保健医療科学
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69 巻, 3 号
医療の技術革新と科学的根拠の確立に向けて―臨床研究とEBM推進にかかる国内外の動向―
選択された号の論文の12件中1~12を表示しています
特集
  • 佐藤 元
    原稿種別: 巻頭言
    2020 年 69 巻 3 号 p. 199-202
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2020/10/15
    ジャーナル オープンアクセス
  • 吉田 淳
    原稿種別: 総説
    2020 年 69 巻 3 号 p. 203-222
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2020/10/15
    ジャーナル オープンアクセス

    未承認薬・適応外薬の実用化には,保険,薬事,研究,医療という 4 つの世界に跨る道筋が要る.各領域にはそれぞれ,先進医療,治験,特定臨床研究,適応外使用などの仕組みがあって,それらを繋いだ複数の道筋によって最終目的である保険診療下での使用が可能となる.

    臨床研究法は,高血圧症治療薬の不適正事案の発生を受けて,我が国の臨床研究に関する信頼回復のために,臨床研究を実施する場合の質の担保及び被験者保護並びに研究者の利益相反管理等必要な手続と臨床研究に関する資金の提供に関する情報の公表の制度等を定めた.同法は臨床研究のデータの改ざんなどを規制する法律ではないので,引き続き各研究者の高い倫理観が求められることに変わりはない.

    従来の実施機関長に代えて最終責任者となった特定臨床研究実施者(研究責任医師)と,従来の施設設置に代えて国の認定によって一定の裁量権を行使する認定臨床研究審査委員会が果たす義務は重い.特に,研究責任医師には新たな事務手続きや金銭的な負担,さらに該当性の判断や適応外使用の扱いなどの知的負担が生じており,支援が求められる.

    新GCP導入によって起きた治験の空洞化を解決するために国は 3 期14年にわたって治験等活性化計画を実施した.我々が手掛けてきた治験・臨床研究を推進する方策はすべて,これら 3 回にわたる活性化計画から連続性をもって展開されている.臨床研究中核病院のコンセプトもこの活性化計画から生まれた.

    臨床研究中核病院は,日本全体の臨床研究基盤を支え,自施設のみならず日本の医療機関を総合的に支援する,全国13病院から構成されるAROプラットフォーム(共通基盤)である.一定の承認要件を満たした病院だけが医療法下での名称独占を認められ,そこには優れた研究者,新たな治療法を求む患者さん,企業からの治験等の相談が集約する.国内だけでなく,国際共同臨床研究の実施を通じて様々な課題に挑戦してほしい.

    国民・患者さんへの啓発・普及は,情報提供から始まり,「参加」促進を経て,「参画」促進へステップアップしようとしている.参画は関係者間の合意の形成を土台とするので,複数のステークホルダーが参加するワークショップ型の合意形成手法を用いて,ファシリテーターの存在下,多数決によらない,コンセンサスを得る方法で進めることが必要である.

    現在行っている,臨床研究・治験を推進する取組みの行きつくところを想像すると,遠くない将来,次のようなことが実現するのではないか.RCTの例外化,臨床試験の個別参加者データの共有財産化,患者さん・市民との合意形成を基盤とした研究計画の立案・実施,異なるプラットフォーム(共通基盤)のコンプレックスとして最大化・合理化したサービスを提供していく仕組みの実装など.

  • 臨床試験(研究)登録体制と試験・研究の登録推移
    湯川 慶子, 佐藤 元
    原稿種別: 総説
    2020 年 69 巻 3 号 p. 223-233
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2020/10/15
    ジャーナル オープンアクセス

    日本では,臨床試験の透明性の確保,被験者の保護,治験・臨床研究の質の担保を目的として,臨床研究(試験)の登録制度が導入され,2005年に運用が開始された.国立保健医療科学院は2008年より,登録情報の公開を図り,臨床研究(試験)情報ポータルサイトを開設し,国内の試験情報はWHOのInternational Clinical Trial Registry Platform(ICTRP)に送信されている.その後,利用者のユーザビリティ向上を目的に2014年に全面的に改修を行った.新しいポータルサイトでは,利用者別サイト構成として,一般向け,医療関係者向け,英語と分け,全体的に温かみのあるデザインとし,情報コンテンツ,用語等の解説,リンク集などを拡充するとともに,各種の類義語辞書により検索機能を強化した.さらに,2018年 4 月に臨床研究法が施行され,医薬品等の有効性・安全性の評価を行う研究に関して,法に基づく手続きが求められることとなった.研究者に対する臨床研究実施基準の遵守,製薬企業などに対する資金提供に関連する契約の締結および公表が求められ,研究実施に際しては認定臨床研究審査委員会(JCRB)により審査された臨床試験が,Japan Registry of Clinical Trials(jRCT)に登録されなければならない.本稿は本ポータルサイトを概観するとともに,国内登録機関の稼働以降の試験登録数の動向や今後の課題,さらに2019年末より世界的に流行しているCOVID-19に関する臨床試験(国内で登録)について言及した.

  • WHO-ICTRPの動向
    土井 麻理子, 湯川 慶子, 佐藤 元
    原稿種別: 総説
    2020 年 69 巻 3 号 p. 234-242
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2020/10/15
    ジャーナル オープンアクセス

    臨床試験登録は臨床試験のバイアスを防ぎ,臨床試験の科学性と倫理性を担保するため事前に試験を登録し一般公開する制度である.臨床試験が登録されることにより,試験の質が担保され,臨床試験から得られた結果を適切な医療や公衆衛生のエビデンスへ結びつけることがより確実になる.2005年より世界中で幅広く運用されている臨床試験登録精度は,2017年に登録項目が改訂され臨床試験の結果の要約や倫理審査,終了日,IPD Sharing Planなどが追加された.

    本稿では,臨床試験登録制度の概要と新たに追加された登録項目を解説し,国内外の臨床試験登録レジストリの対応状況について紹介する.従来の試験計画に加え,新たに試験の結果も公開されることで臨床試験の透明性が一層向上し,これまで以上に質の担保されたエビデンスが創出されることが期待される.

  • 症例報告の法令・指針上の扱いの国際比較
    冨尾 淳, 佐藤 元
    原稿種別: 総説
    2020 年 69 巻 3 号 p. 243-252
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2020/10/15
    ジャーナル オープンアクセス

    目的:症例報告の法令・指針上の位置づけについて,人を対象とする研究との区別を中心にわが国と諸外国の現状を概説し,症例報告に関する今後の課題について検討した.

    方法:日本および主要先進国(米国,イギリス,フランス,ドイツ)の法令・指針等,学術機関・学会等の指針,主要医学雑誌の投稿規定および学術文献を参照し,症例報告の学術的な定義を確認するとともに,各国における症例報告の位置づけ(研究に該当するか否か)および,症例報告の個人情報保護に関連する規制・要件等について整理した.

    結果:症例報告は,日本,米国,イギリスでは,法令・指針により「診療」または「研究以外の活動」とみなされ,研究には該当しないとされていた.フランス,ドイツでは,法令・指針において症例報告についての明確な言及はなかった.いずれの国でも,症例報告の実施に際して,倫理委員会の承認を含む研究に対する規制は原則として適用されないが,症例報告の目的(研究目的か否か),施設の方針等により研究とみなされる場合もあり,規制の適用状況は一様ではないことが明らかになった.対象者の個人情報保護については,いずれの国も法令およびこれに基づく指針により匿名化と同意のプロセスが規定されており,学術誌や学会等でも同様の規定が適用されていた.

    結論:症例報告は,原則として研究に対する規制の適用を受けずに実施されていたが,実際は研究目的で実施される状況もありうる.医療および医学研究を取り巻く環境の変化を踏まえた上で,症例報告を定義・分類し,症例報告の目的と内容を考慮した規制枠組を構築することが望まれる.

  • ロボット支援下手術等に関する登録・報告の推移
    吉田 都美, 湯川 慶子, 佐藤 元
    原稿種別: 総説
    2020 年 69 巻 3 号 p. 253-259
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2020/10/15
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録

    2018年 4 月に施行された臨床研究法では,医薬品等の有効性や安全性の評価を行うすべての臨床研究に対して法に基づき手続きが求められることになった.一方,手術・手技を介入手段とする臨床試験については,臨床研究法の対象外であるものの臨床研究法附則において,その有効性,安全性のエビデンス確立に向けた措置を講ずることとされている.本稿では,今後の臨床研究施策の在り方に資することを目的として,先端的な手術・手技の臨床試験の例としてロボット支援下手術を取り上げ,WHOのInternational Clinical Trial Registry Platform(ICTRP)およびClinicalTrials.govにおける登録状況を調査し,薬事承認や保険収載等のイベントと比較しながら国内外の臨床試験の登録,症例報告の公表状況の推移を検討した.結果として,2020年 5 月時点でロボット支援下手術のICTRP登録件数は188件,ClinicalTrials.govでは131件認められ,試験数は2010年頃より増加し2018年頃よりやや減少していた.ICTRP登録での国別では当初,米国やフランスなど欧米の試験に占められていたが,2011年以降は日本や中国での登録数が増加した.我が国のロボット支援手術の試験登録数は,薬事承認や保険収載等の時期と関連していたが,フィージビリティ試験から有効性・安全性を評価する臨床試験に至るまでにはタイムラグがあることが明らかとなり,その期間の安全性や有効性を確保できるような制度設計が喫緊の課題であると考えられた.

  • 高阪 真路, 小山 隆文, 角南 久仁子, 下井 辰徳, 柴田 大朗
    原稿種別: 総説
    2020 年 69 巻 3 号 p. 260-273
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2020/10/15
    ジャーナル オープンアクセス

    個々の患者の腫瘍のゲノム情報に基づき治療を選択する時代を迎え,2019年 6 月からがんの遺伝子パネル検査が保険診療で実施可能となり,個別化がん医療を加速させるための大きな一歩となった.

    遺伝子パネル検査で検出された遺伝子バリアントの解釈に基づいて治療を提供するためには,遺伝子バリアントの解釈とそのエビデンスレベルを付記する「臨床的意義付け」のプロセスが必要となる.全国のがんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院に設置されたエキスパートパネルは患者背景も考慮しつつ,得られたゲノム結果について検討を行う.

    がんゲノム情報管理センター (Center for Cancer Genomics and Advanced Therapeutics: C-CAT)では,エキスパートパネルへの医療支援として,遺伝子パネル検査結果報告書に対して,臨床試験や薬剤情報,エビデンスレベルなどを付加した,C-CAT調査結果を提供している.C-CAT調査結果はマーカーエビデンス情報,薬剤や臨床試験の情報を収集し,正規化して統合したがんゲノム医療に必要な知識データベース(CKDB; cancer knowledge database)に基づき出力される.CKDBの更新・維持のために腫瘍内科医や各診療科の専門医等,約25名から構成されるキュレーターチームが結成され,月次の頻度で臨床試験情報,薬剤情報,マーカーエビデンス情報の更新を行っている.C-CAT調査結果により,ゲノム解析結果に対する最新のエビデンスや薬剤・臨床試験の情報がエキスパートパネルに提供されることにより,ゲノム医療の均てん化・効率化が進む.また,臨床試験への患者登録が促進されれば,本国における新薬開発が活性化され,エビデンスの創出につながり,がん医療の進歩に大きく貢献する.

  • 若井 修治, 丸山 由起子, 伊藤 真由美, 奥山 正隆
    原稿種別: 総説
    2020 年 69 巻 3 号 p. 274-281
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2020/10/15
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録

    公益社団法人日本医師会 治験促進センター(略称:JMACCT,以下「当センター」という)は日本国内における治験実施体制の整備および治験業務の標準化・効率化の促進を行うことを目的に日本医師会の一部門として2003年に設立された組織であり,主に医師主導治験の支援やITシステム等を用いた業務の効率化,関係者への教育機会の提供と治験・臨床研究の普及啓発(以下,「治験啓発活動」という)を行っている.

    2010年以降医療機関での治験啓発活動が増える一方で,医療機関主体での活動はその啓発活動の成果が把握しにくく,理解度や普及啓発効果が図りにくいことを踏まえ,2016年11月以降当センターが医療機関と協力または主体となった治験啓発活動を行っている.今回,当センターが実施した治験啓発活動(2016年11月~2019年11月)の方法とその成果のまとめ,および,近年注目されている,診療情報データ等を利活用するリアルワールドデータに関する課題と啓発活動について報告する.

  • 英国NHS・NICEの指針と運用
    佐藤 元, 冨尾 淳
    原稿種別: 総説
    2020 年 69 巻 3 号 p. 282-289
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2020/10/15
    ジャーナル オープンアクセス

    外科領域の技術革新,中でも新規手術・手技の開発・導入は医療の発展にとって不可欠であるが,時に有害事象を引き起こし,安全性・有効性の事前評価が問題視され,また事後評価のあり方が問われる.これら技術革新は研究・臨床(医療)の両者を通じて行われるが,特に臨床の場における導入に関して,監視ならびに情報共有の制度は十全でない.英国の国民保健サービス(NHS)および国立医療技術評価機構(NICE)は,新規の侵襲的医療・手術手技プログラムにより,新規手術手技の導入にかかる指針を定め,新規性の定義,実施体制,事前審査,説明同意,救急対応における実施条件,事後の評価(監査)および報告などの手順を明確化した.英国のNHS各地域トラストは,この指針に沿って実施規則・体制をさらに具体化して整え運用している.英国における本プログラムは,我が国における新規医療技術・手術手技の監視・評価体制の整備,さらには医療技術ガバナンスの向上を推進する上で示唆するところが多い.

論文
  • 西條 泰明
    原稿種別: 論壇
    2020 年 69 巻 3 号 p. 290-295
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2020/10/15
    ジャーナル オープンアクセス

    採血が唯一の侵襲となる人に対する医学研究について,倫理指針上では通常の採血は軽微な侵襲として扱われるため,倫理委員会による迅速審査が可能な範囲で,倫理指針上では合併症への補償保険の加入も求められていない.また,一般に利用されている臨床研究保険では採血による合併症は医療行為自体による合併症として免責となっている.そのため,臨床部門以外の研究主体が行う研究では,実際に採血合併症が生じた場合には,臨床研究保険の利用による賠償や補償ができない状況である.一方,献血においては「献血者健康被害救済制度」が確立しており,医療費や医療手当(治療による医療費以外の費用の負担に対する)の支払いや,採血合併症への賠償・補償への対応がなされている.それを参考に採血が唯一の侵襲となる医学研究についても,合併症が生じた際に,医療費や医療手当の支払い,さらに必要があれば賠償について確実に研究主体の責任で行えるようにすべきと考えられる.そのためには,臨床研究保険において採血が唯一の侵襲となる医学研究についての保険が設定されることが望まれる.さらに,倫理委員会でも採血合併所の際の補償や賠償の必要が生じた際の対応について,一般には臨床研究保険加入の必要性と,侵襲の程度により審査がなされていると考えられるが,研究主体による採血合併症治療への医療費自己負担分の支払いの有無とその財源,賠償責任発生時の医師賠償責任保険の利用がどのようになされるかについてしっかり審議を行うことが必要と考える.

  • 質的研究を通して
    高杉 友, 梅山 吾郎, 島崎 敢, 横山 由香里, 原岡 智子, 池田 真幸, 岡田 栄作, 尾島 俊之
    原稿種別: 資料
    2020 年 69 巻 3 号 p. 296-305
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2020/10/15
    ジャーナル オープンアクセス

    目的:大規模地震では,高齢者や障害者などの要配慮者が多く被災している.災害発生時に要配慮者に対し,保健医療・福祉分野の取組みを行い,被害を軽減することは重要である.本研究では,2016年の熊本地震において,要配慮者に対し,保健医療・福祉サービスまたは情報の提供を行った行政機関や福祉関連機関等へのインタビュー調査による質的研究を通して,保健医療・福祉分野の災害対応に関する課題と対策を整理することを目的とした.

    方法:2018年 8 月末~2019年 2 月末の間に半構造化面接による質的研究として実施した.対象機関は,熊本地震で要配慮者に対し,保健医療・福祉サービスまたは情報の提供を行った行政機関,福祉関連機関,教育機関,情報機関,国際交流機関とした.調査項目は,災害時の要配慮者への安否確認,保健医療・福祉サービスに関する情報共有・支援提供,他部署及び他組織との連携状況,一般避難所及び福祉避難所の 4 点に関する実態・課題・対策である.テーマ分析を行い,要配慮者に対する保健医療・福祉分野の災害対応に関する課題と対策に関する部分を抽出し,コーディング,カテゴリー化を行った.

    結果:研究対象者は行政機関や福祉関連機関等の12対象機関・部署における管理的立場の者,保健師・訪問看護師・社会福祉士などの専門職等の20名だった.要配慮者に対する保健医療・福祉分野の災害対応に関する課題と対策に関する 4 テーマ【行政機関内の対応】,【行政機関・民間組織・住民等の対応】,【自助】,【福祉避難所】が抽出された.課題は[情報共有体制の脆弱性],[行政機関職員のマンパワー不足],[公助・互助・民助の役割分担が不明確],[自助が不十分],[多様な要配慮者のニーズ把握の欠如],[福祉避難所数の不足]の 6 サブテーマ,対策は[他組織・部署間の情報共有・連携強化],[外助の活用],[互助・民助の活用],[自助強化の支援],[要配慮者のニーズに合った福祉避難所の設置],[一般避難所の要配慮者受入れ],[多様な避難場所の提供]の 7 サブテーマに分類された.

    結論:本研究で確認されたラジオ局等の情報機関を含めた行政機関・民間組織・住民等との連携,被災地域外からのタイムリーな後方支援システムの構築,要配慮者のニーズに合った避難所や避難場所の設置が,今後は他の地域においても推進されることが期待される.

  • 川崎 千恵, 大夛賀 政昭, 越智 真奈美
    原稿種別: 資料
    2020 年 69 巻 3 号 p. 306-316
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2020/10/15
    ジャーナル オープンアクセス

    目的:児童相談所の専門職が学ぶ必要があると考える研修内容と,それらを学ぶ機会の実態を明らかにすることを目的とした.

    方法:全国の児童相談所214か所の児童福祉司,児童心理司,保健師を対象に,無記名自記式質問紙調査票を郵送配布した.各児童相談所各職種 1 名を調査対象とした.調査内容は,回答者の属性,学ぶ必要があると認識している研修内容(講義・演習)とそれらを学ぶ機会の有無とした.全変数について記述統計を行うとともに,各回答傾向の職種間の差を確認するために,Dunn検定とχ二乗検定を行った.

    結果:回答を得た395名のうち387名を分析対象とした(有効回答率97.9%).回答者の児童相談所における職種の割合は,児童福祉司43.9%,児童心理司43.9%,保健師12.1%であった.学ぶ必要があると考える講義テーマは「虐待の子どもへの影響」「虐待の判断・リスクアセスメント」などであった.職種間の差がないものは「虐待の子どもへの影響」などで,すべての職種が学ぶ必要があると考えるが,学ぶ機会がないものは,「子ども・保護者との面接に関する技術」であった.学ぶ必要があると考える演習テーマは「子ども・保護者との面接に関する技術」「虐待の判断・リスクアセスメント」などであった.職種間の差がないものは,「事例検討」などで,すべての職種が学ぶ必要があると考えるが,学ぶ機会がないものは,「スーパービジョン」「子ども・保護者との面接に関する技術」であった.

    結論:本研究の結果,児童相談所職員に共通して,あるいは特定の職種に特に学ぶ必要があると考える研修テーマと,それらを学ぶ機会の実態が明かになった.今後,研修内容と対象職種を検討する上での参考となり,学ぶ必要性の認識が高く,学ぶ機会に職種間で差がなかったテーマの研修を 3 職種合同で行い,意見交換をする機会を設けるなどにより,職種間の相互理解にも役立つ可能性があると考える.

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