2016年 8月の台風第10号による岩手県の水害は1951年,気象庁が統計を取り始めて以降,初めて東北地方の太平洋側に上陸した台風によるものであった。この台風は発生から上陸まで11 日間であり極めて長く太平洋上を迷走していた。初めて台風の洗礼を受け,甚大な被害をもたらした点においても特筆される。 本報告は岩手県および久慈市,岩泉町の協力を受けて,被害の大きかった岩手県北部の久慈川流域,小本川流域を対象に,2016年11月18日~21日に現地調査に入り資料収集などを行ったものである。久慈川流域の被害は久慈市の市街地を中心に堤防からの溢水による洪水氾濫によって住宅,商業地の浸水面積は約0.63 km
2であった。洪水氾濫の直接的要因は大量の流木が久慈 川の橋梁群に掛かり,河道の流れを阻害し,河川水位を上昇させていたと考えられる。久慈市の被害は死者 1 名,床上浸水,床下浸水,損壊など合計2,258棟であった。久慈川は河川整備基 本計画の策定がなされていなかった。 一方,小本川流域の被害調査では岩泉町の人命被害は死亡者19名,行方不明者 2 名の甚大な災害であった。岩泉町の小本川,清水川における 6 つの地区の総浸水被害集計は419棟であった。 農地の総浸水面積は1.230 km
2
の被害となった。主に未整備の堤防からの溢水や橋梁箇所での流木による流れの阻害による氾濫であった。
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