気象集誌. 第2輯
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74 巻, 6 号
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  • Kyozo Ueyoshi, John O Roads, Francis Fujioka, Duane E. Stevens
    1996 年 74 巻 6 号 p. 723-744
    発行日: 1996/12/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    マウイ島ではハレアカラ山の風下にマウイ渦が持続的に生じて、サトウキビなど収穫の際の野焼による大気汚染が中央谷平原でより複雑なものとなる。この論文では、ある夏の一ヵ月を例にとり時間・空間に連続して時間積分した結果から、貿易風下のマウイ島の中央谷平原における大気流のclimatologyを調べた。ここでは、大規模場の客観解析によって初期値と境界値を求めて、高精度のメソスケールモデルによってシミュレーションを行った。こうして求めた結果を観測点の観測値と比較した。持続する貿易風下において、中央谷平原で渦が発生した。フルード数Fr(=U/NH、Uは一様風の大きさ、Hは障害物の高さ、Nはプラント・バイサラ周波数)が0.4よりも小さい場合でも渦の放出(vortex shedding)は起こらず、一日の時刻に関係なく形を変えずに動かなかった。しかしながら、西マウイ山をモデルから取り除くと、渦の放出が起こるようになった。マウイ渦の発生や持続およびその定常性に寄与する主な要素として、日射と、貿易風が西マウイによって曲げられて生ずる北からの加速された流れがあり、これらについて議論した。さらに野焼きに好都合な総観場の条件について提案を行った。
  • 二宮 洸三, 藤森 順三, 秋山 孝子
    1996 年 74 巻 6 号 p. 745-761
    発行日: 1996/12/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    1987年1月8-10日にみられた北西太平洋上における大規模低気圧の発達にひきつづくアジア大陸からの寒気吹出の多種スケール的様相を報告する。
    日本列島近傍で発生した大規模低気圧は北西大平洋上で発達し閉塞過程に達し、寒気吹き出しをもたらす。寒気流内でpolar troughにともなってcomma-cloudが発生し、発達につれ二次的寒冷前線の特徴を示し、さらに主前線に接近しinstant occlusionを形成する。この時点で寒気吹出は再強化される。
    大陸からの寒気は閉塞低気圧の南西部に向かって西-北西流の寒気の楔として侵入し、一方太平洋からの相対的暖気流は低気圧の北側をまわり、その北西部に東-北東流として流入する。これらの気流系の間に著しいシアーラインが形成される。そこでは水平的differential advectionにより局地的frontogenesisが進行し、シアーラインに沿った雲ゾーンが発生した。この下層の寒気の楔の上空の500hPa面では、長く狭い寒気トラフが現れていた。
    このfrontogenesisゾーンの上空の寒気の通過にともなって中規模低気圧が発生した。その最盛期には中心気圧は5hPa深まり、25m/sのガストをともなった。シアーラインの通過後、再度北風の寒気吹出が強まった。
    以上の多種スケール的様相は他の寒気吹出にっいても見られる。この寒気吹出の多種スケール的様相の概念モデルは、この地域の寒気吹出の実態を理解する上で有用なものである。
  • 柴田 清孝, 内野 修, 神山 武久, M. Patrick McCormick
    1996 年 74 巻 6 号 p. 763-780
    発行日: 1996/12/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    ピナツボ火山エーロゾルの成層圏における全球分布を、1ミクロンの光学的厚さについて、衛星データとライダーデータを結合して、噴火から1年間(1991年6月-1992年6月)の期間について作成した。その分布は2ヶ月毎に平均されたものであり、70°N-70°S間はSAGE IIデータを、高緯度と熱帯下部成層圏は他の衛星データやライダーデータを使用した。この1ミクロンの分布を観測された硫酸エーロゾルの放射特性と結び付けて、放射加熱率の計算を行なった。
    硫酸エーロゾルは太陽放射を吸収せず、散乱するだけなので、エーロゾル層からの反射光をオゾンが吸収した結果生ずる弱い加熱0.02Kday-1を上部成層圏につくる。赤外放射は低緯度、中緯度で0.1Kday-1の加熱をエーロゾル層にもたらし、高緯度では弱い冷却をもたらす。その結果、正味の効果は赤外放射が決めている。
    成層圏の温度変化もFixed Dynamical Heatingモデルで評価した。低緯度では中部成層圏温度は噴火後急速に上昇し、初期の40日で約2Kの変化を示した。その後変化率は緩み、また変化の極大軸は北緯15度へ移動した。全期間中に最高の昇温は、噴火してから約10ヶ月後に北緯15度の極大軸上で現れ(約3K)、2番目に大きい昇温は約12ヶ月後に南緯5度に現れた(約2.9K)。
  • Chiu Wai Yuen, Kaz Higuchi, Neil B. A. Trivett, Han-Ru Cho
    1996 年 74 巻 6 号 p. 781-795
    発行日: 1996/12/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    3次元リージョナル大気力学モデルを用いて、ユーラシア大陸からのCO2の長距離輸送とカチダ北極域で観測されたCO2の高濃度アノマリーの関係を定量的に解明することを試みた。本研究のために選んだイベントは、カナダ・エルズミーア島の最北端に位置するアラート基地で1990年12月に観測された5ppmに及ぶ高濃度アノマリーである。モデルによるシミュレーションの結果は、北ヨーロッパの人間起源のCO2が1週間以上かけて東部シベリアに輸送され、そこで一旦停滞した後、北極を横切りアラート基地に到達した、ことを示した。また、CO2の起源として北ユーラシアからの工業的放出のみを考えた場合、アラート基地での高度上昇は高々2ppmであったが、ユーラシアの陸上植物から放出されるCO2も考慮に入れることによって、残りの3ppmのほとんどを説明することができた。さらに、北ユーラシアに起源を持つCO2は、対流圏最下部を通してアラート基地まで輸送されることが分かった。
  • 斉藤 和雄, 村上 正隆, 松尾 敬世, 水野 量
    1996 年 74 巻 6 号 p. 797-813
    発行日: 1996/12/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    冬季北日本山岳域と日本海側平野部への降雪における地形効果と雲物理学的役割を調べるため、水物質の混合比と氷物質の混合比および数濃度を予報する2次元非静水圧モデルを用いて感度実験を中心とする数値実験を行った。
    東北地方とほぼ同スケールの単純化した地形と海陸分布を与えた実験により、日本海上での気団変質と降雪雲の発生、山岳域風上側斜面での降雪の集中と風下側での雲の消滅がシミュレートされた。雲頂高度は海上から海岸付近、内陸の順に増大し、雲頂温度の低下に伴って氷晶数の増大が見られた。降雪の分布への副次的な要素として海陸の粗度と温度差の影響を調べた。比較実験では、陸域風上側での降雪の集中には海陸の温度差による収束効果が寄与しており、粗度の違いによる摩擦収束の影響は小さかった。
    日本海上で変質した気団が山の高さだけ強制上昇させられることを前提に、強制凝結量の内どれだけが陸面での降水になるかを求めて降水能率を定義し、山の高さを変えて降水能率を比較した。実験では、山の高さが雲底高度を越えると降水量の急増が起こり、600m以下で40%前後だった降水能率は1000m以上では80%前後に上昇する。一方、氷相過程を取り除いたwarm rain processでは、山の前面で凝結した雲水の大部分は雨水へと転化する前に山岳後面の強制下降域に入ってしまい、降水量・降水能率ともに氷相を含む実験の1/3程度の低い値に留まった。氷晶生成項についての感度実験を行い、山岳域で氷晶生成を抑制することで陸域の降雪が減少することと、山が無くても陸域で氷晶生成を促進すると降雪量が増大することを確かめた。これらの結果は、冬季北日本の地形性降雪においては、一般に指摘されている地形強制上昇による水蒸気凝結のみならず、山岳域での雲頂温度低下に伴う氷晶生成の促進による天然の種蒔き効果-natural seeding-が、降雪量の増大に重要な役目を果たしていることを強く示唆している。
    日本海上の特定の場所で氷晶生成を促進する実験を行い、人工的な種まきによる降雪の抑制あるいは促進の理論的な可能性を示した。
  • 江守 正多, 阿部 寛治, 沼口 敦, 光本 茂記
    1996 年 74 巻 6 号 p. 815-832
    発行日: 1996/12/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    大気陸面水循環における流出過程の重要性を調べるために、境界条件を理想化した大気大循環モデルを用いて数値実験を行った。地中の排水流出および地表の飽和流出を表現する2つの流出スキームを別個にモデルに組み込み、シミュレートされた水循環を比較した。
    流出スキームに対する水循環の感度は、一般に流出量の大きい熱帯、雨季の亜熱帯、高緯度で大きかった。地表が十分湿潤で降水または融雪が比較的小さいとき、地表流出のスキームは排水流出のスキームに比べて流出を小さく、逆の条件では大きく見積る。この流出量の差により地表湿潤度の系統的な差がもたらされる。しかし、流出量のスキームによる違いが顕著でなくなると、地表湿潤度の差は蒸発と流出のフィードバックにより減衰する。大気のフィードバックが無いとすると、この減衰の時間スケールは1ヵ月より短いと見積もられる。しかし、大気のフィードバックの効果によって地表湿潤度の差は数ヵ月程度持続する。この過程で蒸発-降水のフィードバックが特に重要な役割を果たしていると考えられる。
  • 胡 増臻, 新田 勍
    1996 年 74 巻 6 号 p. 833-844
    発行日: 1996/12/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    1891-1992年の中国北部及びインドの夏の降水量データ、南方振動指数(SOI)データにウェーブレット変換(WT)を適用し、年々変動・十年規模変動の解析を行うとともに、時間スケールごとのパラメータ間の相関を調べた。中国北部及びインドの夏の降水量の年々・十年規模変動の特徴は、期間によって大きく変化していることがわかった。両パラメータとも10年以下、14-28年の周期変動成分が卓越する。両者の間の相関は時間スケールに依存し、7年以下及び14年以上の周期帯で有意な正相関があるが、7-14年周期帯では有意な相関はない。SOI変動は5-7年以下の変動が卓越しており、その他に十年規模変動が1891-1951年、1970-1992年に顕著に現れる。インド降水量とSOIとの間には強い相関があり、24-30年周期以下では正相関、40年周期以上では負相関がある。中国北部の降水量とSOIとはさほど大きな相関はないが、短周期変動に関してはインド降水量の結果と同様な関係がある。中国北部及びインドの夏の降水量変動は・時間スケールによって異なった大気循環場と関係している。両地域の降水量変動に伴う北半球循環場は5年周期の変動では類似しているが、11年周期変動では異なっている。このことは両地域の降水量変動は、ENSOなどの共通した要素の影響を受けているとともに、それぞれ異なった循環場に支配されていることを示している。
  • 尾瀬 智昭
    1996 年 74 巻 6 号 p. 845-866
    発行日: 1996/12/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    チベット、東ヨーロッパ、シベリアの初春の積雪偏差が、その後の大気に及ぼす影響を比較するため、モデルによるアンサンブル実験をおこなった。チベットの正の積雪偏差は、春から初夏にかけて有意な冷却源をもたらす。東ヨーロッパやシベリアの積雪偏差から、直接には有意な冷却源は作り出されない。
    チベットの冷却源は、北半球の春から夏にかけての季節遷移を遅らせる方向の影響を大気に及ぼす。これは、6月の弱いアジアモンスーンとして特徴づけられ、南アジアの弱い下層モンスーンジェット、東南アジアの弱い大規模な上層発散場、北太平洋と北大西洋の負高度場偏差、熱帯太平洋の弱い東西循環が再現された。
    チベットの積雪偏差実験の場合に目立つ影響が現われたのは、東ヨーロッパやシベリアと比較して、チベットが次のような条件を持っているためである。
    (1) チベットでは、おそらくその高度のため、気候的に融雪速度が遅く、これは初春の積雪正偏差を気候的な融雪季節の終わりまで維持する。
    (2) チベットの初春から高い太陽高度と比較的少ない雪量による強い太陽入射は、積雪正偏差のアルベド効果を高める。
    (3) チベットの乾いた裸地の地表面熱収支では、顕熱の役割が潜熱よりも大きい。従って、積雪正偏差(被覆)の存在は顕熱の効果を遮断する役目を主に果たす。
    (4) チベットの乾いた裸地では、融雪水は土壌に蓄えられる可能性が高い。このため、積雪正偏差の多くは土壌水分偏差として引き継がれる。
    (5) 気候的にチベット高原の熱源は、アジアモンスーンに影響しうる。
    モデル実験のチベットから得られた(1)から(5)の条件は、現実においても積雪正偏差が大気に対して影響を及ぼしうる地域の条件として意味を持つと考えられる。
    東ヨーロッパ実験の5月およびシベリア実験の8月にも、大気中に広範囲な応答が見られた。この場合、ユーラシア大陸北部に地表面状態の有意な偏差が伴う。これからの地表面状態偏差は、初期の積雪偏差の融雪に続いて形成される一連の地表面状態偏差と、直接には関係せず、初期の積雪偏差がもつ水および熱が大気に供給された後に、形成されたように見える。
  • 川村 隆一, 村上 多喜雄, Bin Wang
    1996 年 74 巻 6 号 p. 867-890
    発行日: 1996/12/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    西太平洋モンスーン域(5°-20°N、110°-160°E)では熱帯Madden-Julian振動(MJO)は系統的に北へ伝播する。北進するMJOは水平的にも鉛直的にも非対称性の強い構造をもっている。対流圏下層の低気圧渦度は、低気圧シアーをもった収束性の平均モンスーン流の影響によって強い。一方、上層の高気圧渦度は、高気圧シアーをもった発散性の上層平均モンスーン流により弱くなる。対流圏上層の応答は顕著な赤道向きの発散風によって特徴づけられる。この発散風は南半球へ高気圧渦度を輸送する役割をもつ。夏季モンスーン循環は対流加熱によって誘因されたMJO循環の上下非対称性を強め、そのために、傾圧性の大きい発散性擾乱であるMJO内に順圧成分を生み出す効果がある。
    中緯度45日周期擾乱(ISO)は北太平洋を横切る大円に沿った順圧的な波列パターンの一部として出現し、北太平洋の西風ジェットの出口付近(40°-50°N、180°-150°W)で最大振幅をもっている。この現象は、以下の二つの複合要因からもたらされる。MJOの北への伝播に伴って、モンスーンの効果で生成したMJOの順圧成分は季節内変動スケールの熱帯-中緯度相互作用を導く。すなわち、45日周期をもつ対流活動がフィリピン付近で極大になると、MJOの順圧成分が順圧ロスビー波の分散の起源として働き、中緯度における順圧渦的擾乱ISOの発達に寄与する。一方、エンストロフィー収支解析の結果から、西風ジェットの出口付近にみられるISOの強い変動度は主に平均流とISO擾乱との順圧相互作用に起因すると考えられる。
  • Jun Du, Han-Ru Cho
    1996 年 74 巻 6 号 p. 891-908
    発行日: 1996/12/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    梅雨前線上の下層のポテンシャル渦度の極大の不安定によってメソスケール対流系が発生することを提案した。もっとも不安定な波動の1日スケールの成長率は積雲の加熱の強さに依存する。積雲の加熱のパラメータが臨界値よりも小さい場合には、波動はポテンシャル渦度偏差の前線に直交する幅の8-15倍の波長を持ち、対流で変形されているものの順圧不安定的な構造を持つ。一方、パラメータが臨界値よりも大きい場合には、波動はほとんどのエネルギーを積雲の加熱からもらい、その構造は積雲の加熱だけで作られるものと同じようになる。この場合のもっとも不安定な波動の波長は1700-2100kmであり、ポテンシャル渦度偏差の幅にはほとんど依存しない。
  • 田中 博, 木村 和央, 安成 哲三
    1996 年 74 巻 6 号 p. 909-921
    発行日: 1996/12/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    本研究では、モデル大気の自然変動の大きさや周波数応答特性を解析するために、簡単な順圧プリミティブ方程式モデルを長期間(1000年)積分し、その時系列のスペクトル解析を行なった。
    年周期強制を除いた実験では、周期約50日以上の長周期変動のスペクトル分布は一様白色であり,年々変動や百年単位の顕著な長周期変動は検出されなかった。しかし、周期約50日の特徴的な季節内振動が時系列のうえで検出され、これ以下の周期帯では周波数の-3乗に従う明瞭なレッドノイズスペクトルに遷移することが解かった。季節内振動に伴うスペクトルピークは存在しないことから、レッドノイズが一様白色に遷移する周波数で見かけ上の季節内振動が卓越することを示した。モデル大気の唯一のエネルギー供給はパラメタライズされた傾圧不安定による周期約5日の周紙帯にあり、ここから低周紙帯に向かってエネルギーが逆カスケードを引き起こし、レッドノイズやホワイトノイズスペクトルを形成している。内部力学の非線形性が卓越する周期約50日以上の周波数帯のスペトル分布はホワイトノイズとなり、一部の線形項が卓越し大気現象の時空間スケールに特徴的な線形関係が保たれる周波数帯ではそれがレッドノイズとなると考えられる。
    年周期強制を導入した実験では、ホワイトノイズ内部に生じる年周期スペクトルピークが、モデルの内部力学の非線形性によりその高調波(低調波)応答を引き起こすかどうかが調べられた。実験結果のスペクトル解析によると、励起されたスペクトルピークは年周期強制によるものだけで、高調波(低調波)酪は生じなかった。この結果から、季節内振動や年々変動がもし卓越するラインスペクトルを持つとすれば、それらは外部強制として励起される必要があり、モデルの内部力学の非線形性による年周期変動の高調波(低調波)応答では生じないことが示された。
  • 渡部 雅浩, 篠田 雅人
    1996 年 74 巻 6 号 p. 923-934
    発行日: 1996/12/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    1946-1988年の夏季アジアモンスーン降水量の長期変動を解析し、全球の海水面温度(SST)および下部対流圏の等圧面高度との関係を調べた。最近の数十年で、夏季アジアモンスーン降水量は地域により傾向の異なる長期変動を示す。すなわち、6-9月の降水量はインド南西部で増加、北西および中部インド、ヒマラヤ南麓、そしてベンガル湾に面したインドシナ半島西部で減少している。上記の43年間の全球のSSTアノマリに回転経験的直交関数(R-EOF)解析を行なうと(Shinoda and Kawamura,1994)、第二成分(R-EOF2)はインド洋SSTの昇温傾向を示す。このR-EOF2と夏季モンスーン降水量との相関解析の結果は、両者の高い相関がそれぞれの線型傾向に依っていることを示している。SSTのR-EOF2モードはモンスーン降水量だけでなく、熱帯の850hPa等圧面高度とも高い相関をもつ。また、高い相関を示す地域では、850hPa高度が顕著な線型傾向を示している。線型傾向のパターンは、アフリカと西太平洋で高圧傾向、インド洋北部で低圧傾向という東西対照性を示している。インド亜大陸上では、降水量の増加している地域、減少している地域が下部対流圏の低圧傾向、高圧傾向にそれぞれ対応している。6-9月の各月の解析から、夏季アジアモンスーンの長期変動は興味深い特徴を示すことが分かった。すなわち、6・8月には降水量増加傾向と850hPa高度の低圧傾向がインド全域に広がる一方、7・9月にはそれらはインド南西部に限られる。
  • 金久 博忠
    1996 年 74 巻 6 号 p. 935-939
    発行日: 1996/12/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    歪んだ一般流の中のサイクロンのβ-Gyreの回転の方程式を順圧非発散の系で導いた。一般流は、東西および南北方向に変動しているが、座標の2次関数と仮定した。全体の流れは、一般流と軸対称循環とβ-Gyreの流れから成ると仮定した。得られた方程式は次の事を示した。β効果はβ-Gyreの中心をコリオリ因子の勾配に垂直な方向へ向かせる様に働く。軸対称循環はβ-Gyreを反時計回りに回す。一般流の変形成分はβ-Gyreの中心が変形行列の伸張軸に沿う様に働く。一般流の回転成分はβ-Gyreを相対渦度の半分の角速度で回転させる。一般流の二階微分係数は相対渦度の勾配を通じてのみβ-Gyreの回転に寄与し、これはβ効果と定性的に同じ働きをする。
  • 大崎 祐次, 増田 悦久
    1996 年 74 巻 6 号 p. 941-945
    発行日: 1996/12/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    通信総合研究所沖縄電波観測所では、ウィンドプロファイラを用いて低層大気の観測に関する研究を行っている。ウィンドプロファイラは、大気乱流からの散乱波を受信することにより、風の三次元ベクトルの高度分布を観測することができるドップラーレーダである。沖縄電波観測所の周囲には小さな森が点在しているために、アンテナサイドローブを通して木の葉等からの散乱信号がドップラースペクトラム中に混入し、風向・風速の推定精度を劣化させることが分かった。そこで、ウィンドプロファイラにより観測されたドップラースペクトラム中のグラッタ成分をソフトウェアにより除去することを試み、この手法の有効性をラジオゾンデのデータと比較することにより確認した。
  • 田中 博, 叶木 律子, 安成 哲三
    1996 年 74 巻 6 号 p. 947-954
    発行日: 1996/12/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    北極海上の渦度が1988年を境に、負(高気圧性)から正(低気圧性)に転じたことがWalsh(1994)により報告されている。本研究ではWalshが解析した近年のこのような渦度の急変を再検討し、その急変がどのような鉛直構造になっているのかを調べた。
    解析の結果、北極海上の高度場が1988年以降対流圏で一様に低下し、それに伴い極渦の渦度が一様に増大していることが明らかになった。つまり、大気上層の極渦の強化に伴い下層のボーフォート高気圧が衰退しているという事実が確認された。本研究の結果によると、ボーフォート高気圧による海氷の風成循環に異変が生じ、フラム海峡を経て北大西洋に運ばれる海氷の量が変化し、北大西洋の大規模熱塩循環に多大な影響を与えることが危惧される。
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