保健医療科学
Online ISSN : 2432-0722
Print ISSN : 1347-6459
ISSN-L : 1347-6459
最新号
多様な主体によるプレコンセプションケアの推進
選択された号の論文の20件中1~20を表示しています
特集
  • 清野 富久江
    原稿種別: 巻頭言
    2026 年75 巻2 号 p. 95
    発行日: 2026/05/29
    公開日: 2026/07/17
    ジャーナル オープンアクセス
  • 田中 彰子, 久保 陽子
    原稿種別: 解説
    2026 年75 巻2 号 p. 96-101
    発行日: 2026/05/29
    公開日: 2026/07/17
    ジャーナル オープンアクセス

    政府では,プレコンセプションケアを,「性別を問わず,適切な時期に,性や健康に関する正しい知識を持ち,妊娠・出産を含めたライフデザイン(将来設計)や将来の健康を考えて健康管理を行う」取組として定義し,2025年5月に策定した「プレコンセプションケア推進5か年計画」に基づき,国民一人ひとりがライフステージに応じ,必要な健康管理に主体的に取り組めるよう,環境の整備を進めている. 具体的には,2025年9月にWebサイト「はじめよう プレコンセプションケア」を開設し,プレコンセプションケアに関するわかりやすい記事や漫画,Q&A,ショートドラマ等を掲載するなど,継続的な性や健康に関する正しい知識の発信を行っている.また,全国の自治体・企業・教育機関等において,普及啓発や相談支援に取り組む人材として「プレコンサポーター」の養成を進め,地域社会における取組の裾野拡大を図っている. さらに,「性と健康の相談センター事業」等を活用し,身近な地域において一般的な性や健康に関する相談に対応可能な相談窓口の整備及び窓口の周知を進めるとともに,基礎疾患を有する者等を対象とした専門的な相談については,医療機関等と連携した支援体制の全国的な整備を進めている. プレコンセプションケアの効果的な推進にあたって,自治体の果たす役割は大きい.具体的には地域の実情を踏まえ,既存の母子保健施策や学校保健,職域保健等との連続性を意識しつつ,保健センターや医療機関,教育機関そして地域の企業等と有機的に連携することで,地域住民にとってプレコンセプションケアを連続した取組にしていくことが,自治体に求められる. 本稿では,プレコンセプションケア推進の現状と今後の方向性について,自治体が主体となった取組推進の観点から概説する.

  • 前田 恵理
    原稿種別: 総説
    2026 年75 巻2 号 p. 102-109
    発行日: 2026/05/29
    公開日: 2026/07/17
    ジャーナル オープンアクセス

    【目的】プレコンセプションケア(Preconception care)は,妊娠前からの健康管理を通じて将来の妊娠・出産アウトカムおよび次世代の健康を高める取り組みであり,国内外で関心が高まっている.本稿では,プレコンセプションケアの概念的発展および国際的動向を整理した上で,プレコンセプションケアを下支えする科学的エビデンスをレビューし,日本における政策実装の現状と課題を考察する. 【方法】プレコンセプションケアの概念・定義・エビデンス・政策について,国内外の文献,報告書,政府文書および関連ガイドライン等を整理した. 【結果と考察】プレコンセプションケアは「妊娠準備」を目的とした狭義の医療サービスから,生殖可能年齢にあるすべての人を対象とした包括的な公衆衛生的アプローチへと発展してきている.Developmental Origins of Health and Disease(DOHaD)学説を背景としたライフコースアプローチとの統合も進んでおり,栄養・食生活,葉酸摂取,喫煙・飲酒,体重管理,感染症・ワクチン,メンタルヘルス,社会的決定要因にわたる科学的エビデンスも蓄積されつつある.日本では2025年に「プレコンセプションケア推進5か年計画」が策定された一方,認知度の低さ・男性や性の多様性を考慮した包括的な視点の不足・医療者教育の未整備などの課題も残る.現在,国際的には,日本を含む24か国が参画するiCIPHEアライアンスがプレコンセプションヘルスのサーベイランス指標の国際的合意形成を進めている. 【結論】プレコンセプションケアのさらなる推進には,個人および社会全体へのアプローチ,性の多様性も考慮した包括的な視点,分野横断的連携,そして国際指標を活用したモニタリング体制の構築が不可欠である.

  • プレコンセプションケアの視点から
    清野 富久江, 横山 徹爾
    原稿種別: 総説
    2026 年75 巻2 号 p. 110-118
    発行日: 2026/05/29
    公開日: 2026/07/17
    ジャーナル オープンアクセス

    若年期は,生活習慣が形成・定着する重要な時期であり,この時期の健康状態や健康行動は,その後の健康のみならず,妊娠・出産及び次世代の健康にも影響を及ぼす可能性がある.近年,我が国ではプレコンセプションケアへの関心が高まっており,こども家庭庁においても「プレコンセプションケア推進5か年計画」が策定された.本稿では,若年者の生活習慣の現状と課題について,主として政府統計及び公的資料を用いて整理し,プレコンセプションケアの観点から考察した. 若年者では,若年女性のやせ,若年男性を含む肥満,野菜摂取量や鉄・カルシウム・葉酸等の栄養素摂取量が少ないこと等の栄養課題がみられた.また,身体活動では,運動習慣のある者の割合が低いことに加え,長時間の座位行動が課題となっていた.睡眠についても,睡眠による休養が十分にとれていない者が一定割合存在し,睡眠時間の短縮等がみられた. 若年者の健康行動は,個人の意思のみならず,所得,教育,就労,情報環境等の社会的要因の影響を受けている.このため,個人へのアプローチとともにライフコースアプローチ及び社会環境の質の向上の視点を踏まえた支援が重要である.自治体内における多部局の連携に加え,地域,学校,大学,企業等が連携した切れ目のない取組を進めることが重要である.さらに,若年者の生活実態や健康課題を継続的に把握し,EBPM(Evidence-Based Policymaking)の視点に基づく施策立案及び評価を推進していく必要がある. 若年期からの健康的な生活習慣の形成を支援することは,生涯を通じた健康づくりの観点から重要であり,プレコンセプションケアの推進においても基盤となる取組である.

  • 普及啓発・プレコン健診・相談支援による多層的実践
    上田 美穂, 三神 恭子, 保坂 香葉子, 菅野 れな, 菊嶋 雅代, 小林 秀一
    原稿種別: 報告
    2026 年75 巻2 号 p. 119-124
    発行日: 2026/05/29
    公開日: 2026/07/17
    ジャーナル オープンアクセス

    山梨県では,少子化の進行および県民の妊娠・出産に対する知識不足が調査で明らかになったことを背景に,プレコンセプションケアを若年期からの健康支援の基盤として位置づけ,普及啓発,プレコン健診,SNS相談からなる多層的アプローチにより展開してきた.本報告の目的は,これらの取組の成果と課題を整理し,今後の施策展開に資する知見を提示することである. 普及啓発では,大学生,企業の若手職員・経営者層を対象としたセミナーを実施し,いずれも高い満足度が参加者から得られた.特に経営者層向けセミナーでは約6割が取組への意向を示し,これらセミナーを契機に企業がセミナーを自主開催する動きも認められた.また,プレコン健診の開始に合わせ,誰でも視聴可能なeラーニングを導入し,オンラインでも学べる環境を整備した.なお,このeラーニングについては,プレコン健診の受診前必須研修として位置づけている. SNS相談は,プレコン健診に先行して開始し,月経トラブルや不妊に関する疑問や不安などについて,専門家へ気軽に相談できる体制を整えている. プレコン健診は令和6年度の開始から令和8年3月上旬までに計4,310人が受診し,当初の目標を大きく上回った.健診結果所見からはビタミンD・亜鉛不足,BMI基準値未満,風疹ワクチンの推奨などの課題が明らかとなり,若年女性の健康課題の把握と相談・受診への接点として一定の有効性が示唆された.健診結果後アンケートからは,生活習慣改善への意向が約7割と高く,産婦人科受診の意向も確認された. 一方で,プレコン健診の県財政負担,健診実施機関の地域偏在,若年層へのさらなるアプローチ,男性へのアプローチの限定性など,改善すべき課題も明らかになった.今後は,学校教育・地域保健・職域との連携による学習機会の拡充,若者参画型の普及啓発,持続可能な健診制度の構築,男性支援の強化,効果検証体制の検討が必要である.

  • 大島 史也, 河本 倫子, 金重 広輝, 中村 寛子
    原稿種別: 報告
    2026 年75 巻2 号 p. 125-135
    発行日: 2026/05/29
    公開日: 2026/07/17
    ジャーナル オープンアクセス

    京都府では,望む妊娠を叶え,予期せぬ妊娠を防ぎ,若年層が自らの望む生き方(ウェルビーイング)を実現できるよう,令和6年度以降「きょうとプレコン」としてプレコンセプションケアの取組を集中的に進めている. その背景として,京都府における特定不妊治療費助成の受給者については約7割が35歳以上であり,妊活開始時点で妊娠率が低下している可能性があることや,10代の人工妊娠中絶が年間約150件発生していることなどがあり,妊娠に関する科学的知識を持った上でライフデザインを考える機会を提供することが求められていた. 令和6年度からの集中的な取組に先立ち,京都府では平成28年度から,妊娠・出産に関する知識の普及や,若いうちからライフデザインを考える機会を提供するために,助産師会・医師会と連携した学校向け出前講座等の取組を実施してきた.このような継続した取組により,教育現場でのプレコンセプションケア推進の基盤となる教育機関との信頼関係が構築されていた. 令和5年12月に改定された「子育て環境日本一推進戦略」において,プレコンセプションケアの推進が重点プロジェクトに位置づけられた.これを受けて,京都府では,医師,助産師,大学教員など多様な有識者で構成されるプレコンセプションケア推進にかかる検討会を設置し,ジェンダー平等,性の多様性,対人関係スキル,健康管理,ライフデザインなど幅広い内容を含む包括的な内容の議論を行った. 検討会の議論により,教育委員会と連携の上,体系的な高校生向け教育プログラムを全国で初めて作成した.教育プログラムは,学習指導要領を踏まえつつ,学校現場のニーズに応えるべく,動画やワークを含む実践的な内容としている.教育プログラムの作成に当たっては,モデル授業を府内高校・特別支援学校で実施しており,教員からは「準備の負担が減る」「指導しやすい」と高評価が得られ,生徒からも授業内容の理解度や実生活への活用可能性が高く評価されている. また,性の悩みや予期せぬ妊娠に悩む方への相談支援体制として,既存の相談窓口を統合し,令和7年7月からSNSを活用した総合相談窓口を開設しており,特に若年層から多くの相談が寄せられている.こうした相談支援を実施する上でも,府内全ての高校への相談カード配布など,教育委員会と連携した周知を進めている. こうした取組は,長年の学校との協働実績,関係部局間の共通認識,知事主導の推進戦略改定,有識者を巻き込んだ検討体制により実現したものである.京都府では,今後も,幼児期から社会人まで切れ目のないプレコンセプションケアの推進を図っていく.

  • 関係部局協働による学校と連携した思春期講座の実施
    風間 邦男
    原稿種別: 報告
    2026 年75 巻2 号 p. 136-140
    発行日: 2026/05/29
    公開日: 2026/07/17
    ジャーナル オープンアクセス

    【目的】 近年,思春期の子どもたちを取り巻く課題が複雑化・多様化する中,市では将来の孤立を防ぐ土台として,生命の尊厳や自他尊重の理解,および適切な相談行動の促進が重要であると認識した.本報告では,教育と福祉の部局間連携を通じ,全ての児童生徒に体系的な教育機会を保障する「思春期講座」の構築と展開について述べる. 【方法】 令和3年度に多部局(こども若者支援,健康推進,男女共同参画,教育等)及び専門家・学校関係者からなる検討委員会を設置した.学校現場との調整,モデル実施,アンケート調査に基づく改善を繰り返すことで,国の「生命の安全教育」の趣旨を踏まえた標準化されたプログラムを開発した.令和4年度より市内全公立小中学校で実施し,タブレット端末を活用したアンケートにより児童生徒の反応を把握している. 【結果・考察】 本講座は,予防教育と相談・支援を一体の導線として設計し,学校の教育活動の一部として体系化を図った.特に,教育・福祉・保健部局と学校現場が緊密に情報共有し,指導要領との整合性を担保したことで,教育現場で実現性の高い持続可能な体制が構築された.また,講座後のアンケート結果や講師の所感を関係機関で共有することで,個別の相談支援へと円滑に接続する仕組みが定着している.今後はこの連携を深化させ,ライフステージを通じた切れ目のないプレコンセプションケアの推進につなげていく.

  • 川本 和江
    原稿種別: 報告
    2026 年75 巻2 号 p. 141-146
    発行日: 2026/05/29
    公開日: 2026/07/17
    ジャーナル オープンアクセス

    持続的な企業価値向上を目指す人的資本経営において,プレコンセプションケア(PCC)の視点を取り入れた実践的な職域支援の事例を報告する.事例1では,多職種連携による「給食委員会」を組織し,スマートミール認証の取得および口腔健康の研究部門と共創した「咀嚼力アップランチ」の提供により食環境へ介入した.事例2では,新入社員研修に生物学的性差に基づく健康教育(性差リテラシー研修)を導入した.これらを介入前後の喫食データやアンケートにより評価した. その結果,食環境介入ではスマートミールの三ツ星認証を取得した.特筆すべきは,ヘルシーメニューでありながら約8割という高い受容性を獲得し,総提供数の20%を占めるに至った点である.加えて,咀嚼力アップメニューにより,69%に従業員の口腔健康への関心向上が認められた.性差教育では,研修後の知識理解度が95%に高まり,男女問わず職場環境改善への積極的関与と心理的安全性の醸成が確認された. 本報告のような食環境(ハード)と教育(ソフト)の両輪によるアプローチは,若年層のセルフケア向上と組織のヘルスリテラシー向上に寄与する.これらの取り組みは単なる福利厚生を超え,将来の労働損失抑制と次世代への投資を両立させる「戦略的健康経営」の実装モデルとなり得る.今後は,介入による中長期的な健康アウトカムと経済的インパクトを定量的に検証し,持続可能な職域PCC支援の標準化を目指す.

論文
  • 自衛隊員における自閉スペクトラム傾向を含めた階層線形モデル
    眞鍋 一水, 川尻 浩司, 茂木 太一
    原稿種別: 原著
    2026 年75 巻2 号 p. 147-159
    発行日: 2026/05/29
    公開日: 2026/07/17
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録

    目的 ワーク・エンゲイジメント(以下「WE」という.)は,バーンアウトとの負の関連や,仕事のパフォーマンスとの正の関連が明らかにされており,勤労者がWEを増進して働くことのできる職場環境づくりは重要である.雇用されている発達障害者は近年増加傾向にあり,特に自閉スペクトラム症を有する者が約8割を占めている.自閉スペクトラム傾向(以下「AS傾向」という.)は,程度の差はあっても全ての者が有する「なめらかな連続体」であるとされ,AS傾向とWEとの負の関連が確認されている.一方で,発達障害の特徴を考慮した職場環境の構築は,AS傾向が強い者でもWEを増進できる可能性があるであろう.本研究は,自衛隊員のWEとAS傾向との関連における発達障害の特徴を考慮した職場環境による緩衝効果を解析し,AS傾向が強い者であってもWEが増進されうる職場環境について検討することを目的とした. 方法 ある基地の4部隊に所属する自衛隊員(曹,士及び相当事務官等)を対象にWEB調査を実施し,30科等の404名から回答を得た.目的変数であるWE,緩衝効果としてAS傾向と発達障害の特徴を考慮した職場環境との交互作用項,統制変数として年齢や性別,コーピング特性等を用い,科等の影響を考慮できる階層線形モデル(以下「HLM」という.)により解析した.発達障害の特徴を考慮した職場環境の因子分析は,全9項目が1因子に負荷し,確認的因子分析の結果,適合度や信頼性係数は良好であった. 結果 ステップワイズ法によるHLMの結果,WEに対し,AS傾向は有意な負の関連を示したが,発達障害の特徴を考慮した職場環境は個人レベルと集団レベルの両方が有意な正の関連を示し,特に集団レベルの関連が強かった.AS傾向と発達障害の特徴を考慮した職場環境との交互作用は有意ではなく,また,科等における発達障害の特徴を考慮した職場環境のランダム傾きは除外された. 結論 単純化を踏まえた伝達が行われ,視覚的な補助が活用され,集中力が持続できるなどの発達障害の特徴を考慮した職場環境は,AS傾向の強さに拘らずWEと有意な正の関連を示しており,自衛隊員のWEを増進する仕事の資源になりうると考えられる.また,発達障害の特徴を考慮した職場環境は,集団レベル得点の方がWEに対し関連が強く,職場をあげた環境構築の重要性が示された.ランダム傾きは除外されており,これらの関連は,科等の違いに左右されない頑健な結果であると考えられる.

  • 長瀬 有紀, 風間 邦子, 西垣 明子, 森山 葉子, 児玉 知子
    原稿種別: 資料
    2026 年75 巻2 号 p. 160-173
    発行日: 2026/05/29
    公開日: 2026/07/17
    ジャーナル オープンアクセス

    目的:長野県に居住する医療的ケア児とその家族の災害への備えについて医療的ケアの有無との関連を分析し,併せて自治体の医療的ケア児への災害対策の課題を明らかにすることを目的とした. 方法:長野県が県内在住の小児慢性特定疾病医療受給者の保護者に対し実施した小児慢性特定疾病児等の生活実態に関するアンケート調査(小慢受給者調査)及び県内自治体(9市町村)障害福祉担当者への医療的ケア児を有する家庭への災害対策の状況に関するアンケート調査(自治体調査)データを二次利用した.小慢受給者調査では,医療的ケアの有無と家族による災害への備えとして,ハザードマップでの自宅の場所の確認,災害に備えての物品準備,避難行動要支援者名簿(以下,名簿)登録,災害時個別支援計画(以下,計画)作成及び家族のみでの避難が可能かとの関連についてロジスティック回帰分析を用いて分析した.また,自治体調査では,医療的ケア児の災害対策状況について記述分析を行った. 結果:小慢受給者調査回答者(732人)のうち,対象児が,医療的ケアが必要な児である家族は256人(35.0%)であり,医療的ケア有りの者では76.2%がハザードマップでの自宅の場所の確認を,68.8%の者は災害に備えての物品準備を行っており,名簿に登録している者は24.6%,計画を作成している者は5.9%,家族のみでの避難ができない,あるいはわからないとした者は37.1%であった.対象児の基本情報と生活自立の状況を調整したモデルでは,家族のみでの避難ができることと医療的ケアを有することに負の関連(オッズ比(OR)=0.66,95%信頼区間(CI) 0.44-0.90)が認められたが,災害時の避難協力者の有無を追加したモデルでは明らかな関連は認めず,避難協力者有り(OR=2.54, 95%CI 1.70-3.79)との関連が示唆された.その他の災害への備えと医療的ケアの有無については明らかな関連を認めず,名簿登録や計画作成において,児の年齢(5歳以下)や生活自立の状況との関連が示唆された.自治体の対策状況では,医療的ケア児の避難行動要支援者への位置付け,計画作成が行われていたのはそれぞれ22.2%で同一の自治体によるものであった.避難行動要支援者へ位置付けていない理由では,医療的ケア児は障害者手帳保持者に含まれるからとの回答が多く,計画未作成の理由としては,人材・ノウハウの不足があげられていた. 結論:小慢受給者調査の分析から,調査対象の医療的ケア児を有する家庭では,そうでない家庭と比して災害への備えの有無については大きな差はみられなかったが,家族による災害への備えとして名簿登録や計画作成の割合は低く,また家族のみでの避難が困難であることが示唆された.今後の災害対策としては,児の年齢や生活環境,生活自立の状況を考慮しながら,自治体は引き続き計画作成の支援を行うとともに,災害時の避難協力者の確保を行うことも重要と考えられた.

  • 林 慎吾
    原稿種別: 論壇
    2026 年75 巻2 号 p. 174-180
    発行日: 2026/05/29
    公開日: 2026/07/17
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は,生活保護受給者の健康管理支援において「社会生活自立」に焦点を当て,その概念を健康行動支援に統合する新たな支援モデルを提案するものである.生活保護受給者は経済的困窮のみならず,制度的要因やスティグマにより社会的孤立に陥りやすく,これが健康状態の悪化や医療行動の低下につながっている. 近年の「被保護者健康管理支援事業」は一定の成果を上げているものの,医療中心の支援に偏り,社会的つながりの再構築という視点が十分ではない.本研究では,先行研究の知見をもとに,生活保護受給者の社会的孤立要因を個人・制度の両側面から整理し,社会生活自立を促す支援の必要性を提案した.その上で,(1)情緒的・手段的サポートを組み合わせた社会的孤立対策,(2)初期面談段階での社会的状況アセスメントの強化,(3)地域資源を活用した社会的処方の導入,(4)政策立案に資する標準データ整備の4点を柱とする支援方法を提示した.これらの取り組みは,健診受診率の向上や生活習慣改善といった健康行動の促進につながると考えられる. 今後は,健康支援と社会参加支援を一体化した包括的アプローチを制度的に位置づけ,生活保護制度を「社会的孤立を防ぐ健康支援システム」として再構築することが求められる.

研修報告
  • 柴田 繁啓
    原稿種別: 研修報告
    2026 年75 巻2 号 p. 181-183
    発行日: 2026/05/29
    公開日: 2026/07/17
    ジャーナル オープンアクセス

    目的:糖尿病患者における歯周病対策として医科歯科連携の相互の受診勧奨に関する根拠を確認するため,歯周病と糖尿病との関連を検証した. 方法:研究デザインは横断研究.平成28年度岩手県民生活習慣実態調査で抽出された20歳以上の298名を対象とした.分析に用いた項目は,対象者の年齢,性,歯科疾患実態調査における歯周ポケットの状況,および生活習慣調査における糖尿病の有無と喫煙の有無である.統計解析方法は, 歯周病と糖尿病との関連についてカイ二乗検定,およびロジスティック回帰分析を実施した. 結果:糖尿病との統計的関連は中等度以上の歯周炎で認められず,重度歯周炎のみで認められた(P < 0.05).重度歯周炎は,年齢(P < 0.01),性別(P < 0.05),喫煙(P < 0.05)に関して,糖尿病は,性別(P < 0.05)のみ関連を認めた.年齢,性別,喫煙を調整したロジスティック回帰分析で分析した結果,両者ともに有意な(いずれもP < 0.05)関連が認められた. 結論:多変量ロジスティック回帰分析の結果,糖尿病と重度歯周炎とは両者の間に有意な関連が認められた.岩手県の地域固有性を考慮した糖尿病対策を構築するにあたり,歯周病対策を組み込むことの必要性が示唆された.

  • 川澄 佳奈
    原稿種別: 研修報告
    2026 年75 巻2 号 p. 184-185
    発行日: 2026/05/29
    公開日: 2026/07/17
    ジャーナル オープンアクセス

    目的:子どもの受動喫煙対策を検討するための基礎資料を得ることを目的に,保育所・幼稚園に通う乳幼児の家庭における受動喫煙について加熱式たばこの使用に着目して実態を把握した. 方法:2015,2017,2020,2022年度に実施した質問紙調査を用いて乳幼児と同居する者の喫煙率を把握し,2022年度に実施した質問紙調査を用いて家庭における喫煙場所と使用するたばこの種類の関連についてカイ二乗検定を用いて分析を行った. 結果:4回の調査において喫煙者がいる家庭の割合は減少し2022年度は40.2%であった.2022年度調査において,紙巻たばこ喫煙者と比較して,加熱式たばこ喫煙者では,家庭内の喫煙場所として最も頻度が高い場所が家の中,乳幼児がいる部屋で喫煙する,同乗者の有無を問わず車内で喫煙する,のいずれの割合も有意に高かった. 結論:加熱式たばこは紙巻たばこと比べて周囲の人への健康の害が少ないという認識から,家の中,乳幼児がいる部屋,車内での喫煙に使用されやすいことが推測された.乳幼児の親世代を中心に加熱式たばこ喫煙者の割合が増加していることに伴い,乳幼児の受動喫煙の機会が増えることが懸念され,加熱式たばこの受動喫煙による健康影響をポイントに啓発を行うことが重要と考えられた.

  • 三好 達也
    原稿種別: 研修報告
    2026 年75 巻2 号 p. 186-187
    発行日: 2026/05/29
    公開日: 2026/07/17
    ジャーナル オープンアクセス

    【緒言】高齢化の進展に伴い在宅医療の重要性が高まる一方,その提供体制には地域差が存在する.本研究は,標準化レセプト出現比(SCR)を用いて,香川県における在宅医療提供量を二次医療圏別に比較し,地域差の実態を把握することを目的とした. 【方法】香川県および県内3二次医療圏(東部,西部,小豆)を対象に生態学的研究を実施した.NDBオープンデータおよび内閣府公開データを用い,訪問診療および往診に該当する診療報酬項目のSCRを比較し,2019~2022年度の年次推移を記述的に分析した. 【結果】訪問診療および往診のSCRには二次医療圏間で明確な差が認められた.訪問診療は県全体として全国平均を下回り,特に小豆医療圏で低水準であった.一方,主治医以外による訪問診療は東部医療圏で高値を示した.年次推移では,往診は東部・西部医療圏で緩やかな低下傾向を示したが,小豆医療圏では増加傾向がみられた. 【結語】香川県における在宅医療提供量とその構成には二次医療圏ごとに地域差がみられ,人口構成や医療資源,地理的条件といった地域特性を反映している可能性が示唆された.SCRを用いた二次医療圏別分析は在宅医療提供構造の大枠を把握する上で一定の意義を有する一方,今後は市町村単位等のより細かな分析単位による検討が求められる.

  • 小嶋 雅代
    原稿種別: 研修報告
    2026 年75 巻2 号 p. 188-189
    発行日: 2026/05/29
    公開日: 2026/07/17
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は,高齢者の体重減少に着目し,フレイル予防の観点から要介護認定発生との関連を検証したものである.令和2年度と令和3年度の健診を連続受診した65歳以上の高齢者を対象に,体重が1年間で3kg以上減少した群とそうでない群を抽出し,郵送法による「フレイル予防に関する調査」を実施した.さらに令和3~5年度のKDBデータと突合し,後ろ向きコホート研究を行った.解析対象者は3,714人であり(平均年齢75.8±6.2歳,女性45.6%),追跡期間中に233件の新規要介護認定が発生した.ロジスティック回帰分析の結果,体重減少群は非減少群に比べて要介護認定の発生が有意に多く,性・年齢調整オッズ比は1.84(95%信頼区間=1.39-2.43),全調整変数投入後でも1.79(1.35-2.37)であった.層別解析では,前期高齢者,およびフレイル該当者において体重減少と要介護認定との関連が強かった.これらの結果から,体重減少はフレイルの重要な前兆であり,要介護状態への移行を予測する独立したリスク因子であることが確認された.体重減少者を早期に把握し,介入につなげることが介護予防に有効であると考えられる.

  • 豊嶋 典世
    原稿種別: 研修報告
    2026 年75 巻2 号 p. 190-191
    発行日: 2026/05/29
    公開日: 2026/07/17
    ジャーナル オープンアクセス HTML

    宮崎県は中絶率が全国ワースト1位であり,死産の約5割を中期中絶(人工死産)が占める.本研究は,人口動態統計の出生票・死産票を用い,中期中絶の関連要因とCOVID-19流行の影響を分析した.解析の結果,人工死産群は出生群に比べ「未婚」の割合が有意に高く,母親の年齢は15〜24歳と35〜39歳にピークが認められた.また,経済的に不安定な世帯や第一子妊娠での選択が目立った.コロナ禍では出生・中絶数共に減少したが,要因の構造に変化はなかった. 本研究は,中期中絶の解析を通じて「未婚・若年・経済的困窮」が宮崎県の中絶率の高さに寄与していることを統計的に示した.これらの知見は,経済支援や教育を含む本県の少子化対策や,母子保健ビジョンを実現するための具体的な施策立案における重要な根拠となる.

  • 原田 昌範
    原稿種別: 研修報告
    2026 年75 巻2 号 p. 192-193
    発行日: 2026/05/29
    公開日: 2026/07/17
    ジャーナル オープンアクセス

    目的 人口減少・高齢化が進むへき地での医療アクセス確保に向け,看護師同席型オンライン診療(D to P with N)における看護師が実施する医行為等の実態,課題,および今後のニーズを明らかにすることを目的とした. 研究デザインと方法  2025年に実施された,D to P with N経験のある医師・看護師81名を対象としたオンライン調査データを二次利用し,医行為等の実態や属性別の実施状況等について割合を算出し,勤続年数と医行為経験数の関連について分析した. 結果 看護師はアセスメントに加え,遠隔指示下での検体採取や創傷処置等の医行為を幅広く実践していた.特に特定行為研修修了者は未修了者より侵襲的な医行為を有意に多く実施しており,勤続年数と医行為等の経験数にも正の相関が認められた.また,今後の実施意向も高く,潜在的なニーズが示された. 結論 D to P with Nは,へき地医療の質向上に資する可能性が示唆された.普及には,教育体制の整備に加え,責任の明確化や診療報酬上の適切な評価といった制度的課題の解決が求められる.

  • 神野 敬祐
    原稿種別: 研修報告
    2026 年75 巻2 号 p. 194-196
    発行日: 2026/05/29
    公開日: 2026/07/17
    ジャーナル オープンアクセス

    【目的】香川県における外国出生結核患者の動向を明らかにし,地域保健行政上の課題および今後の対応につき検討した. 【方法】2016-2022年に結核登録者情報システムに登録された全国・大阪府・香川県の新規結核患者を対象に,外国出生患者と日本出生患者の人口学的特徴,出身国,職業,発見契機,治療成績等を記述疫学的に比較した. 【結果】香川県では外国出生結核患者の割合が年次的に増加し,全国および大阪府より高かった.外国出生患者は20-30歳代の若年層と女性に多く,出身国はベトナム,インドネシア,ミャンマー,フィリピンが中心であった.職業は常用労働者および学生が過半を占め,発見契機は健診によるものが多かった.治療成功率は全国・大阪府より高く,多剤耐性結核およびHIV合併例は少数であった.【結論】香川県では若年就労者を中心とした外国出生結核患者への対応が重要な課題であり,職域連携や療養と就労の支援体制の強化が求められる.

  • 瀧澤 伸枝
    原稿種別: 研修報告
    2026 年75 巻2 号 p. 197-198
    発行日: 2026/05/29
    公開日: 2026/07/17
    ジャーナル オープンアクセス

    【背景と目的】フッ化物応用は科学的根拠のあるう蝕予防法で,なかでもフッ化物洗口はう蝕の予防効果が高いことが報告されている.しかしながら集団でのフッ化物洗口の実施率は都道府県間で大きな差が認められる.本研究の目的は,都道府県別にみた小学校におけるフッ化物洗口実施施設の割合とう蝕歯数の変化率との関連を明らかにすることである.

    【方法】本研究では都道府県別の公的データを用いた.平成20(2008)年における都道府県別の12歳児平均う蝕歯数をもとに,都道府県を3群に分け,フッ化物洗口実施割合とう蝕変化率をフィッシャーの正確確率検定を用いて検討した.また,12歳児の一人平均う蝕歯数を目的変数,フッ化物洗口の実施状況や地域の社会経済指標を説明変数とした重回帰分析を行い,関連を検討した.

    【結果とまとめ】平成20(2008年)時点で平均う蝕歯数が高かった自治体においては,平成30(2018)年時点のフッ化物洗口実施施設割合が高い自治体において,経年的なう蝕歯数の変化率が有意に改善傾向にあった.また,学歴及びフッ化物洗口実施割合は,12歳児の一人平均う蝕歯数と関連することが明らかになった.

  • 藤本 幸
    原稿種別: 研修報告
    2026 年75 巻2 号 p. 199-200
    発行日: 2026/05/29
    公開日: 2026/07/17
    ジャーナル オープンアクセス

    Okinawa Prefecture is a region without an organized primary emergency medical system, and the hospitals with emergency room handle primary emergency care. This unique emergency medical system has not been evaluated quantitatively. This study focused on the central and southern secondary medical areas of Okinawa Prefecture and aimed to evaluate them quantitatively by comparison with secondary medical areas exhibiting similar demographic characteristics, including population size, population density, and aging rates. We utilized indicators such as the number of ambulance acceptances obtained from open data, and non-parametric tests were performed for secondary and tertiary emergency medical hospitals within the target areas. We divided into two groups based on with or without primary emergency medical system, and a Mann-Whitney U test was performed. The number of after-hour visits per general bed (median, 32.8 vs. 26.7; p=0.015) and walk-in acceptances per general bed (median, 37.5 vs. 16.3; p=0.048) were significantly higher in the group without a primary emergency care system than those in the group with a primary emergency care system. This suggests that in areas without a primary emergency medical system, there is a marked concentration of patients at secondary and tertiary emergency medical hospitals. These findings may provide insights for establishing emergency medical systems in other areas facing similar challenges.

feedback
Top