気象集誌. 第2輯
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78 巻, 2 号
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  • モデルシミュレーション
    伊藤 昭彦, 及川 武久
    2000 年 78 巻 2 号 p. 103-110
    発行日: 2000/04/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    1998年は、1860年以降で最も高温(長期平均に対し+0.58℃)であったが、この高温が大気-陸上生態系の間の炭素収支に大きな影響を与えた可能性が高いことを、全球生物圏モデル(Sim-CYCLE)のシミュレーションによって示した。
    NCAR/NCEP再解析による1961~1998年(38年間)の全球気候データを用いて、空間分解能T62(陸域5828点、Matthewsの植生図を適用)の格子点モデルで1ヵ月ステップの炭素収支の時系列とその空間分布を推定し、また38年間の平均に対するアノマリー成分を算出した。その結果、1998年の全陸上生態系の炭素収支は実験期間中で最大の負のアノマリー(2.7PgC yr-1の正味放出)を示した。その主な原因は、1997-98年の大規模なENSOの影響で全球的な高温と地域的な多雨が発生したことにより、植物の呼吸と土壌有機物の分解に伴うCO2放出が促進されたものと推定された。主要な炭素放出源はシベリア東部、南アメリカ北部、アフリカ南部に存在していた。この炭素収支のアノマリーは大気CO2濃度に換算して+1.26ppmv yr-1に相当し、1998年に観測された平均の2倍近い大幅な大気CO2濃度上昇の主要因となった可能性を示唆している。
  • 内藤 勲夫, Y. -H. Zhou, 杉 正人, 川村 隆一, 佐藤 信夫
    2000 年 78 巻 2 号 p. 111-122
    発行日: 2000/04/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    1955年から1994年までの40年間の世界の海面水温データを境界条件として、気象庁全球モデルでシミュレートされたアンサンブル平均の大気運動データから、地球回転力学に必要な極軸および赤道軸成分の大気角運動量(AAM)関数を月毎に算出し、それらをNCEPの再解析データおよび気象庁のルーチン解析データから算出されたAAM関数および観測された一日の長さ(LOD)および極運動データと比較した。1984年-1994年の期間でのシミュレートされた極軸成分のAAM関数の風速項(帯状風による無次元大気相対角運動量)の年周変化は二つの解析データに基づく計算値およびLODからの推測値に良い一致を示した。しかし、半年周変化ではシミュレーションは著しく過剰な振幅を示した。これは亜熱帯帯状風の不完全な再現によると示唆される。同様にシミュレートされた赤道軸成分のAAM関数の気圧項(大気の質量再分布による無次元大気慣性乗積)の年周変化は二つの解析データに基づく計算値を大幅に上回る振幅を示した。これはシミュレートされたユーラシア大陸と北太平洋の間の大気質量循環が、解析データのそれに比べて、過剰であることによる。1955年-1994年の期間の年々変動では、極軸成分の風速項のみが再現され、それはNCEPの再解析データに基づく計算値および南方指数の変動とよい相関を示した。以上の結果から、SSTで強制された大気モデルはLOD変動を励起する大気の極軸モードをよく再現するが、極運動を励起する大気の非極軸モードの再現性は悪いことが分かる。
  • Tri W. Hadi, 津田 敏隆, 橋口 浩之, 深尾 昌一郎
    2000 年 78 巻 2 号 p. 123-140
    発行日: 2000/04/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    乾季の赤道域インドネシアにおいてLバンド境界層レーダーで得られた高時間分解能データを解析に用いた。境界層レーダーに加えて、レーウィンゾンデや地上気象測器による観測データを用いて、従来の研究で検出可能性が報告されていた赤道域の海風循環の存在をより明らかな事実として発見できた。また海風循環だけでなく、シア流に対応して非常に弱いエコーのパターンが数ケースで見られた。この原因は長寿命の乱流を生成すると考えられているKHタイプの不安定が、屈折率勾配を局所的に小さくするためと考えられる。海風の侵入によって、惑星境界層は一様な状態がくずれ、異なる特徴を持ついくつかの層に分かれた。定量的な議論はここでは行わないが、今回赤道域で観測された海風の鉛直・水平スケールは必ずしもコリオリ因子には依存しないようであった。
  • 二宮 洸三
    2000 年 78 巻 2 号 p. 141-157
    発行日: 2000/04/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    1991年7月1~10日に揚子江流域を中心とする東アジアに豪雨をもたらした梅雨前線の大規模およびメソ-α-規模の様相と、その維持に寄与する周辺循環系の作用を解析した。
    この期間、大平洋亜熱帯高気圧の西方伸張に伴って、梅雨前線は著しく強化された。前線帯下層における水蒸気流束の収束は、大平洋高気圧の北西縁で極大となり、特に南北収束が大きい。これに対し、南シナ海の高気圧圏内では大きな東西収束と南北発散が見られる。前線帯の大きな潜熱放出による熱源は、同時的に前線帯の鉛直循環の維持に寄与する。
    梅雨前線帯下層の相当温位のシンクは相当温位傾度を弱めるが、大規模場の合流収束場の移流過程は相当温位傾度を強め、両者がほぼ均衡して強い相当温位傾度を維持する。また、対流活動は前線帯の鉛直不安定を解消するが、3次元的デファレンシャルアドベクションは鉛直不安定を増加させ、両者がほぼ均衡し豪雨域で湿潤中立に近い成層を維持する。
    梅雨前線帯下層の強い収束とその南側の強い発散は、大平洋高気圧西北縁の大きな曲率を持つ流れの加速度に対応する強い非地衡風によってもたらされ、多降水域と寡降水域の著しいコントラストを生じる。
    この期間、~50N、~110Eに切離低気圧があり、その後面では中高緯度から擾乱が南下し梅雨前線に接近して、梅雨前線帯の対流活動を活発化した。
    ~30Nゾーンの90-100Eでは積雲対流の日変化が大きいが、~105E以東では東進するメソ-α-規模雲システムが顕著である。それらは下層の低気圧性循環を伴い豪雨域で強化され、梅雨前線の中立に近い湿潤安定成層の傾圧ゾーンを東進しつつ小低気圧に発達する。
  • 海面水温と大気加熱の間の東西方向の位相差に対する感度
    Soon-Il An
    2000 年 78 巻 2 号 p. 159-165
    発行日: 2000/04/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    長い時間スケールを持つ結合モード(いわゆる“スローモード”)のメカニズムを海面水温と大気加熱の間の東西方向の位相差に関連して理解するために、大気海洋結合モデルの固有モード解析をおこなった。スローモードの振動数および不安定性の双方とも海面水温と大気加熱の間の東西方向の位相差に大変敏感である。正の大気加熱が正の海面水温偏差に対し西1/4波長から東1/4波長の間に位置するとき、スローモードは東へ伝播する不安定モードとなる。大気加熱がこれより東方へずれると、強制ケルビン波に似た東進波は減衰モードとなる。一方、加熱が海面水温より1/4波長以上西にずれるとスローモードは西へ伝播する不安定モードとなる。この西進波は強制ロスビーモードに似ている。東進および西進スローモードの海面水温変化をもたらす主要因は、それそれ躍層深度および海流による東西移流の変化である。海洋の赤道波の位相速度を無限大とするいわゆる“fast-vaveリミット”および非回転系の近似のもとでのスローモードについても言及される。
  • Adam H. Sobel, 堀之内 武
    2000 年 78 巻 2 号 p. 167-173
    発行日: 2000/04/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    ITCZやモンスーントラフ域で観測される回転性の総観規模風速擾乱の幾つかの側面は、大きなメソスケール対流システムに特徴的な振幅や時・空間スケールを持つパルス的加熱に対する、乾燥・静止大気の線形応答を考えることで理解できることを議論する。その鍵は、短波長のロスビー波の平均流から見た群速度、位相速度は小さいことと、加熱が赤道上よりも赤道から少し離れた位置にあるほうがロスビーモードの応答は遥かに大きなエネルギーを持つことである。故に、観測される擾乱に似た特徴を持つ総観規模ロスビー波は、大きなメソスケール積雲システムが発達する赤道を少し離れた領域に存在するということになる。
  • 高木 哲郎, 木村 富士男, 河野 聡子
    2000 年 78 巻 2 号 p. 175-180
    発行日: 2000/04/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    ラサにおけるGPSデータを用いて高時間分解能で可降水量を求めた。プレモンスーン期とモンスーン期の平均の可降水量はそれぞれ10mm、25mmであり、モンスーンのオンセット時に短期間ので急激な可降水量の増加が見られた。また両期間ともに顕著な可降水量の日変動が確認できる。可降水量の日最小値は平均でプレモンスーン期には1800LST、モンスーン期には1500LSTにみられる。この結果からラサにおける水蒸気の日変動は局所的な谷地形の影響を強く受けていることが推測される。
  • 高木 征弘, 松田 佳久
    2000 年 78 巻 2 号 p. 181-186
    発行日: 2000/04/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    夜昼間対流の安定性を、自転(コリオリカ)の効果を含めた場合について調べた。
    様々なパラメータの値について、夜昼間対流を表現する非線型解を数値的に求めたところ、あるパラメータ領域ではコリオリカの効果で対流が赤道域に制限されることが示された。しかし、線型解析の結果、今回調べたパラメータ領域では夜昼間対流は常に安定であった。
  • 花輪 公雄, 安中 さやか, 眞鍋 輝子, 岩坂 直人
    2000 年 78 巻 2 号 p. 187-195
    発行日: 2000/04/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    Folland and Parker(1995)は、統合海洋気象データセット(COADS)のような船舶通報に基づく歴史的海面水温(SST)資料に対する補正(いわゆるバケツ補正)を提案している。この補正の妥当性を検討するため、SST資料と日本周辺の9つの観測点で取得されてきた長期の沿岸水温(CSST)資料との比較を行った。本研究では、この目的のため、9つの沿岸水温観測点周辺の海面水温資料を、COADSと最近気象庁/気象協会から公表された神戸コレクション資料から作成した。解析の結果、9つの沿岸水温観測点のうち、5つの観測点が比較に適していることが見出された。Folland and Parkerが提案した補正をこれら歴史的SST資料に施すと、3つの観測点ではほぼ完全に系統的バイアスを補正し、残り2つの観測点ではバイアスの40-50%を補正することが分かった。
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