のモンスーンの影響で,季節的に大きく変化しており,最大雲量は,夏半球の低緯度域に存在している。
雲量の年々変動の大きな領域は,北半球冬期には赤道域に集中しているのに対し,夏期には,赤道域,20°N近くの亜熱帯域,日本付近の中緯度帯にそれぞれ存在している。
相関係数と経験直交関数の解析から,2種類の主要な変動分布が存在することがわかった。一つは,赤道域の中部太平洋と西部太平洋間の振動で,特に1982-83年のエルニーニョ時に顕著に現われた。もう一つは,日本南方の亜熱帯域と日本列島を横切り東西に伸びる中緯度帯の間の南北振動で,特に夏期に顕著に現われる。
1982年5•6月,赤道上150°E付近の高雲量が東進を始め,この高雲量域は年の終りには,中部太平洋,東部太平洋にまで達した。高雲量域の東進に伴い,西部太平洋域には広大な低雲量域が現われ,このような東で正,西で負の雲量偏差分布は,翌年の初夏まで持続した。この時期,日本南岸の雲量が増大し,低気圧活動が活発化したことを示している。
雲量変動の南北振動に関連して,1978年と1981年の夏期,熱帯西部太平洋の高雲量が北東に大きく偏差していることがわかった。この高雲量の北上に伴い,その南北に位置する赤道側と中緯度側では,,逆に雲量が減少している。両年とも,日本列島は干ばつ等暑夏に見舞われており,この雲量の南北振動は,日本の夏の気候に大きな影響を与えているものと思われる。
熱帯西部太平洋域の海面水温と雲里変動との関係を調べた所,両者には強い相関があることがわかった。水温変動の主要な分布は,140°Eから日付変更線,赤道から20°Nに広がる領域での大きな変動で,1982-83年のエルニーニョ時には,この領域で顕著な低温が現われている。逆に顕著な高温が現われた1978年と1981年の夏には,前述の雲量の南北振動が現出している。雲量の南北振動をもたらす対流活動の北上には,特に15°N付近の6月の水温が重要であることが示唆される。
抄録全体を表示