日本神経回路学会誌
Online ISSN : 1883-0455
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29 巻, 2 号
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巻頭言
解説
  • 出井 勇人
    2022 年 29 巻 2 号 p. 41-51
    発行日: 2022/06/05
    公開日: 2022/07/05
    ジャーナル フリー

    神経発達障害の神経レベルと認知行動レベルの特性について,観察に基づいた生物学的知見が蓄積されているが,これらの間には説明のギャップが存在する.計算論的精神医学では,脳の計算モデルを使用することでこの課題にアプローチし,症状形成メカニズムの統合的な理解を試みている.特に予測情報処理理論に基づいた計算モデルの枠組みでは,感覚刺激あるいはその原因(環境)に関する情報精度(不確実性)の推定異常が,自閉スペクトラム症を含む神経発達障害と関与していることが示唆されている.しかし,症状形成における学習発達の側面や身体性(脳–身体–実環境の動的相互作用)についてはおおよそ考慮されておらず,抽象的な議論にとどまってきた.本稿では,階層的な予測情報処理を行う再帰型神経回路モデルを用いた神経ロボティクスの枠組みで,神経発達障害の神経レベル,計算レベル,認知行動レベルの,学習発達を考慮した形での橋渡しを試みた一連の研究を紹介する.また,それらの研究知見に基づき,神経発達障害のequifinal性と多様性について考察する.

  • 加藤 郁佳, 下村 寛治, 森田 賢治
    2022 年 29 巻 2 号 p. 52-64
    発行日: 2022/06/05
    公開日: 2022/07/05
    ジャーナル フリー

    本稿では,強化学習を用いた依存症の計算論的精神医学研究について紹介を行う.依存症は,物質の摂取や高揚感を伴う行為などを繰り返し行った結果,それらの刺激を求める耐えがたい欲求や,得られないことによる不快な精神的・身体的症状を生じ,様々な損害を引き起こしてもやめられない状態に陥る重大な精神疾患である.この疾患の理解と治療法開発のために,臨床研究による病態の解明やマウスなどを用いたモデル動物によるメカニズムの解明が進められているが,本稿ではそれらの知見を元にして数理モデルを構築する研究アプローチを取り上げる.まずは導入として筆頭著者らが開発した計算論的精神医学研究データベースの使用例を示しつつ,主眼である依存症研究においてどのような数理モデルが多く用いられてきたのかについて分析する.その後,最もよく研究されている強化学習を用いた依存症の行動的特徴に関する具体的な研究の流れを紹介する.最後に,筆者らが最近提案した,非物質への依存(ギャンブル・ゲームなど)にも適用可能な計算論モデルの一例として,successor representation(SR)と呼ばれる状態表現を用いた依存症の計算論モデルを紹介する.今回紹介する研究は強化学習過程における状態表現に着目しており,不十分な状態表現を用いることで適応的でない報酬獲得行動につながるという観点を提示し,物質/非物質に共通する依存のメカニズムの解明などに寄与することが期待される.

  • 沖村 宰
    2022 年 29 巻 2 号 p. 65-77
    発行日: 2022/06/05
    公開日: 2022/07/05
    ジャーナル フリー

    生物物理学的モデルは,他の稿で紹介されている計算論的精神医学の主なモデルに比べて,脳科学の遺伝子研究,分子的側面,脳神経構造,電気生理学に近い.それ故,精神医学を精神科医と脳科学研究者が幅広くかつ強くタッグを組んでいく必要がある.そこで本稿では,まず,計算論的精神医学における生物物理学的モデルの著者なりの意義を述べさせていただく.次に,生物物理学的モデルの概要を述べて,精神医学へのモデル適応例として,著者らの統合失調症への生物物理学的モデル研究を紹介し,その次に,近年,電気的刺激治療として注目されている経頭蓋磁気刺激法(Transcranial Magnetic Stimulation: TMS)の機序についての生物物理学的モデル研究を紹介する.最後に,生物物理学的モデルの位置づけを遺伝子研究との関連を交えて概説する.

  • 深澤 佑介
    2022 年 29 巻 2 号 p. 78-94
    発行日: 2022/06/05
    公開日: 2022/07/05
    ジャーナル フリー

    本稿では,人々がSNSやスマートフォンの利用を通じて生み出すビッグデータからメンタルヘルスを推定する手法を解説する.メンタルヘルス不調の重症化を未然に防ぐためには,不調の兆候を早期に発見することが重要である.この手法では,他の方法(メンタルヘルスに関する質問票への回答や生体情報の収集)に比べてユーザの負担を減らすことができメンタルヘルス不調の早期発見につながると考えられる.人々のSNS・スマートフォンの利用行動とメンタルヘルスの間には複雑な関係があり,人手でその関係をルールとして設計するのは困難である.そのため,機械学習によってその関係を学習し,メンタルヘルスの推定を行う研究が多くなされている.50以上の関連研究についてサーベイを行い,特徴量の設計,正例の収集方法,機械学習手法の3つの観点で横断的にレビューを行った.最後に,本研究分野の実用化に向けた現状と課題について説明する.

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会報
編集後記
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