高齢社会への移行ならびに非感染性疾患への疫学的移行に伴い,リハビリテーションのニーズが世界的に増大している.リハビリテーションは,かつては障害のある児・者のためのものと認識されてきたが,今日では “誰もが人生のある時点で必要とする可能性があるもの”と定義され,ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)に含まれるべきエッセンシャルサービスに数えられている.
世界において3人に1人がリハビリテーションの恩恵を受けられる健康状態にある可能性が示唆されており,高齢化に伴い,今後さらにニーズが増大すると言われている一方,中低所得国を中心に多くの国々において,現在のニーズにさえ十分対応できていない状況にある.こうした状況を背景に,WHOは2017年にRehabilitation 2030を発足し,リハビリテーションを提供するための保健システム強化を目指し,様々な取り組みを行っている.
ASEAN諸国においても,リハビリテーションニーズが高まっている.他の地域と同様に,筋骨格系疾患によるリハビリテーションニーズが最も高く推計されており,西太平洋地域ならびに東南アジア地域のいずれにおいても,高齢であるほどリハビリテーションニーズが高く推計されている.一方,ASEAN諸国におけるリハビリテーションの労働力について,人口10,000人当たりの理学療法士数は,データが入手できた8か国間の最大比が48倍,作業療法士数は,データが入手できた5か国間の最大比が20倍であり,ASEAN諸国間において,労働力に大きな格差がある可能性が考えられる.
各国においてリハビリテーション体制整備を進めるためには,適切な現状分析が不可欠である.WHOは,リハビリテーション状況の体系的評価のためのツールを開発している.これを活用した先行研究では,対象国におけるリハビリテーションに関する不十分なサービス設計や非効率な紹介システム,リハビリテーションの質の管理・評価に関する適切な仕組みの欠如などの課題が明らかにされており,ツールの有用性が示されつつある.こうしたツールを参考に,各国のリハビリテーションの状況を示す代表的な指標が設定され,UHCやHealthy Ageing,Long-term careなどの関連領域における評価指標群に含められることで,リハビリテーションの統合が促進されると考えられる.
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