科学技術社会論研究
Online ISSN : 2433-7439
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18 巻
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座談会
短報
  • 一方井 祐子
    原稿種別: 短報
    2020 年 18 巻 p. 33-45
    発行日: 2020/04/30
    公開日: 2021/04/30
    ジャーナル フリー

     欧米等を中心に,シチズンサイエンスが盛り上がりを見せている.シチズンサイエンスとは,研究者等の専門家と市民が協力して行う市民参加型のプロジェクトである.シチズンサイエンスの活動は古くから行われてきた.しかし近年,インターネットやスマートフォンを使って参加する新しいシチズンサイエンス(オンライン・シチズンサイエンス)が始まり,プロジェクトの多様性が広がっている.日本でもいくつかの萌芽的なプロジェクトが成果を出し始めた.一方で,既存のアカデミアの枠組みの中でプロジェクトを実施する際の課題も徐々に明らかになってきた.本稿では,オンライン・シチズンサイエンス登場の背景を述べるとともに,日本の事例を取り上げ,その内容と課題を整理する.

  • 上田 昌文
    原稿種別: 短報
    2020 年 18 巻 p. 46-57
    発行日: 2020/04/30
    公開日: 2021/04/30
    ジャーナル フリー

     本稿では,福島原発事故に立ち上がった,市民による放射線計測活動を広く見渡し,それらの特徴を分析するための4 つの指標,すなわち,放射線計測活動の実施主体,その計測対象となる被曝の型,その計測対象となる核種,市民計測活動の取り組み事項,を提示した.また市民計測活動を,その様々な取り組み内容を整理して8 つの類型に分け,それぞれについて先の指標を用いて,放射線防護の上でどういう意義を持つものであるかを述べた.従来行政側が一元的に担うものとみなされてきた原子力防災や放射線防護のあり方の限界を知りその打開策を探る上で,市民計測活動は大きな示唆を投げかける,歴史的な意義を持つ活動と考えることができる.

  • 福島原発事故後の市民科学に関する日本―ベルギー共同研究プロジェクトからの示唆
    ヴァン・アウドヒュースデン ミヒェル, ケネンス ヨーク, 吉澤 剛, 水島 希, ヴァン・ホーイヴィーヒェン イネ
    原稿種別: 短報
    2020 年 18 巻 p. 58-73
    発行日: 2020/04/30
    公開日: 2021/04/30
    ジャーナル フリー

     本稿では,福島原子力発電所事故後の市民科学に関する日本―ベルギー共同研究プロジェクト(2017-2019)の経験を振り返る.この社会科学研究プロジェクトでは,市民主導のデータ駆動型放射線モニタリングに対し,公的機関や科学研究コミュニティがどのように反応したかを探究した.質的な(自己)民族誌手法を用い,関係者,特に市民科学者と,放射線防護に関する職業科学者との実りある協力関係を探り,その中で浮かび上がってきた可能性と課題に光を当てる.我々自身を含めた関係者間の関係性は,放射能汚染や環境問題のガバナンスの進退を左右する.このことから,関係者間の相互作用をどのように展開し,交渉し,実行するかについて,あらゆる関係者間での,より再帰的な対話を支持する.

  • 綾屋 紗月
    原稿種別: 短報
    2020 年 18 巻 p. 74-86
    発行日: 2020/04/30
    公開日: 2021/04/30
    ジャーナル フリー

     筆者は2011 年以降,自閉スペクトラム症をもつ仲間と共に当事者研究会を継続する中で,当事者研究の具体的な進め方だけでなく,歴史や理念を明示化する必要性に迫られた.筆者は文献資料やインタビューを通じて当事者研究誕生の歴史的経緯を調べた.その結果,周縁化された当事者のニーズから,難病患者・障害者運動と,依存症自助グループという2 つの当事者活動が合流して,当事者研究が誕生したことを示した.さらに現代社会において,当事者活動から周縁化されがちな自閉スペクトラム症に関する筆者の当事者研究を分析した.その結果,筆者の当事者研究も,社会モデルや,傷ついた記憶の語り直しというかたちで,二大当事者活動の影響を受けていたことが確認された.以上を踏まえ,当事者研究の方法論を開発した.本研究は,研究史,具体的研究事例,方法論という1つの研究領域を特徴づける3 つの側面から当事者研究の全体像をとらえた初めての研究と言える.

  • 英国の事例を元に
    田中 慎太郎
    原稿種別: 短報
    2020 年 18 巻 p. 87-96
    発行日: 2020/04/30
    公開日: 2021/04/30
    ジャーナル フリー

     精神疾患の当事者が,専門家と協働して精神医学の研究に参画したり,医師や看護師らと協働して精神医学サービスの改善に参画する動きが英国を中心に広がりつつある.英国での精神医学への当事者参画の動向を確認すると,当事者が医学研究に参画することで,専門家のみで研究を行うよりも研究の質が向上する可能性が指摘されている.当事者と専門家の協働を成功させる上では,入念な準備や組織レベルでのサポート,そして二者間の平等で対等な関係を実現するための様々な仕掛けが必要であることが示されている.しかし,日本の精神医学は,英国に比べ様々な点で改革の途上であるため,当事者との協働を成功させるための改革が不十分である可能性がある.精神医学における当事者との協働を考える上では,当事者のみならず,精神科医療従事者も影響下にある,日本の精神医学の構造を検証することが重要だと考えられる.

  • 国内調査からみた人の試料・情報を用いた観察研究の現状と展望
    東島 仁, 藤澤 空見子, 武藤 香織
    原稿種別: 短報
    2020 年 18 巻 p. 97-107
    発行日: 2020/04/30
    公開日: 2021/04/30
    ジャーナル フリー

     研究への患者・市民参画(Patient and Public Involvement;PPI)とは,研究開発を,患者・市民の意見や視点を吟味した上で進めることを目指す実践であり,研究者と患者や市民が協働して社会的,科学的,倫理的によりよい成果を生み出すための手段として国内外で期待を受けている.本稿では,国内の研究者と患者団体への調査結果を紹介するとともに,特に人の試料・情報を用いる観察研究におけるPPIの現状と今後のより良い展開に向けた課題について検討する.国内のPPIをめぐる状況は,関連する施策の登場や,PPIや類する活動を重視する国際動向を受けて大きく変わろうとしており,PPIの趣旨と現状の双方を踏まえた将来図の検討と具体的な支援が望まれるところである.

  • 丸 祐一
    原稿種別: 短報
    2020 年 18 巻 p. 108-118
    発行日: 2020/04/30
    公開日: 2021/04/30
    ジャーナル フリー

     臨床研究が倫理的であるための原則の1 つとしてエマニュエルら(2004)は協働的パートナーシップ(collaborative partnership)をあげている.このようなパートナーシップを構築する活動としては,例えば,臨床試験への「患者・市民参画」(Patient and Public Involvement(PPI))がある.PPIは,診療ガイドラインや臨床試験の研究計画の作成などに患者参画を求める英国での運動であるが,近年,PPIは役に立っているのかという観点から評価に曝されている.しかしPPIが患者・市民の「権利」だから行われるべきならば役に立つかどうかとは無関係に参画は保障されなければならないのではないだろうか.また,医療者と患者・市民との理性的な対話による合意形成というパートナーシップのあり方は,生命倫理における市民運動的な情念を飼い慣らす「生―権力」的な働きをしているのではないか.

  • 患者の声を活かした医薬品開発の動向
    林元 みづき, 庭田 祐一郎, 伊藤 哲史, 植木 進, 内田 雄吾, 関 洋平, 西川 智章, 岸本 早江子, 神山 和彦, 高杉 和弘, ...
    原稿種別: 短報
    2020 年 18 巻 p. 119-127
    発行日: 2020/04/30
    公開日: 2021/04/30
    ジャーナル フリー

     Patient Centricityとは「患者中心」を意味する概念であり,患者・市民参画(Patient and Public Involvement:PPI),Patient Involvement,Patient Engagementといった言葉と同義語である.近年,製薬企業が患者の意見や要望を直接入手し,患者の実体験を医薬品開発に活かすことの重要性が認識されつつあり,製薬企業での医薬品開発におけるPatient Centricityに基づく活動(本活動)が開始されている.本活動により,患者には「より参加しやすい治験が計画される」,「自分の意見が活かされた医薬品が開発される可能性がある」といったことが期待される.また,製薬企業には医薬品開発に新たな視点と価値が加わり,「より価値の高い医薬品の開発につながること」が期待される.本稿では,日本の製薬企業で実施されている本活動の事例の一部を紹介する.今後,日本の各製薬企業が本活動を推進することに期待したい.

  • 国立がん研究センターがん対策情報センター「患者・市民パネル」のこれまでの活動と今後
    八巻 知香子, 高山 智子
    原稿種別: 短報
    2020 年 18 巻 p. 128-136
    発行日: 2020/04/30
    公開日: 2021/04/30
    ジャーナル フリー

     国立がん研究センターがん対策情報センターは「がん対策推進アクションプラン2005」を受けて設立された組織である.2008 年より「患者・市民パネル」を運営し,患者・市民の視点を取り入れた情報提供活動に努めてきた.2018 年度に初めて,日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)との共催により,臨床研究への患者・市民参画のあり方について検討する場を持った.情報発信機関への患者・市民参画については,患者・市民パネルの活動として一定の形を形成してきた.一方で,研究の立案から評価に至る全プロセスへの患者・市民の参画のあり方については検討の途上にあり,今後の医療や研究で求められる役割を考慮しながら,基本理念である「正しい情報に基づいて,国民のためのがん対策推進を支援する」ことを堅持しながら,がん対策情報センターとしての運営方針を確立していく必要があると考えられる.

  • 八代 嘉美, 標葉 隆馬, 井上 悠輔, 一家 綱邦, 岸本 充生, 東島 仁
    原稿種別: 短報
    2020 年 18 巻 p. 137-146
    発行日: 2020/04/30
    公開日: 2021/04/30
    ジャーナル フリー

     再生医療は社会から高い注目を集めており,その成果は社会のあり方自体に大きなインパクトを与える可能性がある.そのため本格的な普及が始まる以前の段階から,研究者や医療従事者と社会の広い層がその有用性とリスクの理解を共有し,患者が研究や治療への参画を判断する基盤を整えることが重要である.研究機関や企業の広報では,研究成果を発信する際にある程度の宣伝の色彩はやむを得ない部分があるが,学会という非営利セクターが主体となる場合は,客観的かつ冷静な情報発信による知識基盤の整備へとつなげられる可能性がある.本稿では日本再生医療学会が実施してきた事業を紹介し,エマージングテクノロジーに関するコミュニケーション,あるいはそうした活動に関する患者・市民参画のモデルを構築する一助としたい.

  • 研究者との対話を通じた試み
    高島 響子, 東島 仁, 鎌谷 洋一郎, 川嶋 実苗, 谷内田 真一, 三木 義男, 武藤 香織
    原稿種別: 短報
    2020 年 18 巻 p. 147-160
    発行日: 2020/04/30
    公開日: 2021/04/30
    ジャーナル フリー

     ゲノム研究/医療の発展のために,研究で利用した患者・市民を含む研究参加者個人のゲノムデータを多くの研究者等で共有するデータ共有(GDS)が広がっている.GDSではデータ提供者のプライバシーの保護並びに意思の尊重が倫理的な課題であり,データ提供者となりうる患者・市民の声を反映した仕組みづくりが重要である.GDSに関する患者・市民の期待と懸念について,高度に専門的かつ一般には適切な情報の入手が困難であるGDSに対する意見を得るため,情報共有と対話の二部構成からなる対話フォーラムを試行した.その結果,医療目的の研究・開発に対するGDSは理解と期待が示された一方で,非医学的な領域での利用やデータのセキュリティ,ゲノムリテララシーに対する懸念等が挙がった.研究者との対話を通じて,自身のデータが使われた研究の内容や成果を知りたいといった研究者に対する要望や,市民・患者の参画について具体的な提案が出された.

  • 米国未承認薬利用制度の概要から
    中田 はる佳
    原稿種別: 短報
    2020 年 18 巻 p. 161-176
    発行日: 2020/04/30
    公開日: 2021/04/30
    ジャーナル フリー

     未承認薬利用制度を積極的に導入してきた米国で,Right to try( RTT)連邦法が成立した.本法下では,FDAなどの審査を経ずに,患者が製薬企業に未承認薬利用を要望できる.患者の治療選択肢が拡大したように思える一方,患者の身体・生命の保護が不十分との指摘や,未承認薬利用の費用補助について定めがなく,患者が未承認薬を「試す権利」の保護が不十分という指摘がある.患者や家族の間では,資金調達手段としてメディカルクラウドファンディングが注目されている.手軽に資金を募れる一方で,医療への不平等なアクセスが解消されない,患者や家族のプライバシーが過度に損なわれるなどの課題もある.日本では,欧米の制度を参考に,拡大治験と患者申出療養制度が導入された.これらの制度は「臨床試験の実施を求める権利」を患者に与えるが,個人の治療として未承認薬を「試す権利」を与えてはいないようにみえる.患者個人の治療選択肢の拡大とエビデンス集積のバランスのとり方は引き続きの検討が必要であろう.

原著論文
  • その権力構造と議論に表れた概念配置の分析
    柳原 良江
    原稿種別: 原著
    2020 年 18 巻 p. 179-191
    発行日: 2020/04/30
    公開日: 2021/04/30
    ジャーナル フリー

     代理出産の利用をめぐる議論は,用いる生殖技術の変化や,関与する人々の多様化に伴い,拡散する傾向にある.一方,同様に生命科学技術が引き起こす,脳死臓器移植や安楽死など生から死への変化に関する問題では,フーコーの生政治論を援用することで,一定の秩序に沿って説明する動きが生じている.本稿は,同様の生政治論を代理出産の文脈に応用し,代理出産にまつわる諸現象の奥に存在する力学を確認することで,混迷を極める議論を,秩序立てたものへと整理する試みを実施する.

     まずは本稿で扱う生政治論の射程を確認するため,フーコーの生政治論と,その没後に展開された生政治論の概観を整理する.次に生政治論の中でも「人体の解剖・生政治論」に焦点を当て,そこで意図される権力構造を確認する.その上で,20 世紀後半から生じた,人の生殖に関する認識の変化を「人体の解剖・生政治論」を用いて説明する.それらを踏まえて,代理出産に関する言説を中心に,生政治の作動形態を具体的に論じていく.

  • 副作用リスクの公正な分配
    花岡 龍毅
    原稿種別: 原著
    2020 年 18 巻 p. 192-207
    発行日: 2020/04/30
    公開日: 2021/04/30
    ジャーナル フリー

     抗がん剤開発における副作用リスクの公平な社会的分担を実現するためには,開発に際して服薬者が果たしている役割を明らかにすることが必要である.本稿の目的は,抗がん剤ゲフィチニブ開発において,副作用被害者のみならず臨床試験参加者をも含む服薬者が果たした役割を公式文書や科学論文を基に明らかにすることである.分析の結果,服薬者は次のような役割を担っていることが明らかになった.(1)第Ⅰ相,および第Ⅱ相の臨床試験参加者およびEAP参加者は,生命・健康をかけて,医薬品候補化合物ZD1839 を医薬品へと転化させた.(2)市販後に服薬した数多くの患者は, ゲフィチニブに潜在していた致死的な有害作用を証明し,第Ⅲ相臨床試験参加者は,ゲフィチニブに生存期間の延長効果はないが,無増悪生存期間の延長効果があることを,やはり生命と健康をかけて証明した.もしゲフィチニブの事例が例外でないならば,この事例から引き出される結論は,抗がん剤開発における必須の関与者が,一方的に副作用リスクを受忍するのは不合理であり,有用な抗がん剤は社会全体に恩恵をもたらしうるものであるから,製薬企業はいうまでもなく,広く社会的にリスクを分担する必要があるということである.

  • 科学技術コミュニケーションにおける中核概念の再配置
    内田 麻理香, 原 塑
    原稿種別: 原著
    2020 年 18 巻 p. 208-220
    発行日: 2020/04/30
    公開日: 2021/04/30
    ジャーナル フリー

     牛海綿状脳症(BSE)問題や遺伝子組み換え作物問題を契機とし,1990 年代後半以降イギリスやヨーロッパで科学技術に対する信頼の危機が生じた.この危機への対応策として,科学技術理解増進活動の推進から一般の市民との双方向コミュニケーションの重視へと政策が転換された.この転換を根拠づけるために科学技術理解増進活動で主流の一方向コミュニケーションは欠如モデルと一体であるとする見方がとられるようになった.欠如モデルの有効性には疑いがもたれているため,一方向コミュニケーションは批判され,欠如モデルを免れた双方向的手法が科学技術コミュニケーションの実践ではとられるべきだとする見解(欠如と対話の双極的価値判断)が広がった.この論文では欠如モデルと一方向コミュニケーションは区別されるべきであること,欠如と対話の双極的価値判断は一方向コミュニケーションと双方向コミュニケーションの機能や価値を誤解させ,科学技術政策をミスリードする問題をもつことを明らかにする.最後に,科学技術コミュニケーション活動を,欠如モデルの有無と一方向コミュニケーション/双方向コミュニケーションの二つの観点によって区別する四分類法を提案する.

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