未承認薬・適応外薬の実用化には,保険,薬事,研究,医療という 4 つの世界に跨る道筋が要る.各領域にはそれぞれ,先進医療,治験,特定臨床研究,適応外使用などの仕組みがあって,それらを繋いだ複数の道筋によって最終目的である保険診療下での使用が可能となる.
臨床研究法は,高血圧症治療薬の不適正事案の発生を受けて,我が国の臨床研究に関する信頼回復のために,臨床研究を実施する場合の質の担保及び被験者保護並びに研究者の利益相反管理等必要な手続と臨床研究に関する資金の提供に関する情報の公表の制度等を定めた.同法は臨床研究のデータの改ざんなどを規制する法律ではないので,引き続き各研究者の高い倫理観が求められることに変わりはない.
従来の実施機関長に代えて最終責任者となった特定臨床研究実施者(研究責任医師)と,従来の施設設置に代えて国の認定によって一定の裁量権を行使する認定臨床研究審査委員会が果たす義務は重い.特に,研究責任医師には新たな事務手続きや金銭的な負担,さらに該当性の判断や適応外使用の扱いなどの知的負担が生じており,支援が求められる.
新GCP導入によって起きた治験の空洞化を解決するために国は 3 期14年にわたって治験等活性化計画を実施した.我々が手掛けてきた治験・臨床研究を推進する方策はすべて,これら 3 回にわたる活性化計画から連続性をもって展開されている.臨床研究中核病院のコンセプトもこの活性化計画から生まれた.
臨床研究中核病院は,日本全体の臨床研究基盤を支え,自施設のみならず日本の医療機関を総合的に支援する,全国13病院から構成されるAROプラットフォーム(共通基盤)である.一定の承認要件を満たした病院だけが医療法下での名称独占を認められ,そこには優れた研究者,新たな治療法を求む患者さん,企業からの治験等の相談が集約する.国内だけでなく,国際共同臨床研究の実施を通じて様々な課題に挑戦してほしい.
国民・患者さんへの啓発・普及は,情報提供から始まり,「参加」促進を経て,「参画」促進へステップアップしようとしている.参画は関係者間の合意の形成を土台とするので,複数のステークホルダーが参加するワークショップ型の合意形成手法を用いて,ファシリテーターの存在下,多数決によらない,コンセンサスを得る方法で進めることが必要である.
現在行っている,臨床研究・治験を推進する取組みの行きつくところを想像すると,遠くない将来,次のようなことが実現するのではないか.RCTの例外化,臨床試験の個別参加者データの共有財産化,患者さん・市民との合意形成を基盤とした研究計画の立案・実施,異なるプラットフォーム(共通基盤)のコンプレックスとして最大化・合理化したサービスを提供していく仕組みの実装など.
抄録全体を表示