保健医療科学
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最新号
高齢者介護の質向上にむけた動向:切れ目のない支援を ―アクティブ・エイジングとウェルビーイング―
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
特集
  • アクティブ・エイジングとウェルビーイング
    原稿種別: 巻頭言
    2024 年 73 巻 3 号 p. 173
    発行日: 2024/08/30
    公開日: 2024/09/04
    ジャーナル オープンアクセス
  • 林 玲子
    原稿種別: 総説
    2024 年 73 巻 3 号 p. 174-184
    発行日: 2024/08/30
    公開日: 2024/09/04
    ジャーナル オープンアクセス

    人口高齢化は世界に広がっており,世界全域で高齢者割合は増加し,これから高齢化が本格化する地域では高齢化のスピードは速く,今後の高齢者数の増加も著しい.人口高齢化対策は保健医療分野のみならず社会参加や雇用,生涯教育,所得保障,健康推進,環境整備など多分野で取り組む必要性があり,高齢者施策の法律や国家計画は多くの国で策定されるようになっている.

    寿命が延びると,慢性疾患や障害を持つ人も多くなるため,急性期の疾患に対応する医療提供と同時に,慢性疾患や障害に対して長期的なケア,つまり介護を提供する必要性が生じる.すでに公的な介護制度を構築している国も少なくないが,これから高齢化が進むアジアでは,今後どのように介護制度を構築するのか模索が続いている.増える高齢者介護のニーズを家族の機能を高めることで対応しようという国もあるが,日本のように,介護の担い手を家族から社会に移行させた国もある.しかしながらそのために必要な介護専門人材は大きく不足している.アジアでは,老親の面倒は家族が家でみるもので施設に入れることには文化的な忌避感があるといわれてきたが,すでに香港,日本,韓国の高齢者の施設居住割合は世界でも高水準であり,施設を含めて高齢者の居場所をどのように確保し,ケアの質をどう保つのが問われよう.

    新型コロナウイルス感染症の流行により,アジアでは当初死亡率は低下したが,その後死亡率の高止まりが続いている.コロナの直接的な影響以外に,感染症対策による医療・介護現場の変化や行動制限の影響など,高齢者介護の面からも検討を要する点は多くある.

    高齢化に続いて,少子化はアジアで深刻な問題になりつつあり,日本に続いて韓国,中国が人口減少社会になったように,アジア全体も2055年には人口減少に転じると推計されている.高齢者が元気で長生きすることは人口減少対策でもあり,量・質ともに充実した介護制度はそのためにも重要である.

  • ICOPE(Integrated Care for Older People)について
    荒井 秀典
    原稿種別: 解説
    2024 年 73 巻 3 号 p. 185-189
    発行日: 2024/08/30
    公開日: 2024/09/04
    ジャーナル オープンアクセス

    加齢と共に心身機能のみならず,認知機能や感覚機能が衰え,フレイルを合併する高齢者が増加する.フレイルは要介護状態の手前の状態であり,転倒・骨折,認知症,脳卒中などのリスクとなる.一方,WHOは高齢になっても機能維持が可能であり,それが健康寿命の延伸につながるとの考えから,内在的能力(Intrinsic capacity)を提唱し,あらゆる地域において健康寿命の延伸に取り組むことができるよう啓発を行っている.そして,WHOは内在的能力の低下を防ぐことにより,健康寿命を延伸するためのツールとしてICOPEを開発した.ICOPEは健康寿命を延伸し,高齢者の介護者を支援するための介入を含む包括的な地域に根ざしたアプローチを実践するためのツールであり,介護予防における有用な手段である.

  • 児玉 知子, 大夛賀 政昭
    原稿種別: 総説
    2024 年 73 巻 3 号 p. 190-200
    発行日: 2024/08/30
    公開日: 2024/09/04
    ジャーナル オープンアクセス

    人口高齢化は世界が直面している課題であるが,特にアジア太平洋地域では変化のペースが速く,65歳以上人口割合は,2050年には現在の約2.5倍に増加し,女性の14%,男性の11%に達すると推定されている.高齢者の増加に伴い,アクティブエイジングに関する取組が進められている一方,介護サービスの導入やアクセス拡大,継続的な提供が共通の課題となっている.これらの解決には,介護の質の評価を行い,その費用対効果等を明らかにしつつ導入する必要があるが,高齢者のケアや介護サービス提供は,社会保障を含めた国の施策や経済・社会・文化的背景に大きく影響を受ける.また,在宅を含めた複数サービスの利用やインフォーマルケアの存在,長期療養高齢者の適切なQOL評価に関する課題等があり,国際的に広く利用可能な評価指標は開発途上である.本稿では,諸外国におけるこれらの評価の動向について概説する.

  • 佐々木 由理, 尾白 有加, 菖蒲川 由郷, 山口 佳小里, 児玉 知子, 町田 宗仁
    原稿種別: 総説
    2024 年 73 巻 3 号 p. 201-206
    発行日: 2024/08/30
    公開日: 2024/09/04
    ジャーナル オープンアクセス

    目的:世界の急速な高齢化に伴い,Healthy Ageingは重要なキーワードとなっている.そこで,Healthy Ageingの取り組みに関する世界保健機関(World Health Organization, WHO)のレポートや論文をレビューし,更にこれまでに開発された,国や地域のHealthy Ageingの度合いを測定するための指標について報告する.

    WHOはHealthy Ageingを「高齢であっても満足できる生活状態を可能にする機能的能力を発達させ,維持するプロセス」と定義し,他の国連機関と協力して様々な取り組みを行っている.国連が定めた「Decade of Healthy Ageing (健康長寿の10年)」(2021年~2030年)の2023年時点の進捗状況についての報告では,多くの国が高齢化に対する政策を策定している中で,人材や資金などの不足が政策の実施を限定的にしている可能性を指摘しており,社会経済状況等の違いが,世界のHealthy Ageing 達成の阻害要因となっていることが示唆された.

    一方で,Healthy Ageingに関する指標は,複数存在しており,人材や資金などが十分ではない低所得国等でも使いやすい指標も開発されている.こうした指標を活用しながら,各国の高齢化に対する目標が具体的になり,Healthy Ageingに向けた様々な社会環境が改善されていくことが期待される.

  • 三浦 宏子, 山口 佳小里, 児玉 知子
    原稿種別: 総説
    2024 年 73 巻 3 号 p. 207-213
    発行日: 2024/08/30
    公開日: 2024/09/04
    ジャーナル オープンアクセス

    目的:本研究では,ASEAN諸国等の中高年層における歯・口腔の健康格差の現状を明らかにしたうえで,介護予防アセスメントに包含すべき歯科保健指標について二次分析する.

    方法:ASEAN諸国における歯・口腔の健康格差の現状を把握するため,二次資料・データに基づく定量分析を実施した.中高年の口腔健康状態に関する6つの指標は,WHO のThe Global Health Observatoryから取得した.歯科保健に関する指標をASEAN諸国間で可視化するためにzスコアを用いた.また,高齢者の歯の喪失状況とフレイルとの関連性について,アジア諸国での研究知見による文献レビューを行い,定性的な分析を行った.

    結果:二次データを用いたzスコアを算出したところ,3つに類型化できた(①重度歯周病の有病率が高い,②60歳以上の無歯顎者率が高い,③両方が低い).また,文献レビューの結果,アジア諸国での歯の喪失状況とフレイルに関する横断研究8件,縦断研究1件が抽出された.これらの研究の大部分で,歯の喪失状況とフレイルとの間には有意な関連性が報告されていた.

    結論:ASEAN諸国における歯科保健指標の国家間比較により,3つの類型に分類し,各々の特徴を明確にすることができた.さらに,アジア諸国での歯の喪失とフレイルに関する文献レビューの結果,両者の間には有意な関連性があることが確認された.歯の喪失等の歯科保健指標は介護予防アセスメントに活用でき,フレイル予防や介護予防に寄与することが示唆された.

  • 山口 佳小里, 三浦 宏子, 児玉 知子
    原稿種別: 総説
    2024 年 73 巻 3 号 p. 214-224
    発行日: 2024/08/30
    公開日: 2024/09/04
    ジャーナル オープンアクセス

    高齢社会への移行ならびに非感染性疾患への疫学的移行に伴い,リハビリテーションのニーズが世界的に増大している.リハビリテーションは,かつては障害のある児・者のためのものと認識されてきたが,今日では “誰もが人生のある時点で必要とする可能性があるもの”と定義され,ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)に含まれるべきエッセンシャルサービスに数えられている.

    世界において3人に1人がリハビリテーションの恩恵を受けられる健康状態にある可能性が示唆されており,高齢化に伴い,今後さらにニーズが増大すると言われている一方,中低所得国を中心に多くの国々において,現在のニーズにさえ十分対応できていない状況にある.こうした状況を背景に,WHOは2017年にRehabilitation 2030を発足し,リハビリテーションを提供するための保健システム強化を目指し,様々な取り組みを行っている.

    ASEAN諸国においても,リハビリテーションニーズが高まっている.他の地域と同様に,筋骨格系疾患によるリハビリテーションニーズが最も高く推計されており,西太平洋地域ならびに東南アジア地域のいずれにおいても,高齢であるほどリハビリテーションニーズが高く推計されている.一方,ASEAN諸国におけるリハビリテーションの労働力について,人口10,000人当たりの理学療法士数は,データが入手できた8か国間の最大比が48倍,作業療法士数は,データが入手できた5か国間の最大比が20倍であり,ASEAN諸国間において,労働力に大きな格差がある可能性が考えられる.

    各国においてリハビリテーション体制整備を進めるためには,適切な現状分析が不可欠である.WHOは,リハビリテーション状況の体系的評価のためのツールを開発している.これを活用した先行研究では,対象国におけるリハビリテーションに関する不十分なサービス設計や非効率な紹介システム,リハビリテーションの質の管理・評価に関する適切な仕組みの欠如などの課題が明らかにされており,ツールの有用性が示されつつある.こうしたツールを参考に,各国のリハビリテーションの状況を示す代表的な指標が設定され,UHCやHealthy Ageing,Long-term careなどの関連領域における評価指標群に含められることで,リハビリテーションの統合が促進されると考えられる.

  • 二瓶 美里
    原稿種別: 総説
    2024 年 73 巻 3 号 p. 225-230
    発行日: 2024/08/30
    公開日: 2024/09/04
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿では,高齢者の生活を支える技術や機器の利用やサービスの現状と動向を紹介し,その在り方や今後の課題を整理することを目的とした.具体的には,介護サービスにおけるテクノロジーについて,介護保険制度における福祉用具,介護ロボット技術,介護業務負担を低減するための介護機器,地域在住超高齢者の支援機器利用状況の概要を紹介し,支援機器の在り方や今後の課題について述べた.福祉用具については,要介護度の高い高齢者の生活機能を支援するだけではなく,要支援レベルの高齢者の自立支援においても機器が取り入れられる現状を示し,支援機器を適切に導入することで自立生活を支えることの意義について述べた.介護ロボットに関しては,介護現場の状況変化に応じた重点分野の見直しやICT活用の事例を紹介し,今後の利活用分析やデータ活用に基づくさらなる介護サービスの質向上や介護業務負担低減のための課題を示した.さらに,地域在住超高齢者の調査事例では,90歳以上の超高齢者の支援機器利用実態調査事例を紹介し,技術や機器の導入及び使用を支援する情報プラットフォームや,人的体制などの複合的な仕組みの必要性を示した.結論として,我が国の将来の科学技術政策と高齢者政策において,ELSIを含めた技術や製品,システムの配置や重要性を述べるとともに,高齢社会の実現像や個々人の高齢期の生き方について議論を深めることが極めて重要であることを示した.

  • 介護現場・製品開発の観点から
    足立 圭司, 山内 勇輝, 平良 未来, 永田 拓磨, 保坂 真名, 芦澤 佐紀
    原稿種別: 報告
    2024 年 73 巻 3 号 p. 231-242
    発行日: 2024/08/30
    公開日: 2024/09/04
    ジャーナル オープンアクセス

    我が国の高齢化は世界に例を見ない速度で進展している一方で,生産年齢人口は減少の一途を辿っており,介護分野においても慢性的な人手不足が大きな課題となっている.厚生労働省はこのような問題意識を背景に,介護分野における生産性向上に資するガイドラインの策定をはじめ,調査研究事業や研修会の開催等を通じて,介護現場の生産性向上に向けた取組を推進している.生産性向上に向けた取組は様々考えられるが,なかでも大きな期待を寄せているのが,介護ロボットやICTに代表されるテクノロジーの活用である.これまで国や自治体は,導入補助金といった経済的な側面を中心に介護現場へのテクノロジー導入を支援してきたが,近年,せっかく導入されたテクノロジーが介護現場で有効に活用されず,“倉庫で眠っている“という実態が明らかになりつつある.そこで本稿では,テクノロジーの導入活用支援およびテクノロジーの開発支援を目的として令和2年度から実施されている「介護現場の生産性向上に向けた介護ロボット等の開発・実証・普及広報のプラットフォーム事業(厚生労働省)」に着目し,事業内容を概説するとともに,現在までの取組から得られたいくつかの事例について考察する.具体的には,介護現場におけるテクノロジーの導入活用プロセスを外部支援者が伴走的に支援する取組や複数の専門機関や有識者が連携し開発企業を支援する仕組みである.本稿が,当該分野の研究者および介護現場や開発企業に従事する多くの方の目に触れ,介護現場の生産性向上に少しでも貢献できれば幸いである.

論文
  • 国立保健医療科学院のWHO研究協力センターとしての活動
    佐々木 由理, 大澤 絵里, 山口 佳小里, 和田 安代, 町田 宗仁
    原稿種別: 報告
    2024 年 73 巻 3 号 p. 243-250
    発行日: 2024/08/30
    公開日: 2024/09/04
    ジャーナル オープンアクセス

    世界保健機関(World Health Organization:WHO)研究協力センターの活動の一環として,2023年9月25日から9月29日に「地域包括ケアを実施するための能力開発ワークショップ」”Turning Silver into Gold: Capacity Building Workshop for Starting Community-Based Integrated Care”を国立保健医療科学院(以下,科学院)において実施した.本ワークショップは,地域包括ケアの枠組みの中で,社会的処方や地域ケアなどの健康的で活動的な高齢化社会へのイニシアティブの実践経験をWHO西太平洋地域事務局(World Health Organization Western Pacific Region:WPRO)管轄の加盟国で共有することを目的とした.実際には,各国の高齢化政策(ageing policy)の情報共有,専門家による講義や演習,現地視察を行った.WPRO管轄地域において,国によって高齢化の進行度合い,および健康的で活動的な高齢期に関する施策の進行度は異なっており,各国が優先すべき事項として挙げた内容についても多様であることが明らかになった.本ワークショップはこうした違いを各国の代表が共有・認識し,自国の現状を客観的に捉え,高齢化に関する施策の参考にする機会になったと考えられた.今後,本格的に高齢化を迎える国々で,本ワークショップからの学びが活かされることが望まれる.日本は高齢社会の先進国であり,高齢化政策(ageing policy)分野が,日本の国際協力の柱となり得ると思われる.

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