気象集誌. 第2輯
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74 巻, 5 号
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  • 毛利 英明, 永尾 一平, 岡田 菊夫, 古賀 聖冶, 田中 浩
    1996 年 74 巻 5 号 p. 585-591
    発行日: 1996/10/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    太平洋・インド洋の沿岸で1992年に採集された個々のエアロゾル粒子の元素組成を、エネルギー分散型X線分析器を用いて調べた。Na・S・Clの相対重量比から、多くの海塩粒子が硫酸との反応による変質を受けていることが解った。またボルネオ近海で得られたサンプルから、biomass burning起源とみられるKの含有量の高い粒子が検出された。このサンプルに限って海塩の変質に硫酸だけでなく硝酸の関与も考えられ、biomass burningの影響の特徴を示していると考えられる。
  • 山田 芳則, 村上 正隆, 水野 量, 松尾 敬世, 藤吉 康志, 岩波 越
    1996 年 74 巻 5 号 p. 593-615
    発行日: 1996/10/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    1990、1992年にそれぞれ1例ずつ日本海上で観測された2つのバンド状降雪雲の気流構造をデュアルドップラーレーダー及び他の観測データを用いて解析した。これらのバンドは、寒気の吹き出しの数時間前に観測領域内に進入してきた風速増加域の中に形成されていた。1990年の事例では、ドロップゾンデ観測によれば、バンドの後面の下層大気は不安定であり、バンド内の下層には冷気塊が存在していた。1992年の事例でも、地上気温データの解析によってバンド内下層には冷気塊が存在していたことが示された。質量収支解析の結果、いずれのバンドについてもバンド内の平均的な気流構造には、バンドの走向に直交する風速成分が相対的に重要であることがわかった。しかし、バンドの走向に直交する鉛直面内の循環は全く異なっていた。1990年の事例では後面から流入し上昇する気流、前面で下降流という構造であったのに対して、1992年の事例では1990年とは全く逆で、前面で上昇流、後面の非常に狭い領域内に下降流が存在していた。これらのバンド内の異なる循環は、バンドの走向に直交する鉛直面内の水平風の鉛直シアーによって説明される。
  • 青梨 和正, 柴田 彰, 劉 国勝
    1996 年 74 巻 5 号 p. 617-637
    発行日: 1996/10/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    本研究はSpecial Sensor Microwave Imager (SSM/I)の多波長輝度温度データを用いた海上での降水強度リトリーバルアルゴリズムを開発した。このアルゴリズムの考え方の特長は、多波長の輝度温度の観測値との差が最小になる輝度温度の計算値を与える、降水強度の水平方向の分布の"最適値"を求めることである。このためLiu and Curry(1993)の放射伝達モデルを用い、25km毎の格子点での降水強度からSSM/IのFOV(field of view)の19.35、37、85.5GHzの垂直偏波の輝度温度の計算値を求めた。垂直偏波の輝度温度を選んだのは海上風速の影響を最小限にするためである。この計算の際に、降水雲のモデルとしてGARP Tropical Experiment(GATE)のデータから得られた、降水の非一様性と鉛直プロファイルの統計的特性を利用した。多波長の輝度温度の計算値の観測値に対するfitnessを表すのに各波長の観測値と計算値の差を統計的に求めた標準偏差で規格化した値の2乗の和で表されるcost functionが用いられた。このcost functionのgradient equationを解くことで25kmの水平解像度を持つ降水分布の最適値が求められた。このアルゴリズムを用いた降水のリトリーバルを2つの事例(1990年9月17日21UTCの台風9019号、1988年4月28日21UTCの温暖前線の降雨)について行った。リトリーバルされた降水量は気象庁の現業レーダ網で観測された降水量と比較された。その結果、本研究のアルゴリズムは大規模な降水域内のメソスケールの降水のパターンを増幅している、またこの増幅がリトリーバルされた降水量をレーダで観測された降水量とより線形に対応させている事が分かった。この改善は本研究のアルゴリズムが高周波のチャンネルのデータの有効な利用によるものである。高周波のチャンネルのデータは大規模な降水域内の降水域の再分配に役立っている。またTOGA-COARE(Tropical Ocean-Global Atmosphere Coupled Ocean-Atmosphere Respose Experiment)期間中の船舶レーダデータとこのアルゴリズムの降水リトリーバル値の統計的比較も行われた。この期間平均の(降水リトリーバル/レーダ降水強度)の比は0.944であった。この比は降水の非一様性と鉛直プロファイルに大きく依存するので、上記の比の統計値は本研究のこれらのパラメータの値が妥当なものであることを示すと考えられる。
  • 加藤 央之
    1996 年 74 巻 5 号 p. 639-653
    発行日: 1996/10/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    地球温暖化の検出を議論する上で、観測された気温データから都市化影響トレンド成分をいかに分離するかは重要な課題である。本論文では、一定地域内の気温データに対する主成分分析を利用し、妥当な比較参照地点(郊外地点)を近隣に持たない都市観測地点を含んでいる場合でも、それらの地点を含めた全地点の都市化影響のトレンド成分を系統的に分離できる統計的手法を構築した。手法の数学的な記述の後、手法の具体的な説明のため、模擬的なトレンド成分を任意の数地点にのみ追加したモデルデータに本手法を適用した例を示した。この例では、各主成分トレンド中に含まれる模擬的なトレンド成分の実態を明らかにすると同時に、この模擬的なトレンド成分が本手法によりモデルデータから分離されることを示した。わが国の過去73年間(1920~1992)の51地点の月平均気温データにこの手法を適用し、各地点の気温観測トレンドから都市化影響トレンド成分を分離した。この結果、わが国の人口10万人以上の都市では年平均気温において最大で1.0~2.5℃/100年の都市化影響による気温上昇トレンドがあったことが明らかになった。このトレンドの値は、米国や中国における都市化影響トレンドの大きさとほぼ一致していた。都市化影響の季節変化については、特に大都市で寒候期にトレンドが大きく、暖候期に小さい傾向が存在し、最大値は冬季または秋季、最小値は夏季に見られた。本手法を用いて都市化影響を除去した結果、対象期間内の気温トレンドは年平均値では全国的に正の値を示し、北日本の0.5℃/100年から西日本の1.1℃/100年の範囲にあり、全国平均では0.8℃/100年であった。季節別に見た場合、特に冬季~春季(12月~5月)にかけての正のトレンドが顕著であり、全国平均で1.0~1.6℃/100年の値を持ち、その最大値は3月に見られた。一方、夏季と秋季には正のトレンドは小さく、特に北日本では7月~11月にかけて負のトレンドがみられた。7月には東北から北海道にかけての広い範囲で1.0℃/100年を上回る気温低下が見られるが、負のトレンドの範囲は南日本までは及ばなかった。こうしたトレンドの地域差の結果、気温の南北傾度は夏季から秋季にかけて増大し、7月、10月にはトレンドの南北差が最大2℃/100年にも達していた。
  • 加藤 内蔵進, 越田 智喜, 武田 喬男
    1996 年 74 巻 5 号 p. 655-671
    発行日: 1996/10/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    東シナ海域の名瀬における寒気吹き出し時の混合層上端付近の成層について、1991年1月11日~2月3日のルーチン高層気象データ等を用いて、日本海風下の輪島と比較しながら調べた。その期間の中で、混合層上端付近にCloud to Entrainment Instability (以下、CTEIと略す)の条件を満たす成層が名瀬で顕著に現れれた1月12~13日の例について、名古屋大学で受信した気象衛星NOAAのAVHRR赤外データも用いて、名瀬の風上域から風下域への下層雲群と成層の変化を記述した。更に、寒気が済州島付近から名瀬ヘ至る間にどの様にしてCTEIの条件を満たす成層が形成されるのか、大気中の熱・水蒸気収支各項の鉛直分布を解析することにより議論した。その結果、次の点が明らかになった。(1)日本海風下域の輪島と対照的に、東シナ海域で大陸から約1000km風下にあたる名瀬では、CTEIの条件を満たす成層が、寒気吹き出しのほとんどのイベントで観測された。(2)1月12~13日の事例によれば、名瀬の風下側でCTEIの解放が実際に起こり、寒気吹き出し時の下層雲群の特徴もその影響を受けた可能性が示唆された。(3)この事例では、済州島から名瀬にかけてCTEIの条件を満たす成層が形成されるとともに、個々の下層雲域が比較的大きな水平スケールと平坦な雲頂を持つものへと変化し、CTEIの顕在化に好都合な雲層が形成された点は興味深い。(4)名瀬の風上側でのCTEIの条件を満たす成層の形成に対しては、非断熱加熱率+加湿率(total apparent source)が混合層上部でも大変大きく、かつ、それが上方で急激に減少することが大きく寄与していた。東シナ海域では日本海と違って、混合層より上方の未飽和度(飽和比湿-比湿)が大変大きいことも、海面からの多量の「熱+水蒸気」補給に加えて、寒気吹き出し時でもCTEIの条件を満たす成層が形成されるための重要な要因の1つと推測される。
  • 高野 功
    1996 年 74 巻 5 号 p. 673-694
    発行日: 1996/10/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    寒候期に日本の南岸では中部山岳の影響によるシアーラインと、それに関係した下層のメソ雲システムがしばしば発生する。こうした雲システムのうち、低気圧の発生を伴う顕著な発達が見られた1991年10月14日の事例について、JSMを基にした高分解能モデルによる数値シミュレーションを行った。シミュレーションの結果の解析から、このじょう乱の発生発達過程は次のようにまとめられる。雲域の発生初期には、下層の北風が中部山岳を迂回して吹いていた。中部山岳の両側での強い北風に対し、山岳の風下では風は弱く台風によってもたらされた高相当温位の気塊が滞留していた。南岸域では徐々に東風が強まったが、この東風は雲システムを西に移動させ、また中部山岳の西端から伸びる北西-南東走向の正渦度を持つシアーラインを強化した。このシアーラインの北東側ではバンド状の降水域が予想されたのに対し、南西側は山の斜面を下降した乾燥した気塊が占めた。初期値から18時間後にはシアーライン上に浅いメソ低気圧が発生したが、低気圧性の循環とほぼ地衡風バランスにある。その後下層の低気圧は南岸沿いに進んできた中層のトラフと結合して更に発達し、総観規模の低気圧となった。シミュレーションの結果から、このじょう乱の発生初期には山岳の影響が大きく、発達期には中層のトラフとの結合が寄与したことが示された。
  • Semazzi Fredrick H.M., Webb Donald W., Pouliot George
    1996 年 74 巻 5 号 p. 695-707
    発行日: 1996/10/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    この研究は、1次のセミラグランジュ・トラジェクトリ・アンセンタリング法を調べたSemazzi and Dekker(1994)において報告された結果の拡張である。トラジュクトリ・アンセンタリング法を適用することは、セミインプリシット・セミラグランジュ・モデルにおいて、ノイズのない解を保証するための有効な改善策である。この研究では、セミインプリシット・セラグランジュ1次元線形浅水モデルを用いて、気象学的に重要なロスビー波解に対する2次のトラジェクトリ・アンセンタリング法を適用すると、大気のプラネタリー・スケールの波に大きな切断誤差が現れる。我々の主な結論は、2次のアンセンタリング法を適用すると、これらの切断誤差が大幅に減ると言うことである。
  • 金久 博忠
    1996 年 74 巻 5 号 p. 709-714
    発行日: 1996/10/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    山の3次元性の、おろし風への影響を解析的に調べた。安定成層を持つ一様な一般流の中に在る、ほとんど2次元的な山の場合を調べた。山の形は一つの最高点(頂上)を持ち、流れに直交する方向にほほ一様とした。山の頂上を含む、流れに沿った鉛直断面でのおろし風の大きさを計算した。山の形が流れに直交する方向に一様な2次元の場合と比較して、次の結果が得られた。大気の高さが指定されている場合には、おろし風の大きさと、おろし風が起こるために要求される山の高さの両方が、山の3次元性に依って大きくなる。他方、山の高さが指定されている場合には、おろし風の大きさと、おろし風が起こるために要求される大気の高さの両方が、山の3次元性によって小さくなる。
  • 花輪 公雄, 石崎 士郎, 谷本 陽一
    1996 年 74 巻 5 号 p. 715-721
    発行日: 1996/10/25
    公開日: 2008/01/31
    ジャーナル フリー
    1970年代半ば以降の北太平洋上冬季中緯度偏西風の強化を、船舶通報海上気象要素を収集した統合海洋気象データセット(COADS)から得られた風速と海面気圧を用いて検討した。その結果、1966年から75年と1976年から85年の2つの10年間の間の風の場の差は、2つの10年間の間の海面気圧の差から地衡風の仮定のもとに計算された風の場でよく説明できることがわかった。この事実は、北太平洋上で後者の10年間に冬季中緯度偏西風の強化が実際に起こっていたことを確認するものである。また、年平均の風の場や他の季節に対しても同様の検討を行い、船舶通報海上風の2つの10年間の間の差は、同様に海面気圧の差から求めた風の場でよく説明できることがわかった。
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