保健医療科学
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最新号
人口減少社会における持続可能な水供給システムとまちづくり
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特集
  • 浅見 真理
    原稿種別: 巻頭言
    2022 年 71 巻 3 号 p. 193
    発行日: 2022/08/31
    公開日: 2022/09/23
    ジャーナル オープンアクセス
  • 浅見 真理, 沢田 牧子, 西田 継
    原稿種別: 解説
    2022 年 71 巻 3 号 p. 194-207
    発行日: 2022/08/31
    公開日: 2022/09/23
    ジャーナル オープンアクセス

    目的:高齢化及び人口減少,老朽化等により,小規模な上水道や簡易水道では水道事業の維持が大きな課題の一つである.上水道や簡易水道等の水道との接続や事業統合が難しい状況にある,給水人口が100人以下の飲料水供給施設や小規模な集落水道,飲用井戸等(以下,小規模水供給システム)にあっては,この影響が特に大きく,飲料水を含む生活用水を供給する「小規模水供給システム」に関する施設・財政・維持管理・衛生確保といった様々な面で多くの問題を抱え,その維持が困難となりつつある.このような水供給維持困難地域を含む地域においても衛生的な水を持続的に供給できる体制づくりに寄与することを目的として,日本の各地で行われている持続可能な水供給システムとまちづくりの様々な試みを概説する.

    方法:研究班において多くの事例を収集すると共に,水道法の適用を受けない小規模水供給システムの衛生確保対策を行う全国の地方自治体(都道府県,市,特別区)を対象に小規模水供給システムの実態把握状況や指導体制等についてのアンケート調査を実施した.調査結果を基に,全国の小規模水供給システムに係る衛生確保対策の実態を把握し,これからの水供給の安全性確保や持続的な維持管理のための課題を整理し,今後の方策を検討する研究を行った.

    結果:小規模な水供給における課題が多く抽出された一方で,都道府県や近隣自治体と連携,住民らの協力により一定の持続性を確保する試みが奏功している事例もあった.他機関からの協力(相談,助言等も含む)を得るとすれば,「都道府県や近隣自治体と連携,事例紹介や相談体制を構築したい」とする意見が198件と最も多く,次いで「オンラインで講習会や勉強会,相談会があれば受けてみたい」が88件あった.他にも現地での活動を希望する声も多くあり,現地調査や講演・相談会の必要性が示された.小規模水供給を軸とした互助ネットワークの形成による社会的効用創出モデルや他の公共事業との協働の枠組みなどがあることも分かった.

    結論:小規模水供給に係る集約的な相談体制や厚生労働省や地方自治体,研究機関との間で共通する情報の共有化や情報提供体制の確立が重要であると考えられた.

  • 宇野 二朗
    原稿種別: 解説
    2022 年 71 巻 3 号 p. 208-215
    発行日: 2022/08/31
    公開日: 2022/09/23
    ジャーナル オープンアクセス

    目的:水道事業では施設の老朽化が進み,その更新が求められているが,人口が減少する中ではそれは困難を伴う.特に簡易水道事業ではその多くは農山漁村に立地するため問題は先鋭化する.簡易水道事業をめぐる問題は,水源,水道システム,情報システム,人材,組織,財政など多岐にわたり複雑である.本稿では,そのうち簡易水道事業に対する財政制度について取り扱う.簡易水道事業の財政は国庫補助だけでなく,一般会計繰出によって支えられている.本稿では特に一般会計繰出に注目し,それがどのような目的で導入され,発展してきたのか,また,人口減少問題に対してどのように対応しようとしているのか,その動向を解説する.

    方法:財政制度の理念や内容を記述するために,本稿では財政制度に関する二次文献に加えて,法令のほか,行政官によって書かれた論考を収集する.

    結果:簡易水道事業に対する財政措置には,建設改良に対する財政措置と高料金対策の財政措置がある.建設改良に対する国庫補助は農山村の衛生環境の改善を目的としたものとして導入され,のちに法定された.また,住民の財政負担を軽減するために一般会計繰出とそれに対する財政措置が講じられるようになった.その後,辺地や過疎地域の問題が生じるとそうした地域に対する特別な財政措置が講じられることになる.こうした財政措置は水道の普及に貢献し,水道サービスが普遍的なサービスとしてとらえられるようになると料金格差問題に注目が集まり,その是正のための財政措置が設けられることになった.簡易水道事業では,給水原価,特に資本費にかかる原価が高く,そのため,いずれの財政措置も資本費の大きさに着目したものである.

    結論:簡易水道事業には資本費に対する手厚い財政措置が講じられている.簡易水道事業のための財政システムは,国庫補助と市町村の一般会計繰出との連携によって特徴づけられる.

  • 木村 昌弘, 浅見 真理
    原稿種別: 報告
    2022 年 71 巻 3 号 p. 216-224
    発行日: 2022/08/31
    公開日: 2022/09/23
    ジャーナル オープンアクセス

    人口減少等により,小規模な水道事業の維持は大きな課題の一つであるが,給水人口が100人以下の飲料水供給施設等(以下,小規模水供給システム)にあっては,影響が特に大きく,飲料水を含む生活用水を供給する水道の施設・財政・維持管理・衛生確保の様々な面で多くの問題を抱え,水道の維持が困難となりつつある.

    また,人口 5 千人以下の過疎町村にある水道では,事業環境や運営基盤も厳しいことに加え,事業をすべて統合しても上水道事業にはできない.現在,給水人口が101人以上の簡易水道事業でも,近い将来給水人口が100人以下となる事業が確実に増加することから,小規模な水道が抱える課題はより広範囲に深刻化することになる.

    本研究では,特に事業環境が厳しい全国の簡易水道の中から選定した事業において,近接した 3 集落の独立した小規模水道をモデル地区として,施設統合や運搬給水など様々なシステムや多様な給水形態を導入した場合について,今後60年間の経営シミュレーション等を行った.これらの結果を基に一人一月当たりの平均費用負担額を評価基準として,今後の給水システムについて施設統合や自立分散型,運搬給水や非飲用水給水の導入などの優位性を評価し,今後これらの地区で導入すべき最適なシステムについて検討した.こうした評価手法が他の多くの小規模水道の今後の最適なシステムや給水形態につての検討に利用できるよう,簡易で汎用的な評価手法を検討し,今後の小規模水道のあり方について考察した.

  • 伊藤 禎彦, 中西 智宏, 曾 潔
    原稿種別: 解説
    2022 年 71 巻 3 号 p. 225-233
    発行日: 2022/08/31
    公開日: 2022/09/23
    ジャーナル オープンアクセス

    人口減少が進む中,小規模水供給システムに焦点を当てる重要性が高まっている.訪問調査を行った地元管理されている水供給施設について,いくつかの観点からその実態を示した.小規模水供給システムにおいては,微生物的安全性の確保を優先する必要がある.限定的な情報の下で,微生物的な安全性を確保するためのアプローチ方法を提示した.また,京都市内の水利用施設を対象とし,原水の微生物リスクを推定したうえで,必要な浄水処理レベルについて考察を行った.

  • 小熊 久美子
    原稿種別: 総説
    2022 年 71 巻 3 号 p. 234-240
    発行日: 2022/08/31
    公開日: 2022/09/23
    ジャーナル オープンアクセス

    公共水道を利用できない地域において,いかに安全な水を安定的に供給し,さらに将来にわたり持続的に維持するかは,国内外を問わず重要かつ喫緊の課題である.大規模な公共水道だけで世界にあまねく安全で持続的な水供給を実現するには相当の時間とコストを要し,社会経済的に合理性を欠くことから,小規模な施設で分散的に水を処理し供給するシステムの活用が有効である.本稿では,小規模分散型の水供給システムのうち,特に集落規模で運営と維持管理を担う施設に焦点を絞り,筆者が見聞した海外での事例として,カナダの遠隔地およびスリランカの農村地域における水供給の実態を紹介する.

    カナダでは,一部の大都市に人口が集中する一方で遠隔地では極めて低密な居住実態があり,そのような地域には集落単位で運営する小規模な水供給施設が相当数存在する.それらの施設では水質に課題があるケースが散見され,煮沸勧告など水利用を制限する勧告が 1 年を超えて継続的に示されている施設も複数存在する.遠隔地に多いカナダ先住民の生活支援策という観点でも小規模水供給施設を重視するカナダ政府の基本方針,また集落規模で運営する施設の維持管理の実態について,ブリティッシュコロンビア州の事例を中心に報告する.一方,スリランカでは,北部中央地域でまん延する原因不明の慢性腎臓病が飲用する地下水に由来するとの仮説を踏まえ,国家プロジェクトとして逆浸透(RO)膜ろ過を備えた集落規模の水供給施設を導入してきた経緯がある.それら施設の運営実態や維持管理の課題について,現地32施設を訪問調査した結果をもとに報告する.最後に,これら 2 カ国の事例紹介を通じて,小規模水供給施設の実態と課題を総括する.

  • 増田 貴則, 堤 晴彩
    原稿種別: 総説
    2022 年 71 巻 3 号 p. 241-253
    発行日: 2022/08/31
    公開日: 2022/09/23
    ジャーナル オープンアクセス

    水道法の規制対象外とされる計画給水人口が100人以下の小規模な水道が全国に多数存在している.これらは集落の住民自らが施設等の管理運営を行なっているが,高齢化や人口減少の進展,施設の老朽化等により,施設等の維持が困難になりつつあると懸念されている.これらのことを踏まえて筆者らは,水供給施設の持続可能な維持管理の在り方の一つの道筋として,行政やNPO法人等の集落外からの協力による維持管理を提案し,水供給施設の実態を把握するとともに,集落外からの維持管理による支援方策の実現可能性について検討してきた.

    西日本の 1 府11県の小規模水道を対象とし,質問紙調査を実施した結果,地下水に次いで表流水が多く利用されていることがわかったが,塩素消毒なしで表流水を利用している集落も多く,衛生安全性の面から懸念が残った.また,約66%の集落で水が使用できなくなるようなトラブルがかなりの頻度で発生しており,給水の安定性といった面からも脆弱さが懸念される.施設の維持管理作業において負担感が大きい項目は,取水設備の点検・清掃,ろ過池作業,作業場までの移動といった日常時の維持管理作業に加え,停電・断水時や水圧低下時の対応など非常時の対応についても負担の重い作業であることがわかった.

    集落外との連携状況とその支援の利用意向を把握するために,追加で質問紙調査を行った結果,集落外の団体と連携したことのない集落は約 8 割であった.また同調査にて, 8 つの架空の支援策を紹介し,それらの支援策が集落外の団体から有償あるいは無償にて提供される場合に利用したいかを尋ねた結果,いずれの場合も一定数の集落が利用したい意向を持っていることがわかった.加えて,集落外の外部団体からの支援を利用することへの抵抗感が高いわけではないことも確認できた.

    少数ではあるが地方自治体の中には積極的な支援を行っているケースやNPO団体を活用しているケースがあることがわかった.国が最近創設した特定地域づくり事業共同組合制度は,人口急減地域の小規模水道の作業を支援する枠組みとなる可能性がある.今後は,支援の可能性をもつ団体に対して意向を調査すること,ならびに活用できそうな国の支援制度等を併せて検討していくなどにより,外部団体の協力によって小規模な水供給施設を維持するための,その実現可能性を高めていく必要があると考えられる.

  • 牛島 健, 増田 貴則
    原稿種別: 総説
    2022 年 71 巻 3 号 p. 254-263
    発行日: 2022/08/31
    公開日: 2022/09/23
    ジャーナル オープンアクセス

    経営統合や広域連携による経営効率化が喫緊の課題となる中,北海道のように空間的分散性の高い地域においては,統合や連携による経営効率化だけでは,解決が難しい状況もみられる.こうした場所では,第 3 の選択肢として,従来の枠にとらわれない経営主体,日常の維持管理主体の再編が必要と思われる.本稿では,主に地方部の水供給システムにおける今後の一つのモデルとして,地域自律管理型を核とした新たな地方水道のしくみを,現状調査と実践的な取り組みに基づき紹介する.北海道での実態調査からは,既存の地域自律管理型水道の個々の施設や運営形態,市町村の支援体制は,それぞれ多様であることが確認された.一方で,地域自律管理型の強みと課題を整理した結果,多くの事例では,良質な水源や農家の存在を背景に,低コストで無理のない運営が実現している反面,水質リスク管理体制やアセット情報管理に課題があることがわかった.そうした地域自律管理型水道の特性を踏まえ,北海道富良野市と筆者らは,地元高校生との連携による地域自律管理型水道の支援体制づくりを行ってきた.富良野高校科学部のクラブ活動と連携し,地域自律管理型水道を対象に,水質リスク管理体制支援として簡易の水質調査,アセット情報管理支援として管路地図のGIS化,そして一連の成果の報告会を実施してきた. 5 年間の実践を通じてわかったのは,高校生の作成した情報は地域にとって十分価値あるものになるということ,地元高校は地域にとって次世代の担い手を育てる場であり,高校生が地域を知ろうとする活動は地域の活性化にも貢献しうること,水道再編に係る地域のネットワークを構築する上で,地元高校卒業生のネットワークが活用できることなどであった.また,今後同様の支援体制づくりを別の場所で展開する際に,必要と想定される人員・コストを見積もると,初期費用は約7.3万円(高校で利用可能なPCがすでにある場合),年間コストは約5.1万円,そして,筆者のような外部研究者の協力にかかる人工は 6 人日/年程度と考えられた.以上のような地元高校と連携した支援体制や,市町村による支援体制を,無理のない形で構築していくことが,今後の小規模給水システムの持続性を高める上で重要になると考えられる.

論文
  • 本多 貴実子, 白岩 健, 後藤 励, 福田 敬
    原稿種別: 総説
    2022 年 71 巻 3 号 p. 264-275
    発行日: 2022/08/31
    公開日: 2022/09/23
    ジャーナル オープンアクセス

    適正な医療資源の配分のためのエビデンスを提供することを目的として行われる医療経済評価では,異なった領域の介入の比較を容易にするため,アウトカム指標を質調整生存年(Quality-adjusted life year: QALY)とすることが原則とされている.QALYは生存期間にQOL(Quality of life)を 0 から 1 の値に換算したQOL値を重み付けして得られる.QALYにはその国の人々の選好による重みづけが反映されることが望ましいという観点から,QOL値は国内の調査結果を優先的に使用することが推奨されているが,以前から日本人のデータが乏しいことが指摘されていた.近年成人ではその蓄積が進みつつあるが,小児においてはその測定に多くの課題があり,日本ではほぼ行われていないのが現状である.

    医療経済評価でQOL値測定に用いられる尺度は選好に基づく尺度(Preference-based measure: PBM)である.PBMによってQOL値を得る過程は,評価したい健康状態の「測定」と「価値づけ」に分けられる.これを一度に行うものを直接法,別々に行うものを間接法と呼ぶ.直接法には評点尺度法,時間得失法,基準的賭け法があるが,小児では実施可能性,信頼性,妥当性はまだ十分に検討されていない.成人も含め一般的に現在主流となっている間接法では,multi attribute utility instruments (MAUIs)と呼ばれる尺度を用い,実際にその健康状態にある人(患者)に自らの健康について質問票に記入してもらった後,換算表を用いてQOL値を算出する.一般的に成人を対象に開発されたMAUIsは,小児で使用するにあたって質問の記述の仕方や内容が適していない,さらに換算表が成人の健康についての価値付けになっているなどの問題があり,小児には小児用のMAUIsの使用が望ましいとされる.

    近年小児用のMAUIsの開発が進んできたが,各国での翻訳や換算表の有無により,どの国でもこれらが使用できるわけではなく,3歳以下の年少児では使用できるものは現在ない.また,どの領域をどのように評価するべきか,誰が記入するべきかなどの「測定」に関する課題,換算表の作成にあたって誰の選好をどの視点を使用して明らかにし,反映するべきなのかという「価値付け」の課題があり,現在あるMAUIsが十分に小児の健康関連QOLをとらえられていない可能性もある.

    日本ではこれまで小児の使用を想定したMAUIsがなかったが,最近EuroQol 5-dimension Youth version (EQ-5D-Y)日本語版とその換算表が発表され,今後日本人小児のデータの蓄積が期待される.小児のQOL値の測定と解釈にあたっては,その課題や限界を十分に理解しておく必要がある.

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