気象集誌. 第2輯
Online ISSN : 2186-9057
Print ISSN : 0026-1165
ISSN-L : 0026-1165
74 巻, 3 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
  • 藤吉 康志, 児玉 裕二, 坪木 和久, 西村 浩一, 小野 延雄
    1996 年 74 巻 3 号 p. 281-297
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    北海道西海岸帯状雲の発達時に, オホーツク海から宗谷海峡を通り日本海ヘ流出する冷気塊の熱的・力学的構造を調べる為に, 礼文島の船泊と北海道の宗谷岬の2点でゾンデによる同時観測を行った. ゾンデは両地点とも約2時間間隔で放球した. 帯状雲は, 観測期間中の1990年2月26日から27日にかけて発生し, その発達過程と, この帯状雲が発生する直前に礼文島に上陸したメソβスケールの渦状擾乱の熱的・力学的構造を観測することができた. その結果, 宗谷岬上空の大気は, 高度1km以下では礼文島上空よりも安定であり, また礼文島上空を通過する冷気塊と帯状雲の発達及び動きとが密接に関連していることが確かめられた. 風の場から定義したメソβスケールの渦状擾乱の高さは約4kmで, 一方湿度70%以上の領域で定義した渦状擾乱の雲頂高度は2.5kmであった. この「雲域」の少なくとも前方には遷移層が存在し, その熱的・力学的性質は渦状擾乱の「雲域」, 及び渦状擾乱の外側の大気とも異なっていた. この下層のメソβスケールの渦状擾乱の「雲域」の真上でかつ圏界面の直下には, メソβスケールの強風域(毎秒50m以上)を伴う高温度域が存在した. この上層のメソスケールの擾乱は, 下層の渦状擾乱と共に移動し, かつその発達過程と密接に結び付いた構造を持っていた.
  • Tae-Young Lee, Young-Youn Park
    1996 年 74 巻 3 号 p. 299-323
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    本論分は, シベリア高気圧からの吹きだしに伴って朝鮮半島上でしばしば発生するメソスケールトラフの実態を事例解析し, さらに3次元数値モデルを用いてその形成メカニズムを調べた結果を報告する. 1986年2月14日~15日における事例解析によれば, 14日の朝からトラフの形成が始まり, 午後になると, はっきりしたトラフが形成された. この日の半島上の地上気温は通常より高かった. 翌日の早朝には, トラフは減衰する傾向を示したが, 日中には再び発達し, 中国大陸上の高気圧が東に抜けるまで持続した. 数値シミュレーションは, メソスケールトラフの時間発展の様子や空間的な広がりなど, 解析結果に見られた主な特徴をかなりよく再現した. 条件をいろいろ変えて行った数値実験の結果から, 1986年2月14日~15日に観測されたメソスケールトラフは朝鮮半島の山岳による力学的効果と半島の陸地とそのまわりの海洋との熱的効果の重なったものであることがわかった. 熱的効果とは, 寒候季に半島上が比較的暖かい日の昼間は, 陸上の顕熱フラックスが半島周辺部の海面上顕熱フラックスよりかなり大きくなることを意味する. 半島北部で発達するトラフは, 主に北部山岳の力学効果と熱的効果によって形成される. 一方, 半島南部で発達するトラフは, 主に海抜高度の高い地域の熱的効果及び半島上と周辺部の海面上の熱的コントラストによって形成される.
  • 陳 秋士, 郭 英華, David H. Bromwich
    1996 年 74 巻 3 号 p. 325-342
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    限られた領域の風は, 領域のそれぞれ外部と内部の渦度と発散だけに依存する, 外成風と内成風に分離できる. これは風の分離における基本的な特性である. 領域モデルによる予報とイニシャリゼーションにしばしば現れる共通の特徴を説明するために, 領域の内部で過度と発散が与えられ, 境界で風が設定されている場合が取り上げられる. この場合に算出される外部風が, 境界で一致条件を満たせば一致する場合と呼び, そうでなければ不一致な場合と呼ぶ. 不一致な場合には, 境界で与えられた風と等しく, かつ内部で与えられた過度と発散に一致する, 連続な風の場を見い出すことは不可能である. 一致する場合であれば, 風を再構成するために二つのポアソン方程式を用いる直接法を用いることができる. インプット・ノーマル・モード・イニシャリゼーション(Temperton, 1988)が, 風の再構成と分離の観点からさらに明らかにされる. イニシャリゼーションの目的は, 解析された非地衡風を変形して, バランスした非地衡風にすることである. バランスしない非地衡風だけが速い慣性重力波を引き起こし, イニシャリゼーションで除去される必要がある. 一つの計算例では, バランスした非地衡風は非地衡風全体の約68%であり, したがって非地衡風のよい近似になっている. 非地衡風の回転成分(3.38 m s-1)が発散成分(1.64 m s-1)より大きいことも示される. バランスした風は地衡風とバランスした非地衡風の和であり, 観測される風のよい近似になっている. イニシャリゼーションにおいて境界で風を固定するのは不一致な場合になるため, それはできないことを証明する. 風の分離の基本的な特性に基づけば, イニシャリゼーションの側面境界条件として, 固定された外部風を用いるのがたいへん自然である. 提案されたイニシャリゼーションと境界条件がテストされ, 結果は, 予報の初期値から気象学的なノイズが効果的に除去され得ることを示している.
  • 藤吉 康志, 村本 健一郎
    1996 年 74 巻 3 号 p. 343-353
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    暖めたケロシン中で雪片を融解させ, その際形成される水滴の粒径分布を調べた. この実験結果を基に, 雪片の融解分裂過程が, 雨滴の粒径分布に与える効果について考察した. 合計50個の融解前の雪片について, その最大直径, 断面積, 質量も同時に測定した. 1つの雪片から生じる水滴の総数は, 雪片の質量と最も相関が高く, 少なくとも質量が3.0mg以下の場合には, 平均的な水滴の個数は質量と共に直線的に増加した. ただし, 質量が同じでも形成される水滴の粒径分布には大きなバラツキがあった. 生成された水滴の平均粒径分布は, 質量が1.0mg以下の場合は指数関数で, 2.0mg以上の場合はガウス分布で近似出来た. 初めGunn-Marshall型の粒径分布をしていた雪片が, ここで得られた実験式にのって融解分裂したと仮定すると, 得られた雨滴の粒径分布の勾配はMarshall-Palmer分布の勾配と極めて良く一致した.
  • 加藤 輝之
    1996 年 74 巻 3 号 p. 355-363
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    1993年8月6日に起こった鹿児島豪雨を対象として静水圧モデルと非静水圧モデルとで雨の降り方にどのような違いが生じるかについて調べてみた. 数値モデルとして気象庁の現業用日本域静水圧モデル(Japan Spectal Model)を親モデルとしてネスティングすることができる3次元非弾性非静水圧モデル(Saito, 1994)とそのモデルの静水圧バージョン(Kato and Saito, 1995)を用いた. 降水生成過程として雲水, 雨水を直接予報する雲物理過程と湿潤対流調節をそれぞれ単独にまたは併用して用いた. 雲物理過程を用いた5kmと10km格子の非静水圧モデルは観測とよく一致した連続的な集中豪雨を再現した. Kato and Saito (1995) が理想的な湿潤対流を対象とした比較実験で指摘した通り, 静水圧モデルは非静水圧モデルに比べ雨を過大に降らせ, 降雨域を過大に広げた. また, water loadingの効果が非静水圧の効果より対流の発達には重要であった. さらに, 5km格子の静水圧モデルはKato and Saito (1995) で取り扱った理想的な湿潤対流の場合に比べかなり過大に雨を降らした. 以上の結果より, 高分解能の数値予報モデルにはwater loadingを取り入れた非静水圧モデルを用いることが望まれる.
  • 小寺 邦彦, 千葉 長, 小出 寛, 鬼頭 昭雄, 二階堂 義信
    1996 年 74 巻 3 号 p. 365-382
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    北半球冬季における, 成層圏・対流圏の変動を, 特に長期的な変動に着目して, 1958年から1994年のデータを用いて調べた. まず, 冬季平均50hPa高度場の主成分分析を行ない, 2つの変動モードを抽出した. 次にこれ等の時系列と (i) 500hPa高度, (ii) 海面温度との相関係数を求めた. 第1主成分は, 極域と中緯度で高度が交互に上下するパタンで, これは, 非帯状成分が強まってくるが, 対流圏にまで通じている. この対流圏のパタンは, プラネタリー波の南北伝播の変化として特徴づけられる. また, 大気大循環モデルの結果との比較から, このモードは主として大気内部の力学的プロセスにより生じている事が示唆される. 第1モードの時系列は, 解析期間を通じて増加の傾向を示しており, 近年の大西洋-ヨーロッパ域, 東アジア域での対流圏の変動と関連している. 一方, 第2モードは, 赤道東太平洋の海面水温と極めて良い相関を示し, エルニーニョ現像と関連した変動である.
  • 金久 博忠
    1996 年 74 巻 3 号 p. 383-386
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    2次元の定常の非強制の断熱の系では, ベルヌウイ関数Bと渦位Qは流線関数ψの関数であり, QはBのψに関する導関数で表わされる. 即ちQ=dB/dψ. このノートでは, この公式を3次元の定常の断熱系へ拡張する. 散逸が存在する場合でも, 散逸項と速度の内積が至る所で負である限り, 本質的に同じ公式が成立する. この公式の山の風下渦の生成問題への適応例を示す.
  • 山元 龍三郎
    1996 年 74 巻 3 号 p. 387-391
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    集中豪雨等極端に激しい現象の長期傾向の有無を調べるために, 最大記録の現象の発現時期の頻度分布に着目した統計方法 (IY法) が岩嶋と山元 (1993) により提案されたが, この論文では, IY方法の正当性が擬似乱数を用いたモンテカルロ法により検討された. その結果, IY法の正当性が示されると共に, 長期傾向の量的算定精度についても議論された.
  • 渡辺 幸一, 永尾 一平, 田中 浩
    1996 年 74 巻 3 号 p. 393-398
    発行日: 1996/06/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    小笠原諸島母島において大気中のH2O2濃度やO3濃度を1995年4月及び7月の2度にわたり測定した. 4月においては, 小笠原諸島が大陸性気団に覆われた時にO3やH2O2が高濃度となった. 7月のO3濃度は4月より低かったが, H2O2濃度の平均値は4月より高かった. これは, 日射量の違いによるものと考えられる. 過酸化水素濃度は通常, 日中に高く夜間に低くなったが, 相対湿度が比較的低い時には, H2O2濃度が夜間に増加する現象がしばしば観測された. 夜間におけるH2O2濃度の減少は相対湿度に強く依存していた. 海洋大気中では夜間におけるH2O2の消失は不均質過程 (heterogeneous process) によるものである. この消失割合 (loss rate) は, 0.3~6.5×10-5 s-1程度で, 相対湿度が高くなると大きくなることがわかった. このような過程は海洋大気中におけるHOx濃度に重要な影響を与えているものと考えられる.
feedback
Top