自然災害科学
Online ISSN : 2434-1037
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36 巻, 4 号
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巻頭言
速報
  • 峠 嘉哉, Grace Puyang EMANG , 風間 聡, 高橋 幸男, 佐々木 健介
    2018 年 36 巻 4 号 p. 361-370
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/10/15
    ジャーナル フリー
    2017年5月8日,東北地方では冬季の少雨による乾燥と強風の影響で、宮城県・岩手県・福 島県の3県で立手続きに林野火災が発生した。岩手県の釜石の火災事例は焼損域が極めて広く,その面積は2016年の日本全域における焼損面積を上回った。その原因は,強風によって延焼が激しく,加えて林野部では火災であったため消防車両が侵入できない等の理由で消火活動が難 航したためである。一方で,宮城県栗原市の事例の特徴は飛火延焼である。周辺の水田によって地表の延焼は防がれたものの,強風のために最大500mも飛火延焼した。 本論では,上記の火災延焼と消火活動について現地調査や聞取り調査の結果を示す。これは将来的に,地表の水分条件や気象条件による延焼過程を比較することで,風害・乾燥害という 自然災害としての林野火災についての理解を深めることや有効な消防活動等に貢献すること等を想定している。
  • 小室 隆, 赤松 良久
    2018 年 36 巻 4 号 p. 371-379
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/10/15
    ジャーナル フリー
    2017年7月5日に福岡県朝倉市と大分県日田市では,線状降水帯と呼ばれる積乱雲の集合体が長時間同じ場所に停滞することにより,日雨量545.5mm(朝倉観測所)の大雨を記録した。この大雨により洪水,斜面崩壊,土石流などが発生し,犠牲者37名,家屋被害1,406件にのぼる大災害となった。本報告では花月川,大肥川,赤谷川,白木谷川,佐田川の 5つの流域を対象に行った被害状況の調査結果を報告する。
  • 山本 晴彦, 山崎 俊成, 坂本 京子, 山下 奈央
    2018 年 36 巻 4 号 p. 381-397
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/10/15
    ジャーナル フリー
    2017年台風18号が 9月17日11時半頃に鹿児島県薩摩半島を通過し,12時頃に鹿児島県垂水市付近に上陸した。その後は宮崎県を通過して日向灘に抜け,17日16時半頃に高知県西部に再上陸した。その後,台風は兵庫県,北海道に再上陸して,18日21時にサハリンで温帯低気圧となった。台風や活発な前線の影響で豪雨となり,大分県と宮崎県の県境の祖母山系を中心に17日の日降水量が500 mmを超える豪雨域が北西-南東方向に約20 km,北東-南西方向に約10 km の楕円形状の豪雨域が形成されていた。津久見市では17日の 9 時前後に第 1のピーク,11時過ぎに20 mm/10分間を超える豪雨に見舞われ,台風接近時の13~16時には東寄りの風が卓越して約 10 mm/10分間の強雨が継続し,日積算降水量427 mm を記録した。本豪雨により津久見川や支流の彦の内川が氾濫し,標高が低い場所や両河川の合流点付近では最大150 cm前後の浸水痕跡が確認され,住家の半壊,浸水被害が相次いで発生した。本災害による大分県内での住家被害は3,359棟に達し,洪水災害としては近年では甚大な被害であった。
報告
  • 藤本 一雄
    2018 年 36 巻 4 号 p. 399-408
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/10/15
    ジャーナル フリー
    本研究では,東日本大震災において学校の緊急対応にあたった岩手・宮城・福島県の小・中学校31校の校長による体験談を収集して,その行動内容を緊急時の意思決定モデルである「OODA ループ」 の 4 つの段階(「観察」「判断」「決定」「行動」)ごとに分類・整理した。その結果, OODA ループが順調に回転しない(意思決定により多くの時間がかかる)ことに影響を与えた要因として, 1 .「観察」の段階では,停電の影響により情報を収集できない,校長・教職員が主体的に情報を収集しない, 2 .「判断」の段階では,発災直後に情報収集をしていないために “実際”(今後の見通し)を把握できない,マニュアル・訓練に不備があるなど“計画”(事前の想 定)が十分ではない, 3 .「決定」の段階では,行動選択肢が思い浮かばない,選択可能な行動 選択肢が限られる,一度選択した行動を変更しない(あるいは,変更できない),無意識に「何もしない」という行動を選択し続ける, 4 .「行動」の段階では,特定の行動にかかりきりになる, 行動が二転三転する,を挙げることができた。
  • 土屋 十圀, 小山 直紀, 大石 裕泰, 佐伯 博人
    2018 年 36 巻 4 号 p. 409-427
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/10/15
    ジャーナル フリー
    2016年 8月の台風第10号による岩手県の水害は1951年,気象庁が統計を取り始めて以降,初めて東北地方の太平洋側に上陸した台風によるものであった。この台風は発生から上陸まで11 日間であり極めて長く太平洋上を迷走していた。初めて台風の洗礼を受け,甚大な被害をもたらした点においても特筆される。 本報告は岩手県および久慈市,岩泉町の協力を受けて,被害の大きかった岩手県北部の久慈川流域,小本川流域を対象に,2016年11月18日~21日に現地調査に入り資料収集などを行ったものである。久慈川流域の被害は久慈市の市街地を中心に堤防からの溢水による洪水氾濫によって住宅,商業地の浸水面積は約0.63 km2であった。洪水氾濫の直接的要因は大量の流木が久慈 川の橋梁群に掛かり,河道の流れを阻害し,河川水位を上昇させていたと考えられる。久慈市の被害は死者 1 名,床上浸水,床下浸水,損壊など合計2,258棟であった。久慈川は河川整備基 本計画の策定がなされていなかった。 一方,小本川流域の被害調査では岩泉町の人命被害は死亡者19名,行方不明者 2 名の甚大な災害であった。岩泉町の小本川,清水川における 6 つの地区の総浸水被害集計は419棟であった。 農地の総浸水面積は1.230 km2 の被害となった。主に未整備の堤防からの溢水や橋梁箇所での流木による流れの阻害による氾濫であった。
  • 牛山 素行, 関谷 直也
    2018 年 36 巻 4 号 p. 429-40545
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/10/15
    ジャーナル フリー
    筆頭著者はこれまでに,2004年から2014年に日本で発生した風水害による死者・行方不明者 (犠牲者)の発生状況によるデータベースを構築しており,この間の犠牲者712人(以下「2004- 2014」)について分類を行ってきた。本研究では,2016年 8 月に北日本を襲った台風2016年10号(以下「T1610」)による犠牲者と,「2004-2014」を比較した特徴について論ずる。この台風により,岩手県 ,北海道で 23人が 死亡,4人が行方不明となった。「T1610」犠牲者の特徴としては以下が挙げられる。 1 )犠牲者の74%が洪水によるものであった。 2 )犠牲者の78%が65歳以上の高齢者であった。3 )犠牲者の30%が避難行動をとったにもかかわらず死亡したものであった。1 ) の洪水による犠牲者率74%は,「2004-2014」より高い。「T1610 」は「山地河川洪水災害」と言えるが,このタイプの災害では「洪水」犠牲者が多くなる傾向にある。 2 )の犠牲者中の高齢者率 78%も,「2004-2014」に比べて高い。このうち9人は高齢者福祉施設内で死亡しており,高齢者の避難行動の難しさが顕在化した。 3 )の避難行動ありの犠牲者率30%も「2004-2014」に比べて高い。避難行動のタイミングについてさらに検討していく必要がある。一方,岩手県岩泉町安家地区では,11世帯が倒壊したにもかかわらず,死者は1人にとどまった。この地区では,多くの住民が積極的な避難行動をとったことにより,被害を軽減した可能性がある。
論文
  • 岡本 隆明, 竹林 洋史, 鈴木 隆太, 山上 路生, 戸田 圭一
    2018 年 36 巻 4 号 p. 447-461
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/10/15
    ジャーナル フリー
    集中豪雨時には大量の流木が河川に流出し,橋脚に引っかかることで河道を閉塞させて水位上昇を招き,洪水被害を大きくすることが知られている。さらに橋梁を迂回した氾濫流河岸を侵食して,家屋を流出させるなどの被害が報告させている。流木被害を予測するには川道閉塞 時の橋梁周辺の氾濫水の挙動を予測することが重要であるが,これまで流木による橋梁閉塞時 に越流した氾濫流を対象とした研究はあまりみられない。そこで本研究ではまず橋梁での流木捕捉実験を行い,堰上げ水深から実験の流木集積時の橋梁部での河道閉塞率を評価する。次に流木投入時実験により得られた河道閉塞率をもとに閉塞 率を設定し,橋梁を迂回した氾濫水流の流速を PIV 計測した。PIV 計測位置は氾濫原全域をカバーするように横断方向にシフトさせて,氾濫原に流れ込む氾濫流量を正確に評価した。さらに左岸の氾濫原高さを系統変化させて氾濫原の家屋抗力を計測し,洪水氾濫危険区域を評価し,迂回流被害の予測,対策の検討を行った。
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