気象集誌. 第2輯
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78 巻, 3 号
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  • 高田 久美子, 木本 昌秀
    2000 年 78 巻 3 号 p. 199-221
    発行日: 2000/06/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    凍土の気候システムに対する熱的・水文的インパクトについて大気大循環モデル(AGCM)を用いて調べた。土壌凍結を入れた実験と入れない実験、即ち凍結融解の潜熱と凍結時の不透水性を入れた実験と入れない実験の差から、土壌凍結を考慮することによって夏季に中高緯度陸上の地表気温が高くなることが示された。これによって東南アジアで水蒸気フラックスと降水が強化する。夏季の陸上の高温は、表層の土壌水分が少なくなって、蒸発が減少するためである。表層の土壌水分が少なくなるのは、春季に凍土の不透水性によって融雪水の流出が増大するためと、土壌の深層が凍結していることによって蒸発しうる液体の土壌水分が少ないためである。大陸の中央部では、蒸発量が小さくなることによって降水量が小さくなる。また、可能蒸発量が大きいところでは土壌水分の変化に対する気温変化の感度が大きいことが示された。冬季には、凍土域の土壌深層の温度は凍結潜熱によって高くなるが、地表気温の変化は大気の力学的な応答によってより強く支配されていると見られる。様々なスキームやパラメタを用いた1次元陸面過程モデルでもAGCM実験と同様なインパクトが得られた。
  • 岩崎 博之, 木村 富士男, 中川 清隆, 三木 貴博, 木股 文昭, 島田 誠一, 中尾 茂
    2000 年 78 巻 3 号 p. 223-231
    発行日: 2000/06/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    マイクロ波放射計で得られた可降水量を真値と考え、水蒸気勾配がGPS可降水量の精度に与える影響について調査した。GPS可降水量とマイクロ波放射計の観測値と比較すると、相関係数は0.991、rmsは1.93mであり、二つの可降水量は非常に良く一致した。
    GPS可降水量の誤差は、変動の時間スケールから、二つの種類に分類された。一つの誤差は、数日の時間スケールで変動し、その振幅は2.5mmであり、GPS観測点周辺の水蒸気勾配の大きさと有意な相関があった。もう一つの誤差は寒冷前線や温暖前線の通過に関連して観測される。その誤差は数時間スケールで変動し、その変動幅は最大で10mmであった。この評価誤差は、水蒸気勾配の大きさそのものではなく、急激な水蒸気勾配の変化と対応していた。
  • 播磨屋 敏生, 石田 晴彦, 村本 健一郎
    2000 年 78 巻 3 号 p. 233-240
    発行日: 2000/06/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    今までの少数データから得られた観測結果を再検討するために、地上で雪片粒径分布の観測を行い、特徴とその形成機構をまとめる。
    平均的な粒径分布は、降雪強度が強くなるにつれて指数分布を保ちながら数密度の多い方へ平行移動する。このことは、Gunn and Marshall(1958)の報告した降雪強度の増加とともに粒径分布が広くなるという結果とは異なる。また降雪強度が等しい場合でも、指数分布の傾きを少し変動させるような小さな変化も重なって起こるという特徴があった。その指数分布の傾きを決める要因は、雪片の密度と付着雲粒量であることが示された。
  • C. Prabhakara, R. Iacovazzi Jr., J. A. Weinman, G. Dalu
    2000 年 78 巻 3 号 p. 241-258
    発行日: 2000/06/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    熱帯降雨観測衛星(TRMM)に搭載されているマイクロ波放射計(TMI)の85GHz輝度温度は、メソスケール対流システムを含む領域で頭著な極小値を示す。それは、約5.5kmという高い空間分解能と85GHzチャンネルの強い消散特性によるものである。TRMMに搭載されている降雨レーダーによる同時観測によって得られた地表降雨強度マップから、この85GHz輝度温度の極小値は、強い散乱特性を持つ降雨強度が最大の部分に対応することが示された。このように降雨レーダーで得られる降雨強度マップを用いれば、経験的にTMIデータから三つの異なる種類の雷雲あるいは積乱雲の存在を推定できる。これらの積乱雲は発達期、最盛期、減衰期に分けられ、平均20km程度の大きさであると考えられる。これら三つの積乱雲を区別するために、二つのパラメーターが用いられる。すなわち、a)散乱による85GHz輝度温度の低下、およびb)極小値の周りの85GHz輝度温度の平均的な傾きである。どのような種類の積乱雲であるかということが分かれば、それに関連づけて降雨強度を推定することができる。その推定は、それぞれの積乱雲の種類ごとの降雨強度と85GHz輝度温度極小値の関係から求められる。同様に、85GHz輝度温度が260K以下の弱いバックグラウンド的な降雨強度は、また別の関係を用いて推定される。我々の降雨推定モデルにおいては、このバックグラウンド降雨は積乱雲が存在しない層状雲からの雨に対応している。これらの関係はいくつかのメソスケール対流システム現象に対する降雨レーダーとTMIのデータから最適化される。そして、この降雨推定モデルが個々のメソスケール対流システムに適用され、弱い雨(1-10mmhr-1)、中程度の雨(10-20mmhr-1、強い雨(>20mmhr-1の降雨強度の面積分布が推定される。それぞれの降雨強度の面積とそれぞれの領域での降雨強度の推定精度は平均約15%である。本研究の方法を用いることにより、熱帯においてTMIの走査幅720kmで大気中に放出される潜熱を求めることが可能になる。
  • 全球トレーサー輸送を記述するためのラグランジュ・オイラー混合手法
    菅田 誠治
    2000 年 78 巻 3 号 p. 259-277
    発行日: 2000/06/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    様々な時間スケールを持つ大気運動の結果としての長期的全球トレーサー輸送を論じるのに用いることのできる解析法を時間閾値解析法として提起する。この手法は、数値的トレーサー実験において多数の粒子軌跡を解析するのに役立つ。ある解析面を通過する全てのパーセルの運動を考えて、通過から通過までの周期に着目する。与えられた時間閾値よりも長い周期を持つ通過だけを選択する。選択された通過を集積することにより、その閾値よりも長い時間スケールでの輸送に寄与するような、粒子の有効なフラックスを求めることができる。この方法により、大気中のミキシングリージョン間の境界を近似的に検出することができ、また、大気運動のラグランジュ的性質の時間変化を調べることができる。
    この手法の有効性を確かめるために、大気大循環モデルで得られた北半球冬の対流圏から下部成層圏に位置する多数の粒子の軌跡を調べ、いくつかの時間閾値に対して、各等緯度面を通過する有効な南北質量フラックスを求めた。二日より長い閾値を用いて求めた上部対流圏での有効な南北フラックスの緯度分布において、両中緯度は極小を示す。このことは二日より長い時間スケールの南北輸送が、上部対流圏の中緯度で妨げられていることを示している。これらの時間スケールに対して、有効な正味の南北フラックスから求めた東西平均子午面循環の流れ関数は、対流圏内で半球1セルの構造を示す。
  • Niño3領域の海面水温ピーク値のアセスメントについて
    A. K. Srivastava, K. C. Sinha Ray
    2000 年 78 巻 3 号 p. 279-288
    発行日: 2000/06/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    本研究は、インドにおける4月の循環偏差と東太平洋Niño3領域の海面水温偏差の関係を調べたものである。インド北部の降水量および東経75°における500hPaの気圧の峰の位置の2つのパラメータは、それぞれ引き続く東太平洋Niño3領域での海面水温偏差と有意な相関を持つことが見出された。さらに、この関係はエルニーニョ年により強い。エルニーニョ年には昇温のピークが10-12月に起こるので、既存の力学モデルによってエルニーニョの発生が予測されたなら、これら2つのパラメータを用いて半年先の海面水温のピーク値を予測することができる。過去11回のエルニーニョ年、すなわち1951、1953、1957、1965、1969、1972、1976、1982、1987、1992、1997年の4月の雨と500hPaの気圧の峰の位置のデータに主成分分析を施し、その第1成分との回帰関係を用いて10~12月平均の海面水温偏差をクロスバリデーション法によって予測してみたところ、3月平均海面水温偏差の11サンプル間の標準偏差が0.96℃であったのに対し、予測の根二乗平均誤差は0.52℃で、よい成績であった。
  • 田中 博, 谷田貝 亜紀代
    2000 年 78 巻 3 号 p. 289-298
    発行日: 2000/06/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    本研究では、大規模鉛直流を運動学的に推定するいくつかの計算法を相互に比較し、それらの結果をNCEP-NCARおよびECMWF再解析による鉛直流の値と比較した。比較した計算法は中央差分法、平面近似法、スペクトル法の3通りであるが、スペクトル法を3次元に拡張したノーマルモード法による鉛直流計算法を新たに考案し、他の結果と比較した。ノーマルモード法では、計算はすべて解析的であり、発散誤差の大きい重力波の固有周波数を基準にして波数切断を決めることができる。
    鉛直流の相互比較の結果、ECMWF再解析には小さいスケールの強い鉛直流が目立つのに対し、NCEP-NCAR再解析ではそれが平滑化されており、鉛直構造も異なるという特徴が見られた。ノーマルモード法は、複雑地形上でも極端な鉛直流の値を示さないので、大気大循環の解析的研究に有用であることが確かめられた。
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