気象研究所大気循環モデル(MRI•GCM-I)を用いて,1月の大気大循環に及ぼす大規模山岳の効果を調べた。モデルは,100mbを大気上端とする対流圏モデルで,水平の分解能は,緯度4°,経度5°である。数値実験は,一月の状態に固定して,行なった。チベット高原と,ロッキー山脈•グリーンランドの効果を分離出来る様に,4種類の実験を行なった。即ち,全球の山岳を保持した実験(M),全球の山岳を除去した実験(NM),アジア大陸の山岳のみを除去した実験(NAS),北米とグリーンランドの山岳のみを除去した実験(NRG)である。以下の議論は,主に,停滞場に及ぼす山岳の効果を扱う。
山岳による強制においては,山を迂回する効果が卓越している。上昇(下降)流の中心は山の風上(風下)側で,極(赤道)側にずれている。東西波数1の成分について見ると,地表における上昇流は,線形論で用いられる地表境界条件から予想されるものと,非常に異なっている。中緯度の停滞波は,基本的に,チベット高原によって強制されたロスビー波列と,ロッキー山脈とグリーンランドによって強制されたものの,線形的重ね合せによって表わされる。チベット高原は,風上(北東)側のリッジ,風下(南東)側のトラフを強め,その他,日本の南東にある高気圧性循環,アリューシャン列島上の低気圧性循環も強めている。更に,チベット高原は,中国東縁から赤道インド洋に至る寒気吹き出しを強めている。ロッキー山脈とグリーンランドは,ロッキー山脈西側のリッジと,東側のトラフを強めている。この大気の応答は,ロッキー山脈の地理的東西スケールよりも,はるかに大きい。
北半球において,東西波数1の停滞波は,主に,熱的強制によって生じているが,波数2以上では,山岳の強制が効いている。一方,南半球の亜熱帯では,波数2~4の停滞波が卓越している。南極大陸は,波数1を強制しているが,この波は,北半球高緯度帯における熱的強制を受けた波数1の波と,同じ構造をしている。南極大陸の高い地形での冷却が効いて,この波が出来ていると思われる。この冷却効果は,MとNMの問の雲の鉛直分布の差,及び,雪のアルベードのパラメタリゼーションに依ると考えられる。
赤道を横切る効果について見ると,チベット高原の効果は,南半球の赤道地帯では,小さくはない。
しかし,中高緯度地帯では,ロッキー山脈とグリーンランドの応答の方が,チベット高原より,大きくなっている。赤道大西洋上に間欠的に生じる西風ダクトを通って,ロッキーとグリーンランドの効果が,南半球に伝播している。
北半球では,極向き熱輸送を担う東進波の強さが,山岳によって抑えられている。西進波は,逆に,強められているが,極向き熱輸送には,ほとんど効かない。全体として,山岳は,非停滞波による極向き熱輸送を抑えるが,非停滞波の運動エネルギーは,山岳の有無によつてほとんど変化しない。非停滞波による極向き熱輸送の減少分以上に,停滞波成分が増加している。その結果,北半球極域の,帯状平均温度は上昇している。山岳は,停滞波の運動エネルギーを増大させるが,その分,帯状平均流の運動エネルギーが減少している。南極大陸の山岳は,北半球の山岳と,異なる効果を持っており,南(夏)半球の極域では,冷源として,作用している。
抄録全体を表示