保健医療科学
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68 巻, 5 号
国連「持続可能な開発目標(SDGs)」とわが国の公衆衛生活動
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
特集
  • 三浦 宏子
    原稿種別: 巻頭言
    2019 年 68 巻 5 号 p. 371
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/01/09
    ジャーナル オープンアクセス
  • グローバル・ヘルスと健康の社会デザイン
    杉下 智彦
    原稿種別: 総説
    2019 年 68 巻 5 号 p. 372-379
    発行日: 2019/12/01
    公開日: 2020/01/09
    ジャーナル オープンアクセス

    2015年,「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択され,2030年の達成を目指した共通目標として,17の目標と169の指標が示され,先進国-途上国,政府-民間,などの垣根を越えた普遍的で包摂的な取り組みが開始された.保健分野においては,「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」の達成を目指した公正かつ強靭な保健システムの強化が目標として掲げられ,基本的な保健サービスから「誰ひとり取り残さない」ために,支払い可能で品質が保証された保健サービスを提供することが喫緊の課題とされた.

    このような「持続可能な発展」という概念は,1972年に発表された「地球の成長限界」に遡ることができる.国際有識者で構成されたローマクラブは,資源の枯渇による地球の有限性に着目し,システムダイナミクスの手法を応用して人類の危機を予見し警鐘を鳴らした.世界全体で貧困を解決し,食糧,教育など人間が生活するうえで最も基本的なニーズを満たすことを優先的な解決課題とした.その後,1987年のブルントラント・レポートにおいて,「持続可能な開発」という考え方が提唱され,資源や環境などの「世代間の公正」に加え,経済格差や南北格差などの「世代内の公正」の実現のために,先進国と開発途上国の双方で持続可能性を追求すること,多様なステークホルダーの連携による包摂的な取り組みの重要性が示された.

    ここで重要なのは,「経済発展」を目的とした「成長」ではなく,「持続可能性」を目指した「人間中心の発展」の在り方に焦点が移ってきたことである.「地球の限界」の議論は,1992年の地球サミット(リオデジャネイロ宣言)や1995年の世界社会開発サミット(コペンハーゲン宣言)を経て,貧困や環境課題,ジェンダー,さらにはHIVなど感染症などの地球課題への取り組みを明確に示した2000年のミレニアム開発目標,さらには2015年の持続可能な開発目標へと引き継がれていった.

    このように,「成長」を前提とした経済偏重の社会の限界を示唆した「成長の限界(1972)」は,いままさに「発展」を基調にした「持続可能な社会」という目標に向かって個人,企業,国家,地球全体での努力が求められる時代の新しい指針である.経済のグローバリゼーションの進展に伴う健康格差の是正という課題に対して,私たちはまさに人間の尊厳と調和という大きな課題に直面しており,相互扶助に基づく社会の在り方やグローバル社会の連帯,つまり地球の未来におけるグランドデザインを描くことが重要性である.

  • 三浦 宏子
    原稿種別: 総説
    2019 年 68 巻 5 号 p. 380-386
    発行日: 2019/12/01
    公開日: 2020/01/09
    ジャーナル オープンアクセス

    「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成は,すべての加盟国に課せられたミッションであり,わが国においても対応が求められている.国が2019年 6 月に示した「拡大版SDGsアクションプラン2019」では,地方創生の観点からSDGsと持続可能なまちづくりが主要な取組として挙げられている.その一方,国民が最も期待するSDGsの取組は,健康に関わる目標 3 に関するものであるとの調査報告がある.健康なまちづくりは,SDGs推進の大きな柱となることが期待される.

    本稿では,SDGsのコンセプトを活かした健康なまちづくりのあり方について,わが国の自治体での取組を分析することによって検討する.また,国別のSDGs目標の達成状況のモニタリング結果を集約することにより,目標 3 をはじめとする地域での健康づくりに密接に関与する諸指標の現状について概説する.

  • 欅田 尚樹
    原稿種別: 総説
    2019 年 68 巻 5 号 p. 387-394
    発行日: 2019/12/01
    公開日: 2020/01/09
    ジャーナル オープンアクセス

    背景:喫煙は,最大の健康阻害要因として,WHOたばこ規制枠組条約FCTCに基づき,各国のたばこ対策が実施されている.さらに,「持続可能な開発目標」(SDGs: Sustainable Development Goals)の視点から見た場合,途上国でのたばこ消費量の増大,タバコ葉生産の拡大,環境問題を含め,SDGsの目標全てに関係する課題である.

    方法:国際機関および各国のたばこ対策に関する取り組みやSDGs達成状況などについて,文献ベースにより検討を行った.

    結果:国際結核・肺疾患予防連合(The UNION; The International Union Against Tuberculosis and Lung Disease)は,SDGsに関連して各国のたばこ対策のプログラムを評価し,持続可能なものとするためにたばこ対策持続可能性指数;The Index of Tobacco Control Sustainability(ITCS)を発表している.2016年 8 月時点で24ヶ国について評価の結果が公表されているが,日本は24ヶ国中21位,「持続可能性が低い」と評価されている.世界銀行からは,SDGsの推進に関連して「たばこ税の改革」に関した報告書が出されている.たばこの増税は,FCTCでも第 6 条に規定され,たばこ対策の中でも最も効果的なものとして示されている.本報告書では,たばこ税増税は,強力で人道的な開発と貧困削減の方策として,貧困を減少させ,併せて開発投資のための公的資金を増大させる手段として極めて有効であるが,特に低中所得国において十分に活用されていないことが記されている.

    まとめ:低中所得国においては,たばこは貧困と格差の根源であり,様々なステークホルダーが団結して,人の命を救うために,たばこ税制改革を含むたばこ対策を実施する必要がある.たばこ対策はSDGsの全ての目標に密接に関係しており,日本を含む全ての国は,FCTCに基づいたたばこ対策を,できる限り多くの人々に届くように,しかも最速に実施していく必要がある.

  • 児玉 知子
    原稿種別: 総説
    2019 年 68 巻 5 号 p. 395-401
    発行日: 2019/12/01
    公開日: 2020/01/09
    ジャーナル オープンアクセス

    2030年に達成を目指すSDGs(持続可能な開発目標)において,保健領域は目標 3「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し,福祉を推進する」に掲げられている.保健医療セクターにおける人的資源の充足は,目標3.8ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を達成するための必須条件でもある.さらに,開発国における人材確保については,Goal.3c「開発途上国,特に後発開発途上国および小島嶼開発途上国において保健財政,および保健従事者の採用,能力開発・訓練,および定着を大幅に拡大させる」として明記されている.限られた人的資源の中で,全ての人に質の高い保健医療サービスを提供するためには,保健医療従事者の地域偏在への対応やサービス業務の分担,継続的な教育訓練システムが必要であり,これらは開発国や先進国を含めた世界共通の課題である.

  • 石川 みどり
    原稿種別: 総説
    2019 年 68 巻 5 号 p. 402-409
    発行日: 2019/12/01
    公開日: 2020/01/09
    ジャーナル オープンアクセス

    「持続可能な開発目標」の目標 2 及び 3 において,栄養に関係する内容が批准され,「国連:栄養に関する行動の10年」において,栄養と食事関連の非感染性疾患(NCD)の目標を達成することが示されている.地球規模における栄養不良の二重の負荷(栄養不足と過剰の両者の課題)の解決にむけ,各国では,自国の優先すべき健康課題とリスクの分析,及び,そのモニタリングが重要となっている.

    わが国では,自治体の健康・栄養関連データから,都道府県間の相対的な位置を意味するZスコア算出し図示化した資料を用いて,栄養施策を進める研修と研究事業を行ってきた.すなわち,自治体の優先すべき健康課題とリスク因子を分析した結果から栄養施策の展開をすすめてきた.

    そこで,わが国での経験を応用し,WHOが示す包括的な栄養とNCDの課題への解決策のためのモニタリングの可能性を検討した.その結果,有用な資料となりえると考えられた.わが国の経験を基にした,SDGsにおける栄養とNCD対策のモニタリングが可能であるかもしれない.

  • 齋藤 智也
    原稿種別: 総説
    2019 年 68 巻 5 号 p. 410-417
    発行日: 2019/12/01
    公開日: 2020/01/09
    ジャーナル オープンアクセス

    「ヘルス・セキュリティ」は,しばしば使われる用語であるが広く合意が得られた共通の定義が存在するわけでは無い.本稿では「自然発生や人為的発生等発生の背景や原因にかかわらず,急性の健康危機を引き起こすハザードを想定した,集団としての存在を守るための予防・準備・検知・対応などの一連の対策」を指す.2005年に改正された国際保健規則(IHR)に基づくコア・キャパシティ形成の取組みは,ヘルス・セキュリティを強化するにあたって,国際社会の重要な政策課題である.持続的開発目標(SDGs)の目標 3.dでも,国家的あるいはグローバルな健康危機に対する早期警戒,リスク軽減と管理のためのキャパシティ形成が掲げられており,国際保健規則に基づくコア・キャパシティの構築は, SDGsと明確に位置付けられている.ヘルス・セキュリティ強化に向けては,国際保健規則の新たなモニタリングと評価のフレームワークが形成され,合同外部評価など,各国で取組みが推進されている.日本はコア・キャパシティを達成済としているが,IHR合同外部評価を2018年 2 月に実施し,高い評価を受けつつも,様々な改善点も指摘され,この指摘事項を有効に活用した取組みが進められている.

    国立保健医療科学院では,研究プロジェクトや研修を通じて,国内外へのヘルス・セキュリティ強化に向けた貢献を行ってきた.IHR合同外部評価には筆者は評価者として 4 か国のミッションに参加した.また,国内でのヘルス・セキュリティ強化に向けて,「新興・再興感染症対策と危機管理機能の脆弱性評価ガイダンス」を作成し,外部評価者を交えた合同評価モデルを提唱しているほか,訓練・演習の実施支援も行っている.人材育成としては,短期研修において「感染症集団発生研修」や「災害時健康危機管理支援チーム(DHEAT)研修高度編」を提供するほか,感染症危機管理専門家(IDES)養成プログラムにも関与している.このような,国レベルでの取り組みに加え,国内での人材育成等を含めた地域レベルでのヘルス・セキュリティの強化が急務である.

  • 大澤 絵里, 種田 憲一郎
    原稿種別: 報告
    2019 年 68 巻 5 号 p. 418-424
    発行日: 2019/12/01
    公開日: 2020/01/09
    ジャーナル オープンアクセス

    現在,世界各地で「国連持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals; 以下SDGs)」の達成に向かって進んでいる.本稿では,保健医療システムの一要素である保健医療人材に着目し,SDGs達成に向けた貢献の一つとして,国立保健医療科学院にて実施している国内外の保健医療従事者を対象にした研修を紹介する.国際研修として,JICAとの共同研修である「保健衛生管理研修」「保健衛生政策向上研修」では,主にUniversal Health Coverage(UHC)「すべての人が,経済的負担が強いられることなく,安全で,効果的であり,質が高く,支払い可能なヘルスケアサービス,治療薬,ワクチンにアクセスできる」の達成には欠かせない保健システムや保健政策について,世界約10か国から様々な人材が集まり,研修を開講している.WHO西太平洋事務局(Western Pacific Region, WPRO)との共同研修では,「生活習慣病対策」「医療の質・患者安全推進」のテーマで, WHOWPRO管内の国々から担当官が参加し, 3 ~ 4 日間のワークショップを開催する.国内研修として紹介した 2 つの研修(エイズ対策研修,児童虐待防止研修)は,ともにSDGsの目標に掲げられ,日本もその対策を推し進めるべきトピックとなっている.特に児童虐待については,国連より日本の早急な対応を求められているテーマである.本稿で紹介したすべての研修において,基本的な知識を学ぶ講義に加えて,具体的に現場で,どのような政策やしくみが適応されるべきか,自分たちは何ができるのか.という点を研修参加者同士で考えるという参加型の研修が実施されている.

    グローバルな視点,ローカルな視点の両方をもちあわせ人材育成に従事できる強みをもつ国立保健医療科学院であるが,今後も,その強みを生かしながら,また常に時代が変わり,求められるものが変化することを意識し,SDGs達成に向けた人材育成をすすめたい.

論文
  • JICA国際研修「アジア地域におけるユニバーサル・ヘルス・カバレッジ達成のための社会保険制度強化」の報告
    岡本 悦司
    原稿種別: 報告
    2019 年 68 巻 5 号 p. 425-433
    発行日: 2019/12/01
    公開日: 2020/01/09
    ジャーナル オープンアクセス

    緒言:全ての人が必要とする医療を可能な経済負担で受けられる体制,ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)は,国連とWHOが掲げる目標であり,アジアでいち早くUHCを達成したわが国は,アジア諸国のUHC達成への支援をその国際保健外交戦略の重要な柱と位置づけている.

    国際協力機構(JICA)の国際研修「アジア地域におけるユニバーサル・ヘルス・カバレッジ達成のための社会保険制度強化」は,その戦略実現の重要な方策として2013~15年度に実施され,国立保健医療科学院は研修の企画立案そして実施等の技術面で全面的に支援した.本稿では,その概要と成果を報告する.

    研修の内容:本研修はアジア諸国のUHC達成に関係する中堅職員を対象とし,わが国の医療保険制度の学習を通じて,各国に適用できるUHCのあり方に関する医療保険や医療経済の知識を習得するとともに,現地見学を通じて実務的経験を涵養することを目的とする.

    本研修は 2 週間のコースで,前半の週は座学中心に,日本の医療保険制度と医療経済の基本知識を学習し,十分な基礎知識を習得した上で後半週において,医療保険システムの 3 要素すなわち,保険(支払)者,医療機関そしてその間に介在する審査支払機関の業務を実地見学する構成となっている.十分な知識を持って実地訪問をすることによって,関係機関の機能と役割,そしてその重要性の理解を深める.

    後半週においては,講義と実地見学で得た知識と経験をベースに,各国でUHCを実現する上で必要となる医療経済学(患者負担割合と医療費との関連,医薬品の経済評価と薬価算定等)ならびに医師会等の利害関係者の理解と協力を得るための方策を日本の経験(審査支払への医師会の関与,保険診療への優遇税制適用等)を例に学び研修を総括する.

    成果と考察: 3 年間にわたって 9 か国37人が修了した.研修は2016年度より対象国をアジアのみならずアフリカにも拡大して継続している.今後は修了者の活躍や各国のUHCの達成状況等の追跡評価が必要になろうと予想される.

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