自然災害科学
Online ISSN : 2434-1037
Print ISSN : 0286-6021
39 巻, 2 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
巻頭言
速報
  • 神山 惇, 藤本 哲生, 工藤 啓幹, 末次 大輔
    2020 年39 巻2 号 p. 83-88
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/24
    ジャーナル フリー
    令和元年 8 月の豪雨では,主に佐賀県および長崎県を中心とした九州北部各地で観測史上1位となる雨量が観測された。福岡県および佐賀県では複数のため池が被災した。佐賀県においては,佐賀市,小城市,武雄市,鳥栖市等で20箇所のため池の被災が報告されており,小城市では 1 箇所のため池が決壊している。本報では,被災報告のあった佐賀県小城市におけるため池の被害状況について調査した結果 を報告する。
  • 矢守 克也
    2020 年39 巻2 号 p. 89-100
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/24
    ジャーナル フリー
    本稿は,全世界を席巻している新型コロナウイルス(COVID-19)の感染蔓延が,人文系の自然災害科学研究に対して投げかけている課題を,速報としてまとめたものである。コロナ禍 は,従来の人文系災害研究が置いてきた3つの大きな理論的前提に対してチャレンジするものである。第1は,ハザードマップに典型的に表れているような,空間的な境界―「ゾーニング」(zoning)―に立脚した災害マネジメントに対するチャレンジである。第 2は,よく知られた「災害マネジメントサイクル」に象徴される時間的な境界―「フェージング」(phasing)―に立脚し た災害マネジメントに対するチャレンジである。最後は,専門家対非専門家という役割上の境界―「ポジショニング」(positioning)―に立脚した災害マネジメントに対するチャレンジである。 人文系の自然災害科学の改善・見直しに,今コロナ禍から我々が学びつつある教訓を活かすための方途についてもあわせて論じた。
  • 野原 大督, 角 哲也
    2020 年39 巻2 号 p. 101-112
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/24
    ジャーナル フリー
    公開されている浸水想定情報を用いて,全国の感染症病床を有する372の感染症指定医療機関の大規模洪水時における浸水想定状況の調査を行った。その結果,河川計画の基準となる規模の洪水でおよそ4 分の1の医療機関で,想定される最大規模の洪水でおよそ3分の1の医療機関で浸水が想定されていた。この割合は,特定感染症指定医療機関と第一種感染症指定医療機関に限って見た場合には,いずれの規模の洪水でも増加し,想定最大規模では半数近くの医療機関で浸水することが想定されていた。また,中には最大想定浸水深が10 m を超える医療機関も見られ,こうした医療機関では,設備配置の工夫や垂直避難などの自衛的な対策のみでは浸水リスクに対応しきれない可能性があり,医療機関と行政の治水・防災部局,厚生・保健部局の連携が重要になると考えられる。
報告
  • 山本 晴彦, 兼光 直樹, 宮川 雄太, 大谷 有紀, 渡邉 祐香, 坂本 京子, 岩谷 潔
    2020 年39 巻2 号 p. 113-136
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/24
    ジャーナル フリー
    2019年台風15号は9月8日夜に太平洋を北上し,9 日0時過ぎには伊豆大島を通過した。その後,2時半頃には三浦半島を横切り,東京湾を北東進して千葉市に上陸し,7 時半頃には茨 城県南部を通過して鹿島灘へ抜けた。台風の通過に伴い,最大瞬間風速は千葉では57.5 m/s, 木更津で49.0 m/s を観測するなど,進路の東側に位置する房総半島を中心に強風が吹き荒れた。台風に伴う強風により,千葉県ではゴルフ場の鉄塔倒壊,水上メガソーラー発電所の損傷,学校体育館等の大型公共建物の損傷,住宅屋根の損傷や農業ハウスが倒壊する被害等が発生した。 また,台風に伴う高潮と高波により,横浜市では埠頭で施設や自動車の損傷,産業団地では浸水被害が発生した。
  • 櫻田 歩夢, 西山 浩司, 清野 聡子
    2020 年39 巻2 号 p. 137-155
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/24
    ジャーナル フリー
    本研究では,平成29年 7 月九州北部豪雨の被害を受けた福岡県東峰村とその隣接地域に立地 する水神を対象に,その立地特性を把握し,現地住民に対するヒアリング調査,災害に関する歴史文献調査を通して,水神と災害との関連性を調査した。その結果,約8割の水神が,土石流を含む渓流の氾濫が起こりやすい場所に立地していることがわかった。また,ヒアリングから得られた4つの水神は災害,または,農業に関連して祀られており,桑鶴地区と葛生地区の水神は,台山の土石流と大肥川の氾濫から地域を守るために祀られていることがわかった。急峻な谷筋を持つ台山では,歴史的に何度も土石流災害が発生してきたと推定できるため,災害の危険性を訴える大切なメッセージが,大蛇の言い伝えとなって桑鶴地区に伝わったと考えられる。以上の結果から桑鶴地区の水神が持つ防災上のメッセージの内容について考察すると,大蛇の言い伝えを介して語り継がれた,繰り返し起こる台山の土石流災害の特徴を水神のメッセージに含ませることによって,水神が台山に繋がる地域の災害の危険性を意識付ける役割と その危険性を後世に伝える役割を持つようになり,地域の防災モニュメントとして水神を活用することができるようになると期待される。
  • 佐藤 翔輔
    2020 年39 巻2 号 p. 157-174
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/02/24
    ジャーナル フリー
    1967年羽越水害に由来する新潟県関川村「たいしたもん蛇まつり」を対象に,インタビュー調査や資料調査にもとづいて,どのようにしてはじまったのか,どのようにして継続できているのか,災害伝承として機能しているのか,を明らかにすることを試みた。その結果,1 )「大したもん蛇まつり」は,祭を通した人材,特にリーダーの育成がもともとのモチベーションであり,災害伝承ありきではなかったこと,2 )大蛇をモチーフにしたのは,村に伝わる大里峠伝説では大蛇を退治するというストーリーと,大蛇が水害・土石流の象徴する神であることとが,羽越水害の犠牲者を供養するという位置付けと整合していたこと ,3 )竹と藁で作る大蛇という,「こわれるもの」「くちるもの」を媒体にすることで,更新の際に世代間をつなぐ役割が果たされていること,4 )村民に対しては強制をしないように,また,外部の人材資源を積極的に活用していること,5 )祭の由来を学習する学校教育を媒介することで,伝承の機能が果たされていること,などが明らかになった。
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