日本神経回路学会誌
Online ISSN : 1883-0455
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31 巻, 3 号
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巻頭言
解説
  • 平田 豊
    2024 年31 巻3 号 p. 100-115
    発行日: 2024/09/05
    公開日: 2024/10/05
    ジャーナル フリー

    動物が生存に適した行動をとるためには,常に意識的または無意識的に自己の運動状態(空間識)を感覚器応答から把握し,それに応じた運動制御をする必要がある.一方,そうした感覚・運動変換には通常数100ミリ秒の遅れが生じ,我々はその問題を予測機能により克服している.本稿では,空間識形成と予測的運動制御の両機能に共通に関わる小脳・脳幹神経回路の役割について,計算論と神経メカニズムの観点からこれまでの知見を総括する.また,これらの機能を人工神経回路モデルとして実現するための現状の試みを紹介する.

  • 加納 剛史
    2024 年31 巻3 号 p. 116-130
    発行日: 2024/09/05
    公開日: 2024/10/05
    ジャーナル フリー

    動物は,地面の凹凸や狭い場所がある「ごちゃごちゃした環境」において,リアルタイムに適応して動き回ることができる.この振る舞いは,脳からの中央集権的な指令だけではなく,身体各所に張り巡らされた分散的な神経のネットワークや身体に備えられた膨大な数のセンサからの局所的なフィードバックにより生み出されていると予想される.本稿では,「ヘビ」,「クモヒトデ」,「イトミミズの群れ」がごちゃごちゃした実世界環境下で動き回る仕組みを,動物行動実験,数理モデリング,シミュレーション・ロボット実機実験を通した構成論的アプローチにより明らかにする取り組みについて紹介する.

  • 住 拓磨, 山本 英明, 千葉 逸人, 香取 勇一, 平野 愛弓
    2024 年31 巻3 号 p. 131-140
    発行日: 2024/09/05
    公開日: 2024/10/05
    ジャーナル フリー

    脳は多数の神経細胞が接続し形成された複雑ネットワークである.そのネットワーク構造はスモールワールド性やモジュール性といった特徴を有することが,近年のグラフ理論的な解析により明らかにされてきた.神経細胞は,この特徴的なネットワーク構造上で活動を伝搬し,ダイナミクスを生成するが,これらのネットワーク特性がどのように神経ダイナミクスを通じて実際の情報処理に寄与するのだろうか? リザバーコンピューティングは,リカレントニューラルネットワークを基盤として発展した機械学習モデルであり,さまざまな構造を有するネットワークのダイナミクスを情報処理に応用する技術としても使用できる.本稿では,リザバーコンピューティングに関するこれまでの理論研究を概観したうえで,著者らが生物の神経細胞を用いて行った,ネットワーク構造とパターン分類性能の関係を調べた研究を解説する.これらの研究を通じて,神経回路網の配線構造が,脳内での情報処理にどのように寄与しているのか,特に,神経細胞の生物物理的特性との協調について議論する.

  • 田中 裕人, 曽和 義幸, 大岩 和弘, 小嶋 寛明, 川岸 郁朗
    2024 年31 巻3 号 p. 141-148
    発行日: 2024/09/05
    公開日: 2024/10/05
    ジャーナル フリー

    代表的なバクテリアである大腸菌は大きさ数ミクロンの単細胞生物である.単細胞生物と聞くと一見単純に思われるかもしれないが,生存戦略の1つとして“好き”な化学物質が濃い場所に向かい,“嫌い”な物質から逃げる走化性を示す(川岸郁朗,入枝泰樹,坂野聡美(2006):大腸菌走化性シグナル伝達機構~タンパク質局在と相互作用を中心に~,物性研究,Vol.85, pp.668–684).大腸菌走化性については,関連タンパク質やその生化学反応も細部までわかっており,単純な大腸菌が化学刺激に対して“好き”か“嫌い”かのみを判断(二値化)し行動を変化させる応答である,とこれまでは考えられてきた.しかし,そうした生化学反応による情報処理の結果,バクテリアが化学刺激(外界)のどのような情報までを認識しているかは,明らかにはなっていなかった.本稿では,走化性応答を統計的に取り扱うことで,大腸菌が認識している外界の情報を明らかにした我々の研究を紹介する.我々は,大腸菌細胞がどのような外界情報を認識しているのか,という問いに対し,走化性応答を統計的に処理して逆問題を解くことで,この疑問の答えを求めた.その結果,細胞個体としては一見環境を二値化(“好き”or“嫌い”)と単純化しているように見える大腸菌細胞が,それぞれの細胞は独立して応答しているのではあるが,集団としては二値化を超えて,より詳細に外界の情報を認識している可能性が明らかになってきた.本稿では,大腸菌走化性応答,統計処理,解析結果を紹介する.生き物の情報処理特性を理解することは,生き物と環境との情報のやりとりを理解する一助になることはもちろん,工学的にも応用可能であることも併せて紹介する.

  • 坂田 綾香, 金子 邦彦
    2024 年31 巻3 号 p. 149-159
    発行日: 2024/09/05
    公開日: 2024/10/05
    ジャーナル フリー

    生物システムは一般に,外部の摂動に対して安定した機能を保つ頑健性と,異なる条件に応じて適切な状態(表現型)に速やかに遷移する可塑的性質を併せ持つ.アロステリック酵素やモータータンパク質がその代表例である.一見矛盾するように思える二つの性質がどのように両立するのだろうか.本稿では,頑健性と可塑性は進化的に獲得された性質であるという立場から,アロステリック効果を模した数理モデル上での進化シミュレーションと低次元性を仮定した近似的解析から,頑健性と可塑性が両立する仕組みを探る研究例を紹介する.

会報
編集後記
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