保健医療科学
Online ISSN : 2432-0722
Print ISSN : 1347-6459
ISSN-L : 1347-6459
67 巻, 2 号
Evidence Based Public Health: ICT/AIを活用したこれからの保健医療
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
特集
  • 水島 洋
    原稿種別: 巻頭言
    2018 年 67 巻 2 号 p. 143
    発行日: 2018/05/31
    公開日: 2018/06/30
    ジャーナル オープンアクセス
  • 水島 洋
    原稿種別: 総説
    2018 年 67 巻 2 号 p. 144-149
    発行日: 2018/05/31
    公開日: 2018/06/30
    ジャーナル オープンアクセス

    インターネットの普及から始まった情報化社会の到来とともに,保健・公衆衛生分野においても様々な情報化の取り組みが行われている.人工知能(AI),大規模データ,IoT(Internet of Things)からブロックチェーン技術まで,様々な利用方法が検討され,保健医療分野で期待されている.自治体における情報化では地理情報システムの活用も重要である.エストニアでは電子国家の導入で効率化とともにデータ活用が進んでいる.

    一方で,平成29年の改正個人情報保護法の改正に関連して,医療研究における個人情報保護の取り扱いが厳しくなってきているように見え,次世代医療基盤法など,これらのデータを使用する体制が模索されている.

    科学的根拠に基づいた保健医療政策を行うためには,最新の情報技術を駆使して情報を解釈する必要がある.

  • 奥村 貴史
    原稿種別: 総説
    2018 年 67 巻 2 号 p. 150-157
    発行日: 2018/05/31
    公開日: 2018/06/30
    ジャーナル オープンアクセス

    我が国の医療が抱える多くの問題に対して,情報技術が有力な解決策となりうるのではないかと期待されてきた.そこで政府はさまざまな取り組みを続けてきたが,医療機関を越えた患者情報の共有は一般化しておらず,情報技術が医療の質向上に寄与している事例も限定されている.こうした事態が生じた原因の一つとして,医療の情報化を支える人材面での課題が考えられる.そこで,2007年,政府IT戦略本部が定めた「重点計画―2007」において,地域医療の情報化を支える人材育成体制の整備が提言された.

    国立保健医療科学院では,この提言に基づき,2010年度より地方自治体職員を対象とした「地域医療の情報化コーディネータ育成研修」を開講している.本研修は集合研修 3 日間,遠隔研修 2 ヶ月間の短期研修であるため,医療,情報,行政の全てに通暁した人材の育成は現実的な目標とはいえない.そこで,地方自治体において医療の情報化に関わる人材間のコミュニティ育成を目標とし,まずは各自治体に生じている課題とその解決策の共有が図られるような体制の確立を目指した.開催後 8 年間を経て,総計280名を超える修了生を輩出し,地域医療の情報化に関わる地方自治体職員間の緩やかなコミュニティを形成するに至っている.また,研修を通じて,地域医療の情報化に関する事例集と我が国における関連事業の網羅的な台帳を構築した.今後,コミュニティの発展を通じた政策分野への貢献が望まれる.

  • 吉村 健佑
    原稿種別: 解説
    2018 年 67 巻 2 号 p. 158-165
    発行日: 2018/05/31
    公開日: 2018/06/30
    ジャーナル オープンアクセス

    厚生労働省での保健医療分野におけるICT化の推進活動としては,遠隔医療,医療ビッグデータ活用の領域において,医師法に関連したオンライン診療のガイドラインの策定やNDBオープンデータの作成・公開をはじめ,多方面の取り組みが進められている.

  • 大江 浩
    原稿種別: 報告
    2018 年 67 巻 2 号 p. 166-172
    発行日: 2018/05/31
    公開日: 2018/06/30
    ジャーナル オープンアクセス

    保健・医療・福祉計画は有機的に関連しているため,組織横断によるPDCAが重要になっている.ここでは,地域包括ケアやデータヘルスに関して,新川厚生センター(保健所)が県庁と連携して,どのような分析ツールや公表データを活用して取り組んでいるか,紹介した.組織横断によるPDCAの要因として,①保健所の組織機構と所内連携,②県庁と保健所との双方向の連携,③保健所と管内市町との連携,④保健所と管内関係機関・団体との連携,が挙げられた.今後,組織横断によるPDCAを推進するためには,地域の実情に応じて取り組む戦略が必要である.地域包括ケアやデータヘルスの取り組みには分析ツールや公表データを活用したPDCAがますます重要になるため,地域の保健ガバナンスを高めるために 4 つの提案を行った.

  • 伊東 則彦, 水島 洋
    原稿種別: 報告
    2018 年 67 巻 2 号 p. 173-178
    発行日: 2018/05/31
    公開日: 2018/06/30
    ジャーナル オープンアクセス

    情報セキュリティ強化による自治体ネット環境・システム状況の隘路,利便性後退(インターネット接続環境の悪化,添付文書の煩雑化等)等を把握すべく,昨年度に全国保健所長全員へアンケートを実施した.

    遠隔教育に関するアンケートからは,インターネット利用環境の制限が浮き彫りになった.また,国立保健医療科学院遠隔研修については66%が知っており,所長パソコンでその院遠隔研修アドレスには72%がアクセス出来た.一方の動画視聴可は,40%のみであった.

    遠隔研修受講に実際においては,47%が許可されるものの,職場机以外の場所確保は24%のみで,平時は電話,来客対応等で,大半が時間外受講と想定される.遠隔教育の受講は動画閲覧について,過半は回線的にも,時間的も視聴難と推測された.

    過剰セキュリティ対策による自治体における情報ネットワーク利用の課題が明らかになり,健康危機にも耐えうる利便性の良いネットワークの再構築が必要である.

  • 木村 映善
    原稿種別: 総説
    2018 年 67 巻 2 号 p. 179-190
    発行日: 2018/05/31
    公開日: 2018/06/30
    ジャーナル オープンアクセス

    悉皆的に収集されたReal World Data(RWD)を用いた観察研究からエビデンスを導出できるような取り組みが求められている.データベース設計に関する課題として,標準情報モデルへの統合,統制用語へのマッピング,各施設の測定結果などの組織間較正,患者個体の識別・追跡性の確保およびデータソースを巡るバイアスについて提示した.これらの課題を踏まえて,RWDからのETL手法の標準化,標準化されたデータベース構造の定義,コホートを適切に定義する方法論,RWDデータの素性の特定と品質改善,そしてRWDを収集する対象と時系列上の網羅性の確保が,医療ビッグデータ時代に課せられた優先度の高い研究テーマであることを提示した.標準化されたデータベースとコホートを適切に定義する方法論について焦点をあて,先行研究としてeMERGEプロジェクトにおけるPheKBというフェノタイピング手法を公開するリポジトリと,OHDSIプロジェクトにおけるOMOP CDMによるデータベースの構造の標準化と標準統制用語集の取り組みについて紹介した.今後の我が国における取り組みの一案として,国内事情を踏まえたDWHの取り組みと国内外のCDMと統制用語集のマッピングの取り組みとの間に責任分界点を設定したプロジェクトを立ち上げることを提案する.

  • リアルワールドデータの利活用を見据えた患者レジストリ構築に向けて
    上野 悟, 竹下 絵里, 清水 玲子, 小居 秀紀, 小牧 宏文, 中村 治雅
    原稿種別: 報告
    2018 年 67 巻 2 号 p. 191-195
    発行日: 2018/05/31
    公開日: 2018/06/30
    ジャーナル オープンアクセス

    クリニカル・イノベーション・ネットワーク(Clinical Innovation Network: CIN)とは疾患登録システム(患者レジストリ)等の疾患登録情報を活用した臨床開発インフラの整備のことであり,疾患登録情報を活用した効率的な治験や製造販売後調査および臨床研究の体制構築を推進する構想である.2009年より筋ジストロフィー患者登録システム(Registry of Muscular Dystrophy: Remudy)が運用されている.レジストリを国際的に連携させるためには,同じ収集項目を設定する必要がある.レジストリの最低限必要となる収集項目として,米国ではGlobal Rare Disease Registry Data Repository(GRDR)から,欧州ではEuropean Union Committee of Experts on Rare Diseases(EUCERD)から収集項目に関する標準が発表されているが,日本ではGRDRやEUCERDが提案する最小データセットは提案されていない.CDISC(Clinical Data Interchange Standard Consortium)は,臨床試験を初めとするヘルスケア業界のデータ共有,交換,再利用等のための世界標準を提案する非営利団体であり,汎用性が高く,様々な疾患の臨床試験データに適用できるCDISC標準を定めている.また,CDISCは2017年にデュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne muscular dystrophy: DMD)の疾患領域別データ標準(Duchenne Muscular Dystrophy Therapeutic Area User Guide: TAUG-DMD)も公表している.疾患横断的な研究では,収集項目の設定漏れによるデータの欠損,試験毎の回答の選択肢が異なる等の問題が生じるため,レジストリの構築にはCDISC標準等のデータ標準を用いることは大切である.臨床でのデータ収集のしやすさも考慮し,臨床現場とデータ標準の両方の視点をもつことが重要である.RWD(Real World Data)の利活用を活性化するためにも,レジストリに関する国際的な標準を整備し普及する意義は高いと考えられる.現在,TAUG-DMDおよびGRDR,EUCERD等の国際標準を用いて収集項目を調査し,患者レジストリの標準項目を検討している.

論文
  • 重茂 浩美, 今西 典昭, 知場 伸介, 石井 健
    原稿種別: 資料
    2018 年 67 巻 2 号 p. 196-205
    発行日: 2018/05/31
    公開日: 2018/06/30
    ジャーナル オープンアクセス

    目的:アカデミア創薬の世界的動向を把握するべく,米欧のアカデミアと企業との間で行われる創薬シーズや創薬技術の取引状況を俯瞰的・定量的に分析する.

    方法:世界の医薬品市場において最大シェアを占める米国と欧州主要 5 ヶ国(英国,ドイツ,フランス,イタリア,スペイン)を対象に,Clarivate Analytics社が提供するCortellis Deals Intelligenceを用いて,米欧の大学等(大学,医療機関,公的研究機関)及び大学等発ベンチャー企業(以下,アカデミアと記す)から導出された,特許に裏付けられた創薬シーズや創薬技術に関わる取引(以下Deal,ディールと記す)の傾向を定量的に分析した.ディールは,2010年~2015年に締結されたものを対象にした.

    結果:①米欧のアカデミアから導出された創薬シーズあるいは創薬技術に関するディールは703件であり,その95.6%は民間企業が買い手であった(703件中672件).②ディールの種類としては,「特許権使用許諾」が703件中669件で全体の95.2%を占めた.この669件について,以下の特徴が明らかになった.③疾患領域では「がん」領域の位置づけが高い一方で,免疫系疾患・炎症性疾患・血液系疾患,内分泌代謝疾患,末梢・中枢神経疾患での増加が注目された.④創薬技術としては,「低分子」,「診断」,「抗体医薬」が優位にあり,これら 3 つの技術でディール件数全体の約45%を占めた.⑤ディールの契約締結時期は,基礎研究と前臨床段階が中心であり,近年は基礎研究段階で契約を締結する傾向が強まっていた.⑥ライセンスオプション契約が15%程度用いられていた.

    結論:公的機関がアカデミア創薬に焦点をあてて,疾患領域や創薬シーズ・創薬技術等に関するディールについて俯瞰的な分析をしたのは本例が初めてであり,分析手法上の課題はあるものの,米欧におけるアカデミア創薬の全体傾向が明らかになったと考えられる.

  • 堀井 聡子, 杉田 塩, 種田 憲一郎, 曽根 智史
    原稿種別: 資料
    2018 年 67 巻 2 号 p. 206-215
    発行日: 2018/05/01
    公開日: 2018/06/30
    ジャーナル オープンアクセス
  • 冨田 直明, 入野 了士
    原稿種別: 原著
    2018 年 67 巻 2 号 p. 216-228
    発行日: 2018/05/01
    公開日: 2018/06/30
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録

    目的:本研究は,高血圧治療の進歩と普及により軽症化・予後の改善はしているが長期臥床などの原因となる脳卒中の発症予防を目的に,正常血圧群と高血圧群の検査データを比較し,動脈硬化対策を念頭にした高血圧管理について検討した.

    方法:対象は平成24年度今治保健所管内で全国健康保険協会(協会けんぽ)愛媛県支部が実施した生活習慣病予防健康診査の9,709名の検査データである.対象を正常血圧と未治療高血圧,降圧薬服薬中正常血圧,服薬中高血圧(高血圧 3 群)の 4 群に区分し検討した.①対数変換した検査データの平均値を正常血圧群と高血圧 3 群とで二元配置分散分析(年齢層×血圧 4 群)により比較した.②健康診査の質問票の項目の回答率に対する正常血圧群と高血圧 3 群の年齢調整オッズ比を比較した.③ 50-75歳男性の脳卒中,心疾患および慢性腎臓病と各危険因子との関連を検討した.

    結果:治療中高血圧において140/90mmHg未満でないコントロール不良高血圧の割合は52.4%を占めた.検査データの平均値では男女とも正常血圧群に比べて高血圧 3 群全てで腹囲,中性脂肪,肝機能値,空腹時血糖値が有意に高く,男性の服薬中正常血圧と女性の高血圧 3 群ではHDLコレステロールが有意に低かった.さらに非飲酒者において1.0未満では非アルコール性脂肪性肝疾患を疑うAST/ALTの平均値が,正常血圧に比べて男性では未治療高血圧と服薬中高血圧,女性では高血圧 3 群が有意に低かった.健康診査質問票の項目の「はい」の回答率に対する正常血圧を基準(=1)とした年齢調整オッズ比は,「20歳時体重から10kg以上増加」は男女とも高血圧 3 群全てで高かった.さらに男性では「慢性腎臓病発症」「他人より食べる速度が速い」「毎日飲酒」「多量飲酒」が高血圧 3 群全てで高かった.単変量(年齢調整)および多重ロジスティック回帰分析で50-75歳男性の脳卒中,心疾患,慢性腎臓病全てに関連があるのは治療中高血圧であった.50-75歳の降圧薬服薬者における拡張期血圧レベルと心疾患既往の出現率の関係には過度の降圧が冠動脈疾患の発症を増加させる「J型カーブ」現象が認められた.

    結論:本研究から正常血圧に比べて高血圧 3 群にはメタボリック症候群を構成する因子の集積が明らかになった.また脳卒中,心疾患および慢性腎臓病の発症や増悪の予防には,疾患別の服薬治療だけでなく内臓脂肪減少などの根本的なメタボリック症候群対策の必要性が示唆された.

feedback
Top