気象集誌. 第2輯
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72 巻, 6 号
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  • 露木 義
    1994 年 72 巻 6 号 p. 795-810
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    数値予報モデルの成層圏の鉛直解像度を上げた効果を調べるために、コントロールモデルと高解像度モデルを用いて、北半球の冬における14例の初期条件から30日予報実験を行った。成層圏の鉛直解像度を上げることによって成層圏の予報が向上し、特に気候学的なアリューシャン高気圧がよくシミュレートされた。しかし、高解像度モデルの極夜ジェットの東風バイアスのため、帯状平均東西風は全体としてよくならなかった。日々の500hPa高度の予報のスキルには明確な改善が見られなかったが、10日平均500hPa高度の予報は約15日目以降に改善した。特に、西太平洋パターンや東太平洋パターンなどの、太平洋側の低周波変動モードの予報が改善した。対流圏の系統的誤差はあまり変わらなかった。対流圏の東西波数1成分の予報は、成層圏の同じ波数成分の予報が向上するにもかかわらず改善しなかった。15日目以降の対流圏の波数2成分の予報誤差の減少に1~2日ほど遅れて、成層圏の同じ波数成分の誤差が減少した。これらの結果は、成層圏の予報の対流圏の予報に対する影響は、成層圏と対流圏の間の局所的な相互作用によって生じることを示唆している。また、対流圏の低周波変動の予測のためには、成層圏の鉛直解像度の高いモデルを用いる必要があることを示している。
  • 瀬上 哲秀
    1994 年 72 巻 6 号 p. 811-821
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    数値予報モデルの出力結果を直接用いて、客観的に天気翻訳する手法を開発した。この手法はモデルの予想雲量、1時間雨量,そして地上の気温と相対湿度から、7種類の天気、つまり快晴・晴れ・薄曇り・曇り・雨・みぞれ・雪を作り出す。この手法を気象庁のルーチンのメソスケールモデルに適用し、観測された天気を用いて検証した。その精度は6時間の持続予報と同程度であった。このことは、この手法が客観的な天気翻訳として十分の精度を持っていることを示している。さらに、この手法から作られる天気分布図は従来からの出力である海面気圧や500hPa高度などの資料と比べて、メソスケールの擾乱を表現するのに利点がある。また、降水タイプの予想にも良い精度があることが示された。
  • 新田 勍, 可知 美佐子
    1994 年 72 巻 6 号 p. 823-831
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    地上及び衛星データを用いて、熱帯太平洋・インド洋における降水量の十年スケールの変動の振舞いと海面水温変動との関係を調べた。熱帯中・東部太平洋では1970年代から1980年代にかけて海面水温の上昇に伴って、降水量が増加していることが明らかになった。一方、熱帯西部太平洋では逆にこの期間降水量は減少しているが、これは中・東部太平洋の対流活動の活発化によるものと考えられる。南インド洋では1970年代以降海面水温の上昇に対応して降水量も増加傾向にある。しかし、1970年以前は、海面水温は上昇しているのに対して降水量はほとんど変化していない。静止気象衛星「ひまわり」の赤外放射から得られた上層雲量データを用いて、熱帯西部太平洋の対流活動の最近の変化傾向を調べた。最近16年間の長期トレンドでは、ほとんどの熱帯西部太平洋域で対流活動が不活発化の傾向にあるが、日付変更線付近の赤道中部太平洋では逆に活発化の傾向にある。これらの結果は、最近エルニーニョ的な状態が長期的に強まっていることを示しており、1970年代から1980年代にかけての熱帯太平洋の大気-海洋変動に関するこれまでの研究結果と良く対応している。以上の結果は、最近の北太平洋の大きな大気循環の変動は、熱帯域の海面水温の上昇に呼応して対流活動が活発化したことによるという、新田・山田(1989)のシナリオを支持するものである。
  • 清水 邦夫, 栢野 浩一
    1994 年 72 巻 6 号 p. 833-839
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    しきい値法により領域降雨強度モーメントを推定するさいの理論的最適しきい値のもつ性質について考察した。理論分布は、原点に離散確率をもち降雨の条件のもとでは連続分布であるような混合型とした。傾きの最尤推定量の規準化漸近分散を最小にするという意味で最適なしきい値が選ばれるならば、GATEIパラメータに対し、一次および二次モーメントの傾きの最尤推定量は漸近的にほほ独立となることを数値的に示した。この事実は理論的最適しきい値の直観的理解に役立つとともに、二重しきい値法により領域降雨強度分散を推定するさいに一次および二次モーメントを推定するための最適しきい値を用いるべきであることの一つの理由を与えている。また、一次および二次モーメント推定のためのしきい値の同時選択法を提案した。
  • Xiaolan Wang, Joao Corte-Real, Xuebin Zhang
    1994 年 72 巻 6 号 p. 841-857
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    5日平均500hPaジオポテンシャル高度(Z500)と海面気圧(SLP)にみられる北半球の大気循環アノマリーと、アジアモンスーンの影響が卓越する中国東部の(季節変化を除去した)5日平均降水量(R5)の関係を正準相関解析(CCA)を用いて統計的に調べた。また、同時相関から36半旬までのラグ相関も考慮した。対流圏中層のアノマリーに対する降水量の応答を説明するCCAモードを抽出した結果、第8モードまで99.99%の有意水準を満たした。SLP-R5の関係では、第7モードまで同じ有意水準を満たしていることがわかった。これらのCCAパターンの多くは、中国の主なレインストームの発生に寄与する大規模場の特徴と一致している。これらの統計的に有意なCCAパターンの特徴は、物理的解釈において矛盾していない。また、総観場との関係も考察された。特に、Z500-R5関係における4つの主要なCCAモードについて詳細に考察し、検証のために合成図解析も行った。また、Z500-R5あるいはSLP-R5関係において、3半旬までのラグを考慮したCCAモードが有意水準を満たしていた。これらは中国における特定のレインストームとそれに先行する大気循環モードとの関係を説明している。興味深いことに、異なったタイムラグでのいくつかのCCAモードは、全く同じか、非常に類似した降水量分布を示している。これは、対応する降水量パターンを生み出している大気循環レジームの持続性を意味する。それゆえ、これらのパターンはアジアモンスーンや中国の降水量の長期予報に対してきわめて重要である。さらには、異なったタイムラグでSLPのいくつかのCCAパターンが、降水量分布ならびに特定の対流圏中層の循環レジームと有意な関係があることを強調したい。これらは、特徴的な降水量分布をもたらす大気循環システムの鉛直構造を示している。
  • 佐藤 薫, 長谷川 史裕, 廣田 勇
    1994 年 72 巻 6 号 p. 859-872
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    シンガポール(1N, 104E)の1978~1993年に亘るレーウィンゾンデデータを用いて、赤道域下部成層圏における周期3日以下の温度・水平風擾乱の解析を行なった。短周期擾乱は温度・風成分共に、時折り鉛直波長5km程度の時間と共に位相の下がる内部波的な構造を持つ。その位相構造から、これは内部慣性重力波によるものと考えられる。また、パワースペクトル解析の結果、短周期帯には、これまで良く調べられている周期15日前後のケルビン波や4~5日周期の混合ロスビー重力波とは独立なピークが存在し、そのエネルギーも大きいことがわかった。次にスペクトル特性の時間変化と平均東西風準2年周期振動(QBO)との関係を調べた。東西風と温度の短周期擾乱は、ケルビン波と同様、平均風が東風から西風にかわるフェーズ(EWフェーズ)でバリアンスが極大となるが、ケルビン波と異なり、平均風が西風から東風にかわるフェーズ(WEフェーズ)でもエネルギーが大きい。さらにクロススペクトルについては、これまでケルビン波についてさえほとんど調べられていない、温度と東西風成分のコスペクトルも解析した。その結果、短周期帯において温度と東西風成分のコスペクトルの絶対値がクオドラチャースペクトルの絶対値よりかなり大きいことがわかった。興味深いのは、コスペクトルの符号がQBOの位相に合わせて変化していることである。すなわち、温度と東向き風成分はEWフェーズではプラス、WEフェーズではマイナスの相関を持つ。これらの結果は短周期擾乱がQBOと深い関わりを持つことを示している。
  • 三隅 良平, 武田 喬男, Divjak Marjan, 棚橋 修一
    1994 年 72 巻 6 号 p. 873-884
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    セルの並ぶ方向が、スコールラインの「破線型形成」に及ほす影響を、数値実験により調べた。まず基礎的実験として、初期に小さいサーマルを等間隔の破線状に与え、その向きをシアーベクトルに相対的にいろいろに変えて発達のしかたを比較した。その結果は「破線」の向きがシアーベクトルとある角度をなしたときに、スコールラインが最も効率よく形成することを示した。解析によると、このような効率の違いを支配する主要な因子は、鉛直シアーの破線に直交する成分である。この成分が大きすぎると、初期のセルからの下降流がスコールラインのバンド状上昇流の形成を妨げる。この成分が小さすぎると、下層の収束が弱いために、スコールラインが形成しにくい。シアー成分がその中間的な強さのときに、最も効率よく破線型形成がおこる。鉛直シアーが中層で向きを変えるケース、セルの間隔を変えたケースにおいても、同様の結果が得られた。次により現実に近いケースとして、初期にサーマルをランダムな位置に与えた。このケースではある特定の向きをもったスコールラインが頻繁に形成し、その向きは基礎実験において効率よく破線型形成がおこった向きに一致していた。これらの結果は、効率よく破線型形成が起こる方向が存在し、スコールラインがその方向に沿って現れやすいことを示唆している。
  • 加藤 輝之, 松田 佳久
    1994 年 72 巻 6 号 p. 885-900
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    移動熱源によって励起される循環の水平構造を球面上の線形化された浅水方程式の固有モードを用いて調べてみた。Lambパラメータ(ε=4a2Ω2/gH, a:惑星の半径、ω:惑星の自転角速度、g:重力加速度、H:等価深さ)、熱源の移動速度、及びレーリー摩擦とニュートン冷却の減衰係数を幅広く変化させて、熱源に対する応答解を求めた。応答解として求まった循環は4種類に分類することができた。タイプ1は昼夜間の直接循環で、熱源の移動速度が遅く減衰係数が大きい場合に現われる。タイプ2はGill(1980)の解に類似した循環で、熱源の移動速度が遅く減衰係数が小さい場合に現われる。タイプ3は熱源の移動速度がかなり速くなった場合に現われる経度方向に一様な循環である。タイプ4は慣性重力波によって特徴付けられる循環で、慣性重力波と移動熱源とが共鳴を起こすことにより現われる。この共鳴は減衰係数が小さくなるほど顕著になる。熱源の移動速度と減衰係数をパラメータとした循環の分類図でみると、タイプ4の領域はタイプ2と3の領域の間にあることがわかる。(図9参照。)
  • 林 良一, Golder D.G.
    1994 年 72 巻 6 号 p. 901-935
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    赤道ケルビン波と混合ロスビー重力(MRG)波のシミュレーションと理論を評価するため、またそれらの生成メカニズムと準二年周期振動における役割への洞察を得るため、時空間スペクトル解析を40層、緯度3度、経度3.6度のGFDL "SKYHI"大気大循環モデルからのoutputデータとGFDL FGGEデータセットに行った。SKYHIとFGGEの成層圏ケルビン波はともに、下部成層圏において東進、波数1、10-20日周期成分が卓越する。これらの波は高い波数-振動数成分を伴っており、これらは下部成層圏よりも上部成層圏において明瞭に検出される。一方、SKYHIとFGGEのMRG波は、西進、波数3-5、4-6日成分が下部成層圏で卓越する。上部成層圏においてこれらの波は、さらに低い波数(1-2)、短い周期(2-4日)成分が卓越する。SKYHI/FGGEケルビン波とMRG波の振幅は、観測された(非FGGE)地点データから見積られるものに匹敵するが、SKYHIモデルは弱い準二年周期成分しか生成しない。SKYHI降水データは降水のグリッドサイズのパルスを断続的に示すが、ケルビン波とMRG波に対応する明瞭なスペクトルピークを示さない。本解析に基づき、ケルビン、MRGおよび重力波は、波-対流相互作用の結果生じ、対流加熱のランダムパルスにより断続的に引き起こされるという生成機構を提案する。準二年周期振動は重力波によって第一に生成され、モデルにおける水平分解度が増すと対流加熱のグリッドサイズパルスと小規模重力波が適宜生成されるので、振幅が増大すると考えられる。
  • 谷田貝 亜紀代, 安成 哲三
    1994 年 72 巻 6 号 p. 937-957
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    中国とモンゴルにおける気温と降水量の線形トレンドと10年スケールの変動の時空間構造を、1951年-1990年の5年移動平均した時系列を用いて調べた。主成分分析(EOF解析)の手法を季節平均気温、降水量に適用した。これらの変動に伴う大気循環場の変動を500hPa等圧面高度と地上気圧場の偏差を用いて解析した。また、北半球平均地上気温データとの相関も調べた。主な結果は次のように要約される。年平均気温はモンゴル、中国華北・東北・西北地方で顕著な昇温傾向が見られ、四川省~雲南省(中国西南部)での降温傾向がみられた。この傾向は主に冬季と春季の偏差によっている。冬季の気温のEOF解析の結果、チベット高原を除く対象地域全体で同符号の偏差を表すモードが卓越し(寄与率51.3%)、時系列は10年スケールの周期的変動を示した。このモードは、ユーラシア大陸のシベリア高気圧の強さ、偏西風の強さに密接に関係し、PNAパターンや大西洋の高度偏差とも相関が見られた。一方第2主成分は、対象地域の南北の逆符号の空間パターンを示し、1950年代前半の北(南)部の低(高)温と1980年代の北(南)部の高(低)温をあらわしている。この成分は、寒気がチベット高原の北、東縁を南下するモードに関係し、北太平洋の高度偏差と関連していた。年降水量は、中国の最南部が顕著な増加傾向、華北、華南の減少傾向のほかは、ほとんど有意なトレンドは得られなかった。対象地域で年降水量のほとんどを占める夏季降水量のEOF解析の卓越成分は、夏季気温の主成分と相関が見られた。第1主成分は、モンゴルから華北で正(負)、タクラマカンから華中で負(正)、西南、華南で正(負)という空間分布をしており、スコアは減少傾向が見られた。この成分は、7,6月の寄与が強く、ユーラシア大陸上の循環場の偏差と対応が見られた。一方、第2主成分は、天山山脈の北側と東北、華中で正、タクラマカンと華南で負という複雑な空間パターンを呈したが、時系列は北半球平均気温と密接に関係していた。またこのモードには8,7月の寄与が高かった。
  • George Tai-Jen Chen
    1994 年 72 巻 6 号 p. 959-983
    発行日: 1994/12/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    1981-86年の5-6月における客観解析データ、可視および赤外雲画像、雲頂温度を用いて、アジアモンスーン域での、大規模な大気循環を研究した。流線関数、速度ポテンシャル、風の発散成分、対流インデックスと水蒸気場を解析した。これらの要素の半月平均の分布を示し、華南および台湾における梅雨入り前(5月1-15日)から梅雨明け後(6月16-30日)にいたる、大規模循環場の変化の特徴を明らかにした。さらに対流活動が活発・不活発な季節と前線を選び出し、大規模循環場の年々変動と季節の中での変動を検討した。得られた結果は以下のようにまとめられる。(1)華南および台湾における梅雨は、5月16-31日に南シナ海での夏の南西モンスーンの開始と同時に始まる。(2)深い対流域、ITCZ、および亜熱帯高気圧の北上は、華南および台湾での梅雨明け後(6月16-30日)に、梅雨前線帯が楊子江および日本付近で、準定常的な位置をとるのと同時に起こる。同時に北東インドからビルマにかけての地域で、下層の低気圧が上層の高気圧を伴う、準バロトピックなモンスーン循環システムが形成される。(3)活発な梅雨季は、北方の(傾圧的な)システムの南下と、梅雨地域での水蒸気収束が特徴的である。不活発な梅雨季ではその逆の状況となる。(4)活発と不活発な梅雨前線とでは、主に下層の循環が異なっている。活発な梅雨前線はベンガル湾および熱帯西太平洋起源の南西モンスーンを伴う一方、不活発な梅雨前線は、太平洋高気圧からの南東風または東風を伴っている。高い水蒸気量、強い水蒸気流束とその収束が、活発な前線に伴ってみられる。(5)活発な前線がより頻繁に出現する時は、活発な梅雨季となり、不活発な前線が多い時は、不活発な梅雨季となる。
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