気象集誌. 第2輯
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72 巻, 3 号
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  • 篠田 雅人, 川村 隆一
    1994 年 72 巻 3 号 p. 341-357
    発行日: 1994/06/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    サヘルにおける1950年代から1980年代までの降水の減少傾向と熱帯の降水帯、大気循環、海水面温度との関係を調べた。降水量、降水帯、上層大気、海水面温度データについての傾向・相関解析とともに、海水面温度の回転経験的直交関数(R-EOF)解析を行った。
    北半球夏における降水帯の解析により、サヘル降水の減少傾向には、降水帯の総降水量の減少のほうが、その赤道方向への後退よりも大きく影響していることがわかった。サヘル降水の減少傾向に主に関与している降水帯の総降水量の減少は、熱帯アフリカ全域にわたる700hPa面高度,850-500hPa面の層厚の増加と関係している。サヘルのニアメイにおける温度の鉛直分布によると、この対流圏下層の傾向は、大規模な沈降気流の強まりによるものと考えられる。アフリカの上層大気の傾向は、大西洋-アフリカとインドネシア-中部太平洋における700hPa面高度の増加傾向、インド洋における減少傾向という熱帯の東西パターンを伴っている。
    海水面温度のR-EOF解析により、この大気循環の東西パターンはインド洋の海水面温度の上昇傾向と関係しているものと考えられる。一方、従来から指摘されている、熱帯大西洋の南北で反対符号の偏差となるパターンは、主に北アフリカにおける降水帯の位置の緯度方向の年々変動に影響を及ぼしている。
  • Pascal Terray
    1994 年 72 巻 3 号 p. 359-386
    発行日: 1994/06/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    モンスーンシステムの年々変動ならびに10年スケールの変動を評価するために現在使用されている陸地・海洋上の観測データに、気候因子によらない系統的誤差が存在していることを示した。1900-1984年の期間でのNCARのWorld Monthly Surface Climatologyデータにおける主な不均質性はインド亜大陸上の海面気圧(SLP)の時系列にみられる。これらの不連続性は主に、データ編集時にサンプル期間によって観測時刻が異なっていることを考慮しなかったことと関連している。このような不連続性の主な例として、World Weather RecordsからMonthly Climate Data for the Worldの編集に変わった1961年があげられる。
    系統的誤差は1900-1986年のインド洋における海面水温(SST)、気温(ART)、SLPの船舶観測データにもみられる。主な疑わしいジャンプは、SLPでは1932年、SST、ARTの両方では1940年、東アラビア海とベンガル湾のSSTでは1954年に生じている。また、1954-1976年のSSTのトレンドにも問題がある。これらの不均質性に対する原因は正確には特定していないけれども、不連続の時期やトレンドは、海洋データセットに含まれてしまった“source-decks”の変化と対応していることに疑いの余地がない。また、インド亜大陸の沿岸地域のSLP、地上気温観測の変動にも問題がある。最後に、インド洋上のサンプリングは1950年以降に強い季節依存性をもっているので、年変化における実質的な系統誤差はすべてのパラメータに存在することが予想される。インド洋上の観測されたSSTの年々変動にみられる多くの矛盾は上述のデータの問題と関係していると思われる。
    しかしながら、陸地・海洋観測データのトレンドの比較から、1900-1986年の期間のインド地域においていくつかの有意な10年スケールの変動の存在が示唆された。これらの気候変化の主なイベントとして、1900-1939年の間の地上気温の上昇トレンドとSLPの減少傾向、そして1976年以降のインド洋の突然の温暖化があげられる。この最近の温暖化は、インドの内陸部には影響しておらず、インド地域全体の正のSLPアノマリーの持続と同位相である。これらは1976年以降のインド洋の気候変化(Nitta and Yamada、 1989)の事実を裏づけている。
  • 小林 哲夫, 森 牧人, 脇水 健次, 竹下 和宏
    1994 年 72 巻 3 号 p. 387-399
    発行日: 1994/06/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    静穏な夜間に山地斜面上に形成される高温域、すなわち斜面温暖帯はよく知られた局地気候現象の一つである。斜面温暖帯の概念モデルは数多く描かれているが、それらを直接的に実証する観測データはほとんど得られていない。
    局地気候現象を研究する際に伴う困難はデータ収集にある。本研究では、温度構造を解析するためのデータをビル屋上に設置した赤外線放射温度計によって得た。また複雑地形上の気温の地形依存性をみるために標高データセット(国上数値情報)も用いた。
    夜間、山地斜面上に現れる温暖帯は斜面下降風と谷間上に形成される冷気湖によって作り出される。温暖帯の高度や強度は、地形環境や天気の状態を反映して場所や時間により変化し、隣接する斜面においても異なることがありうる。これらの結果は、斜面温暖帯が冷気の運動によって動力学的に作り出される現象であることを示す。
  • Brant Liebmann, Harry H. Hendon, John D. Glick
    1994 年 72 巻 3 号 p. 401-412
    発行日: 1994/06/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    当論文においては、西太平洋及びインド洋における熱帯低気圧とMadden-Julian振動(MJO)との関連を記述する。熱帯低気圧は振動の積雲対流活動活発期に生じ易いし、雲塊は下層の低気圧性渦度の周辺に存在し、発散場はMJOに伴う積雲対流活動の西方極側に現れる。
    熱帯低気圧や台風の絶対数は振動の積雲対流活動活発期に増大するが、弱い熱帯低気圧から転化する熱帯低気圧と台風の比率は、積雲対流活動活発期と乾燥期において同一である。積雲対流活動活発期においてより多くの熱帯低気圧や台風が存在するのは、当時期により多くの弱い熱帯低気圧が存在することによる。
    当研究の第三の結果は、積雲対流活動活発期の熱帯低気圧の活動度がMJOの活動度に限定されていない点である。事実、我々はMJOと独立かつ無作為に選ばれた積雲対流活動活発期において熱帯低気圧の活動度が同等に増大することを見いだした。結論として、MJOは熱帯低気圧に影響を及ぼす独自の機構を持つと言うより、むしろそれに伴う熱帯の変動度が大きな割合を占めるという点で重要である。
  • 近藤 純正, 三枝 信子
    1994 年 72 巻 3 号 p. 413-421
    発行日: 1994/06/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    土壌間隙内部における水の気化と水蒸気輸送を考慮した裸地面蒸発の多層モデルを開発した。このモデルでは、土壌中の任意の深さで起きる水の気化を表現するため、気化に対する抵抗を表すパラメータを土壌含水率の関数として導入した。また、土壌を多孔性のキャノピーと考え、間隙中において水蒸気拡散方程式を解くことにより土壌中の水蒸気輸送量を評価した。この土壌多層モデルにより、野外観測と野外実験により得られた乾燥期間中の土壌面からの蒸発量、地温、含水率分布の時間変化をよく再現することができる。
    近年広く用いられている土壌の数値計算モデルでは、土壌間隙内部で常に水と水蒸気が平衡状態に達していると仮定される場合が多い。しかし地表面に開いた間隙中では、蒸発期間中、地中から大気へ水蒸気が常に連続的に運ばれるため、間隙中の湿度は土壌内部の閉じた間隙で実現する平衡相対湿度とは異なっていることがモデル計算から予想された。
  • シンガポール1983-1993
    丸山 健人
    1994 年 72 巻 3 号 p. 423-432
    発行日: 1994/06/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    シンガポール(1.4N,104.0E)における1日2回、1983-1993年の時系列高層気象データを解析し、約2日の周期帯のじょう乱を調べた。東西風成分と1日の気温変化との間の共分散は100-10hPa層でマイナスが卓越していることが見出された。このことは西風運動量輸送が上向きであることを示す。輸送量は50-10hPa層でQBOサイクルと強く関係していることが示され、最大の輸送は西風下降領域のなかで起こる。この約2日の周期帯のじょう乱による輸送量の大きさは7.4-32日の周期帯のケルビン波によるものと同程度である。このじょう乱は東西風成分と温度の変動を伴い、対応する南北風成分を伴わないという点でケルビン波のようにふるまう。
  • Part I 雲擾乱のスペクトルの特徴
    高藪(中込) 縁
    1994 年 72 巻 3 号 p. 433-449
    発行日: 1994/06/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    熱帯海洋上の大規模積雲対流システムの時空間スペクトルの特徴を調べ、大気の赤道波の観点において分類した。解析には1981-1989年の3時間毎の気象静止衛星「ひまわり」の赤外データを用いた。雲-大気結合システムのいくつかの特徴的な性質が求められた。
    解析期間の全平均的な特徴として、明瞭なスペクトルの振幅がケルビン波、西進混合ロスビー重力波、n=1ロスビー波およびn=1西進慣性重力波として同定された。また、n=0東進重力波およびn=2西進慣性重力波の存在も示唆された。雲擾乱の周期-波数関係からさまざまなモードに共通した相当深度15-30mが得られた。一方、雲のスペクトルの緯度分布からは独立に赤道変形半径~7°が推定された。この変形半径の値は上記の相当深度とよく一致している。
    さらに、卓越する雲擾乱の季節変化およびその平均風分布との関係を記述した。
  • Part II 西進慣性重力波
    高藪(中込) 縁
    1994 年 72 巻 3 号 p. 451-465
    発行日: 1994/06/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    静止気象衛星「ひまわり」による3時間毎の赤外黒体輻射温度データを用いた解析により、12月~2月の赤道域雲活動において1.5-2.5日周期が卓越していることを示し、その特徴を明らかにした。
    1.5-2.5日周期の雲システムはn=1西進慣性重力波の特徴を持つ。卓越東西波長は30°-40°であり、西進速度は850hPaの平均東西風に相対的に20-30ms-1であった。コンポジット解析およびスペクトル解析の結果からシステムの相当深度として~20mが見積もられた。また、1.5-2.5日周期変動は、雲活動の全変動量と非常に大きな正の相関を持ち、このモードが赤道域の雲活動に常に偏在していることが示唆された。これに対し、n=1東進慣性重力波は観測されなかった。
  • 岩崎 博之
    1994 年 72 巻 3 号 p. 467-474
    発行日: 1994/06/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    気象衛星NOAAのsplit-windowデータから求めた可降水量分布の事例解析を行った。可降水量分布にはメソβスケールの不均一が認められた。二つのバンド状の可降水量が少ない領域に沿って地上では発散域が認められ、また、可降水量の多い領域の一つは“小規模の海陸風”が作る収束域に対応していた。
  • 伍 培明, 岡田 菊夫, 田中 豊顯, 佐々木 徹, 永井 智広, 藤本 敏文, 内野 修
    1994 年 72 巻 3 号 p. 475-480
    発行日: 1994/06/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    ピナトゥボ火山噴火約2年後の1993年8月24日に、つくばにおいて成層圏エアロゾル粒子の気球観測を行なった。インパクターを用いて直接採集されたエアロゾル粒子を電子顕微鏡により分析した。鉱物粒子は全ての粒径において、検出されなかった。成層圏エアロゾル層を構成する粒子のほとんどがサブミクロン硫酸粒子であることが分かった。これらの硫酸粒子の内部に固体核が存在していなかったことから、これらの粒子は均質核生成過程を介して生成されたと考えられる。
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