気象集誌. 第2輯
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78 巻, 5 号
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  • 楠 研一, 永戸 久喜, 赤枝 健治
    2000 年 78 巻 5 号 p. 511-525
    発行日: 2000/10/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    1998年1月15日に関東平野上空に発生した低層内部重力波の解析を行なった。空港気象ドップラーデータおよび航空機の風と気温データ(ACARS)により高時間・空間分解能のユニークな観測が可能となり、それにより内部重力波の詳細な構造と環境、特に波のダクト機構の解析が実現した。
    ドップラーレーダーによると、水平波長は約6.5km、対地位相速度は約4m/s、伝播方向は50°(北東)で、波の領域は水平80-100kmに広がっていた。ドップラーデータの解析から、波はコヒーレントな構造を保って1時間以上持続し、孤立した波束として水平方向に伝播したことが示された。ACARSのプロファイルからは、鉛直シアを伴う強い安定層の存在が示された。安定層上には臨界高度を含むほぼ中立な層が存在し、臨界高度付近のリチャードソン数は0.25に近かった。これらの結果は、波はダクト内にトラップされ、強制力なしでエネルギーの大きな損失をせずに伝播していったことを示している。
    観測された水平波長、水平速度振幅のプロファイル、地上気圧変動の振幅は、理論計算から導かれた値と良い対応を示した。
    地上気圧のパワースペクトルおよびバンドパスフィルター解析により、地上気圧変動の周波数と位相は内部重力波の理論的関係と一致し、内部重力波の通過によって起こされた事が示唆された。
  • T. N. Krishnamurti, Bhaskar Jha, H. S. Bedi, U. C. Mohanty
    2000 年 78 巻 5 号 p. 527-542
    発行日: 2000/10/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    降水と可降水量に関連した物理過程のイニシャリゼイションを使い、観測された降雨を取り込んで、非常に高分解能の全球モデルから非断熱加熱率を精度よく求めた。(基本および加工)同化データセットを等温位面に内挿し、1992年12月1日と1995年10月4日のケースについてポテンシャル渦度方程式の詳細な解析をおこなった。
    ポテンシャル渦度のEltelの方程式には、ポテンシャル渦度の水平移流に加えて、非断熱加熱の鉛直と水平微分両者からの寄与と摩擦効果からの寄与が含まれている。ふつうそれらの項は10-12kg-1m2s-2Kのオーダーである。ポテンシャル渦度の局所的な収支に対する重要な寄与は次の2つによってもたらされる。(1)降水域における対流加熱の差、および(2)貿易風帯における浅い雲上端の放射冷却である。中部対流圏(325K等温位面付近)と下部対流圏(平穏な熱帯層積雲の上端の少し上-310K-と下-305K)についてこの問題を見てみると、加熱差からくる非断熱加熱効果がポテンシャル渦度の生成に著しく寄与していることがわかる。
    ポテンシャル渦度を保存するようなモデルを使った熱帯域の短期予報は、非常に大きな誤差成長を示すが、非断熱効果を取り込むことによってそれを減少させることができる。熱帯域における空気塊の3次元流跡線解析によると、12から24時間の間、それらの空気塊はしばしばいくつもの物理的な過程を経ながら、ポテンシャル渦度のかなりな変化をもたらす。熱帯域では平穏な領域ばかりでなく平穏ではない多くの領域で、ポテンシャル渦度の非保存性が重要であると思われる。
  • 松本 淳, 村上 多喜雄
    2000 年 78 巻 5 号 p. 543-561
    発行日: 2000/10/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    赤道対称な半旬平均OLRデータを用いて、赤道付近における対流活動の中心域と時期を決定し、対流活動の年変化機構について調べた。赤道アフリカや赤道アメリカの大陸上では、太陽の季節的運行に伴って春と秋に対流活動ピークをもつ半年周期が卓越する。
    赤道海洋域における積雲活動は、ロスビーの変形半径内(約15°N-15°S)で卓越し、その季節変化は主として変形半径外からの遠隔作用によって支配される。赤道西太平洋(EWP)における対流活発期は11月から翌年の3月である。西部北太平洋の夏のモンスーン(WNPM)に伴うトラフが11月までに赤道に到達すると、気圧場は赤道対称となり、東西および南北方向の気圧傾度に沿って収束が起こる。1月には赤道に向かって張り出してきた北太平洋高気圧の南縁で北よりの風の収束がもっとも強くなり、EWPの最盛期を迎える。冬季のEWPは赤道上における波数1と2の東西循環のエネルギー源となる。地上における低圧部の位相は、季節とともにインド洋-西太平洋にまたがって時計回りに移動する。すなわち、75°Eでは春から夏に北進、10°Nでは夏から秋に東進、155°Eでは秋から冬に南下、さらに10°Sでは冬から春に西進する。EWPにおける対流活動は、南進位相の時に活性化する。
    東南アジアの夏のモンスーン(SEAM)トラフの南側では、気圧傾度に向かって吹く南風が赤道域に発散をもたらすので、赤道インド洋(EIO)上の夏季の対流活動は比較的弱い。EIOにおける対流活動最盛期は、経度80°-100°E(EIO1)と100°-120°E(EIO2)とで大きく異なる。EIO1における対流活動は、SEAMが終わってから盛んになり、10月が最盛期となる。この原因はインド洋高気圧によってもたらされた赤道上での西高東低の気圧傾度が西風を加速し、いわゆるβ-効果によって収束が起こるためである。一方、EIO2ではシベリアからの高気圧の張り出しのために、12月が対流活動最盛期となる。この冬のモンスーンは、EIO2上の対流活動に対して二重の効果を及ぼす。まずシベリア高気圧南縁の南シナ海上では、気圧傾度に向かう北よりの風がスマトラやボルネオの対流活動中心域に南北の収束をもたらす。次にアラビア海やベンガル湾へのシベリア高気圧の張り出しは、赤道に沿う西高東低の気圧傾度を増大し、β-効果によって収束をもたらす。地上低圧部の北進位相、すなわち春には、EIO上の対流活動は弱く、西太平洋と対照的である。
  • 秋吉 英治
    2000 年 78 巻 5 号 p. 563-584
    発行日: 2000/10/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    温室効果ガスやハロゲンガスなど、大気中の放射場に影響を与える微量成分濃度が将来変化した場合にも適用可能な、中層大気のファミリー法による光化学と光化学-放射結合過程の計算スキームの開発を行った。また、このスキームを用いた1次元光化学-放射結合モデルを構築し、スキームの検証を行った。論文では、平行平面板大気に基づいたどの放射スキームについても適用できる微量成分の光解離計算法、1次元グローバルモデルのための平均太陽天頂角の定義、エアロゾルや極成層圏雲上での不均一反応過程の導入が容易な光化学計算スキームなどが示される。モデルには、全部で163種類の成層圏で必要と思われる酸素系、酸化水素系、窒素系、炭化水素系、塩素系、臭素系物質の気相反応を導入した。不均一反応過程はこの論文では取り扱われていないが、後でその導入が容易なように、不均一反応に関わる物質をファミリーから外し予報変数にして光化学スキームを組み立てた。開発したスキームを用いて1次元モデルにより計算された定常状態での気温と大気微量成分の濃度及び光解離率の鉛直分布が示され議論される。これらの分布は、JPL-97に示されている分布と比較され、それらがこのモデルによって正しく計算されていることが確かめられた。また、この光化学-放射結合モデルを用いて二酸化炭素の突然倍増実験を行ったところ、光化学-放射結合モデルと微量成分の光解離係数を一定にしたモデルとの間で、計算されたオゾン全量の変動に違いが見られた。結合モデルにおいてオゾン全量がより長い期間ゆっくりと変動した原因について考察を行った。二酸化炭素倍増によって増加したオゾンによる太陽光の減衰効果は、成層圏下部で大気微量成分の濃度に与える影響が大きいことが示される。
  • 豊田 威信, 河村 俊行, 若土 正暁
    2000 年 78 巻 5 号 p. 585-596
    発行日: 2000/10/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    1996年と1997年の2月上旬に行われた気象、海氷の現場観測を基に、オホーツク海南部の海氷域における海氷域表面の熱収支を見積もった。計算に必要となる海氷密接度、永厚分布はビデオ観測から定量的に求めた。熱フラックスの計算は鉛直一次元熱力学モデルを用いて氷厚別に行い、領域全体の熱フラックスは各氷厚の面積の重みをかけて足し合わせて求めた。その結果、(1)比較的薄い海氷が多いため、乱流フラックスは上向きであり、海氷域が乱流フラックスとして大気に熱を与えていること、(2)領域全体の乱流フラックスに対して開水面と薄氷域が大きく寄与していること、(3)平均海氷成長量は1cm/day以下であり、熱力学的な成長は限られていること、などが分かった。(1)と(3)は比較的低緯度に位置するこの海域の特徴と考えられ、(2)は比較的厚い海氷が卓越する極域海氷域における特徴と同様である。また、計算結果から、日中は短波放射により表面融解が生じていることが示唆された。現場の海氷サンプルの塩分は極域一年氷よりも約3パーミル低く、むしろ多年氷に近い値を示した。多年氷は主として夏期の表面融解により低塩分化することが知られており、同様の表面融解が2月のオホーツク海南部でも生じていると考えられる。
  • 河鰭 公昭, 小川 英夫, 米倉 覚則, 大西 利和, 水野 亮, 福井 康雄, 岩坂 泰信, 柴田 隆, 酒井 哲, 今岡 啓治, 鈴木 ...
    2000 年 78 巻 5 号 p. 597-609
    発行日: 2000/10/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    名古屋大学による地上30-80kmの成層圏・中間圏オゾン量の測定とつくばの気象庁高層気象台における反転法による観測との相互比較を行い、第6-9層(気圧15.8-0.99hPaに対応)において良い一致が得られた。第10層(0.99-0hPa)では、冬季に電波観測でのみ1週間程度の期間の短期のオゾン増加が観測された。この相違は反転法では第10層では1.5m atm-cmを超すと飽和が起こる為と推測される。上部成層圏から中間圏に至る領域の季節変化を求め、気圧P=0.013,...,10hPa(logP=1.000,...,-1.875)の範囲のオゾン混合比の年周変化、半年変化のフーリエ成分を表にして与えた。従来オゾン混合比の月平均値のプロットで見られた1-0.1hPaの領域でのQBO的変化が、この領域のオゾン量に1週間程度の変動が付け加わることによることを示した。この短期のオゾン増加は1992-1993,1994-1995年の冬に特に激しかった。このオゾン量の変動は温度の変動と相関が無く、気温の変動によるオゾン量の変動とは考えられない。その成因としては、RandelとWu(1996)の提唱している下部および中部成層圏の上下循環の変動によるオゾン及び二酸化窒素QBOの延長を示唆した。
  • 田中 博, 野原 大輔, 横井 みずほ
    2000 年 78 巻 5 号 p. 611-630
    発行日: 2000/10/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    本研究では、韓国のIce Valleyと福島県の中山風穴の現地観測結果を基に、0次元モデル、流路に沿った1次元モデル、鉛直断面としての2次元モデルを開発して、風穴循環の一連の数値シミュレーションを行なった。これらの風穴は、周辺の稀少な高山植物の生育により国の特別天然記念物に指定されているが、近年氷の減少傾向が見られ、その原因究明が急務となっている。
    現地観測および数値実験の結果として、以下のことが明らかになった。(1)風穴循環の主な駆動力は、外気と崖錘内部の気温差による水平気圧傾度力である。(2)崖錘内部の空気の滞留時間は約2日であり、平均的な風穴循環は、約1mm/sと推定される。(3)春から夏にかけてのカタバ風としての冷風穴循環は、秋から冬にかけてのアナバ風としての温風穴循環と入れ替わる。(4)崖錘表面に植生が殆どないIce Valleyの場合、夏季の安定したカタバ流とは対照的に冬季には不安定による対流混合が発生し、このような風穴循環の夏冬非対称性が、崖錘内部の平均温度を下げる熱フィルターの役割を果たす。
    外気が暑ければ暑いほど、崖錘内部のカタバ風が強くなることは注目に値する。Ice Valleyや中山風穴における夏期氷結の謎は、部分的ではあるが、この風穴循環のメカニズムによって説明することができる。
  • 前田 修平, 小林 ちあき, 高野 清治, 露木 義
    2000 年 78 巻 5 号 p. 631-646
    発行日: 2000/10/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    ブロッキング流の持続メカニズムを調べるために、二つのタイプの現実的な基本場の回りに線形化した球面上の順圧モデルを用いた数値実験を行った。基本場としては、アラスカ付近でブロッキング流が卓越した流れ(ブロッキング流型)と北太平洋でゾーナル流が卓越した流れ(ゾーナル流型)を用いた。
    実験では、まず、東アジアで生成されジェットの北縁に沿って東向きに伝播する高周波擾乱を与えてモデルを時間積分し、時間平均渦度流束発散を求めた。次に、得られた渦度流束発散を擾乱渦度強制として用いて二次流れを計算した。その結果、ブロッキング流型の場合には二次流れがブロッキングを強化するが、ゾーナル流型の場合にはそうではないことがわかった。
    基本場による二次流れの違いの理由を明らかにするために、行列形式の順圧渦度方程式を特異値分解(SVD)した。その結果、ブロッキング流型の場合には、主要な特異モードが基本場のブロッキングに似た空間構造をしており、擾乱渦度強制がこれらの特異モードを効果的に励起し、基本場のブロッキングを強化していることがわかった。一方、ゾーナル流型の場合にはそのような特異モードはないこともわかった。
    しかしながら、実験結果が高周波擾乱を与える位置に依存することもわかり、このことは順圧モデルを用いて高周波擾乱のブロッキング流へのフィードバックを調べることの限界を示している。
  • Xiaofan Li, C. -H. Sui, K. -M. Lau, D. Adamec
    2000 年 78 巻 5 号 p. 647-659
    発行日: 2000/10/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    2次元の雲解像大気モデルと、1次元または2次元の海洋モデルを結合した大気海洋結合モデルによる実験を行い、降水により引き起こされる海洋の小スケールの擾乱が、海洋混合層の熱と塩分の収支に及ぼす影響を調べた。結合モデルの雲解像大気モデルには、TOGA COAREの期間の7日間の観測から求めた、大規模鉛直流による強制を与えた。1次元及び2次元の海洋モデルによる結合モデル実験で、水平平均の混合層の塩分濃度と温度の差は、それぞれ0.3 PSU及び0.4℃となった。2次元海洋モデルと結合した実験では、対流域では淡水フラックスにより混合層が浅くなるが、非対流流域では、夜間に熱フラックスによる冷却により混合層が深くなる。一方、1次元海洋モデルと結合した実験では、持続的な降水により浅い混合層が維持される。このような混合層の深さの違いのため、塩分のエントレインメント率、冷却率に差ができて、塩分濃度や温度の違いがもたらされる。強い対流性の降水は、弱い降水域または晴天域に囲まれた狭い領域で起こる。一方、熱フラックスの日変化は、空間的に高い相関をもって起きている。このため、海面の淡水フラックスは、熱フラックスよりも大きな空間変動を示す。その結果、海洋混合層の密度変化に対して、塩分濃度の変動の方が、温度の変動より大きく貢献する。
  • Hyo-Suk Lim, Chang-Hoi Ho
    2000 年 78 巻 5 号 p. 661-672
    発行日: 2000/10/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    全球降水気候値プロジェクト(GPCP)バージョン1の合成熱帯降水量を欧州中期気象予報センター(ECMWF)、米国国立環境予報センター/国立大気科学研究センター(NCEP/NCAR)、米国航空宇宙局-ゴダード地球観測システム-1(NASA-GEOS-1)の再解析プロジェクトによる同化降水量と比較する。本解析では、30°S-30°Nの領域、1987年7月-1993年12月の期間に焦点を絞る。年平均降水量では、ECMWFはGPCPに比較して過大評価である。一方、NCEP/NCARとNASA-GEOS-1は、ITCZとSPCZとにおいて過小評価となっている。GPCPと3つの再解析データとの間の降水量の年内変動および年々変動の相違の分布は、年平均分布の相違の様相と似ている。全体として、熱帯海洋上の降水量の変動度はECMWF、GPCP、NASA-GEOS-1、NCEP/NCARの順に高い。領域平均降水量と東太平洋赤道域の海面水温との相関特性についても比較し議論する。
  • 1998年に見られた大きな大気中の二酸化炭素濃度の増加
    渡部 文雄, 内野 修, 城尾 泰彦, 青野 正道, 東島 圭志郎, 平野 礼朗, 坪井 一寛, 須田 一人
    2000 年 78 巻 5 号 p. 673-682
    発行日: 2000/10/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
    気象庁では1987年1月から綾里、1993年3月から南鳥島、1997年1月からは与那国島において、非分散型赤外線分析計を用い、大気中の二酸化炭素濃度を連続的に測定している。最も観測データが蓄積されている綾里では、エルニーニョ現象やピナトゥボ火山噴火に伴う二酸化炭素濃度増加率の大きな年々変動が見られ、全球的な気候変化と炭素循環の変動が密接に関係していることが示唆される。また、1998年には前年の年平均濃度と比べた年増加量が、綾里では3.0ppm、南鳥島では2.8ppm、与那国島では3.1ppmで、綾里と南鳥島では観測開始以来最大の大きさであった。この大きな年増加量は1997/1998年の大規模なエルニーニョ現象が引き起こしたと考えられる。
  • 宮原 三郎, 山本 大介, 三好 勉信
    2000 年 78 巻 5 号 p. 683-688
    発行日: 2000/10/25
    公開日: 2009/09/15
    ジャーナル フリー
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