本稿は, 「まあ, 嬉しい!」のような発話者が感情を思わず口にした「感情表出文」とはどのようなものか, 感情主の制約のあり方と, 統語的特徴から分析したものである. 感情述語の人称制約は2種類のムードに関わる問題である. 一つは, 「述べ立てのムード」, もう一つは「感情表出のムード」である. 前者のムードを持つ「述べ立て文」に生じる人称制約は語用論的なものであり, 一人称感情主の場合が多いが, 条件が整えば他の人称も可能である. 一方, 感情主が一人称以外ではあり得ないような人称制約を持つタイプの文がある. これを, 感情表出のムードを持つ「感情表出文」と定義した.
その上で, 感情表出文の統語的特徴について検討した結果, 感情表出文は, 述語が要求する感情主や感情の対象といった意味役割を統語的に分析的な方法では言語化しない, すなわち述語一語文であるという事実を明らかにした.
一語文では, 言語文脈上に意味役割の値を参照することができないため, 発話現場に依存して決めるしか方法がなく, 感情主は発話現場の発話者, 感情の対象は発話時の現場のできごとに自動的に決まる. よって, 一語文は感情表出文のムードに適合する. 一方, 意味役割を言語化した文は, 意味役割を発話現場に依存する必要がないため, 発話現場に拘束されない. こうしたことから, 感情表出文は述語一語文でなければならないと結論づけた.
抄録全体を表示