日本神経回路学会誌
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25 巻, 3 号
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巻頭言
イントロダクション
解説
  • 吉田 正俊, 田口 茂
    2018 年 25 巻 3 号 p. 53-70
    発行日: 2018/09/05
    公開日: 2018/10/31
    ジャーナル オープンアクセス

    フリストンの自由エネルギー原理では,外界に関する生成モデルと現在の認識から計算される変分自由エネルギーを最小化するために,1) 脳状態を変えることによって正しい認識に至る過程(perceptual inference)と2) 行動によって感覚入力を変えることによって曖昧さの低い認識に至る過程(active inference)の二つを組み合わせていると考える.本解説の前半では自由エネルギー原理について,我々が視線を移動させながら視覚像を構築してゆく過程を例にとって,簡単な説明を試みた.本解説の後半では,このようにして理解した自由エネルギー原理を元にして「自由エネルギー原理と現象学に基づいた意識理論」を提唱した.この理論において,意識とは自由エネルギー原理における推測と生成モデルとを照合するプロセスそのものであり,イマココでの外界についての推測と非明示的な前提条件の集合である生成モデルとが一体になって意識を作り上げている.この考えはフッサール現象学における意識の構造についての知見と整合的である.

  • 磯村 拓哉
    2018 年 25 巻 3 号 p. 71-85
    発行日: 2018/09/05
    公開日: 2018/10/31
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿はFristonの自由エネルギー原理(free-energy principle)をわかりやすく解説することを目的とする.まず自由エネルギー原理を導入する理念や妥当性を簡潔に述べる.次に,自由エネルギー原理により説明可能な事象として,基本となる知覚および行動について述べる.簡単に言うと,自由エネルギー原理とは生物が従うとされる法則であり「生物は感覚入力の予測しにくさを最小化するように内部モデルおよび行動を最適化し続けている」と定めている.この原理から外界の認識のモデルとして,予測符号化(predictive coding)と呼ばれる情報表現形式が導出され,「推論・学習とは,予測誤差を最小化するように神経活動・シナプス結合を更新することである」と説明できる.また,行動の生成についても同一の原理から導出可能であり,「行動は,周囲の環境を予測しやすい状態に変化させ自分の好みの入力を得るために起きる」と説明できる.これは能動的推論(active inference)と呼ばれている.最後に,外界の推論の拡張である,他者の思考の推論について議論する.

  • 島崎 秀昭
    2018 年 25 巻 3 号 p. 86-103
    発行日: 2018/09/05
    公開日: 2018/10/31
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿は生物の認識と行動の環境への適応に関する理論の解説を行う.始めに環境の階層モデルに対する近似推論法を紹介し,サプライズ最小化の原理から生物の認識及び行動の説明を試みるFristonらの自由エネルギー原理を機械学習の立場から概観する.次に階層モデルによるアプローチを情報理論の観点から考察し,情報量最大化原理に基づく古典的な知覚の理論や非線形信号処理との関係を解説する.最後に認識のモデルに対する熱力学的な取り扱いを紹介し,学習過程のエントロピー・自由エネルギーのダイナミクスを考察して熱力学法則との形式的関係を明らかにする.このようにして生物がその非線形な演算装置を適応させて外界の表現を獲得し,身体を使い認識に沿うように外界を改変していく過程が複数の視点から明らかになる.

  • 田中 琢真
    2018 年 25 巻 3 号 p. 104-112
    発行日: 2018/09/05
    公開日: 2018/10/31
    ジャーナル オープンアクセス

    大脳皮質の動作原理は未解明だ.様々な動作原理の候補が提案されているが,そのうち情報量最大化原理(infomax principle)は皮質の性質のある部分を説明する.本解説では,Linsker(1988)やBell & Sejnowski(1995,1997)の古典的な結果を解説し,筆者らの提案したリカレント情報量最大化原理(recurrent infomax; Tanaka et al., 2009)を紹介する.情報量最大化原理に基づくモデルの発展や応用も述べる.特に,深層学習,reservoir computing,神経回路の学習則との関連を詳述する.

  • 大羽 成征
    2018 年 25 巻 3 号 p. 113-122
    発行日: 2018/09/05
    公開日: 2018/10/31
    ジャーナル オープンアクセス

    自由エネルギー原理(FEP)および能動推論(AIF)は,動物の脳が環境を知覚し認識しこれに基づいて行動を起こす過程の情報処理機構全般を対象とした説明原理であり,脳の神経計算機構のモデルであるのみならず,動物やヒトを取り巻く実環境タスクに向き合う人工知能設計のためにも示唆するところが大きい.本論では,FEPおよびAIFが依って立つ基盤である変分推論および確率的推論としての制御について,それぞれその基礎を確認することによってFEPおよびAIFの意義を浮かび上がらせることを試みる.

  • 乾 敏郎
    2018 年 25 巻 3 号 p. 123-134
    発行日: 2018/09/05
    公開日: 2018/10/31
    ジャーナル オープンアクセス

    本論文では,Fristonの自由エネルギー原理によって多くの脳機能を統一的に説明できることを示した.自由エネルギー原理は純粋視覚(pure vision)を説明するために生まれたものであった.すなわちHelmholtzの無意識的推論が,網膜像から近似事後確率を推定する過程であるとする従来の枠組みに近いものであった.しかし,自由エネルギーの最小化にはもう一つの方法がある.それが能動的推論である.このアイデアによって,自由エネルギー原理が運動制御に適用され新たな制御理論が生まれた.さらに感情や意思決定(行動決定)も同じ原理で説明される.ここでは上記の両推論過程がともに働いて目的が達成される.感情では内受容感覚とアロスタシスにそれぞれ対応し,意思決定では,外在的価値と内在的価値に基づく行動に対応する.また精度(precision)という概念の重要性を強調し,精神医学や認知発達との関連についても議論した.

会報
編集後記
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