自然災害科学
Online ISSN : 2434-1037
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42 巻, 4 号
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巻頭言
報告
  • 黒岡 あゆ子, 秦 康範, 牛山 素行
    2024 年 42 巻 4 号 p. 261-274
    発行日: 2024/02/29
    公開日: 2024/11/13
    ジャーナル フリー
    本研究では,センター試験におけるハザード・災害関連問題の出題内容を整理分類し,その経年的な傾向や特徴を明らかにすることを目的とする。1990年から2020年の31年分全てのセンター試験を対象に,ハザード・災害関連の記述の多い【地学】と【地理】を分析対象とした。分析の結果,地学では学習指導要領の変化に関わらず常に10%程度出題されていた。地理では,1990年から1996年のでは平均2.8%であった配点割合が,2015年から2020年では平均8.5%に配点割合が増加していることが分かった。両科目とも年により多少の増減はあるものの,一貫してハザード・災害関連の問題が出されていることが示された。出題されているハザードの種類に着目すると,地学は一つのハザード・災害について問う問題が多く出題されている。一方地理では,ある地域で生じる災害について問う問題など,複合問題の出題が多く見られた。このような特徴は,学習指導要領に個々のハザードが記載されているかどうかに影響を受けていることが示唆された。地学では,地震や火山などのハザード名が学習指導要領に記載されているが,地理では,世界の自然環境について学ぶといった記載がなされており,特定のハザードが記述されていないからだと考えられる。
  • 高橋 潤, 安中 正, 今村 文彦
    2024 年 42 巻 4 号 p. 275-292
    発行日: 2024/02/29
    公開日: 2024/11/13
    ジャーナル フリー
    1611年慶長奥州津波は東北地方太平洋沿岸に甚大な被害をもたらしたことが記録されているが,その波源については,情報の少なさもあり見解の統一に至っていない。これは,津波リスク評価や防災の観点から重要な課題である。そこで,本研究では古文書記録および津波堆積物を統合し,それらを津波痕跡とした波源推定を実施し,痕跡を対象とした津波インバージョンにおいて,既存のモデルを参考に複雑な発生メカニズムを考慮する方法を提案した,その結果,三陸沿岸の広範囲のすべりを持つ波源が推定された。東北地方太平洋沖地震と同様,宮城県沖のプレート境界深部と津波地震領域で21~26mのすべりが見られることから,1611年慶長奥州地震は869年貞観地震の次に日本海溝沿いで発生した超巨大地震(東北地方太平洋沖型)であった可能性がある。今回の推定波源では,広域的な津波高さ分布は再現できたものの,一部,岩手県のリアス海岸において痕跡値と計算値とに乖離が見られた。この原因の一つは短周期成分の再現性であると考えられ,今後,津波の短周期成分の再現が可能な分散波理論の適用や津波周期の影響が考慮できるよう,より波源を細分化した検討が必要と考えられる。
  • 中村 貫志, 小山 真紀
    2024 年 42 巻 4 号 p. 293-305
    発行日: 2024/02/29
    公開日: 2024/11/13
    ジャーナル フリー
    2011年の東日本大震災,2016年の熊本地震における大学の記録では,共通の問題点が記述されていることから,過去の災害で被災した大学の経験が他大学の防災対策にいかされているわけではないことが示唆された。そこで,東日本大震災や熊本地震を踏まえた上で,我が国における大学の防災体大学における防災体制の現状を明らかにすること及び被災経験が与える影響を明らかにするためにアンケート調査を行った。その結果,これまでの災害時に課題となった安否確認などの対策がされていない大学も多数あり,自他大学の被災経験が大学の防災対策に必ずしも影響を与えるわけではないことを明らかにした。
  • 松澤 真, 南 智好, 蔭山 星, 斉藤 泰久, 山寺 喜成
    2024 年 42 巻 4 号 p. 307-324
    発行日: 2024/02/29
    公開日: 2024/11/13
    ジャーナル フリー
    長野県諏訪市有賀区にて,理学的視点に基づく住民参加型の土砂災害ハザードマップを作成し,アンケート調査から本取組の効果と課題について検討した。まず,地形解析により崩壊危険斜面を抽出し,次に代表渓流での土層構造調査から崩壊範囲を推定し,崩壊規模に基づく土石流シミュレーションを実施した。以上の土砂災害の危険性を示す情報から土砂災害ハザードマップを作成した。作成した土砂災害ハザードマップは,住民の土砂災害の理解促進に貢献できたこと,実際の豪雨時に役に立つと認識されたことが分かった。
  • 伊藤 秀行, 横松 宗太
    2024 年 42 巻 4 号 p. 325-335
    発行日: 2024/02/29
    公開日: 2024/11/13
    ジャーナル フリー
    本稿では,愛知県内の市町村を対象に,食料とペットボトル飲料水の備蓄量や賞味期限,保管方法に関して行った調査結果について報告する。そして,災害時に非被災自治体から被災自治体に向けて,残存賞味期限が短くなった物資を優先的に提供する仕組みの有効性を指摘するとともに,その実践のための物資の保管や搬出,備蓄情報の管理等に関する技術的課題について提示する。
  • 本莊 雄一, 青田 良介, 紅谷 昇平, 今石 佳太, 張 勱, 赤松 崇志
    2024 年 42 巻 4 号 p. 337-356
    発行日: 2024/02/29
    公開日: 2024/11/13
    ジャーナル フリー
    近年,各地で豪雨災害や地震災害等に見舞われてきたが,中小規模基礎自治体は,初動・応急対応において同じ失敗を繰り返していると指摘されている。本研究の目的は,中小規模の基礎自治体の災害対応能力の強化を図るために,統合的コンティンジェンシー・モデルを理論的枠組みとして,全国の基礎自治体の防災部局部署を対象に実施した質問紙調査の結果を活用し,基礎自治体が認識する,災害対応能力やその強化に向けた方策に関して,人口規模に応じて差異があることを定量的に検証することである。その結果,災害対応力強化で考慮すべき事柄について,人口規模別基礎自治体間における課題の差異をカイ二乗検定や因子分析で定量的に明らかにすることができた。ついで,基礎自治体が認識している災害対応力強化方策について,人口規模別基礎自治体間において差異があることを主成分分析や因子分析,重回帰分析で定量的に検証した。以上の分析結果から,基礎自治体の災害対応力強化方策に関して,基礎自治体共通の方策を検討するだけでなく,人口規模に応じた特有の方策を検討することが必要であることが示唆された。
  • 山本 晴彦, 古場 杏奈, 坂本 京子, 岩谷 潔
    2024 年 42 巻 4 号 p. 357-385
    発行日: 2024/02/29
    公開日: 2024/11/13
    ジャーナル フリー
    2022年台風14号は,9月18日19時頃に鹿児島市付近に上陸し,九州を北上した後,翌19日3時には柳川市付近に再上陸した。その後,進路を東寄りに変えながら福岡県・山口県を横断し,15時前には日本海に抜けた。九州山地の南東側を中心に18日昼前から19日未明にかけて非常に激しい雨が断続的に降り続き,宮崎県北部の小丸川水系の渡川ダムでは15~19日の積算降水量が1,235mmに達し,美郷町,椎葉村などでは土砂災害が発生した。県北部を流れる五ヶ瀬川支流の日之影川の見立でも1,097mmの積算降水量を観測し,五ヶ瀬川水系では水位の上昇により多くの地点で氾濫危険水位や計画高水位を超えた。筆者らが現地調査を実施した延岡市の富美山町・三須町・細見町・小川町,北方町の川水流地区,北川町の曽立地区では内水氾濫,北方町の曽木・八峡地区では外水氾濫により浸水被害が発生した。特に,延岡市の富美山地区では内水氾濫により200棟を超える住家の浸水被害が発生し,北方町の川水流地区では浸水深が最高で3 mを超える被害に見舞われた。
論文
  • 橋本 学, 小沢 慧一, 加納 靖之
    2024 年 42 巻 4 号 p. 387-404
    発行日: 2024/02/29
    公開日: 2024/11/13
    ジャーナル フリー
    2013年地震調査委員会は南海トラフ沿いの大地震の今後30年間の発生確率を60~70%と評価した。この評価に際しては,公表前から強い批判,特に時間予測モデルの採用について,があったが,2001年評価と同様に久保野家文書に記された室津港の水深データを用いて評価がなされた。本論文において,原典となった久保野家文書を吟味したところ,複数の問題点が見つかった。すなわち,測深の精度を評価するための情報の欠如している。また,開港以来,ほぼ毎年工事が行われてきたことが確認された。既存の史料の情報および近年の潮位観測結果と総合すると,1707年宝永地震に伴う隆起は,1.4~2.4mの範囲と推定される。社会は,この不確定性を認識し,活用法を再検討する必要がある。
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