1986年1月22日~24日の48時間にわたり,MU(Middle and Upper atmosphere)レーダーを用いて,対流圏•下部成層圏の風の多数ビームによる東西スキャン観測を行なった。これまでのVHFレーダーによる大気重力波の観測では,ビーム数の制限から鉛直構造のみを調べることが多かったが,本研究では,水平分解能の良い観測データを解析することで,風の場の水平微細構造を直接検出することを試みた。
観測期間中,下部成層圏において,鉛直スケールが長く(~7km),周期1~2時間の強い鉛直風振動が見られた。そこで,この振動について詳しく解析を行なった。
まず,高度方向にハイパスフィルター,時間方向にバンドパスフィルターをかけて振動成分を取り出す。次に,隣り合ったビームの視線速度に寄与する風速は局所的に等しいとして東西時間断面図を作成すると,この振動は東西に単色波的であり,東西波長は5~30kmであることがわかった。このような水平スケールの小さい現象に対してはビーム間の風の場の一様性が仮定できない。そこで,東西成分と鉛直成分の位相差を求めるために,単色波を仮定し,東西断面に位置する13の視線速度を,それぞれの高さについて最小二乗法によりフィッテングした。得られた位相差は重力波の理論から予測される値とよく一致し,この振動が内部重力波によるものであることが確認できた。
東西位相速度は1~5m/sであり背景風の約50m/sに比べて大変小さく,この振動が地面に対して止まっていることがわかる。しかし,下部成層圏に顕著である点などから,山岳波であるかどうかは断定できない。また,東西波長は高度方向に変化していることもわかった。この結果は,この振動が単純に1つの単色重力波で構成されるのではなく,複雑な三次元的構造を持つことを示唆しているこ今後は,東西だけでなく南北にもスキャンする観測を行ない,この振動のより詳しい構造を調べる必要があるとともに,多くの観測データをもとに,平均風への効果,発生頻度,季節変化などについて明らかにしていく必要がある。
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