気象集誌. 第2輯
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73 巻, 6 号
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  • Jong-Jin Baik, 高橋 正明
    1995 年 73 巻 6 号 p. 975-991
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    Betts-MillerとArakawa-Schubertの積雲対流パラメタリゼーションの感応実験を実行した。水平分解能T21、鉛直20層のCCSR/NIES大気大循環モデルを用いて、一連の6ヵ月積分を行い、最後の3ヵ月、6-8月の時間平均値で比較を行った。再現された大規模場の構造はだいたい似ているが、いくつかの注目すべき違いが存在する。それは、北半球中緯度の中・上層の温度、熱帯対流域の対流による最大熱源の位置、境界層での熱源/冷源、熱帯西太平洋の降水パターン、乱流による熱輸送の鉛直分布である。Betts-Millerスキームのパラメタ実験では、熱帯西太平洋の降水パターンが飽和圧力差のみでなく緩和時間や安定度に非常に敏感である。また対流による降水と大規模凝結による降水の比率は飽和圧力差にもっとも敏感であることも示される。
  • 萬納寺 信崇
    1995 年 73 巻 6 号 p. 993-1009
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    フロリダ州立大学全球スペクトルモデル(Florida State University-Global Spectral Model; FSU-GSM)に雲を予報するスキームを組み込み、その影響を調べた。雲水と雲量の二つを新しい予報変数として付け加える。積雲対流による雲と、大規模場の収束による雲が考えられた。大規模場の発散により、雲は消える。予想された雲量と雲水量が放射のスキームに使われる。雲の移流はいまのところ考えていない。雲水は、あらかじめ与えられた温度の関数で水(液体)と固体(氷)に分けられる。
    モデルはもっともらしい雲量と雲水量を再現した。両極地方を除き、積雲から発生する雲が雲量と雲水量にとって重要である。熱帯では、積雲を起源とする雲が全雲量の半分を占め、上層雲のほとんどを占める。積雲を起源とする雲は、中緯度の雲水量の半分を供給し、熱帯では雲水量にとって不可欠である。
    熱帯の外向き長波放射(OLR)が改善された。これはこのスキームが対流性の雲も考慮していることによる。対流性の雲が熱帯の上層雲には不可欠であり、これがOLRに大きな影響を及ぼす。
  • QBO的な振動との関係、及びT21大循環モデルとの比較
    高橋 正明, 熊倉 俊郎
    1995 年 73 巻 6 号 p. 1011-1027
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    湿潤対流調節を用いた、3次元セクター(1/5)モデルに於ける赤道波の振舞いを調べた。モデルは気候システム研究センター/国立環境研究所(CCSR/NIES)・大気大循環モデル(GCM)の初期バージョンを変更したものである。このモデルでQBO的振動が上部成層圏に再現されている(Takahashi and shiobara,1995)。
    東西波数s=1(全球でみたときの波数は5)、南北モードn=1で2.5日の周期を持つ西向き赤道重力波が顕著である。おもに、この波によってQBO的振動の東風が作られている。降雨にもこの周期の顕著なシグナルが見える。QBO的振動の西風を作っている、東向きの波の構造は複雑である。Kelvin波的な赤道波の構造は見えにくい。むしろかなりランダムな重力波と考えられる。セクターモデルでは上記のような重力波がQBO的な振動を引き起こしている。
    赤道波の振舞いを比較するため、T21の低分解能GCMの実験もおこなった。Kelvin波及びRossby-gravity波がGCMの熱帯成層圏の中に存在する。重力波の振幅も弱い。このモデルではQBO的な振動は起こらず、定常となっている。
  • 水間 満郎
    1995 年 73 巻 6 号 p. 1029-1040
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    大阪湾地域とその周辺における海陸風の性状がAMeDASの風資料から明らかにされた。この地域は太平洋、紀伊水道、大阪湾、瀬戸内海及び日本海に面した複雑な海岸線と平野、丘陵地帯及び山地からなる複雑な地形条件にある。この地域に見られる海陸風が解析領域内の幾つかの観測所における海風の振舞いに従って5つの型に分類された。その内最も頻繁に起こる型は次のように特徴付けられた。大阪湾南部沿岸では大阪湾からの海風が時間と共に紀伊水道からの海風に変わり、瀬戸内沿岸では東風成分が卓越した海風が見られる。この型について興味ある様相が更に幾つか明らかにされた。(1)瀬戸内海北沿岸地域における海風と中国東部山地の南斜面地域における谷風または斜面上昇風がほぼ同時に起こっていること、(2)瀬戸内海からの海風(南風)と日本海からの海風(北風)が中国東部山地の尾根の付近で合流しているのが見られること、(3)淡路島において、周囲の海域から島内部へ吹き込む海風から時間と共に全島を覆う南からの海風へ変わって行くのが見られること、(4)紀伊水道及び大阪湾の沿岸地域で午後遅くまで南からの海風が継続すること、などである。他の4つの型については海風の最盛期の様相が上記の型と比較して検討された。また、海陸風の生起と一般的気象条件との関係についても考察がなされた。
  • オゾンピークの起源
    堤 之智, 牧野 行雄
    1995 年 73 巻 6 号 p. 1041-1058
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    1987年から1991年にかけて行った日本上空の一連の航空機観測によって、若狭湾、遠州灘、その他いくつかの地域の上空で、対流圏オゾンの鉛直分布を観測した。そして観測されたオゾンピークの起源を探るために、それぞれのピークに対して流跡線解析とその流跡線付近の渦位分布を調べた。その結果、今回日本上空で観測されたオゾンピークのうちの多くは、日本西方で起こったトロポポーズフォールディングに起因していることがわかった。
    1989年1月21日に遠州灘上空で観測された2つの異なった高度、濃度のオゾンピークは、別のトロポポーズフォールディングを起源としていた。そして輸送中に拡散されながら、日本上空で層状構造をなしていた。同じ日に、同一のトロポポーズフォールディングを起源に持つ似た形のオゾンピークが約300km離れた地域で観測された。それらのオゾンピークは、高度は異なるが温位の傾きから、同じ対流圏オゾン層に属していたと考えられる。1990年8月8日に2つの異なった性質の大気が日本上空のそう離れていない2地点で観測された。1つは高濃度のオゾンと低濃度の水蒸気を含んだ大陸性の大気で、中国東北部から輸送されて来ていた。もう一つは、低濃度のオゾンと高濃度の水蒸気を含んだ海洋性の大気で、成層圏大気に出合わずまた都市域も通過せずに数日間海上を漂っていた。海洋性気団でも都市域や工業地帯を通過したものは、オゾンと水蒸気が正の相関、すなわちオゾン、水蒸気ともに高濃度を示した。1991年4月27日の筑波上空でのオゾンの鉛直分布はほぼ一様で70ppbvの高濃度を示した。これは、筑波上空の大気が鉛直方向の渦位勾配が緩やかなフォールディング領域から来ており、しかもフォールディングが起こって間もなく輸送されてきたためであろう。オゾン濃度と輸送された距離の関係から、対流圏中のオゾンの分布には成層圏からの流入だけでなく、輸送中の拡散も重要であると考えられる。
  • 佐藤 正樹
    1995 年 73 巻 6 号 p. 1059-1078
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    大気の子午面循環を理解するひとつのツールとしての南北-鉛直2次元数値モデルを用いて、ハドレー循環と湿潤対流に伴う大規模運動との関係を調べた。モデルは、湿潤過程を含むプリミティブ方程式系に従い、球面座標系と、一様な回転速度をもつ直角座標系の2種類の座標系を用いる。地表面温度を固定し、大気中を冷却することによって、分解能の範囲内で対流運動が生じる。
    南北の温度差ΔTsに対する依存性を調べた。全ての実験で、秩序だったセル状構造を形成することがわかった。ΔTs=0のときには、対流運動はロスビーの変形半径程度のスケールで組織化し、振動的となる。ΔTsが大きくなるにつれて、組織化した対流運動は、高温側に進行するようになる。直角座標モデルの実験結果は、球座標モデルの実験で中緯度にあらわれた対称セルのパターンとよく似ている。このような対流セルは赤道に近づくにつれてセル間隔が広くなる。特に赤道における対流セルは、南北対称な場合のハドレーセルに対応すると考えることができる。
  • 玉木 克美, 宇加治 一雄
    1995 年 73 巻 6 号 p. 1079-1085
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    オープン・シリンダー型の回転水槽中に生じる傾圧流のふるまいを室内実験で調べた。Spence and Fultz(1977)とは異なり、補助的な熱源を用いずに実験を行なったが、不規則な流れのみならず規則的で再現性のある流れ、すなわち、軸対称流、定常な傾圧波動およびバシレーションを得ることができた。これら4タイプの表面流のパターンと流れの領域図が示されている。また、ドリフト周期とバシレーション周期についても調べられている。
  • 川村 隆一, 村上 多喜雄
    1995 年 73 巻 6 号 p. 1087-1114
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    平均モンスーン流と45日周期擾乱とのバロトロピック・インタラクションを、水平シアー・ベクトルとE-Pフラックスとのスカラー積によって調べた。さらに、乾燥(湿潤)バロクリニック・インタラクションを、E-Pフラックスの鉛直成分を表す、擾乱による顕熱(潜熱)輸送量と平均流の鉛直シアーとのベクトル積によって評価した。
    9年間(1985-1993年)における擾乱の運動エネルギーの時間変化により、45日波動擾乱の活動をモニターした。45日擾乱の活動度は、SEAM(東南アジアモンスーン)領域では相対的に弱い。それに対し、WNPM(北西太平洋モンスーン)は地理的に固定されたforcingがないことから、その活動はより激しく、強い熱帯低気圧が頻繁に発達する8月後半に、45日波動擾乱は極大に達する。WNPMの中心地域(15N,140-150E)付近では、E-Pフラックスは平均東西風及び南北風のシアーを弱める方向に向き、これはバロトロピック不安定による45日擾乱の増幅を意味する。WNPM領域では温度傾度が小さいので、乾燥バロクリニック不安定は重要ではない。これに反し、擾乱による水蒸気輸送とモンスーン流の鉛直シアーが近似的に直交しているので、湿潤バロクリニック過程が卓越している。
    興味深いことに、45日擾乱は極大期に当る8月後半においても、日本付近で非常に活発である。バロトロピック不安定あるいは乾燥(湿潤)バロクリニック不安定のどちらでも、この盛夏季の擾乱活動を説明することはできない。一方、WNPM領域で生じている45日振動の対流活動に伴って、日本付近そしてさらに東方へと、中緯度大気の強い応答が誘引され、偏西風ジェットに沿う45日スケールのロスビー波の分散を示唆している。アリューシャン諸島付近では、顕著な極向きの顕熱フラックスが平均温度傾度が下がる方向に向いており、結果としてコリオリ力の作用を通じて、乾燥バロクリニック過程による中緯度45日波動擾乱の増幅をもたらす。また、WNPM地域からの水蒸気の流入は、亜熱帯や中緯度地域での45日擾乱の湿潤バロクリニック不安定をもたらしている。
  • 水野 量, 福田 矩彦
    1995 年 73 巻 6 号 p. 1115-1122
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    雲内の高過飽和度における氷晶発生を理解するため、連続流拡散型氷晶発生装置を用いて-20~-24℃について過飽和度10%までの自然氷晶核の測定を行った。装置下面の氷面に少量のエチレングリコールを塗布して、装置内で自生する氷晶の影響を抑えた。測定は、1993年初夏にユタ州ソルトレークシティにおいて大陸性気団内で行われた。
    測定の結果、-20℃、過飽和度5%の条件における氷晶核数濃度は、日々大きく変動した。寒冷前線通過前の暖気内で~10個/l、寒冷前線通過後の寒気内で~1個/lであった。また、各々の測定値の過飽和度0%における測定値に対する比を求めて、この日々変動をした氷晶核数濃度の中から過飽和度依存性を調べた。その結果、過飽和度5%と10%における氷晶核数濃度は、過飽和度0%における値のそれぞれ2倍と数倍に増加することが分かった。
  • 今須 良一, 須賀 淳雄, 松野 太郎
    1995 年 73 巻 6 号 p. 1123-1136
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    現在使用されている冷媒用フロン類の代替物質として提案されている5種類のアルコール系物質、21種類のエーテル系物質、及び、5種類のアミン系物質について、瞬時放射強制力を計算した。また、これらの物質の大気中での寿命を、最高被占軌道(HOMO)エネルギーから求めたOHラジカルとの反応係数に基づいて推定した。この放射強制力と大気中寿命をもとに、ハロカーボン温暖化係数(HGWP)を求めた。ほとんどの物質のHGWP値は、大気中寿命が短いことに起因して、0.1よりも小さな値であった。この結果は、HGWP値で見る限り、これらの物質が現在使用されているフロン類の代替可能物質となり得ることを示している。
    これらの代替物質の放射効果の鉛直構造を調べるため、波長別大気冷却率の鉛直分布を計算した。その結果、代替物質の赤外吸収バンドがオゾンの吸収バンドと重なる場合には、例えその物質が成層圏に存在しない場合でも、成層圏が非常に冷却されることがわかった。この冷却はHGWPの値や対流圏での大気冷却率分布には直接は関係していない。したがって、ある代替物質に対する環境影響評価を行おうとする場合、GWPやHGWP値と同様に、その物質による放射効果の鉛直構造も考慮される必要があると言うことができる。本研究では、この成層圏での冷却の程度を示す一つの指標として、高度30kmと圏界面に於ける冷却率の比の値を用いることを提案した。
    また、計算により求めらる各種放射効果の波数分解能依存性を調べた。その結果、放射強制力や冷却率を正確に計算するためには、波数分解能は50cm-1程度よりも良くなければならないということがわかった。
  • 石坂 隆, 倉橋 佳伸, 鶴田 治雄
    1995 年 73 巻 6 号 p. 1137-1151
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    北西太平洋域“雲・放射”研究計画の総合観測の一環として、南西諸島海域における層状雲の雲物理学的性質を観測した。観測は冬季比較的弱い寒気の吹き出しの下で行った。観測した雲は主に層積雲であり、それらの雲厚は0.5~1.2Kmであった。雲の雲頂附近には常に強い温度の逆転層が観測され、その上空は雲の無い乾いた安定層であった。雲はその内の気温が0℃以上のものばかりだけでなく、0℃以下のもの(最低気温-5℃)も存在した。一方、雲は非降水性の雲であり、雲粒子は主に雲粒から成っていた。雲内の雲物理量は水平的にかなり不均質であり、また鉛直的にも有意な高度変化を示した。雲粒の数濃度は雲の中心附近では高さと共にほぼ一定の濃度を示し、その値は高い雲核濃度の結果として、約500~800cm-3にも達していた。一方、平均粒径は雲底附近では約3μmであったが、雲頂附近では7μmと増加した。雲水量も、雲粒数濃度の増加よりはむしろ雲粒の成長の結果として、高度と共に増加する傾向を示した。また、雲水量は厚い雲では約1.0g/m3に達していた。しかし、大部分の雲では、観測された雲水量は雲底附近の空気の断熱過程によって得られる雲水量より小さかった。雲粒の有効半径も、雲底附近で約3μmであったが、雲頂附近では6μm程度に増加していた。南西諸島海域における層積雲の特徴を他の場所で観測された層状雲と比較し、議論する。
  • 渡辺 幸一, 石坂 隆, 田中 浩
    1995 年 73 巻 6 号 p. 1153-1160
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    大気中における過酸化物や他の微量気体(O3,SO2)の濃度の測定を夏から初秋にかけて、中部日本に位置する乗鞍岳の山頂付近(標高2770m)で行った。過酸化水素(H2O2)やオゾンは真夜中に濃度が最も高くなり、真昼に最も低くなった。深夜にH2O2やO3濃度が高くなるのは上層大気の沈降によるものと考えられ、このような日変化は低地での変動とまったく逆である。また、夏の乗鞍岳では、SO2(S(IV))をH2SO4(S(VI))へと酸化させる能力の指標とされている[H2O2]/[SO2]の比がほとんどの期間で1より大きく、SO2の酸化剤が十分に存在していることがわかった。すなわち、夏期においては、水滴中でのSO2の不均質酸化が非常に速いものと考えられる。
  • 金久 博忠
    1995 年 73 巻 6 号 p. 1161-1166
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    安定な成層をした一般流の中の重力流に伴う重力波を、2次元定常断熱ブジネスク系で調べた。考察は重力流から見て定常な重力波に限られる。系は高さHで隔てられた二つの水平な境界を持ち、暖気と寒気から成るとした。暖気の浮力振動数をNとし、寒気の伝播速度をUとした。次の結果が得られた。暖気内の成層が、暖気と寒気の間の成層に比較して十分に弱ければ、遥か上流でも下流でも重力波は現れない。一方、NH/π>Uと成る程に成層が強ければ、遥か上流或は下流或は両方で重力波が現れる。
  • 松山 洋, 沖 大幹, 増田 耕一
    1995 年 73 巻 6 号 p. 1167-1174
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    ヨーロッパ中期予報センター(ECMWF)で作成された全球客観解析データ(4DDAデータ)を用いてミシシッピ川の流域水収支の経年変化を定量的に議論できるか、予察的研究を行った。鉛直積分した水蒸気収束量の流域平均値を、1985~1988年における「月降水量-月蒸発散量」と比較した。蒸発散量はThornthwaite法をもとに計算した。また、1985~1992年における河口付近の年流出高との比較も行った。
    1986年9月から1988年末にかけて、水蒸気収束量の絶対値は「降水量-蒸発散量」よりも小さめに算定される。自然の変動そのものだけでは両者の定量的な違いを説明できないため、これは4DDAのスキームの変更の影響が現れていると考えられる。また、ECMWFでは初期化によって風の発散成分が弱められているとも考えられる。
    高層観測地点が密に分布するミシシッピ川流域でさえも、現時点で利用可能なECMWFデータを用いて解析を行う限り水収支の経年変化について定量的な議論をすべきではない。
  • 廣田 勇, 山田 和孝, 佐藤 薫
    1995 年 73 巻 6 号 p. 1175-1179
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    ECMWF客観解析データを用いて北大西洋中緯度上部対流圏での中間規模東進波について調べた。この解析の目的は、Sato et al.(1993)の発見した日本付近に卓越する中間規模東進波が中緯度対流圏ジェットの強い他の地域にも存在する普遍的なものであることを示すことにある。
    解析を行なった1990年1月と2月には、50°Nを中心とする北大西洋域で東西波長約2400km、周期約33時間、東進位相速度20ms-1の中間規模波動が卓越していた。さらに波動の鉛直構造、背景風との対応関係も調べてみた結果、この波動の特徴はSato et al.の示したものと本質的に同じものであると結論できた。
  • 松田 佳久
    1995 年 73 巻 6 号 p. 1181-1189
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    線型化されたプリミティヴ方程式を使って、ゆっくり回転する大気の、移動する熱源に対する三次元的応答を研究した。まず、プリミティヴ方程式を水平構造方程式と鉛直構造方程式に変数分離した。水平構造方程式の数値的解法においては、Hough関数を利用した。
    この研究においては、惑星の自転速度と太陽加熱の移動速度は金星の値に固定されている。大気の線型応答が大気の安定度とダンピングレートの色々の値に対して求められている。ダンピングレートが大きな値の時には、夜昼間の直接循環が得られた。一方、ダンピングレートが小さな値の時には、東西風が卓越し、地衡風の関係が中高緯度において成り立った状態が現われた。
  • ビデオゾンデ観測
    高橋 劭, 鈴木 賢士, Caiwei Wang, Changming Guo
    1995 年 73 巻 6 号 p. 1191-1211
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    「黒河流域における地空相互作用における日中共同研究」HEIFEプロジェクトの一環として中国・平凉での半乾燥地域に発達する夏の雲の降水機構の研究を行った。
    ビデオゾンデによる降水粒子の映像、レーダ、ゾンデ上昇速度、地上電場の測定から雲内での降水粒子の成長過程について解析を行った。
    この地域においては降水機構の全く異なる2つの降水雲システムが観測された。1つは電気的に活発な霰形成が主な雄大積乱雲で他は梅雨前線に伴う雪片形成で雨を降らす層状雲である。Hobbsの主張する“Generation Cell”の降水への役割については、本地域に現れた梅雨前線帯の層状雲では当てはまらないようである。
  • 佐橋 謙
    1995 年 73 巻 6 号 p. 1213-1217
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    HEIFEの砂漠基本観測点で、夏季に比較的大きな比湿の変動が見られた。8月一ヵ月間の最大値は最小値の3倍もの大きさであった。この現象の範囲はHEIFE領域を覆うくらいの大きさであり、その時気温、日射量は低下し、風向がインド洋からのモンスーンと思われる南東から東の風に変わる。また、降水を伴うことが多い。さらに、この現象は移動性高気圧に伴うようであるが、その機構は不明である。
  • 加藤 内蔵進, 松本 淳, 岩崎 博之
    1995 年 73 巻 6 号 p. 1219-1234
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    中国東部の大陸上のCb群(直径100km以上の積乱雲群)の出現状況、及びその日変化に関連した地表面温度や総観場の特徴について、1979年6~8月のデータに基づく解析を行った。大陸上の梅雨前線帯の位置や特徴の季節遷移に準拠して、“Pre-Meiyu”(6月1~17日、梅雨前線の華中への北上前)、“Meiyu”(6月20日~7月22日、華中の梅雨最盛期)、“Mid-summer”(7月23日~8月17日、華中の盛夏期)の3つの期間について調べた。主な結果は次の通りである。
    (1) “Meiyu”期の華中では昼夜を問わずCb群が多数出現したが、“Meiyu”期に梅雨前線帯北方に位置する華北・中国東北区(Area N1)や盛夏期の華中(Area C2)でも、12UTC(北京標準時で20時)頃ピークとなる顕著な日変化を伴って、Cb群が多数出現した。
    (2) 梅雨前線帯と寒帯前線帯にはさまれる“Meiyu”期のArea N1では、動きの遅い上層トラフに対応する大規模システムの雲域に組み込まれる形で、日変化するCb群が出現しやすかった。この時期にはまだ梅雨前線帯の北側にある本地域でも、梅雨前線帯が華南から華中へと北上した6月20日頃を境に、下層の比湿が増加した。この比湿の増大は湿潤対流に対する安定度の悪化をもたらし、上層トラフ接近、日中の地面加熱と組合わさって、日変化するCb群の頻出に好都合な気候学的条件を作ったものと考えられる。
    (3) 盛夏期(“Mid-summer”)の華中(Area C2)では、亜熱帯高気圧に覆われ、かつマクロスケールでの領域平均の下層発散が夕方に強い傾向にも関わらず、Cb群出現頻度が夕方にピークをもつ日変化を示した。本地域で特に高い日中の地表面温度による加熱は、強い対流不安定を顕在化させるトリガーとしてのメソスケールでの上昇流を与える可能性があり、今後の検証が必要である。
  • 王 介民, 馬 耀明, Massimo Menenti, Wim Bastiaanssen, 光田 寧
    1995 年 73 巻 6 号 p. 1235-1244
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    高解像度ランドサットTMデータと地表面で観測されたデータとを比較して、HEIFE全領域における諸過程の状況を推定する方法について考えてみた。また、そのケース、スタディーとして夏の期間にえられたTMデータより地表面のアルビード、植生指数(NDVI)、地表面温度、正味放射およびその基本的なエネルギー・バランスの要素の分布をHEIFE全領域について求めた例を紹介する。
    現時点ではこの方法はまだ初期段階であるが、いくつかの物理量については満足のいく結果が得られた。しかし、この結果は特定の時間において得られたものにすぎず、また、熱のフラックス等の精度が十分でないなど、今後の改良すべき点について論じた。
  • 陳 家宜
    1995 年 73 巻 6 号 p. 1245-1261
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    HEIFE領域内のタワーおよび自動気象観測装置より得られたデータと低層ゾンデの観測結果をもとに、MASCONモデルを用いて診断的に境界層内の3次元の風速場を求めた。その結果、総観規模から準メソスケールにおよぶ運動が場所や時間によってさまざまな形で境界層内の風速場に影響していることがわかった。例えば、強風時には北西風が卓越し、地形によって力学的に強制された特徴が風速場に見られる。一方、晴天の日には風速場は顕著な日変化を示す。Qilian山脈の麓からHexi Corridorと呼ばれる谷に沿っては、メソスケールの地形による熱的な強制が風速場に働いている様子が明らかに見られる。日中、この流れは総観規模の流れと結びつくため、季節によってその流れる場所は移動する。北側の領域においては総観規模の流れのメソあるいは準メソスケールの地形に導かれた流れが同時に影響しあうので、風速場の日変化は場所に依存した複雑な進展を示す。
  • Lixin Ren, Wenfang Lei, Weixiu Lu, Wen Zhang, Guanghua Zhu
    1995 年 73 巻 6 号 p. 1263-1268
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    1991年4月13日-30日および10月3日-14日の期間、中国北西部の黒河(Heihe)地域において砂漠エアロゾルの物理・化学的特性の測定を行った。エアロゾルの個数濃度および含まれる元素の濃度は、10月と比べて4月において高い値を示した。砂嵐の際には、粗大粒子の濃度が急増する一方で、微小粒子も依然高い濃度を示していた。砂漠エアロゾルの粒径分布は二つモードにより構成され、対数正規分布で良く表現できた。エアロゾル中に岩石・土壌起源の元素が豊富に存在するのに加えて、塩類を含むアルカリ性の土壌に起因すると推察されるマグネシュウムと塩素が多く含有されていた。また、硫黄も存在していたが、これらはおそらく岩石・土壌起源のものと二次粒子としてのものが同程度寄与しているものと考えられる。
  • 光田 寧, 林 泰一, 竹見 哲也, 胡 隠樵, 王 介民, 陳 敏連
    1995 年 73 巻 6 号 p. 1269-1284
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    HEIFEプロジェクト期間中において2個のシビアストームが観測された(1992年7月19日・1993年5月5日)。ここでは乾燥地帯で発生したストームの発生機構について述べる。2つのストームは一方が数kmの積乱雲のスケール、もう一方が100kmのスコールラインのスケールであったが、ともに対流性の雲からの強い下降流で特徴づけられるという点で一致していた。これらは本質的に世界の各地で見られるストームと同じであるが、7月19日の場合では、年間雨量の3分の1に相当する30mmの雨が降り、下降流が地表に達したことで生じる発散する風速場がとらえられた。5月5日の場合では、激しい砂嵐をともない、スコールラインが狭いバンドから広いバンドに発達していくとともに、発達した状態では地表で2時間以上にもわたり強風が続いていたことが特徴的であった。
  • Qiang Wang, Ping Zhu, Bangzhong Wang, Ruibin Jiang
    1995 年 73 巻 6 号 p. 1285-1291
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    総観規模擾乱の影響が弱いときには河西回廊の南西縁の祁連山脈から麓のゴビ(礫砂漠)に向かって吹く夜間下降流がしばしば発生する。祁連山脈の麓にある2箇所の観測地点の観測データを用いて、この夜間下降流の特徴を解析した。夜間下降流は最大風速が地上8m程度にある薄い層に限られる。この流れはオアシス上では急激に弱まる。地上10m以下の層では、夜間下降流の先端が通過するとともに気温が急激に下がり、このとき乱流による上向きの運動量輸送と下向きの顕熱輸送が増大する。この夜間下降流はHEIFE領域での夜間の低層ジェットの構造にも影響を与えている。
  • 谷口 真人, 開發 一郎, 古藤田 一雄
    1995 年 73 巻 6 号 p. 1293-1299
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    中国北西部黒河実験流域において、降水、河川水と地下水の酸素・水素同位体比を測定することにより、同流域の水の起源、河川水と地下水との相互作用、地下水の同位体変化と塩水化との関係等を考察した。
    地下水と河川水の酸素・水素安定同位体比の季節変化の測定結果から、河川水と地下水との混合が10月から3月にかけて活発に起こっている兆候が認められた。
    地下水の電気伝導度と同位体組成の関係からは、研究地域の地下水が、二つのグループに分けられることが明らかになった。一つは、蒸発の影響を受けて、電気伝導度が増すにしたがってδD値が増大するグループ。もう一つは、安定同位体の組成によらず電気伝導度がほぼ一定のグループで、山岳地起源の水と考えられる。
  • Zhibao Shen, 塚本 修, Jilling Zou
    1995 年 73 巻 6 号 p. 1301-1307
    発行日: 1995/12/25
    公開日: 2009/09/15
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    HEIFE領域における砂漠とオアシスの地表面放射収支の特徴を夏と冬の数日間の晴天日において観測し、それぞれの地域での地上気象観測データと比較してその季節的位置づけについて議論した。
    晴天日においては夏冬ともに下向きの短波放射・夏波放射はそれぞれ砂漠とオアシスの間に差異はほとんどなかった。しかし、夏の日中の上向き短波放射(地表面アルベドを反映)と上向き長波放射の2地点での差は大きく、その結果地表面が受け取る正味放射量ではオアシスが砂漠よりも11.2MJm-2day-1も大きかった。一方、冬にはオアシスの植生が非常に少なくなるので地表面温度の差がなく、正味放射量の差は地表面アルベドの違いを反映した1.43MJm-2day-1程度に小さくなる。
  • 1995 年 73 巻 6 号 p. 1320
    発行日: 1995年
    公開日: 2009/09/15
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